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2015
11.03

まだ見ぬ恋人18

ヘリは1時間もかからず目的地のヘリポートに着陸し、2人は迎えの車で鉱区内の施設へと案内された。
そこからは鉄鉱石を採掘する露天掘りの大きな渦巻が見えた。
そしてそこはあらゆることが抜かりなく準備されているように思えた。

つくしは昨夜司が自ら作成したデータがすでに未開発鉱区の開発事業に携わる人間にインプットされている状況に驚いた。
今朝の時点でこのメールを確認していたのでは、このプロジェクト会議には間に合わないはずだ。
きっとここにいる男達は今日支社長がみずからこの地を訪れることを戦々恐々とした思いで待っていたに違いない。
もしかして夜通しでこの男のメールを待っていた?
司が自ら作成したそのデータは昨日の深夜につくしのパソコンにも送られて来ていた。
彼女がベッドのなかで眠れぬ夜を過ごしていたときにこの男は淡々と仕事をこなしていた。


プロジェクトの仮見積もり額は初期開発費用として約70億豪ドルだった。
そしてこのプロジェクトに関しては日本政府の金融機関である国際協力銀行の融資付きだ。
日本にとっての重要な資源開発と取得に対しては国をあげての協力を惜しまないと言ってきた。
鉱山業の問題点はハイリスク・ハイリターンだ。
だから良い鉱山を持ったものが勝ちだ。
当然のことだが鉱量はいずれ尽きる。
これから3年後の出荷開始とし、その2年後にはフル生産体制に入りたい。

司の後ろにはホワイトボードが置かれていた。
そこにはひとつの言葉が書かれていた。
「 Nothing comes without effort  (努力しなければ何も得られない)」

しない努力は報われない・・・
報われないのは足りないからか・・・
つまりは仕事しろってことよね?
やっぱりこの変態男仕事をすると超一流かも。
・・いや、もう謝罪は受け入れたんだからそう呼ぶのは可哀想よね?
私だって自分のするべきことは解っているつもりだ。
でも昨日はそれが解っていなかった。

「諸君、では本プロジェクトについての現地調査の報告を聞こうか」
司はそう言ってミーティングの開始を宣言した。

「おい牧野、おまえ当然メール見てるな?」
司がいきなり切り出した。
「はい。支社長」
そう答えたつくしも他の社員と同様にパソコンを開いてミーティングに臨んでいた。
「州政府の許認可の件だが、どうなってる?」
司は指で机をたたいた。
つくしは背筋を伸ばし言った。
「はい、審査はもうそろそろ終わると思われます。今までは審査プロセスが複雑で時間がかかっていましたが、そのあたりは短縮されていますので・・」
「牧野、はっきりとした答えを用意出来ていないんならおまえ何しにここにいるんだ?」
司の指がトントンと鳴った。
つくしはごくっと唾をのみこんだ。
「あ、あの・・」
「答えてみろ。給料に見合うだけの仕事をしないヤツは必要ない」
司は凄みを効かせたような低い声で言うと自分の背後にあるボードを示した。
「これ、なんて書いてあるか解るよな?」
「はい申し訳ございません。すぐに確認してみます」
つくしは早口で言った。
「分かっていると思うが許可が下りねえと開発できねぇからな!環境保護団体やら開発反対団体やら面倒な奴らも多いんだ。そのあたりはきちんとしておけ!」
つくしが転籍時に提示された給料は確かに魅力的な金額だった。
もちろんその額に見合うレベルを求められることも理解している。
早朝からの勤務も夜遅くまでの仕事も十分カバーしてくれるだけの金額だった。
わたし甘えがある?
滋さんから支社長が私のことが好きだなんて聞いて、もしかして私はそのことに甘えて仕事がおろそかになってる?許されると思ってる?

