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2018
07.27

出逢いは嵐のように 79

恋が終ったと言っている女ともう一度恋をすることは難しいのだろうか。
身体ではなく心が欲しいといった思いをしたことがない男がひとりの女の心を自分に向けたいと望むのは、難しいのだろうか。
女の気持を自分に振り向かせる。
司はそもそもそんな経験がないのだから分るはずもないのだが、その経験をこれからしようとしていた。









「副社長おはようございます。牧野さんもですが副社長もお早い出勤ですね?」

佐々木純子は部屋の入口に立つ男に声をかけた。

「ああ。おはよう」

司は返事をすると、つくしの方へ視線を移した。
そして純子と同じように、おはようございます、と朝の挨拶をした女をじっと見つめていた。
その視線に気づいた純子は、出張前の歓迎会で繰り広げられた出来事から、当然副社長と牧野つくしが交際を始めたと考えていて、恋人たちに気を利かせようとしたのか、

「そういえば経理が用があるって言ってたのを思い出したわ。牧野さん私ちょっと経理部まで行ってくるわ」

と言って自分の本来の所属である経理部まで行って来ると言って扉の方へ歩いて行った。
そして部屋を出る直前、

「それから技術の田中さんと財務の小島さん。法務の沢田君だけど、今朝は3人ともそれぞれの部署の朝礼に参加して来るって言ってたから申し訳ないんだけど牧野さん、ここ。お願いね?でも外線電話は9時までは掛かってこないから。それから仕事の色々は戻って来てから話すわ」

と言って部屋を出て行ったが、それは純子の気遣いなのか。電話の件など念押しのように言われ、目配せされたように感じたが、今のつくしにとってその気遣いは必要ないと言いたかった。

つくしは風邪をひき、ベッドで横になっているとき、取り憑かれたように頭を離れてくれなかった男を前に何を言えばいいのか考えていた。本当ならこんなに早く会うはずではなかった。だがそれはつくしだけの考えであり、ここが彼の会社である以上いつ道明寺司がつくしの前に現れてもおかしくないのだから、思っただけ無駄だった。

そして世間では時が止まる瞬間は恋におちた瞬間だと言われるが、つくしの前にある時間は恋でも愛でもなかった。それなら何かと問われれば、ただの沈黙だ。そしてその沈黙を自ら破るつもりはなく黙りこくっていた。







どう対応しようか。
そんな牧野つくしの心中を、司は感じ取っていた。
それは、表情や態度に現れているのではなく、空気そのものがその思いを伝えていた。
今までなら大きな黒い瞳や、赤く染まる頬が言葉の代わりに感情を伝えていたが、今目の前にいる女性から感じられるのは透明な肌の白さ。それが病み上がりのせいだと言われるのなら、それはそれで心配だが、それとは別に感じられるのは、話したくないというオーラ。
そんな言葉で言い表すことが出来る空気は、彼女の思いそのもので、口に出さずとも十分伝わっていた。

『私のことは放っておいて下さい』

今まで女と同じ部屋にいて居心地の悪さといったものを感じたことがない男が初めて感じる居心地の悪さ。だがそれは仕方がないのだ。
今のこの状況は彼が招いた結果であり、原因はすべて自分にあるのだから。

そして司は彼女に話さなければならなかった。
たとえ牧野つくしが自分には関係ない。訊く必要なないと突っぱねたとしても、まったくの誤解から彼女を騙し、恋を仕掛けた男として全てを彼女に話す義務があるはずだ。

それは、美奈の夫である隆信の相手は男であり、隆信が彼女の名前を口にしたのは、偶然に知った牧野つくしという名前が印象的であったことから口にしてしまったということを。

そして改めて自分の気持を伝える。
非難されても逃げることはせず、相手の言葉を受け止める。
訊きたいことがあればどんなことでも隠すことなく話す。
そして恋は終わったと言われたが、その恋を取り戻したい。彼女の心を取り戻したい。
簡単には許してもらえるとは思わないが、彼女が求める誠意の形はどんなものなのか。それを示したいと思う。
それに何らかの要求があるなら受け入れる。失われた恋を取り戻すためならどんな要求も飲むつもりでいる。





