天気予報は当たっていた。
3日前。ちょうど道明寺司が来てから雪が降り始めたが、テレビのニュースによると、この雪はますます強く降り続き、一晩で1メートルは積もると言われていた。
だがジョージは雪には慣れている。だから1メートル程度の雪を大雪とは思わなかった。
そしてジョージと司は、いつものようにジョージが用意した簡単な夕食を終えると、暖炉のある部屋に移りソファに腰を下ろし話し始めた。
ひとりには慣れていたはずのジョージだが、それまで忘れていた人恋しさを感じ、この別荘の主と会話を始めれば、今では話しをすることが楽しいと感じていた。
「道明寺さんは今何をなさってるんですか?」
会話のマナーとして相手が言わない限り職業を訊くことは、いいとは言えなかったが思わず訊いていた。
もしかすると大学生なのか?
そんな気がしていたのは、もし社会人なら冬の雪山の別荘でゆっくりとしている時間など取れるはずがないと思うからだ。だが富豪一族の人間なら、働く必要がないのかもしれない。
それにジョージと同じ年頃ならまだ学生でいたとしてもおかしくないことから、社会人ではなく大学生、または院生ではないかと思った。
「俺か?特に何って決まったことはやってない。言うなれば今は人生の過渡期ってところだ。だから人生をリフレッシュしてるってやつだ」
「そうですか。羨ましいです。僕は奨学金で大学を卒業しましたから、返済があります。だからその為にも働かなければいけない義務がありますから」
ジョージはそう答えると、テーブルの上のバーボンの瓶を傾け空になっていた司のグラスに注いだが、それは何かしらのアクションを起こさなければ、どこか気詰まりな感覚を覚えたからだ。
それは、何も決まったことはやってないと言った同じ年頃の青年に対し口にした言葉が、まるで金持ちに対する嫌味のように取られないかと思ったからだ。
「だがな」
「え?」
「だが人生をリフレッシュするのも大変だ。俺は好きな女がいる。あいつの傍でなきゃ生きていく意味がないと思ってる。けど今はそいつと喧嘩中だ」
どうやら口にした言葉と考えていたことは杞憂に終わったようで、相手はジョージの言葉を気に留めていないようだ。
そして男の口から出た言葉は、好きな女性がいてその人の傍で一緒に生きることが彼の望みだが、今はその女性と喧嘩をしていると言うこと。
するとこの別荘に来たのは、もしかすると彼の言葉通り、リフレッシュではないが静かな場所で自分を見つめ直す時間が欲しかったのだろうか。
「ただその女が意地っ張りな女で素直じゃない。けどそうは言っても俺も人の事は言えねぇな。我儘な男だと言われた。出会った初めの頃はあんたなんか嫌いだって何度も言われた。それでも俺はあいつの事が好きだ。離れたくないと思ってる。あいつは俺が初めて愛した女で、あいつ以外の女は欲しくない。そう気付いたとき、俺はあいつを絶対に離さないと決めた。それにどんなことがあってもあいつを守ると誓った」
男はバーボンの入ったグラスを一気に空け、テーブルに置いた。
そしてジョージは彼自身が別れた恋人のことを思い出していた。
今目の前で好きな女性について語る男は、何があっても彼女を離さないと言う熱い気持ちを持っていて、どんなことがあってもその人を守ると言う。
それに比べジョージは些細なことで喧嘩をして別れたが、本当は悪かった。自分が悪かったと言いたかった。やり直したいんだと言いたかった。だが言えなかった。そして就職したことでなし崩し的に別れた。
「ジョージ。お前も好きな女がいるんだろ?」
「え?」
「俺の話を訊いてるお前の顔は、好きな女を思う男の顔だ。そうだろ?」
そう訊かれたジョージは、大学を卒業するまで付き合っていた女性がいたが、卒業を迎える頃、些細な喧嘩がきっかけで別れたことを話した。
「そうか。でもお前は今でもその女のことが好きなんだろ?」
そう訊いた男の口許は微笑んでいた。
「今からでも遅くねぇんじゃねえのか?その女に今でも好きだと伝えればいい。どこにいるか知ってんだろ?」
「居場所は分かってます。でももう別れて3ヶ月以上経っているから彼女には他に好きな人がいるかもしれない。僕のことはもう忘れてしまっている。そんな気がしてならないんです」
ジョージは彼女が同じ州の出版社で働いていることを知っている。
