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2018
08.02

出逢いは嵐のように 84

時計を見れば0時半だった。
オンザロックで飲む場合に用いられる背の低いグラスのことをオールドファッションドグラスと言うが、アイスペールを引き寄せ、美奈の結婚式の引き出物だったバカラ社製のそのグラスに氷を入れると琥珀色の液体を注いだ。そして煙草に火をつけようとライターに手を伸ばしたが止めた。

司は牧野つくしとの接点を見つけようとしていた。だが仕事以外で会うこともなければ話すこともなかった。
まるっきりビジネスライクの態度は、仕事に埋没することを望んでいるようで、時に司が別室の自分の席に座ると、少しだけ表情が強張ることがあった。だがそれもすぐに消えると無表情になり、内心の感情を読み取りにくくさせた。

2週間前美奈から届いたメールには、牧野さんの所へお詫びに行きました。と書かれていた。
そして牧野さんとは気が合う。お姉さんみたいと書いてあり、どうやら交流を始めたらしいが、二十歳の姪は親に押し付けられて行動することはしない。自身の判断で行動する。
それは自身の結婚の時もそうだったが、いつもいきなりのことが多く予想外のことをする。
そして今回牧野つくしの家を訪ねたことも、自らの行動であることは間違いないが、それでも母親に言われたこともあったはずだ。

姉は道理を外れた行為を許さない。
それは弟の司が身に染みてよく分かっていた。道を外れそうになる弟にいい加減にしなさい。いつまで子供みたいなことをやってるの。と鉄拳制裁を加えることもあった。
そんな姉だったが、幼い頃いつも手を繋いで歩いてくれた。その手は司にとって母親の手だった。その手があったから今の司がいる。

そんな姉だから弟はいつまでたっても子供だと思うのだろうか。
美奈のメールからのち、姉から掛かって来た電話は、弟の牧野つくしに対する思いを知っているだけに、ひと肌ぬごうといった思いが感じられた。



「美奈がバーベキューパーティーをしようって言うの。だから牧野さんを招待客しようと思うの。美奈は牧野さんに自分がしたことを謝りに行ってから何故か急に牧野さんのことを口にするようになったわ。自分では気が合うって言ってるけど、彼女が合わせてくれているように思えるわ。酷いことをした子なのに気を遣ってくれているのかしらね?でもとにかく美奈は彼女のことが好きになったみたい。牧野さんのことをお姉さんみたいだって言ってるの。だから私も会いたいわ。それに今回美奈が迷惑をかけたことを謝りたいわ。とんでもない人違いで牧野さんに言いがかりをつけたこと。それからあんたのこと。とにかく美奈もあんたも私が育てたんだから親としての責任があるわ」

姉は物事すべてにケジメをつけないと気が済まない、たとえそれが笑われるようなことであっても筋を通さなければ気が済まない性格をしていて、今回のことを謝らなければ気が済まないのだろう。

だがそうは言っても、いつまでも日本にいていいのか。ハイスクールに通う美奈の弟たちはいいのかと問えば、
「今はアメリカも夏休みだしあの子たちはアイビーリーグのサマープログラムに参加して東海岸にいるからいいの」と言った。

そんな姉といい娘といい司の思いを知る女たちが徒党を組むと迫力がある。親子はよく似ているが、性格まで似ているのだから、良いも悪いも一度こうと決めたことは実行する。
そして実行に移す力があるのだから止めることは出来なかった。

「だから司。あんたもバーベキューパーティーに参加するの。そこで牧野さんに謝るの。彼女のことが好きなら何度でも謝って自分の思いを伝えるの。このパーティーは美奈が大好きな叔父様に迷惑をかけたから償いたいって決めたことなの。いい?だから誠心誠意牧野さんに謝って自分の思いを伝えなさい」






***






『それで先輩は道明寺副社長のお姉様からの招待を受けたんですね?』

「え?うん。招待状を持ってきたのは美奈ちゃんで、どうしても来て下さい。母が今回のことでお詫びをしたいって言ってますって言われて断り切れなかったの」

ある日マンションまで訪ねて来た美奈にどうぞ中へと言ったが、玄関先でいいと言って絶対に来て下さいね、と頭を下げると時間制限があるとでもいうようにすぐに帰ったが、お姉さんみたいと言われた女は、押し付けるように渡された封筒をすぐには開けることが出来ずにいた。

