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2015
11.05

まだ見ぬ恋人20

二人のあいだで何か熱いものが交錯した。

つくしはじっと彼の顔を見た。
朝からはっとするほどハンサムな男だった。
仕立てのいいチャコールグレーのスーツにカーディナルレッドのネクタイを合わせ癖のある髪は整髪されていた。
肘をついた左腕のシャツの袖口からのぞく薄い金の時計がエレガントだと思った。
今までそんなふうに考えたことなんてなかったのに・・
そして私を見つめる瞳は・・・
思わず引き込まれそうになるような瞳は鋭い光を放って刺すようでもあり、やさしく誘惑しているようにも思える。


つくしは思った。
本当のこの人って・・
「牧野、朝メシはどうする?」
そう問いかけた司の手元にはコーヒーカップだけがあった。
「はい、さっき下のダイニングで・・」
つくしはダイニングルームの入口で立ち止まったままで答えていた。
そして無理矢理明るい笑みを浮かべた。
「そうか、もう済ませたのか?」
「はい、ええ、いえ・・・」
つくしは曖昧に答えた。
「なんだ?どっちなんだ?食ったのか?食ってないのか?」
からかうように言ってきた。
「その・・・コーヒーだけいただいてきました」
「そうか・・・」と司が続けた。「コーヒーくらいならここでも飲めるだろ?もう一杯飲むか?」
そう言って司にコーヒーを勧められたがつくしは頭を横に振った。
「し、支社長は・・召し上がりにならないんですか?」
「もういいんだ」
そうひとこと言うと司は立ち上がりつくしの前までくると彼はすばやく彼女に視線を走らせた。
これだけ近くにいると彼女の長いまつ毛までがはっきりと見えた。
それに彼女の意志の強さをうかがわせるような瞳の輝きまでも見えた。
その瞳の虹彩までもはっきりと見えるほどだ。
ほっそりとした首筋に脈打つ静脈に目をとめると動揺を隠せないように心が乱れているのがわかった。

背の高い男がドアの前に立つつくしの前に現れていた。
「なあ牧野・・・」司は静かに低い声で言った。
「は、はい」
「昨日のことだけど」司が言った。「俺は自分がやったことを悪いなんて思ってないからな」
口をついて出たからにはあとの言葉も言うしかなかった。
「俺はおまえのことが好きだ」低いバリトンの声で言った。
司は一歩彼女に近よった。
「あの時はおまえをアシスタントだとか秘書だとかそんなふうに思ってなかった。
俺はおまえに無関心じゃいられない。おまえは俺のことをどう思う?」
つくしは不意に追いつめられた気持ちになった。
司は答えを待ったがつくしは何もいわなかった。
「なぜ俺の質問に答えない?」
司は憤慨したように言った。
「わ、わたし・・」つくしは震える声で言った。
「よ、よくわかりません」彼女はなにに対して言ったのか自分でもよくわからなかった。
「よくわからないって?」司はおうむがえしに聞いた。
そして司の漏らすため息が聞こえて来そうだ。
「だ、だって」
つくしは慌てて言った。
「俺の言ったことは理解できたか?俺の質問は理解したか?」
司が歩み寄ってきた。
「・・はい」
つくしは一瞬ためらったがいくらか苛立ったような司の言葉に催眠術をかけられたように頷いていた。
「ほんとうか?」
そしてかすれた司の声は誘惑するような響きでつくしの頭を刺激した。
「は、はい!」
つくしは質問がなんだったか考えもせずに返事をしていた。
「よし、じゃあ仕事にかかろうか」
司はくるりと振り返るとテーブルのほうへと戻りかけた。
「ちょ、ちょっと待っ・・」
つくしは何がなんだかよく分からなかったが叫んでいた。
「わ、わたしは、わたしは支社長のアシスタントですよ!」
その声に司は振り返るとつくしに近づいた。
「ああ、そうだ。牧野つくしは俺のアシスタントだ。そんなこと知ってる」
「じゃ、じゃあ・・」
「いいじゃないか。おまえがアシスタントでいても俺には問題はない」
「なにが問題ないんですか!」
「逆に聞くがなにが問題になる?」司は言った。
「だ、だからわたしと支社長は上司と部下であって・・」
「そのまえに俺達は男と女だろ?」司はさらに一歩つくしに近づいてきた。
「それにお互いに独身だ。なにが問題になるんだ?」
司は苛立ちを見せないように抑えて言った。
つくしは司の言っていることはもっともだと認めようとしている自分が信じられなかった。
彼にとっては問題なくてもつくしのほうは問題だらけだった。
でも彼が沢山部屋のあるスイートとはいえ、同じ部屋にいて服を脱いでいる状態を想像していた。
どうかしてる!!
あ、相手は道明寺HDの支社長で財閥の跡取り息子だ!
南半球で季節が逆転しているから頭がおかしくなったんだろうか?
そうよ!きっとそうに違いない。