だがもしかすると新しい恋人がいるかもしれないと思った。
「そうか。それなら会いに行け。確かめてみろ。きびきび動け。
他の男が傍にいたら、そいつを蹴落とせ。排除しろ。もしそうじゃなかったとしても、いつまでもグズグズしてたら他の男に取られちまうぞ。いいか。この雪が止んだら会いに行け。俺が許す。だから必ず会いに行け。でねぇと後悔することになる。本気で好きな女なら全部を投げ出してもその女が欲しいと思うはずだ。頭で考えてもお前の思いは伝わんねぇぞ。だから行動しろ。行動あるのみだ。お前まだ若いんだろ?それなのに、こんな山奥の暮らしが好きだなんて今から世捨て人になってどうすんだよ?」
同じ年頃の男性からの言葉には意味があるような気がしていた。
それは説得力が感じられる強い言葉だと思った。
そして後悔をするという言葉が使われたが、確かにジョージはなし崩し的に別れたことを後悔していた。そして彼の言う通りでジョージに足りないのは行動力だ。
だが今、目の前ではっきりと言われたことで勇気が出た。力を貰ったような気がした。背中を押されたような気がした。
「分かったよ。会いに行くよ。この雪が止んで晴れたら会いに行く」
「そうか。じゃあそれに乾杯だ。お前のその決心にな。ジョージ、グラスを持て」
そう言った男は自らバーボンの瓶を持ち、お代わりを注いだ。
そして二人は静かにグラスを傾けた。

にほんブログ村
3日前。ちょうど道明寺司が来てから雪が降り始めたが、テレビのニュースによると、この雪はますます強く降り続き、一晩で1メートルは積もると言われていた。
だがジョージは雪には慣れている。だから1メートル程度の雪を大雪とは思わなかった。
そしてジョージと司は、いつものようにジョージが用意した簡単な夕食を終えると、暖炉のある部屋に移りソファに腰を下ろし話し始めた。
ひとりには慣れていたはずのジョージだが、それまで忘れていた人恋しさを感じ、この別荘の主と会話を始めれば、今では話しをすることが楽しいと感じていた。
「道明寺さんは今何をなさってるんですか?」
会話のマナーとして相手が言わない限り職業を訊くことは、いいとは言えなかったが思わず訊いていた。
もしかすると大学生なのか?
そんな気がしていたのは、もし社会人なら冬の雪山の別荘でゆっくりとしている時間など取れるはずがないと思うからだ。だが富豪一族の人間なら、働く必要がないのかもしれない。
それにジョージと同じ年頃ならまだ学生でいたとしてもおかしくないことから、社会人ではなく大学生、または院生ではないかと思った。
「俺か?特に何って決まったことはやってない。言うなれば今は人生の過渡期ってところだ。だから人生をリフレッシュしてるってやつだ」
「そうですか。羨ましいです。僕は奨学金で大学を卒業しましたから、返済があります。だからその為にも働かなければいけない義務がありますから」
ジョージはそう答えると、テーブルの上のバーボンの瓶を傾け空になっていた司のグラスに注いだが、それは何かしらのアクションを起こさなければ、どこか気詰まりな感覚を覚えたからだ。
それは、何も決まったことはやってないと言った同じ年頃の青年に対し口にした言葉が、まるで金持ちに対する嫌味のように取られないかと思ったからだ。
「だがな」
「え?」
「だが人生をリフレッシュするのも大変だ。俺は好きな女がいる。あいつの傍でなきゃ生きていく意味がないと思ってる。けど今はそいつと喧嘩中だ」
どうやら口にした言葉と考えていたことは杞憂に終わったようで、相手はジョージの言葉を気に留めていないようだ。
そして男の口から出た言葉は、好きな女性がいてその人の傍で一緒に生きることが彼の望みだが、今はその女性と喧嘩をしていると言うこと。
するとこの別荘に来たのは、もしかすると彼の言葉通り、リフレッシュではないが静かな場所で自分を見つめ直す時間が欲しかったのだろうか。
「ただその女が意地っ張りな女で素直じゃない。けどそうは言っても俺も人の事は言えねぇな。我儘な男だと言われた。出会った初めの頃はあんたなんか嫌いだって何度も言われた。それでも俺はあいつの事が好きだ。離れたくないと思ってる。あいつは俺が初めて愛した女で、あいつ以外の女は欲しくない。そう気付いたとき、俺はあいつを絶対に離さないと決めた。それにどんなことがあってもあいつを守ると誓った」
