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2018
07.26

出逢いは嵐のように 78

美味しいものには力がある。
そんな言葉をどこかで訊いたような気がするが、まさにそうだと感じた。
それは体力の回復が早かったからだ。

月曜の仕事帰りに立ち寄ってくれた桜子は、次の日も、そしてその次の日も立ち寄って料理を作ってくれた。そして夕食だけではなく、翌日の朝食と昼食まで作ると、これ食べて下さいと言って帰って行ったが、桜子の華やかな外見から色鮮やかで味の濃い洋食が似合いそうだが、実は和食が得意だと訊いた。そして桜子の味噌汁の出汁はお手軽な粉末ではなく、カツオ節や昆布から取る拘りがあるというのだから意外だった。

「先輩。私今はごく普通の会社員ですが、先祖は華族です。それなりの生活を送っていましたので、日本人としての生活の基本といったものをわきまえているつもりです」

と言われたが、手間暇かけて取った出汁が使われた味噌汁は確かに美味しかった。
そしてその出汁を使って焼かれただし巻き卵は、ふんわりとした完璧な見た目で、もちろん味も良かったが、それを褒めると、「先輩。男性の心を掴むには、まず胃袋からといいますよね?私はその為に料理も学びましたから」と言われた。

そしていつも帰る前に道明寺副社長から連絡はありましたか?何か言ってきましたか?と訊かれるが、うんうん何も。と言って首を横に振った。

桜子に明日から出社するつもりだと告げると、それじゃあ明日は朝食の分まででいいですね?と言ってサラダを作ると冷蔵庫に入れて帰ったが、翌朝取り出したサラダのレタスは、まるで人生の新しい門出を祝っているように瑞々しかった。

二日休めば出社できると思ったが、結局三日休み木曜に出社したが、まだ身体が本調子ではないこともあり、無理は禁物だと自分自身に言い聞かせていた。
そして病み上がりの身体のこともだが、心は沢山の感情がひしめいていた。

「恋は終わった」と告げ付き合うことを辞め、桜子にも大丈夫だからと言ったが思い残しが無いはずもなく、この三日間考えるのは道明寺司のことだった。
だが二人の間にあったのは芝居を打たれた恋であり筋書があった恋。
その筋書通りにことが運んだことに満足したはずだ。けれど用意周到だったかと問われれば、そうではなかった。筋書があったとはいえ、手の込んだ筋書ではなかった。
それは、つくしの方が彼に惹かれたからだ。

それに35歳にもなって大した恋をしてこなかった女を誘惑するなど簡単なことだったはずだ。そしてはじまりが突然なら終わりも突然で、締めくくりは雨に打たれた女が風邪をひいて終わった。

「私、これから先、恋をすることがある?」

そんな自問な呟きは、地下鉄の階段を登り出口から見上げた先にある道明寺ビルに向かって放たれた言葉だが、晴れた空に天高くそびえる難攻不落の城のように見える建物が答えを返してくれるはずもなく、今の気持は出向を命じられ初めてここに立った時と同じで緊張していた。そして出社するのは、出張したことと休んだこともあり実に半月以上ぶりだった。

正直なところ道明寺司と顔を合わせたくなかった。
それに社内恋愛が終焉を迎え、顔を合わせ気まずい思いをするのはどちらかと問われれば、つくしの方だ。なにしろ部署のメンバー全員の前で告白をされたのだから、気にするなという方が無理だ。

だから会社に向かって歩く足取りは重かった。けれど失恋を仕事に持ち込むことは大人の女性として失格だ。どんな状況でも私生活と仕事は別で仕事は仕事だ。
それに気まずさやバツの悪さといった混沌とした思いは、いずれろ過されて行くはずだ。
そして出向が終る頃には恋も思い出に変わっているはずだ。そうだ。常に前を向いて現実を冷静に受け止め生きて行くのがつくしの人生だ。だからろ過された思いは、いずれアスファルトに出来た水溜まりのように蒸発して消えるはずだ。
それに同じ部署の人間が二人をどう思うかは、彼らは上等な頭脳を持つ大人なのだから察するはずだ。









