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2018
08.11

出逢いは嵐のように 91

心の中で突っ張っていたものが外れる。
自分の気持を洗いざらい喋った後は、すっきりするもので、何かから解放されたような気になっていた。そして心の奥を覗いてみれば、その人が忘れられない人になることは頭の片隅にあったはずだ。ただ、はじめはそれを認めたくなかったが、自分をここまで必要としてくれる人間がいることに歓びを感じた。
普通の恋人の付き合いをすると言った男のまっしぐらで強引な性分は、知り合って行くうちに理解していたはずだ。
そして今まで恋をしたことがないという男の真摯な言葉と態度は、臥した動物のそれに似ていると思ったが、それは二人の隣にいるドーベルマンが伏せをして頭を抱えた様子に似ていたが、まさか犬が見ている前でキスをするとは思いもしなかった。








「どこまで逃げたのか知りませんけど、捕まることは分かってるのにどうして逃げたんですか?道明寺邸にいて道明寺副社長から逃げることが出来ると思ってるんですか?そんなの無理だって分かってますよね?ほら先輩。髪の毛に芝。付いてますよ?誰も芝の上で犬とじゃれあってたとは思いませんけど、お二人は何をしてたんでしょうね?」

二人が連れ立って戻って来たとき先ず口を開いたのは桜子だった。

「髪に絡まってる芝ってのは色々と掻き立てられるものがあるが、まさか青空の下でってことはないよな。司?」

ニヤッと笑ったあきらに、司はうるせぇ黙ってろ、といった視線を向けた。
そしてそこには、庭の見学に行くと言ってテーブルを離れていた別室の4人も戻って来ていて、ビールやレモネードがそれぞれの手に握られていた。

「ゼウス!久し振り!元気だった?」

と言って美奈は司の後ろに控えていた犬に駆け寄り、頭を掻き混ぜるように撫でていたが、ゼウスは嬉しそうに美奈の匂いを嗅いでいた。そして美奈が「ゼウス、カモン!」と言って走り出すとゼウスは司の顔を仰ぎ見て、主が頷く姿を確認すると美奈の後ろを追いかけ、すぐに追い付いた。そして美奈の周りをくるくると回りながら一人と一頭ははしゃいでいた。

「美奈ったら。いい年をして子供みたいにはしゃいでいるわね。でも美奈も二十歳でゼウスも人間でいえば二十歳過ぎですものね。あの子たち気があうのかしらね?
それにあの子は強気に見えるけど隆信さんとのことがあったからああ見えて傷付いているし離婚のことでストレスが溜まっているはず。こうして気晴らしに動物と触れ合うのもいいのかもしれないわね」

椿は娘が弱音を吐くこともなく過去は過去だと割り切り前を向く姿が自分に似ていると思いながらも、大人になった我が子が心の傷を隠していることを知っていた。
そして美奈が発端になった弟の恋について思いを巡らせたが、椿の前に現れたどこか恥ずかしそうな顔をした女性の姿を見た瞬間、彼女が弟を許したのだと分かった。

「….あの。突然いなくなって申し訳ございませんでした」

頭を下げたつくしに、

「あら。いいのよ。気にしないで。色々と迷惑をかけたのは娘と弟ですもの」

と言った椿は別室のメンバーの手前詳しくは言わなかったが、つくしには十分意味は伝わっていた。
そして司は椿の言葉に表情こそ変えなかったが、感じられる空気はよかったわね。と声をかければきっとこんな表情になるだろうといった顔をしていたが、それは幼い頃よく見せた顔でもあった。

「さあ。皆さん。二人も戻って来たことだし乾杯でもしましょうか」

「姉ちゃん何に乾杯するんだ?司が獲物を捕まえて戻って来たことにか?それに司のことだ。ドーベルマン並に獲物を追ったはずだ」

この場にいる人間は、あきらの言葉に甘やかさが含まれていることに気付いていて、好きな女が逃げれば追う。それが太古から動物のオスが備えた本能であり、狩りをすることが男としての役割であった頃からの愛情の表現の仕方だと分かっている。だからあきらの言葉に誰もが頷いたはずだ。

