時刻は真夜中で最上階のフロアに残っている人間は秘書以外いなかった。
司はあれから何度か彼女を食事に誘ったが、あの日以来断られ続けていた。
そして離婚が成立していない女が夫以外の男性と出歩くことが良いとは思えない。こういったことは控えたいと言われた。
「何故です?私たちは食事をするだけで男女の仲ではない。何も気にすることはないはずだ」
「ええ…..でも….」
司が好きになった女性は離婚調停中であり彼女の意思を尊重すれば、会えるのは学園を訪れた時しかなかった。
だからその時間を大切にしていた。
彼女といると陽の光りの温かさを感じ、今まで気付かなかったが、心の奥底にあった名もなき花が柔らかな日差しを浴びるとゆっくりと開くように、彼女を見つめれば優しい気持ちになれた。彼女といることで温もりを感じていた。今まで誰にも見せたことがない表情になるのは彼女の前だけだ。そして出会えたことを感謝していた。
そして司には彼女の考えていることが手に取るように分かった。
それは離婚が成立していない女が夫以外の男と出歩くことがモラルに反する。罪悪感があることもそうだが、それと同時に教育者として示しがつかない。既婚女性が独身の男とふたりだけで会うことは、あるまじき行為だと思っていること。そして学園関係者にどう思われるかを心配しているということを。
だが道明寺という名前と莫大な寄付をする外部理事の立場は学園にとって絶対的な力を持ち、司が牧野つくしのことを気にかけている以上彼女のことが誰かの口に上ることはないはずだ。それにもし仮に品のない言葉をかける人間がいれば、その人間は職を失うことになることを彼らは知っている。
「牧野さん。私は私たちの間に何かあるとすれば、それはあなたが自由になった時だと考えていますよ。私はあなたのような女性に会ったことがありません。あなたは自分を飾り立てる人ではない。とても自然だ。それにあなたは誰かに迷惑をかけたり困らせたりすることは嫌いな人だ。違いますか?そんなあなたに私は迷惑をかけたいとは思いません。
むしろ守ってあげたいと思っています。だからあなたが自由になるまで待ちます。そしてあなたの心が私に向いてくれるのを待つつもりです。それに分かっているつもりです。私が傍若無人な振る舞いをすれば良くない結果になるはずだと」
司はあなたのことが好きになったと自分の思いを伝えていた。
そして彼女の司に対する態度は好意的だと思え、彼の言葉に小さく頷いたように思えたのは気のせいではないはずだ。
それに司は女から拒まれたことがなかった。
やんわりとだが断りの言葉を告げられたのは初めての経験だ。
だがそのことが、彼女が軽い女ではないことを表していた。
そして彼女が感情を内に秘めるタイプの人間であることを知った。
だから本当は司と一緒にいたいはずだが、自分の気持を告げることが出来ないのだ。
そして司には分っていた。彼女が彼のものだと。やっと見つけたと思った。目に見えない絆が二人の間にある。彼女こそ魂の伴侶で彼女こそ運命であり自分は彼女を待っていた。
だからどんな女が彼の前にいても心を動かされることはなかったのだ。
会うと心が安らぐのは、時がふたりを巡り逢わせたからだと感じていた。孤独だった幾千もの夜は過ぎ、世界は彼女の中にあって、その手が司を幸せへと導いてくれる。心の暗がりを照らしたのは、彼女の微笑みであり、彼女だけが飢えた男の心を満たす。
だから彼女が欲しかった。
たとえ何万人の女と出会おうと、司が欲しいのは彼女だけ。
世界の全てを手にすることが出来る男が欲しいのは魂が望む女。
そして自分の身の内に溢れんばかりの人を愛するという感情というものがあることを知った。と、同時にその時初めて愛に飢えていたことを知った。それははち切れんばかりの思い。
だから恋人になって優しいキスをしたい。
そして触れたい。触れて欲しい。
触れられることで歓びを感じたい。
そうだ。誰とも感じたことがない歓びを彼女と感じたい。
望むものはすべてこの腕に抱きしめたい。
今はまだ閉ざされている扉をひとつひとつ開いて彼女の心の奥深くに入り込みたい。
だが離婚届けに判を押さない夫がいることが彼女の心の重荷になっている。
つまり夫の存在が二人の関係を前に進める妨げになっているのだ。司を受け入れてもらえないのは、今はただ法律で繋がれた関係の男がいるからだ。
司は執務デスクの上の電話を取った。
「俺だ」
2コールで出た相手は司を待たせることはない。
だが司は椅子に背をもたせかけたまま沈黙していた。

