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2018
07.30

出逢いは嵐のように 82

最悪の精神状態だった一週間前の日曜。
それから風邪をひき会社を休み、その間に色々と考えた。考えながら傷口を舐めた。
出社して道明寺司と話しをしたが、今度は姪の白石美奈が会いに来た。
用件を訊けば、先日のことを謝りたいと言った。
会うべきか。会わざるべきか。インターフォン越しに話を済ませることも出来た。
だが少し間を置き答えたのは、「どうぞお入り下さい」だった。











つくしはスリッパを揃え、彼女を中に通した。

「どうぞ座って下さい」

と言ってダイニングルームのテーブルに美奈を案内したつくしは、美奈の姿を見て随分と雰囲気が違うと感じていた。
つまりそこにいるのは、1週間前とまったく印象が異なる女性だった。
パールグレーのスーツを着た白石美奈は、あの時の優越感を感じさせた態度はなく、今は緊張した様子でダイニングテーブルを前に向かい合わせで座っているが、長かった黒髪は短くカットされ、つくしのそれと殆ど変わらなかった。

そしてあの時は赤く塗られていた爪も、淡いピンク色が塗られ、化粧は薄く清楚なお嬢様といった雰囲気を漂わせていた。だが実際彼女は道明寺司の姪なのだから、お嬢様であることは間違いなく、その美貌から化粧などしなくても存在感は十分あった。
そして左手の薬指に嵌っていた結婚指輪と思われた銀の輪は外されていた。






お茶を淹れテーブルに運んだ。
お茶を出したのは、家に上げた以上何も出さないのは失礼だからといった気持ちがあったからで、それにいきなり話始めるよりも、何らかの動作を挟むことで気持ちを落ち着けようと思ったからだ。そしてつくしは、自分の家なのに美奈が感じているのと同じで緊張していた。
だが、訪ねて来たのはお詫びをしたいと言った美奈の方なのだから、つくしが緊張する必要はない。しかし、そう思っても緊張を感じてしまうのは、叔父と姪の関係だが美奈の中に道明寺司の面影を探してしまうからなのか。そして似ているところを探してしまうのは、まだ心は癒えてないということなのだろう。そんな風に考えていると美奈が口を開いた。


「牧野さん、突然押しかけてしまって申し訳ございません。それにこうして会ってくれてありがとうございます。私はとんでもない間違いを犯していたことに気付きました。あなたは夫の浮気相手ではありませんでした。本当に申し訳ございませんでした」

と言った美奈は、立ち上がると床に正座をして両手を床につき頭を下げた。

「あなたのことが憎かったんです。あなたを訪ねていった会社で夫など知らないと無視されたことに腹が立ったんです。だから叔父に頼んだんです。あなたを懲らしめる目的で誘惑して欲しいと。弄んで捨てて欲しいと頼んだんです。それにあなたが叔父と付き合うようになれば夫は私の元へ戻ってくると思ったんです。本当ごめんなさい。夫の浮気相手はあなただと、あなただと信じていたんです。でも夫の相手は違ったんです」

若い女性が土下座をする姿というのを見た事があるのかと問われれば、即座にないと答えることが出来る。だがそれ以前に誰かに土下座をされ謝られたことはなかった。
それにしても美奈という女性は自分が望むことは、どんな手段を用いても叶えたいといった思いが強いこともだが、逆に自分に非があると認めれば、こうして謝りに来ると躊躇わずに土下座をすることが出来るとは思いもしなかった。
そして、腹の据わったと言ってもいい潔さは、恋は終わったと言った時の自分とどこか似た所があるように感じられた。

「あの、あなたの気持は分かりましたから顔を上げて下さい」

つくしは、悪かったと謝る人間を上から足蹴にするつもりはない。
それにいつまでも頭を下げたままでいる若い女性を見るのは忍びないと感じていた。
そして足元にひれ伏している人間とでは話など出来るはずもなく、顔を上げて欲しい。椅子に座って欲しいと言った。

「牧野さん。本当にすみませんでした」

椅子に座るように言われた美奈は立ち上がり腰を下ろすとつくしの顔をじっと見つめたが、その表情は女子高校生が担任に叱られたような顔に見えた。
だが思えば白石美奈はまだ二十歳。いくら大人っぽく見え結婚しているからと言っても、つくしからすれば、15の年の差は子供と言ってもおかしくはなく、よく見れば愛らしいとも言える。そしてその顔には、夫の浮気には全く関係の無かったつくしに対して悪いことをしたという後悔がありありと現れていた。