「そうよ。だって司は_」と椿が言いかけたところで遮ったのは司だ。

「訊いて欲しいことがある。ここにいる人間は俺と牧野つくしの関係を知っていることを前提に話しをする」

司の改まった声色に全員が彼に注目した。

「美奈!戻ってらっしゃい」

椿が言うと美奈はゼウスを連れ戻って来た。
そしてゼウスは美奈の隣で主の方を向きお座りをした。それを見た司は真顔で言葉を継いだ。

「俺と牧野つくしは付き合うことにした。二人の間には少しばかりの問題があった。それは俺が彼女に不信感を与えたことだがそのことについては解決済みだと思ってもらっていい」

司は隣にいた女の肩に手をかけた。
その瞬間つくしの身体は強く引き寄せられよろめき、抱きとめられた。
そしてここにいる人間の視線は、つくしが何か言うのではないかと彼女に集中した。
だが何も言わない彼女の代わりに口を開いた司の方へ視線は戻った。

「それから俺たちの付き合いは結婚を前提だと思ってくれ」

一瞬の間の後、良かったですね!おめでとうございます!と声をかけたのは佐々木純子だ。
そしてその後に、技術の田中と財務の小島も同じように良かったですね。と声を上げた。

「それにしても僕どうなるかと思ったんですよ?お庭から戻ってくればお二人はいないし、どこへ行ったんですかって訊いたら牧野さんが急に駆け出したって言うし、副社長が追いかけて行ったのは分かりましたけど、どうなっちゃうんだろうって本当心配したんですよ?」

沢田は良かったといった顔で二人を見比べる。

「良かった!つくしさんが駆け出して行った時、どうなることかと思ったの。でも叔父様の真剣な顔を見たら絶対につくしさんを逃がさないと分かったわ」

そう言った美奈は椿にホッとした表情を見せたが、それは自分が駄目にしてしまった叔父の恋が叶った嬉しさの表れだ。そしてドーベルマンは美奈が興奮する理由は既に知っているといった様子で小さく尻尾を振った。

「そうか。司は牧野つくしに誠意を見せたってことか。ま、そういうことなら俺たちの出番は無いってことだな?」

と言ったあきらは桜子に視線を向けた。

「そういうことになりますね」

答えた桜子は不満をあらわにはしなかったが、その口振りはどこか残念そうだった。

「お?不満そうだな?その口振りじゃ君は司を苦しめてやりたいと思ってるようだな?」

「いいえ。副社長が先輩に対しきちんと誠意を見せたならそれでいいと思ってますから、苦しめるとか苦しまないとかそんなことは考えてもいません」

「へぇ~。そうか。それならこの二人を祝福してやろうじゃないか。なんだかんだあっても今はいい感じだ。司も色々と考えさせられたことだし、これからは何があっても彼女のことだけを考えるはずだ。そうだろ?司?ま、今回のことは女に対して一定の距離を置くことが当たり前だった男に対して神様が与えた試練だったってことだ」

あきらにしてみれば、本当なら女を弄ぶようなことを考えるからだと言いたかったが、さすがに親睦を深めるといった名目で開かれたバーベキューパーティーに参加している社員たちの前では口にしなかった。

司はそれぞれが思いを述べると、つくしを抱きとめたまま言った。

「あきら。大人の恋愛に必要なのは素直な気持ちと相手を思いやる心だが、俺はそれに鈍感だった。気づくのが遅かった。人間は生きているうちに否応なしに色んなものを身に纏うが、これだと思う女に出会った時は色眼鏡は外した方がいいぞ。つまり先入観に囚われるなってことだ」

と言って口角を上げ笑った男の顔に、「まったくよく言うぜ」とあきらは返し、急に悪戯っぽい目をした男に片眉を上げてみせたが、その瞬間目の前の男は腕の中の女が息も出来ないほどのキスをしていた。





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dot 2018.08.11 10:27 | 編集
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dot 2018.08.11 16:45 | 編集
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dot 2018.08.12 23:19 | 編集
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