男はバーボンの入ったグラスを一気に空け、テーブルに置いた。
そしてジョージは彼自身が別れた恋人のことを思い出していた。
今目の前で好きな女性について語る男は、何があっても彼女を離さないと言う熱い気持ちを持っていて、どんなことがあってもその人を守ると言う。
それに比べジョージは些細なことで喧嘩をして別れたが、本当は悪かった。自分が悪かったと言いたかった。やり直したいんだと言いたかった。だが言えなかった。そして就職したことでなし崩し的に別れた。
「ジョージ。お前も好きな女がいるんだろ?」
「え?」
「俺の話を訊いてるお前の顔は、好きな女を思う男の顔だ。そうだろ?」
そう訊かれたジョージは、大学を卒業するまで付き合っていた女性がいたが、卒業を迎える頃、些細な喧嘩がきっかけで別れたことを話した。
「そうか。でもお前は今でもその女のことが好きなんだろ?」
そう訊いた男の口許は微笑んでいた。
「今からでも遅くねぇんじゃねえのか?その女に今でも好きだと伝えればいい。どこにいるか知ってんだろ?」
「居場所は分かってます。でももう別れて3ヶ月以上経っているから彼女には他に好きな人がいるかもしれない。僕のことはもう忘れてしまっている。そんな気がしてならないんです」
ジョージは彼女が同じ州の出版社で働いていることを知っている。
だがもしかすると新しい恋人がいるかもしれないと思った。
「そうか。それなら会いに行け。確かめてみろ。きびきび動け。
他の男が傍にいたら、そいつを蹴落とせ。排除しろ。もしそうじゃなかったとしても、いつまでもグズグズしてたら他の男に取られちまうぞ。いいか。この雪が止んだら会いに行け。俺が許す。だから必ず会いに行け。でねぇと後悔することになる。本気で好きな女なら全部を投げ出してもその女が欲しいと思うはずだ。頭で考えてもお前の思いは伝わんねぇぞ。だから行動しろ。行動あるのみだ。お前まだ若いんだろ?それなのに、こんな山奥の暮らしが好きだなんて今から世捨て人になってどうすんだよ?」
同じ年頃の男性からの言葉には意味があるような気がしていた。
それは説得力が感じられる強い言葉だと思った。
そして後悔をするという言葉が使われたが、確かにジョージはなし崩し的に別れたことを後悔していた。そして彼の言う通りでジョージに足りないのは行動力だ。
だが今、目の前ではっきりと言われたことで勇気が出た。力を貰ったような気がした。背中を押されたような気がした。
「分かったよ。会いに行くよ。この雪が止んで晴れたら会いに行く」
「そうか。じゃあそれに乾杯だ。お前のその決心にな。ジョージ、グラスを持て」
そう言った男は自らバーボンの瓶を持ち、お代わりを注いだ。
そして二人は静かにグラスを傾けた。

にほんブログ村
スポンサーサイト
Comment:3
コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます

司*****E様
おはようございます^^
今は何をしているのか?と訊いたジョージ。
それに対して「人生をリフレッシュしている。そして恋人と喧嘩中」と答えました。
そしてジョージに何があっても諦めるなとはっぱをかける男。
経験者は語るでしょうかねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
今は何をしているのか?と訊いたジョージ。
それに対して「人生をリフレッシュしている。そして恋人と喧嘩中」と答えました。
そしてジョージに何があっても諦めるなとはっぱをかける男。
経験者は語るでしょうかねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.09.06 22:25 | 編集

ま**ん様
恋が過去のものでなくてよかった!
あの二人が恋を過去に出来るとは思えませんが、それでも人生には色々ありますからねぇ(笑)
拍手コメント有難うございました^^
恋が過去のものでなくてよかった!
あの二人が恋を過去に出来るとは思えませんが、それでも人生には色々ありますからねぇ(笑)
拍手コメント有難うございました^^
アカシア
2018.09.06 22:30 | 編集