「あなたに叔父のことを話した後、母が…母は普段ロスで生活をしているんですが、その母が来たんです。それは私の夫が浮気をしていると叔父から訊いたからです。でもそれとは別に私が浮気相手に計略を巡らせたことを叱るためでもあったんです。叔父は私のあなたに対する計略を母に話していました。それを訊いた母は馬鹿なことをと叔父を叱ったそうです。でも頼んだのは私です。私が叔父の私に対する愛情を利用したんです。だから叔父を道明寺司を許してあげて下さい」

美奈はそう言って再び頭を下げた。
そして顔を上げたが、愛らしいと感じたその顔は、相手に自分の思いを分かってもらいたいという強い意志が感じられる顔。

「叔父は本気であなたを好きになりました。あの喫茶店で私があなたに私のたくらみを話した時、走り込んで来た叔父の姿は本当に慌てていました。私が喋ろうとした言葉を一喝するように遮った時、叔父はあなたに偽りの恋を仕掛けたことを知られたくなかった。叔父は本当にあなたのことが好きになっていたから訊かせたくなかったことが分かりました。
私は今まで叔父に怒られたことはありませんでした。叔父は本当に優しい人で叱られたことはありませんでした。私はその叔父の優しさを利用したんです。叔父なら私の願いを叶えてくれると思ったんです。そして実際に願いを叶えてくれました。でもそれは、叔父の心の中、心の奥にあった人を愛する気持ちに火を付けたということだと思います。ご存知のように叔父はあの外見でお金持ちですから、女性はいくらでも寄って来ます。目当ては叔父のお金や外見です。だから本気の恋などしたことがありません。その叔父があの時私に向かって腹を立てた姿は牧野さんを本当に好きになっていたからです」

そこで美奈は、失礼します。と言って出されていたお茶を口にした。
そして、美味しいですね。と言い言葉を継いだ。

「牧野さん。私は私に向かって声を荒げる叔父の態度が想像できませんでした。だから私は余程酷いことをしたんだと分かったんです。叔父の恋を駄目にしようとしたんだと.....。
牧野さん、叔父は悪くありません。頼んだのは私です。叔父があなたのことを好きな気持ちは本物です。叔父はそれに気づいたとき、あなたに嘘をついて近づいたことに後ろめたさを感じたはずです」

美奈の話は嘘を言っているようには思えなかった。
それでも分かったわ、と言って美奈の思いを汲むことは簡単ではなかった。

そして逆に訊きたかった。
浮気をされた美奈の左手の薬指に指輪はなかったが、離婚をする方向で話しが進んでいるのだろうか。相手は女性ではなく同性だと訊いた。となるとショックを受けているはずだ。

そして美奈がつくしに対してここまで踏み込んで来るなら、彼女の夫に対する思いを知りたいと思った。それに相手はつくしの住むマンションの管理人だと訊いたが、その場所に足を踏み入れたことをどう感じるのか。
つくしは不快な思いをいつまでも引きずる性格ではない。
それは子供の頃からそうだったが、非を認めた人間をいつまでも責めることもしない。
そして何故か美奈という人間が憎めなかった。だが桜子に言わせれば、先輩は人を簡単に許し過ぎですと言われるかもしれないが、美奈に対しては何故か保護者めいた気持ちで訊いていた。

「あの。あなたはご自分の叔父様の事ばかり心配されてますが、ご自身の結婚についてはいいんですか?あなたは私を夫の浮気相手だと思い引き離そうとしました。でも結局それは間違いで本当の相手は別にいた。その人についてはどうするんですか?」

その質問に美奈は一瞬だけ言葉に詰まった。
だがすぐに口を開いた。

「叔父から訊いてもうご存知ですよね?夫の相手は男性でこのマンションの管理人でした。このマンションに出入りしている姿を写真に撮られたことがありますが、その人に会いに来ていたんです。それに週末はゴルフだと言って出かけることも多かったんですが、その人と会っていたそうです。男同士でゴルフですから誰も怪しむことはないですしね。それから夫はその人とは別れられないと言いました。それに相手が男性だと分かったことで夫の性癖も知ったんですからやり直すことは無理です。別れます。もう一緒に暮らしていません。細かいことは弁護士を立てていますので、彼らがしてくれることになっています」

若くして結婚して夫に浮気をされる。そのことだけでも傷付くはずだが、浮気相手が男だったことにショックを受けたことは間違いないが、美奈の口調は意外とさばさばとしていた。

「相手が女なら取り戻してやろうと思いました。でも男ですからね?無理だと思いました。ここの管理人ですから牧野さんはご存知だと思いますが、真面目な人のようですし、夫も…白石も真剣ですから私たちが元に戻ることはありません。でも初めは驚きました。まさかって….。ご存知かもしれませんが私たちの結婚は私が彼を好きになってどうしてもと18歳で結婚したんです。母からは大学を卒業してからでもいいじゃない。待てないのと言われました。でも結婚出来なかったら駆け落ちするって言ったんです。それにどちらかと言えば私が押せ押せで結婚したようなものでしたから。今考えれば我儘な面も多かったと思います。難しいですね。結婚って」

