姉の部屋へ向かっていた少年は、途中何人かの使用人に出会った。
するとそのたび立ち止まって頭を下げられるが、いつものことで気に留めなかった。
生まれた時から見慣れたそこは、どこまで歩いても行き止まることがないのではと思える長い廊下。だから本当に行き止まることがないのかを確かめるため、廊下の端から端まで走ったことがあったが、いくら走っても左右の壁が途切れることはなく、やっぱり行き止まることは無いのかと思っていたが、やがて着いた場所は天井が高くシャンデリアがいくつも吊り下げられた広くがらんとした部屋だった。
そして廊下のテーブルに置かれた花瓶や壁に飾られている絵画は、少年でも描けるような線だけの絵だったり、溶けていく時計の絵だったり、黄色い大きなひまわりが描かれているものだったりするのだが、彼には価値があるようには思えなかった。
それよりも実物を正確に再現して作られたミニカーの方が少年にとっては価値があった。
そして将来は、そのミニカーの本物に乗ると決めていた。つい最近もスピードの出る本物のスポーツカーに乗せてもらったばかりで、景色が高速でどんどん後ろへ流れて行く様子に心臓がドキドキした。
だが今は手にしたウサギを姉の部屋へ持って行くことだけを考えていたが、それは家庭教師の1人から訊かされた話しを思い出していたからだ。
『ウサギは仲間がいないと寂しくて死ぬことがあります。
大勢の仲間と一緒に仲良く遊ぶのがウサギです』
そんな話を訊かされていたのだから、たとえそれがぬいぐるみで本物のウサギではなくても、早く仲間の元へ返してやろうと思っていた。
そしてその時、誰かに名前を呼ばれたような気がして振り返った。
だがそこには誰もおらず長い廊下が続いているだけで、気のせいだった。
「ねーちゃん。部屋にいるかな?」
少年の姉は中等部1年だ。
だがすでに高等部の勉強をしていて頭がいい。だから家庭教師は姉のことを凄いと褒める少年にとっては自慢の姉だ。
それに幼い頃いつも傍にいてくれたのは姉と使用人頭のタマだった。
そこで少年は思った。もしかすると姉は勉強しているかもしれない。もしそうなら邪魔をしてはいけない。すると少年の足は自ずと止まった。そして考えた。そうだタマの部屋へ持っていこう。タマならこのぬいぐるみを預かってくれるはずだ。それに確かタマの部屋には陶器で出来たウサギがあった。だからこのウサギも寂しくないはずだ。
そうだ。そうしよう。少年はそう決めると向かう先をタマの部屋へと変更するため回れ右をした。
するとその時、また誰かに名前を呼ばれたような気がして、少年は振り向くとあたりを見回した。だが廊下には誰もいなかった。
そして手にしたウサギのぬいぐるみに目を落とした。
するとウサギの目に何かを慈しみたいといった表情が浮かんだように思えたが、気のせいだと思った。ただのプラスチックの赤い目にそんなものが浮かぶはずもなく、そこには少年の顔が映っているだけだった。

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するとそのたび立ち止まって頭を下げられるが、いつものことで気に留めなかった。
生まれた時から見慣れたそこは、どこまで歩いても行き止まることがないのではと思える長い廊下。だから本当に行き止まることがないのかを確かめるため、廊下の端から端まで走ったことがあったが、いくら走っても左右の壁が途切れることはなく、やっぱり行き止まることは無いのかと思っていたが、やがて着いた場所は天井が高くシャンデリアがいくつも吊り下げられた広くがらんとした部屋だった。
そして廊下のテーブルに置かれた花瓶や壁に飾られている絵画は、少年でも描けるような線だけの絵だったり、溶けていく時計の絵だったり、黄色い大きなひまわりが描かれているものだったりするのだが、彼には価値があるようには思えなかった。
それよりも実物を正確に再現して作られたミニカーの方が少年にとっては価値があった。
そして将来は、そのミニカーの本物に乗ると決めていた。つい最近もスピードの出る本物のスポーツカーに乗せてもらったばかりで、景色が高速でどんどん後ろへ流れて行く様子に心臓がドキドキした。
だが今は手にしたウサギを姉の部屋へ持って行くことだけを考えていたが、それは家庭教師の1人から訊かされた話しを思い出していたからだ。
『ウサギは仲間がいないと寂しくて死ぬことがあります。
大勢の仲間と一緒に仲良く遊ぶのがウサギです』
そんな話を訊かされていたのだから、たとえそれがぬいぐるみで本物のウサギではなくても、早く仲間の元へ返してやろうと思っていた。
そしてその時、誰かに名前を呼ばれたような気がして振り返った。
だがそこには誰もおらず長い廊下が続いているだけで、気のせいだった。
「ねーちゃん。部屋にいるかな?」
少年の姉は中等部1年だ。
だがすでに高等部の勉強をしていて頭がいい。だから家庭教師は姉のことを凄いと褒める少年にとっては自慢の姉だ。
それに幼い頃いつも傍にいてくれたのは姉と使用人頭のタマだった。
そこで少年は思った。もしかすると姉は勉強しているかもしれない。もしそうなら邪魔をしてはいけない。すると少年の足は自ずと止まった。そして考えた。そうだタマの部屋へ持っていこう。タマならこのぬいぐるみを預かってくれるはずだ。それに確かタマの部屋には陶器で出来たウサギがあった。だからこのウサギも寂しくないはずだ。
そうだ。そうしよう。少年はそう決めると向かう先をタマの部屋へと変更するため回れ右をした。
するとその時、また誰かに名前を呼ばれたような気がして、少年は振り向くとあたりを見回した。だが廊下には誰もいなかった。
そして手にしたウサギのぬいぐるみに目を落とした。
するとウサギの目に何かを慈しみたいといった表情が浮かんだように思えたが、気のせいだと思った。ただのプラスチックの赤い目にそんなものが浮かぶはずもなく、そこには少年の顔が映っているだけだった。

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コメント
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司*****E様
おはようございます^^
ウサギは仲間がいないと寂しくて死んでしまう。
このお話。どうやらそうでもないようですよ。
アカシアの友人がウサギを飼っていたことがあります。
そのウサギは雌だったんですが、とても気性が荒い子で大変だったようです。
さてこの坊ちゃん。俺様ですがまだこの頃はなんだかんだと言っても優しい男の子です。
タマの部屋へ向かった少年は何をするのでしょう^^
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
ウサギは仲間がいないと寂しくて死んでしまう。
このお話。どうやらそうでもないようですよ。
アカシアの友人がウサギを飼っていたことがあります。
そのウサギは雌だったんですが、とても気性が荒い子で大変だったようです。
さてこの坊ちゃん。俺様ですがまだこの頃はなんだかんだと言っても優しい男の子です。
タマの部屋へ向かった少年は何をするのでしょう^^
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.09.22 22:16 | 編集