「おはようございます」

「あらおはよう。牧野さんもう大丈夫なの?それに随分と早いわね?」

佐々木純子は明るい表情でつくしに挨拶を返した。
時計の針は7時50分を指していて、早いと言われたが、純子の方はもっと早くからここにいたはずだ。その証拠に机の上は仕事を始めている様子が見て取れた。
つくしも2週間の海外出張と、それから風邪をひいて休んだことで申し訳なさがありいつもより早めに出社していた。

「佐々木さん。色々とご心配とご迷惑をおかけしました」

「迷惑だなんてとんでもない。大丈夫よ。それより夏風邪はちゃんと治しておかないと大変よ?本当にもう大丈夫なの?」

「はい。大丈夫です。あの、これ随分と遅くなりましたがお土産です」

そう言って差し出したのは、桜子や恵子に渡したものと同じチョコレート。

「わあ。ありがとう牧野さん。私チョコレート大好きなの。ここにいる男性たちは甘い物を食べないの。だからこれは私がひとりで食べる羽目になるのよね」

純子は微笑みを浮かべ、受け取った箱を机の上に置き、暫く黙ってつくしを見ていたが、口を開くと言った。

「病み上がりだから痩せたように見えるけど、本当に大丈夫?ちゃんと食事はしたの?」

純子はひとり暮らしで風邪をひいて寝込めば、食べることが疎かになっていたのではと心配してくれたが、桜子のおかげでそれはなかった。だから大丈夫ですと答えたが、純子の問い掛けには副社長が面倒見てくれたのかしら?といった好奇心が含まれているはずだ。

「はい。友人が食事を作りに来てくれましたので、その点は大丈夫でした」

「そう。それなら良かったわね?私はてっきり副社長が_」

と言いかけたところで一旦口を閉じた純子は、

「ごめんなさい。あの時はつい調子に乗って副社長に来てもらえばいいのにって言ったけど本当にごめんなさいね。仕事は仕事。プライベートはプラベートですもの。私が口出しをする権利はないし、すべきことでもないわ。でもね、副社長は牧野さんがお休みした日は本当に慌てたのよ?だからてっきりお見舞いに行ったと思ったけど…..。
まああの方はお忙しい方だから時間が取れないのね?あ、ごめんなさい。それこそこんな話しプライベートなことよね?いやぁね私ったら。興味津々の近所のおばちゃんみたいになっちゃって」

と言って話を継いだが、それ以上その話題には触れなかったが笑っていた。
そしてじゃあ、と言って仕事の話だけどね、と話し始めたとき、部屋の扉が開き顔をそちらに向ければ、たった今純子が話題にしていた人物がそこにいた。





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コメント
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dot 2018.07.26 05:56 | 編集
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dot 2018.07.27 08:06 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
桜子は友人としてのスキルが高いですね?
つくしは美味しいご飯と看病のおかげで回復したようです。
社内恋愛が破局を迎えると気まずいですよね?特に同じ部署同じフロアではいたたまれない気分になるはずですが、大人の女は頑張ります!でも心は傷ついていますからねぇ。
司には是非とも誠意を見せて欲しいですね?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.27 22:42 | 編集
ア*******ク様
美奈と隆信の謝罪。
全く関係のないつくしを巻き込んでしまったんですから、人として考えれば謝罪をするのは当然だと思います。
大人になりきれなかった美奈も気づく時が来るはずです。
拍手コメント有難うございました^^

アカシアdot 2018.07.27 22:54 | 編集
ま***ん様
つくしの心を取り戻したいなら、ただ忍耐と努力‼(≧▽≦)
誠意と真心と熱い思いを伝える努力を惜しむな!ですね?
でも、つくしはお人好しで優しい女性。
すぐに許しちゃうところは本当にお人好しですよね?
でも駄目ですよ、そんな簡単に許しては!(笑)

それにしても猛暑ですね。でも台風が!
被害がなければいいのですが。そして被害が広がらないことを祈りたいと思います。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.27 23:32 | 編集
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