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司はあれから何度か彼女を食事に誘ったが、あの日以来断られ続けていた。
そして離婚が成立していない女が夫以外の男性と出歩くことが良いとは思えない。こういったことは控えたいと言われた。
「何故です?私たちは食事をするだけで男女の仲ではない。何も気にすることはないはずだ」
「ええ…..でも….」
司が好きになった女性は離婚調停中であり彼女の意思を尊重すれば、会えるのは学園を訪れた時しかなかった。
だからその時間を大切にしていた。
彼女といると陽の光りの温かさを感じ、今まで気付かなかったが、心の奥底にあった名もなき花が柔らかな日差しを浴びるとゆっくりと開くように、彼女を見つめれば優しい気持ちになれた。彼女といることで温もりを感じていた。今まで誰にも見せたことがない表情になるのは彼女の前だけだ。そして出会えたことを感謝していた。
そして司には彼女の考えていることが手に取るように分かった。
それは離婚が成立していない女が夫以外の男と出歩くことがモラルに反する。罪悪感があることもそうだが、それと同時に教育者として示しがつかない。既婚女性が独身の男とふたりだけで会うことは、あるまじき行為だと思っていること。そして学園関係者にどう思われるかを心配しているということを。
だが道明寺という名前と莫大な寄付をする外部理事の立場は学園にとって絶対的な力を持ち、司が牧野つくしのことを気にかけている以上彼女のことが誰かの口に上ることはないはずだ。それにもし仮に品のない言葉をかける人間がいれば、その人間は職を失うことになることを彼らは知っている。
「牧野さん。私は私たちの間に何かあるとすれば、それはあなたが自由になった時だと考えていますよ。私はあなたのような女性に会ったことがありません。あなたは自分を飾り立てる人ではない。とても自然だ。それにあなたは誰かに迷惑をかけたり困らせたりすることは嫌いな人だ。違いますか?そんなあなたに私は迷惑をかけたいとは思いません。
むしろ守ってあげたいと思っています。だからあなたが自由になるまで待ちます。そしてあなたの心が私に向いてくれるのを待つつもりです。それに分かっているつもりです。私が傍若無人な振る舞いをすれば良くない結果になるはずだと」
司はあなたのことが好きになったと自分の思いを伝えていた。
そして彼女の司に対する態度は好意的だと思え、彼の言葉に小さく頷いたように思えたのは気のせいではないはずだ。
それに司は女から拒まれたことがなかった。
やんわりとだが断りの言葉を告げられたのは初めての経験だ。
だがそのことが、彼女が軽い女ではないことを表していた。
そして彼女が感情を内に秘めるタイプの人間であることを知った。
だから本当は司と一緒にいたいはずだが、自分の気持を告げることが出来ないのだ。
そして司には分っていた。彼女が彼のものだと。やっと見つけたと思った。目に見えない絆が二人の間にある。彼女こそ魂の伴侶で彼女こそ運命であり自分は彼女を待っていた。
だからどんな女が彼の前にいても心を動かされることはなかったのだ。
会うと心が安らぐのは、時がふたりを巡り逢わせたからだと感じていた。孤独だった幾千もの夜は過ぎ、世界は彼女の中にあって、その手が司を幸せへと導いてくれる。心の暗がりを照らしたのは、彼女の微笑みであり、彼女だけが飢えた男の心を満たす。
だから彼女が欲しかった。
たとえ何万人の女と出会おうと、司が欲しいのは彼女だけ。
世界の全てを手にすることが出来る男が欲しいのは魂が望む女。
そして自分の身の内に溢れんばかりの人を愛するという感情というものがあることを知った。と、同時にその時初めて愛に飢えていたことを知った。それははち切れんばかりの思い。
だから恋人になって優しいキスをしたい。
そして触れたい。触れて欲しい。
触れられることで歓びを感じたい。
そうだ。誰とも感じたことがない歓びを彼女と感じたい。
望むものはすべてこの腕に抱きしめたい。
今はまだ閉ざされている扉をひとつひとつ開いて彼女の心の奥深くに入り込みたい。
だが離婚届けに判を押さない夫がいることが彼女の心の重荷になっている。
つまり夫の存在が二人の関係を前に進める妨げになっているのだ。司を受け入れてもらえないのは、今はただ法律で繋がれた関係の男がいるからだ。
司は執務デスクの上の電話を取った。
「俺だ」
2コールで出た相手は司を待たせることはない。
だが司は椅子に背をもたせかけたまま沈黙していた。

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コメント
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司*****E様
おはようございます^^
紳士的なアプローチをする男。
え?そんな男の裏の顔にウキウキ?(笑)
凶暴な純愛を持つ男ですからねぇ。好きな人には一途です(´艸`*)
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
紳士的なアプローチをする男。
え?そんな男の裏の顔にウキウキ?(笑)
凶暴な純愛を持つ男ですからねぇ。好きな人には一途です(´艸`*)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.09.13 22:24 | 編集

小*様
おはようございます^^
ターゲットは離婚を渋っている浮気旦那。
自分で裏切っておきながら、別れない男。
そんな男の身に何か起きるのでしょうか?
黒い男。何をするんでしょねぇ。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
ターゲットは離婚を渋っている浮気旦那。
自分で裏切っておきながら、別れない男。
そんな男の身に何か起きるのでしょうか?
黒い男。何をするんでしょねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.09.13 22:28 | 編集

さ***ん様
夫。命の危機迫る‼
さて黒い男は何をする?
ウエットティッシュの出番はあるのでしょうか?
コメント有難うございました^^
夫。命の危機迫る‼
さて黒い男は何をする?
ウエットティッシュの出番はあるのでしょうか?
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.09.13 22:30 | 編集
