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2018
08.25

出逢いは嵐のように 97

「それにしても恋愛についてはマイペースだった先輩が早々に結婚を決めたなんて、何かあったんですか?もしかして妊娠したんですか?」

「ま、まさか。違うわよ」

「え?違うんですか?私はてっきりそうだとばかり思っていました。だって道明寺副社長のことですから野性味溢れる愛し方をされるはずです。あの肉体を浴びせかけられたらひとたまりもありません。でも私は道明寺副社長の裸を見たことがありませんから細かいことまで分かりませんが、それでも服の上からでも十分分かります。凄いんでしょね、きっと」

桜子の頭の中に描かれている道明寺司の裸がどんなものか分からなかったが、つくしは知っている。だから桜子の言葉に思い出したように顔が赤くなるのは今更だ。
そして桜子は、そんなつくしの態度にやはり今更といった表情を浮かべ部屋の片づけを手伝っていた。

「それにしても本当にいいんですか?このマンション手放しちゃって。ここを手放すってことは退路を断つってことですよ?それにローンが残っていても道明寺さんに言えば払ってくれますよ。ここはいざという時の為に持っておけばいいんじゃないですか?道明寺さんにすればここのローンなんて小遣い程度の金額ですよね?それともいっそのことこのマンションごと買ってもらったらどうですか?ここを先輩の名義にして家賃収入を自分の小遣いにする。マンションのオーナーって憧れますよね?」

桜子の話を訊きながら部屋の片づけをする女は笑ったが、このマンションを棟ごと買い取ろうという話しは実際に出ていた。
だがつくしは断った。
そして住所を一緒にしようという言葉に、どこに住むのと問えば、ペントハウスではなく世田谷のお邸だと訊かされた。

長い間、主が不在だったお邸に人の暮らしが戻る。
大勢いる使用人たちは主が花嫁を連れて移り住むことを喜んだ。
そしてそのことを一番喜んだのはドーベルマン犬のゼウスだ。
少しずつ荷物を運んではゼウスの頭を撫でて帰るつくしが引っ越して来ることを話すと、まるで人間の言葉が分かるのか。嬉しそうに吠えた。
そしてある日、荷物を運び終えいつものようにゼウスに会って帰ろうとした時、ワンと吠える声がして視線をそちらに向ければ、前方からゼウスがつくしに向かってまっしぐらに走って来て飛びついたのだ。

「牧野様!大丈夫ですか?申し訳ございません!リードを付けようとしたんですが、いきなり走り出してしまいました」

ゼウスと同じ方向から慌てて走って来た男性は、邸の警備員で犬の世話をしている。
そしてその男性はゼウスを引き離そうとしたが、芝の上に倒れたつくしの上ではしゃぐ犬は、彼女の顔を舐め回していた。ゼウスに顔を舐められるのは、バーベキューパーティーの時以来だが、今もあの時と同じで顔をべちょべちょにされていた。

「ゼウス!離れるんだ!」

男性が命令しても離れようとしない犬はまだ子供だと言われるが、身体の大きさは成犬のドーベルマンで、チワワに飛びかかられても倒れはしないが、さすがに大きなドーベルマンに飛びかかられればひとたまりもなかった。それにゼウスにしてみれば嬉しさの表現なのだろう。だから少しの間ゼウスの気持を受け止めたがさすがに重かった。

「ほらゼウス!そろそろ降りて!重いのよ、ゼウス!」

つくしの言葉を理解出来るなら降りてもよさそうなものだが、ゼウスはつくしの上から降りようとはしなかった。

「お前ら何やってんだ?って言うかお前らまたか?」

「司!?」

後方の頭の上から聞こえた声はこの邸の主でつくしの婚約者だ。

「ゼウス止めろ。離れるんだ。この女はお前の女じゃない。こいつを舐め回していいのは俺だけだ。それにしてもこいつは自分を人間だと勘違いしてる節がある」

ゼウスは飼い主が誰であるか分かっていて、司の命令に従うとつくしの上から降り、彼女のすぐ傍に座った。そして司の手を借り立ち上ったつくしはゼウスの頭を撫でた。

「おい。ゼウスを連れて行け。それからちゃんと繋いでおけ。まったくこいつはつくしの事になると目の色が変わるな」

だがそう言ったが司もつくしの事となると目の色が変わると言われるほど彼女のことが気になっていた。
そして首輪に革のリードを付けられたゼウスは警備員に引っ張られたが、その場を動こうとはしなかった。

