その日の夜遅く司のプライベート携帯に着信があったが司は出なかった。
それは相手が誰であろうとその時間は愛する人と過ごす時間であり、誰にも邪魔されたくなかったからだ。
そして相手もそのことを分かっているはずだが、それでも電話を鳴らすことが出来るのは、相手が男の母親だからだ。
「それで?あの子が付き合っている牧野さんという女性はあの子との結婚を考えているのかしら?」
『はい。お二人とも結婚を前提にしたお付き合いをされていらっしゃいます。特に副社長の牧野様への思い入れは相当です』
「そう….。やっとあの子も結婚しようという気になったのね。いいわ。近いうちに東京に行くから彼女と会いましょう。西田。司に言って頂戴。その女性との未来を真剣に考えているなら、母親に会わせなさいとね」
楓はそう言って電話を切ると、再び書類に目を通し始めたが、頭の片隅には我が子のことがあった。
司の母親は息子が真剣に付き合っている女性がいるという話を椿から訊いていた。
そして椿の娘であり楓の孫である美奈から二人の馴れ初めも訊いていたが、ほんの数ヶ月前秘書見習いという名目でこの街に連れてきた女性は、美奈の別れた夫の浮気がきっかけで知り合ったと言い、美奈はその女性に迷惑をかけたと言った。そしてその女性がいい人で好きだと言った。
そんな孫の離婚理由には驚かされたが、今の世の中、愛の形は様々なものがあることは知っている。だが正直な話まさか孫の夫がという思いがあった。
だが離婚した張本人の美奈は案外あっけらかんとしていた。そして今は大学生として学業に専念しているが、将来はロスを拠点に高級ホテルを展開する父親を助けたいと言っていた。
そして我が子が結婚を考えている牧野つくしという女性についてすぐに調べさせた。
会社員だった両親は既に亡くなっていて、長野で暮らす弟がひとり。姉も弟も真面目な性格だと言われ、取り立てて何か指摘することもないごく普通の女性だった。
楓は息子が幼い頃から世界中を飛び回り、家にいることがなかった。
その理由をビジネスだからと言う言葉で一括りにしていたが、風邪をひいて高熱を出した息子を顧みる余裕がなかったこともあった。
何故なら世界を相手にビジネスをする人間の生活は、個人的な感情よりも利益が優先された。
あの頃の楓は母である前に道明寺財閥を率いる立場でいることに重きを置いた。
そして目的のためなら手段を選ばないと言われた。
そんな女を見て育てば、いや。実際に身近で目にしたのではないとしても、霊廟のような邸で育った我が子が手の付けられない状態にいたこともあった。
誰も信じることなく、誰も求めることなく、人生に目的などないといった生き方をしていた少年時代があった。
だが今では立派な後継者として財閥を牽引する人物となったが、大人になってからの親子関係というものは、あけすけに言えない部分がある。
むしろ他人の方が言いたいことを言える。
しかしそうは言っても、会社では社長と副社長という立場から、ビジネスに関しては、はっきりと物を言うのが当然のこと。だが成人した男に向かって放つ言葉は、私生活で世間を騒がせることがないようにとしか言えなかったが、女の問題というものは、それなりの地位にいる男なら避けられないと言われている。だが我が子は女に対してはシニカルな部分もあり、本物の恋というものはしてこなかっただけに、まさかごく普通の女性を伴侶に選ぶとは思いもしなかった。
そして楓は自分の性格上、物事を曖昧なまま長引かせることは嫌いだった。
だから息子が結婚相手として選んだ女性に会ってみたいのだ。
だが息子が母親に真剣に結婚を考えている女性のことを話そうとしないのは、これまでの自分の態度が関係しているはずだ。
そして電話で話した椿は司のことを変わったと言ったが、その変化をもたらしたのが牧野つくしなのか。もしかすると牧野つくしという人物は、我が子の優しい面を引き出すことが出来る女性なのか。
楓は、去来する思考を整理しようとしていた。
だが扉をノックする音が聞え意識を現実に戻すと、失礼致しますと近づいて来た秘書が机の上に書類を置く様子を見ていた。

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それは相手が誰であろうとその時間は愛する人と過ごす時間であり、誰にも邪魔されたくなかったからだ。
そして相手もそのことを分かっているはずだが、それでも電話を鳴らすことが出来るのは、相手が男の母親だからだ。
「それで?あの子が付き合っている牧野さんという女性はあの子との結婚を考えているのかしら?」