「牧野。風邪はもういいのか?無理することはないんだぞ?」

そう言った司は部屋の入口で立ち止まったままだったが、彼女の方へ少し近づいた。だが充分な距離を置き、近づき過ぎないようにした。

「牧野。話したいことがある。もう俺とは口を訊きたくないというなら、答えなくてもいい。だが訊いて欲しい」

司は弁解とは縁がない人生を送ってきただけに、自分の話ぶりが今のこの状況に於いて正しいのか分からなかったが、彼女の態度を見ながら話し始めた。

「美奈が、俺の姪がお前のことを夫の浮気相手だと思ったのは、隆信が..…隆信ってのは姪の夫の名前だが、隆信が美奈に浮気をしていることを知られ問い詰められたとき、お前の名前を口にしたからだが、隆信は相手が女じゃなかったことから自分の性癖と相手のことを考えて咄嗟にお前の名前を口にした。なんで何の関係もないお前の名前を口にしたかだが、偶然知った名前が印象的だったってことだけだ。つくしって名前が頭に残っていたこともあるそうだが、相手の男はお前のマンションの管理人だ。それにその男をマンションへ尋ねたとき、お前のことを見たことがあったそうだ。だから余計に印象に残っていたそうだ。それで咄嗟に出た名前がお前の名前だったと言った」

そこまで話しをして一旦口を閉じた。
何の反応も示さない彼女に対し、どうすれば反応を引き出すことが出来るのか。
だが反応を期待しては駄目だ。今はただ話を訊いて貰えるだけでいいはずだ。それが弁解であることは間違いないが、今まで見たことがない冷たさを感じる態度に、背中に冷たい物が流れ込んだような気がした。

そして司は一方的だが自分の嘘偽りのない気持ちを伝えることにした。

「弁解していると思っているはずだがその通りだ。美奈の計画に乗った俺が悪い。止めることが出来たはずだがバカなことをしたと思っている。本当に悪かった。だが俺はお前と知り合っていくうちにお前のことが本当に好きになった。今ならはっきり分かる。グンター・カールソンがお前にちょっかいを出し始めたとき腹が立った。あの男が俺よりも早くお前と出会っていたことに嫉妬した。俺は今まで女を好きになったことがない。付き合った女はいたが、お前のように心を奪われた女はいなかった」

司は、ひとりの人間とここまで真剣に対峙したことはかつてなく、そして信頼を取り戻すためここまでしたこともなく、ましてや女を相手に言い訳がましいことを口にしたことは無かった。だがそんな男は自分の言葉に対し、無言のつくしが口を開いてくれるのを待っていた。





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コメント
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dot 2018.07.27 05:52 | 編集
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dot 2018.07.27 06:41 | 編集
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dot 2018.07.27 14:16 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
気を利かせた佐々木さん。
つくしは司の話をどんな思いで訊いているのでしょうね?
無言で訊かれるのは嫌ですね。電話でもそうですが、反応がないのは話しを訊いてくれているのか不安を覚えます。
今の司はつくしの心を開くための努力を惜しまないという男です。頑張れ司。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.27 23:07 | 編集
金**様
誰が一番悪いのか。そうですねぇ。皆さんご意見は様々です^^
実行犯は司で教唆したのは美奈ということになりますが、椿の娘であり彼女が幼い頃から可愛がっていたことから、頼みを断らなかった男は、身内に甘い叔父という立場だったということになりました。
一番の大バカ者は司!(笑)その大バカ者は恋を知りましたが、その恋の行方はつくし次第です。
そして、過去の女性たちとの付き合いの主導権は自分でしたが、今は違います。二人の恋の主導権はつくしにあります。とは言え、つくしはもう恋をしていると思っていませんが、そこは司のこれからの態度如何ということでしょう(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.27 23:20 | 編集
ま**様
え?ニューヨーク土産のチョコの銘柄ですか?
あれはセレブご用達プライベートチョコです。売ってないんですよ(笑)

そちらは爽やかで涼し気なイメージがありますが、今年はやはり猛暑なんですね?
お気をつけてお過ごし下さいね^^

さて、つくしはどう出るのか。
そして若い頃につくしに出会わなかった司は残念な御曹司(≧▽≦)
本当にねぇ。もっと若い頃に出会っていれば....。
え?あきらも桜子も手助けしなくていいんですか?思いっきり苦しめ?
それでも残念な御曹司はどう出るのでしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.27 23:48 | 編集
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