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2018
08.26

出逢いは嵐のように 98

六本木の街は人で溢れていたが、彼らが若い頃から足を運んでいた会員制のバーは大通りの喧騒から離れた場所にあり静かだった。
だがそれもそのはずだ。今夜のそこは貸し切りだったのだから。








「それにしても司が結婚を決めるとはな」

「そうだろ?アイツ。ミイラ取りがミイラになったってパターンだぞ?姪の美奈ちゃん絡みで女を落としにかかったら、逆にアイツが落とされた。って言うか自ら落ちたっていった方が正しいな。それにはじめの頃彼女は司に興味がなかった。それどころか迷惑だったらしいからな」

「なるほどな。それにしてもそんな面白い話、どうして教えてくれなかった?女に不自由したことがない男が自分に振り向かない女に苦悩する姿っての。見たかったな」

「いや。俺もお前に教えてやろうと思ったんだぞ?けどお前は殆ど日本に居ねぇし、ここんとこ忙しいってのが口癖だったろ?茶の湯を世界に広めるのは文化交流の一環だ。日本のわびさびを一番理解出来るのは茶の湯だって張り切って行ったじゃねぇか。南米に」

「まあな。それにしてもブラジルは遠かった」

しみじみと言った総二郎は、この半年の間に南米各国での茶道普及のため出たり入ったりを繰り返していた。
そしてついでとは言っては何だが南アメリカ大陸のほぼ中央に位置し、ブラジル、パラグアイ、ボリビアの3国にまたがる世界最大の湿地帯パンタナール大湿原へと足を運んでいた。

実は総二郎は野生動物を見るのが好きだ。
ゆったりとした自然環境の中で何の制約もなく過ごす彼らの姿が好きだ。それは自分が古いしきたりがある世界に身を置くことから、その反動なのかもしれないが、とにかく時に大自然の中に身を置くことでリフレッシュすることが出来た。そして南米のグラマラスな美女とのアバンチュールも楽しんでいた。

「それで相手の牧野つくしってどんな女性だ?」

「俺たちよりひとつ下。背はうちの妹たちより低い。目がデカくて黒々とした髪。胸は小さめか?今まで司が付き合ってた女とは全く違うタイプの人間だ。基本真面目人間だが面白いところもあるぞ。他に言えば.......そうだな…..そうだ!犬に好かれるな。犬好きがする顔って女だ。だから司も好きになったんじゃねぇかって思う。何しろアイツ犬みてぇな所があったからな」

あきらはひとしきり喋った後、喉を潤すようにウィスキーの入ったグラスを傾けた。

「言うなあきら。でもアイツ確かにそんな所があったよな。アイツはガキの頃、姉ちゃんの後ばかり追いかけていたな。だからいつだったかシスコン司って言ったらアイツ。俺のこと殴りやがった」

幼馴染みの男達は、兄弟同然に育ったこともあって、気心が知れていた。
だから彼らの間では言いたいことをそのまま口に出したところで誰も怒りはしない。
それに諍いがあったとしても、それは終われば水に流すことが出来た。


「でもさ。司の相手をするくらいだから芯が通った女性なんじゃない?」

「類?お前起きてたのか?」

「起きてるよ。惰眠を貪ってたのは遠い昔の話だ。時差にやられてるけどね」

「だよな。お前はアフリカから戻って来たんだよな?」

「ナイロビにいた。ケニアだよ。キリマンジャロから北に200キロほどの所にね」

「ナイロビ支店か?けど物産はエジプトと南アフリカにも支店があったよな?それなのにナイロビにも支店か?お前の所もコーヒー豆を扱うのか?」

アフリカ最高峰のキリマンジャロの名はコーヒーで有名だが、美作商事は食品輸入の分野では秀でていると言われ、最近ではスコットランドからスコッチウィスキーの輸入を始めていたが、コーヒー豆の買い付けを社命とする部門も持っていた。

「違うよ。ナイロビは東アフリカの中心都市だし国際機関の本部もあるしカイロ、ヨハネスブルグに次ぐアフリカ第三の都会だからね。拠点が必要なんだ」

「そうか。物産はアフリカに力を入れるってことか?」

「まあね。あんまり詳しく言えないけどね。あの街で物産の新しい支店を開設することが俺の役目。でもそれも無事終わった」

類はそう言って横たわっていたソファから身体を起し、テーブルの上に置かれていたアイスペールを引き寄せ自ら水割りを作り始めた。

「詳しく言えないか….分かってるって。俺たちは友達だがビジネスではライバルな面もある。協力することもあれば、そうでもないこともあるからな」

あきらは類がグラスを口に運ぶ姿を見ながら昔を思い出していた。
類は仲間以外の人間とは口を利かない、透明な瞳で静かに他人を見つめるような子供だった。だが今は違う。花沢物産の後継者としてビジネスをこなし、時にあきらが気圧されることもあった。その類はアフリカから帰国して来たばかりで、日に焼けて精悍な顔つきになりワイルドさが感じられる男になっていたが、それでも品の良さは身体から滲み出ていた。