それを見ていたつくしは、ゼウスがチワワのレオンのように上目遣いに見つめる姿に甘えたところと切なさを感じた。と同時に頑固で一筋縄ではいかない犬だと思った。
だがドーベルマンは使役犬で人の為に働く犬だがゼウスはつくしの為だけに働くつもりなのか。いつも世話をしてくれている警備員が何度リードを引っ張っても頑として動こうとはしなかった。


そして司と付き合い始めて分かったのだが、彼は頑固でゼウスに似ているところがある。
それにゼウスがやたらと鼻を押し付けてくるのと同じで彼もやたらとつくしに触れたがる。
だがそれは愛する者同士なら許されることなのだが、過剰な愛情表現といったものに慣れていない女は戸惑いを通り越して恥ずかしい思いがしていた。


たとえば、二人でパーテイーへ参加する。

「こちらの女性は私の婚約者です」といって紹介するのはいいのだが、その後つくしの手を取って甲にキスをする。その行為は知り合った頃にされたことがあったが、あれは美奈に頼まれたことを実行するためにしていたと思ったが、ごく自然に出る行為に照れてしまう。
それに、愛を語り合うのに場所は関係ないと言ってキスをしようとするが、ここではちょっと、と言うと不機嫌な顔になり、いい年をした大人が子供のようだと感じることもあるが、それがつくしの前だけに見せる顔なら、心を許した今ではごく当たり前に受け止めることが出来た。


「司。ゼウスももう少しここにいていいでしょ?この子は私のことを守るつもりでいるんだもの。そうよね?ゼウス?」

つくしのその言葉に嬉しそうに尻尾を振るゼウスは口を開け、笑ったような顔をした。

「ああ。分かった。分かった。こいつはお前と出会ってから自分の仕事は俺じゃなくてお前を守ることだと決めたようだな」

犬の嬉しそうな顔に呆れたように言う男は、警備員に手を差し出しリードを受け取った。

「仕方ねぇな。ま、いいか。こいつは一応俺を飼い主だと認識してる。それに守るべき相手がひとりからふたりに増えたところでゼウスはやってくれるだろうよ」

その言葉にドーベルマンはワンと吠えたが、それは勿論といった意味が込められているはずだ。

そして司の手に握られたリードはピンと張られるほど前を歩くドーベルマンに繋がっているが、結婚を承諾してもらえた男は自分の首に首輪が嵌められても構わないと考えていることに苦笑していた。





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コメント
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dot 2018.08.25 09:49 | 編集
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dot 2018.08.25 14:49 | 編集
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dot 2018.08.25 16:48 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
ゼウス!元気です。まだ若い犬はつくしに飛びかかりました!
はじめから懐いていたゼウスは強面ですが甘えん坊です。
司がご主人様ですが、それとはまた別につくしのことを守ることを決めたようです(笑)
ゼウス賢い犬ですからね。一応主人である司を立てると思いますよ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.08.25 23:56 | 編集
イ**マ様
夏休みもそろそろ終盤で色々とお忙しそうですね?
お邸の主が花嫁を連れて移り住む...
その状況があの曲なんですね!
わはは(≧▽≦)二人には1ミリもハマらないけど、あの曲なんですね!(笑)
でもあの曲は結婚式の定番と呼ばれていた曲です。いいと思いますよ!(笑)
よし!二人にはサンバを踊ってもらわなければ!(≧▽≦)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.08.26 00:02 | 編集
さ***ん様
犬は飼い主に似る。
ゼウス。司にそっくり。
つくしの顔を舐めまくるゼウスですが、司も同じようなものですものね(笑)
ゼウスと遊ぶ二人の子供。ゼウスは子供が心配で甲斐甲斐しくお世話しそうですね。
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2018.08.26 00:07 | 編集
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