「よし、もういい。次だ!」
司は眉を上げた。
「ここの鉱石の質はどうだ?」
先行して調査に入っていた男が言った。
「はい、塊鉱比率が高く4割ほどは塊です。加工もしやすいですから近隣鉱区と比べても生産コストは遜色がないと思われます。鉱石の品位ですが十分な品位だとは思いますが鉱石処理のプロセスをしてもう少し品位を向上させてから出荷することになると思います」
別の男が調査書類を差し示して言った。
「支社長、高品位ですので日本のユーザーにも十分貢献できると思います」
司は頷いた。
「で、資源量はどのくらいだ?」
「はい、総資源量は2367百万トンで、年間生産量は58百万トンを予定しています。これは世界最大級の規模です。」
男が断言していた。


ミーティングはなかなか終わらなかった。
つくしは開発の許認可について問われたとき、きちんとした回答が出来ずに言葉が詰まってしまった。
この日のこの男の振る舞いは決して不作法なものでは無かった。
社会人としての扱いとしては当然だ。仕事は仕事だ。私が悪い。
つくしはこの男がどんな人間なのか即座に判断するのはやめようと思った。
昨夜の愚行ともいえる行為。そのことに対してのヘリの中での謝罪、そしてこのミーティングでの立ち振る舞い。
どれも彼なんだろうけど、どれもこれも見た目とは違うように思えた。
本当のこの人って・・・つくしの頭にはそんな思いがよぎっていた。

ようやく帰る時間になったとき現場の人達に見送られて帰ることになった。
みな礼儀正しく送ってくれたが、この男だけは眉根を寄せていた。

ヘリに乗り込むとつくしは緊張からじっと前を見据えていた。
「牧野、許認可の確認は今日はもう無理だろう。明日でいい。これからちょっと空の散歩だ」
そう言って隣に座る司がパイロットに合図を送るとヘリはゆっくりと浮上した。
眼下に広がるのは荒涼とした赤い大地だ。
その大地に太陽が沈む前の柔らかな日の光が届いていた。
「下を見て見ろよ。ここが今度開発する鉱区だ」
そう言われたつくしはちらっと司の表情を見た。先ほどまでと違い優しい顔だった。
私の顔を見ている彼の目が一瞬輝いたのが見えた。
「ここに良質な鉄鉱石が埋蔵されてる。さっきの鉱山で露天掘りを見たよな?ここもあそこと同じように露天掘りで掘り進めて行く。
運搬用の鉄道はさっきの鉱山から延伸させるつもりだ。どうだ?すげぇだろ?銅みたいに大河原とのJV(ジョイントベンチャー・合弁)じゃなく、ここがすべてうちのもんだ」
司はそういうとつくしの座っている方へと身体を寄せると窓の外を指さした。
「うわ、凄いですね!こんなに広いんですか?」
つくしは窓に両手をあてると下を覗き込んでいた。
「でも、なんだかここをあんな蚊取り線香の渦巻きみたいに掘っていくのはなんだか・・」
そう言いながらつくしが司の方を振り向いた。
そのときつくしが見たのは先ほどの優しい顔ではなく男の鋭いまなざしだった。
「支社長?」
つくしはいぶかしそうに司を見た。途端にまた優しげな表情をしていた。
「さっきは怒鳴って悪かったな。あいつらの手前おまえが女だからって甘やかされてるなんて思われるのは許せなかったからつい怒鳴っちまった」
「いいんです。あれは私がきちんと確認を取っていなかったのが悪いんです」
しばらく黙ったあと司は言った。
「なあ牧野・・・・」
司は言葉を切ってつくしを見つめた。
そしてそのまなざしは熱がこもったようにつくしを見つめている。
「キスするから黙っててくれないか?」
司は頭を傾けて唇と唇を合わせた。






国際協力銀行は実在しますがもちろんフィクションです。
70億豪ドル≒6020億円(1豪ドル86円換算)
ビッグプロジェクトですね。二人に仕事ばかりさせてすいません(笑)

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コメント
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dot 2015.11.03 06:27 | 編集
おはようございます♪


惚れます。惚れます。ひゃー惚れました。
ステキ過ぎます

asuhanadot 2015.11.03 06:44 | 編集
k***i様
恋愛に不器用なギャップが良いですか?
有難うございます!
ヘリの中でのキス、原作にありましたよね?
確かあの時はつくしちゃんからしていましたよね?
仕事はどんどんこなして行くんですが恋は不器用です。
基本仕事が出来る男は恋もって言うのがセオリーなんですが
なんだか司くんはそちらは不器用のようです。
>つくしが司を意識
やっとです(笑)
コメント有難うございました。
アカシアdot 2015.11.03 23:05 | 編集
asuhana様
いつもお読み頂き有難うございます。
惚れました?
それはヘリの中でキスをする司くんにでしょうか?(笑)
つくしちゃんいいなぁ・・・
私もお願いしたいです。
アカシアdot 2015.11.03 23:17 | 編集
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