美奈は悪い子ではない。話しをしてみれば利発で人間関係に於けるマナーもわきまえていた。ただあの時は、夫の浮気に頭に血が昇り、我を忘れた状態だったとすれば、近頃の若者の感覚から言えば、まともな考えの持ち主なのかもしれないと思っていた。

そんな美奈が来て下さいというバーベキューパーティーは、庭で肉を焼いて食べるものだと認識しているが、お金持ちの家で開催されるということは、何某かの決まりがあるのではないか。それに副社長の姉の招待ということは、あの男が来るのでは?そんなことを考えていた。何しろ美奈は叔父である道明寺司について、自分が悪かったのだとしきりに弁解をしていた。自分のために嘘をついたが、それは叔父の本意ではなかったと擁護した。
すると電話の向うにいる桜子は、その思いをズバリ言った。

『先輩。そのバーベキューって絶対道明寺副社長が来ますよ。いえ、来るんじゃなくて居ますよ。だってバーベキューの会場って世田谷の道明寺邸ですよね?それにあの広いお邸でバーべキューって想像が出来ないんですけど、本当にただのバーベキューなんですか?』

「うん。バーベキューって言ったらあのバーベキューしか想像出来ないんだけどね。それから同伴者OKってことだったから、桜子お願い一緒に来てくれるわよね?」

美奈はお友達を連れてきていただいて構いませんから、絶対に来て下さいと言った。

『ええ。勿論お伺いさせて頂きます。私も美奈さんにお会いしたいですから』





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dot 2018.08.02 05:11 | 編集
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dot 2018.08.02 09:05 | 編集
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dot 2018.08.02 10:05 | 編集
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dot 2018.08.02 12:28 | 編集
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dot 2018.08.02 18:01 | 編集
つ***ぼ様
頼りになる桜子。
恋をアシストしてくれるのでしょうか。
辛口の彼女がそこにいると場が引き締まるような気がしますがどうなんでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2018.08.02 23:15 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
つくしに拒否された司は苦しさを抱えて...とはいえ、バーベキューパーティーが開催される。
チャンスですねぇ(笑)司はこのチャンスを生かすことが出来るのでしょうか。
再び彼女のハートを掴むことが出来るのでしょうか。

気付けばこちらのお話も84話。そうですねぇ...何話までとは言えませんが、う~ん。どうなんでしょう(笑)
司の思いがつくしに伝わり、早く彼女がそれを受け入れてくれれば終れるんですがねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.08.02 23:23 | 編集
み***ん様
おはようございます^^
お祝いありがとうございます!
そうなんです。いつの間にか3年経ちました。時が経つのは早いですねぇ(笑)
お好きだと書いていただいた幾つかの作品。
み***ん様の心に残る作品があって良かったです。
その中のひとつ「秋日の午後」は以前もお好きだと言って下さいましたよね。つくしのお迎えに喜んで旅立つ男。
どれだけ妻のことが好きなのか?といったお話だったんですが、あの二人。今頃生まれ変わって人生を楽しんでいるんでしょうねぇ。
さて、この二人。バーベキューです。司が肉を焼いてくれるのでしょうか?
いや。今は拒否されてますがどうするのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.08.02 23:34 | 編集
イ**マ様
もうすでに美奈ちゃんになってる!(≧▽≦)
確かに!つくしったら人がいいというか。人を信じるというか。
それが彼女の性質であり性格なんでしょうねぇ。
そして道明寺邸でのバーベキュー。
勿論アカシアも参加したいです!どんなバーベキューなのでしょう。
きっと高級なお肉が出るはずです!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.08.02 23:39 | 編集
H*様
ひっそりと迎えた3周年でしたが、お祝いありがとうございます!
このようなブログですが、楽しんでいただけて幸いです。
御曹司のようなおバカな坊ちゃんもいますが、時にシリアスに走ることもあり坊ちゃん大忙しです(笑)
さて、桜子と一緒にバーベキューに行くことにしたつくし。
そこで待つのはもちろんあの男。
恋を成就することが出来るのでしょうかねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.08.02 23:46 | 編集
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