「そ・・それは・・」
つくしがごくりと固唾をのんだ。
「で、でも支社長の立場っていうものがあります!」
つくしは精いっぱい正直に答えた。
「そ、それに私にはこれといった魅力もありません!美人でもないし、華やかでもありません!」
司はこれから先、つくしにどう対したものかと考えていた。
こいつ、なまじ頭がいいだけになかなか思うようにはいかないな。
強引にことを進めてみるか?
いや、それはまずいか?
この出張中に強引にことを進めたところでなんとかなるものなのか?
あきらにでも電話して聞いてみるか?
それよりまずはその警戒心をなんとかしなきゃなんねぇな。
こいつなに今ごろ警戒してんだよ!
どれだけ俺がおまえのことが気になってたかなんてキスするまで気がつきもしなかったんじゃねぇか?
セールスの基本は自分の欲しいものを把握していない客の抱える本音の欲求を引き出すことから始まる。
今の俺はまずはこいつの本音を引き出すことに成功したわけだな?
俺の立場がどうとか、上司と部下だとか自分には魅力がねぇとか、美人じゃねぇとか。
そんなことなんてどーでもいいんだよ!ナンバーワンじゃなくてオンリーワンだろ?


「俺がいいって言ったら問題ない。おまえはどうだか知らないけど」
司はつくしを飲み干してしまいたい。食べてしまいたかった。
「今まであんなに感じたキスはなかった」つくしの唇の上で司はささやいた。
彼は上体をかがめるとつくしの唇に軽く触れるようなキスをしてきた。
つくしは放心状態のまま目の前の男を見ていた。











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コメント
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dot 2015.11.07 20:09 | 編集
H*様
拍手コメント有難うございます。
色々な思いで・・有難うございます。
司、もっと押せってことですね?(笑)
押していいんでしょうか。
実はこの三日間彼らのことが頭から抜けてしまって・・(笑)
どこまで行っていたかなと・・。
待っていて下さって有難うございます(^^)
頭の切り替えをして書きますね。
アカシアdot 2015.11.07 23:03 | 編集
た*き様
そうですよね、加減とタイミングは大切です。
が、そろそろ強引さも必要かもしれません。
大人なんだからいい加減行きなさいよ!ってことにしましょうか(笑)
彼はモテても女性に対してはとてもシニカルな人です。
が、基準は俺様基準なので外野の話しは全く気にならない人でしょうね。
恋は盲目ですからね。いいですよね、その一途さが。ある意味羨ましいです。
いつもお読み頂き有難うございます(^^)
アカシアdot 2015.11.07 23:26 | 編集
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dot 2015.11.10 16:34 | 編集
さと**ん様
言葉攻めに?(笑)
私もイケイケゴーゴー的な彼は大好きです。
が、ここの司はどうもジワジワと行くみたいです。
まだ焦れったいかもしれません。
でもある時タガが外れて・・なんてことになるかもしれません(笑)
コメント有難うございました。
アカシアdot 2015.11.10 23:28 | 編集
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