美奈は、そこまで言うと笑った。
そして何故か急につくしのことをまるで親戚の姉のような態度で接し始めた。
つまりつくしの名前を名字ではなく、とても親しげに名前で呼んだ。

「つくしさん。やっぱり18での結婚って早すぎたってことですか?」

それならとつくしも、

「美奈さん。結婚だけが人生じゃないわ。それに若くして結婚生活に失敗したからって人生が終わる訳じゃないし、あなたはまだ若いでしょ?私は結婚したことがないから偉そうなことは言えないし、いいアドバイスも出来ないけど、生きていれば色んなことがある訳で、こんな言い方が正しいのか分からないけど他人が経験したことがないようなことを経験したって思うしかないわね?私なんて年だけはいってるけど、あなたのような経験はしたことないもの。男に好きな人を取られるなんて!」

と、たっぷりと嫌味を含ませた言葉で返したが、言われた美奈は気にしていないようで、逆にその言い方を面白がっていた。

「言いますね?つくしさんって面白い人ですね?そうですよね、男に男を取られるなんてそうそうある経験じゃないですよね?つくしさんって真面目そうに見えて面白い人ですね!なんだかつくしさんとは友達になれそうな気がする。うんうん違う。私弟が二人いるんです。長女なんです。でもお姉さんが欲しかったんです。だから私のお姉さんになって下さい」



それにしても、わだかまりというものは消える時はあっという間に消えるものなのか。
感情をストレートに出すことが出来る若い女性は、話しが出来て本当によかったです。ありがとうございました。と言って帰ったが、年上の女は年下の女を見送ったあと、少しだけ困惑して苦笑していた。





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コメント
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dot 2018.07.30 05:16 | 編集
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dot 2018.07.30 06:26 | 編集
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dot 2018.07.30 09:10 | 編集
つ***ぼ様
美奈は根はいい子でした。
夫が浮気したことで、嫌な女になっていたかもしれませんが目が覚めました。
そして一番悪いのは夫。そんな夫とは離婚するようです。
美奈ちゃん、まだ二十歳ですから人生はこれからです!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.31 21:18 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
謝りに来た美奈。なんと土下座をしました。
つくしもいきなり土下座をされて驚いたと思いますが、美奈は真剣に謝りに来たということでしょう。
そして叔父である司に対しての思いも話しました。叔父に怒られたことがない。
いつも自分を可愛がってくれた叔父。そんな叔父の恋が駄目になることに申し訳ない気持ちで一杯です。
美奈。気が合う。気に入った人に対する親しみの表現は、椿さんに似ているかもしれません。
美奈はお姉さんになって欲しいと言ったことから、わだかまりは消えているのかもしれませんが、つくしは苦笑い。美奈に対しては許していても、司に対する感情は別でしょうねぇ。
お陰様で台風の被害はありませんでした。
そして再び暑さが復活!脳内沸騰です(笑)
司*****E様もお身体ご自愛下さいね^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.31 21:22 | 編集
さ***ん様
深い謝罪の態度を示した美奈。
椿さんの娘は潔く土下座をしましたが、その潔さはつくしにしてみれば大袈裟に映ったかもしれませんが、謝罪は受け入れたと思います。
その結果。お姉さんになって欲しいと言われ苦笑いでした。
えーっと、美奈と白石との離婚の慰謝料が幾らになるのか?(≧▽≦)
う~ん。幾らなんでしょうね?弁護士にお任せですからねぇ….。
そして叔父のことをフォローする美奈。その言葉をつくしはどう思ったのでしょうねぇ。
>悪魔から天使に脱皮した美奈。
美奈。これからは天使。キューピットになってくれる?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.31 21:27 | 編集
ア*******ク様
こんばんは^^
つくしに謝罪した美奈でしたね。
土下座をすることが出来る美奈。潔さと力強さが感じられますが、やはり母である椿に似たのでしょうか(笑)
そして別れる夫のことは吹っ切った美奈。相手が男ではねぇ….。
美奈にお姉さんと呼ばれたつくしは苦笑しましたが、そのうち叔母様!と呼ばれるようになるのでしょうか。その為に美奈は動くのでしょうか?
そして司はつくしの心を取り戻すことが出来るのでしょうか。つくし、心の中にはまだ司への思いがありますが、誰がどう動くのでしょうねぇ。
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.31 21:34 | 編集
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