『はい。お二人とも結婚を前提にしたお付き合いをされていらっしゃいます。特に副社長の牧野様への思い入れは相当です』
「そう….。やっとあの子も結婚しようという気になったのね。いいわ。近いうちに東京に行くから彼女と会いましょう。西田。司に言って頂戴。その女性との未来を真剣に考えているなら、母親に会わせなさいとね」
楓はそう言って電話を切ると、再び書類に目を通し始めたが、頭の片隅には我が子のことがあった。
司の母親は息子が真剣に付き合っている女性がいるという話を椿から訊いていた。
そして椿の娘であり楓の孫である美奈から二人の馴れ初めも訊いていたが、ほんの数ヶ月前秘書見習いという名目でこの街に連れてきた女性は、美奈の別れた夫の浮気がきっかけで知り合ったと言い、美奈はその女性に迷惑をかけたと言った。そしてその女性がいい人で好きだと言った。
そんな孫の離婚理由には驚かされたが、今の世の中、愛の形は様々なものがあることは知っている。だが正直な話まさか孫の夫がという思いがあった。
だが離婚した張本人の美奈は案外あっけらかんとしていた。そして今は大学生として学業に専念しているが、将来はロスを拠点に高級ホテルを展開する父親を助けたいと言っていた。
そして我が子が結婚を考えている牧野つくしという女性についてすぐに調べさせた。
会社員だった両親は既に亡くなっていて、長野で暮らす弟がひとり。姉も弟も真面目な性格だと言われ、取り立てて何か指摘することもないごく普通の女性だった。
楓は息子が幼い頃から世界中を飛び回り、家にいることがなかった。
その理由をビジネスだからと言う言葉で一括りにしていたが、風邪をひいて高熱を出した息子を顧みる余裕がなかったこともあった。
何故なら世界を相手にビジネスをする人間の生活は、個人的な感情よりも利益が優先された。
あの頃の楓は母である前に道明寺財閥を率いる立場でいることに重きを置いた。
そして目的のためなら手段を選ばないと言われた。
そんな女を見て育てば、いや。実際に身近で目にしたのではないとしても、霊廟のような邸で育った我が子が手の付けられない状態にいたこともあった。
誰も信じることなく、誰も求めることなく、人生に目的などないといった生き方をしていた少年時代があった。
だが今では立派な後継者として財閥を牽引する人物となったが、大人になってからの親子関係というものは、あけすけに言えない部分がある。
むしろ他人の方が言いたいことを言える。
しかしそうは言っても、会社では社長と副社長という立場から、ビジネスに関しては、はっきりと物を言うのが当然のこと。だが成人した男に向かって放つ言葉は、私生活で世間を騒がせることがないようにとしか言えなかったが、女の問題というものは、それなりの地位にいる男なら避けられないと言われている。だが我が子は女に対してはシニカルな部分もあり、本物の恋というものはしてこなかっただけに、まさかごく普通の女性を伴侶に選ぶとは思いもしなかった。
そして楓は自分の性格上、物事を曖昧なまま長引かせることは嫌いだった。
だから息子が結婚相手として選んだ女性に会ってみたいのだ。
だが息子が母親に真剣に結婚を考えている女性のことを話そうとしないのは、これまでの自分の態度が関係しているはずだ。
そして電話で話した椿は司のことを変わったと言ったが、その変化をもたらしたのが牧野つくしなのか。もしかすると牧野つくしという人物は、我が子の優しい面を引き出すことが出来る女性なのか。
楓は、去来する思考を整理しようとしていた。
だが扉をノックする音が聞え意識を現実に戻すと、失礼致しますと近づいて来た秘書が机の上に書類を置く様子を見ていた。

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司*****E様
おはようございます^^
さて楓ママの登場となりました。
今まで誰も愛することがなかった息子が愛した人はごく普通の人。
会うことになった時、どのような会話が交わされるのでしょうね?
楓は親として会うのか。それとも社長として会うのか。
その態度はどちらなのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
さて楓ママの登場となりました。
今まで誰も愛することがなかった息子が愛した人はごく普通の人。
会うことになった時、どのような会話が交わされるのでしょうね?
楓は親として会うのか。それとも社長として会うのか。
その態度はどちらなのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.08.21 23:09 | 編集