「ねえ。それでその牧野って女性。あの司が好きになったんだよね?俺さ。アフリカから戻ったばかりだから想像するのは猛獣使いなんだけど?やっぱり彼女は猛獣使い?」

「ああ。言われてみればそうかもな。何しろ彼女は司の家の番犬のドーベルマンに懐かれてる。
今じゃ司とその犬で彼女を取り合ってる感がある。ま、そうは言っても相手は犬だ。司は言うなればライオンで犬に負けることはないがな。それにしてもあの二人は面白れぇぞ。
世田谷の邸で集まったことがあったんだが彼女、いきなり走り出してそれを司が追いかけて、その二人に犬が絡んだことがあった。司はな、犬を使って彼女を追いかけさせた。
それにはじめこそ司の方が偉そうだったが、今じゃ対等だ。まあ、そんな女じゃなきゃ司も好きにならなかっただろうよ。けどあの二人は全くタイプが違う。彼女は石橋を叩くように考えるが、司は行動派だ。おそらく趣味も全く違うはずだがそれがちょっと心配だな。夫婦が同じ趣味ってのが楽といやぁ楽だからな」

あきらは、3人の中では一番気遣いが出来る男だと言われていた。
そしてあきらは3人の中で一番司のことを理解しているという自負がある。
だから自分なりの考えを述べたが他の二人は違う意見のようだ。

「ふぅん。でもさ。司も相手がイエスマンじゃ嫌だろ。
もし仮に見合いでもして結婚相手が司の言うことに逆らわない従順なお嬢様だったら家庭内別居になると思うな。それに趣味が全く違う二人なら趣味が倍になったと思えばいいんじゃない?だって司も彼女が今までのタイプとは全く違うから惹かれたんだろ?」

「あ。俺もそう思う。アイツは水瓶座の男だ。大胆な恋をする星座だ。少しくらい波風が立ったとしても、どうせ最後に折れるのはアイツだろ?」

類や総二郎の言うことがもっとものように聞こえるのは、もし自分たちの相手が意志を持たないお飾り人形のような女ならつまらない人生になることは間違いないと思うからだ。

「それにしても面白そうだ。早く会ってみたいけど、今夜来るのは司だけだよね?俺さ。彼女に会ったことはないけど、なんだか気が合いそうな気がする」

「いや。彼女も来るそうだ。それから類。お前司の前でそんなこと言うなよ。アイツは彼女のことになればそれこそドーベルマン並に鼻が利くから噛みつかれるぞ?」

「平気だよ。司に噛みつかれるのは慣れてるし」

「おい類。冗談はさておき、マジでそんなこと言うなよな。この年になって女のことで揉めるのは勘弁してくれ」

昔から仲間内で何かあれば、あきらが仲介役として間に入っていたが、さすがに大人になってからそういったこともなかっただけに、まさか30過ぎてのその状況だけは勘弁して欲しかった。

「あきら。心配するな。類は冗談を言っただけだ。マジで司の婚約者に手を出すわけねぇだろ?それに噂をすればだぞ!おい司!ここだ!」





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コメント
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dot 2018.08.26 07:57 | 編集
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dot 2018.08.26 14:39 | 編集
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dot 2018.08.26 22:23 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
あきらがつくしの容姿を説明する時、胸の大きさの説明もする!(≧▽≦)
男は胸の大きさを気にするのでしょうか?
それともあきらだけ?でも司がこれまで相手にしてきた女性なナイスバディーだったから説明したのでしょうね。
そしてついにそのご本人とのご対面。
はい。お察しの通り、類はひと目で気に入ってしまいました(笑)
そしてお決まりのパターンでした( ´艸`)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.08.28 22:42 | 編集
さ***ん様
総二郎南米でスェクシーなお嬢さん方とアバンチュールを楽しんでいた。
一期一会ですからね。
そして類はナイロビにいました。皆さんワールドワイドですね?
日焼けしたワイルド類が見たい。
そうですよね。さ***ん様は総二郎も類もあきらもお好きでしたよね。
でもアカシアは坊ちゃんしか書けないんです。
と、言うことで犬が好きになる女とF3の対面は……
あんな感じになりました( ´艸`)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.08.28 22:45 | 編集
童*様
つくしを守ると決めたゼウスの活躍が見たい!(≧▽≦)
つくしのピンチを救うドーベルマン!
そうですね….書けるといいのですが、あまりシリアスになるとアレですね(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.08.28 22:47 | 編集
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