FC2ブログ
2018
07.23

出逢いは嵐のように 76

司は三条と名乗った女がマンションから出てくるのを待っていた。
友人と名乗った女がどんな女か分からなかったが、堂々とした物怖じしない声と落ち着いた言葉の切り返しは、気の強さの表れで自分に自信があると感じた。

夜も9時を回れば、外出する人間は殆どいない。特に女となれば尚更だが、やがて年の頃からして牧野つくしと同輩と思われる女が出てくれば、それらしいと予想がついた。
そしてマンションの敷地を出たところで声を掛けた。

「お前が三条か?」

そう言って暗がりから現れた男に女はハッとした顔をしたが、司が誰だか分かっているからか、大して驚くこともなく返事をした。

「ええ。そうです。道明寺副社長。私にご用ですか?」

と、インターフォンから聞こえてきた声が答えた。










「私に先輩との仲を取り持つように頼もうとしているなら無駄ですよ。私は先輩の味方です。友人の思いを大切にするのが私のポリシーですから」

話しがしたい。車で送っていくと言って女を車に乗せた司は、その言葉から女が牧野つくしとのことについては、どんな約束も決して破ることがない義理堅さを持つ人間だと知った。
そして殆どの女は、司の傍に来ればうっとりとした視線を彼に向ける。
だが今向けられている冷やかな視線と態度は、司に対していい印象がないことをあからさまに示していて、淡々とした受け答えはインターフォン越しの態度と同じだ。

「そうか。それは牧野にとっては心強い友人だな。そんなお前に頼みたいことがある」

司は回りくどい言い方はしない。
そしてその言葉に向かいに座る女が態度を整えたのが感じられた。

「一体私に何を頼みたいとおっしゃるんですか?道明寺副社長は先輩に話しがあると言いましたが一体何を話そうというんですか?今更騙すつもりは無かったとでもおっしゃるんですか?嘘をついて牧野つくしに近づいたことはないと言うつもりですか?
いえそうじゃないですね?先輩を弄んで捨てるつもりでいたことは確かですよね?でも気持ちが変わったということなんでしょうけど、仲を取り持つことはしませんから」

きっぱりとした口調は司をけなしはしなかったが、非難していることは確実で、言葉から感じられる冷たさには嫌悪が感じられ、一筋縄ではいかない女だと感じた。
だが友情に厚い女は情にもろいはずだ。一見冷たそうに見えるが、義理に厚い女はお節介な部分も持ち合わせているはずだ。
司は情に訴えることをしたことがない。だが今は牧野つくしと話しが出来るならどんなことでもするつもりでいた。
会社で会うことは出来る。だが業務の一環として会うことを求めても、心の裡を語ることは決してないはずだ。牧野つくしは頑固だ。芯が通った人間だ。自分がこうと決めたらやり抜く女だ。そのことは普段なら褒められていいことだが、その姿勢が司に対して向けられたことは望ましいことではない。だから間に立つ人間が必要だ。それもなるべく彼女に近い人間が。


「お前は俺たちの間に起きたことを知っているようだが、確かに牧野つくしに近づいたのは姪の夫から引き離す為だった。だが俺は彼女のことが好きになった。つまりミイラ取りがミイラになったってことだ。この気持ちは本物で嘘じゃない」

偽りの恋を仕掛けたことを否定することなく口にした男の顔に自嘲の笑みが浮かんだが直ぐに消えた。

「これは本当ならもっと早く….ニューヨークで渡すつもりでいた。だが渡せなかった。だから帰国して渡すつもりでいた。彼女のために選んだ。特別なものだ」

司がポケットから取り出したのは、言葉通り日曜の夜の食事に招かれたとき渡すつもりでいたブローチが収められた小さな箱。大切にしたいと思った女のために選んだ宝石を目の前にいる女に渡せば必ず彼女の手に届くはずだ。だから自分の身勝手さを承知の上で女に渡そうとした。そして自分の思いも伝わると思った。たが女の態度は冷たいものだった。

「道明寺副社長。もしそれが高価な宝石だとしても、先輩は宝石に興味はありません。物は値段で決まるといった考えは持っていません。それから渡して欲しいとおっしゃるなら申し訳ございません。私はお預かりすることは出来ません。だってそうですよね?私は牧野つくしの友人であって道明寺副社長の友人ではありませんから」

「じゃあ俺の友人になればいい」

司は簡単に言うが彼が友人と認めた人間は数少ない。
ましてや女で友人と呼ばれる人間はいない。そんな男が三条という女を友人にしてもいいと感じたのは、単に牧野つくしの近くにいる女だからではない。
友人の為だからと司に向かって堂々とした口を訊き、怯むことがないその態度は、本当に大切な相手の事だけを考える無二の親友のそれだからだ。司は女のその態度が気に入った。


「随分と唐突ですね。いきなり友人になれと言われてなれるとお思いですか?言っておきますが、友情はお金では買えません。それに愛も同じです」

と桜子は冷たく言い放たれた言葉に言い返そうとした司を遮るように、男の掌の上にある箱に一旦目を落とし、それから司を見つめながら言った。

「牧野先輩は人を疑うことを知りません。いえ。全くといった訳ではありません。詐欺や犯罪行為といったことは社会人として見抜くことが出来ます。でも恋愛に関してはそういったアンテナは働きません。どちらかといえばその方面は鈍感です。恐らく先輩は男性との経験はなかったはずです。違いますか?道明寺副社長?」

そう言われた男は何も答えなかったが、そのことが肯定と受け取られたのは間違いない。
そして桜子は続けた。

「牧野つくしという女性は恋愛には鈍感ですが、自分がされて嫌なことは他人も嫌に決まってますから絶対にしません。それに律儀な性格です。真面目で律儀な性格っていったらどこで息抜きしてるのかって思いますけど、それが牧野つくしです。根気のいい真面目な人間なんです。そんな女が男に騙されて、それでも恋愛は自己責任だからって言う悲しさ。恋は終わったって言葉だけで恋を終わらせる35歳の女のことを考えてみて下さい。可哀想だと思いませんか?そう思うなら放っておいて下さい。先輩は自分のことを名前の通りで雑草のように強いと言いますが、どんなに強がっても女ですから。それに35歳にもなると恋で傷ついた心を癒すには、若い頃と違って時間もかかります。そこを理解して下さい」

そして『これ以上先輩を傷つけることは止めて下さい』と言って、ここで結構ですと車を止めさせたが、やはり小箱を預かることは出来ませんと言われた。
そんな女の口から語られたのは、司の前では見せなかった牧野つくしの姿。
それが等身大の姿であり垣間見えた心の有りようだった。







会話の殆どは女の話で終わった。だが司の思いは伝わったはずだ。
そのことを友情に厚い女が彼女に伝えようが伝えまいがどちらでも構わなかった。
そしてそのことで期待や落胆を味わうつもりはなかった。

だが車を降りる間際言われたのは、

『私も牧野先輩と同じ滝川産業で働いています。系列会社の社員ですから副社長のことも少しは存知上げていますし尊敬していました。でも今回のことで副社長を見損ないました。私のことを生意気だと思うならクビにして下さい。私は先輩が幸せになってくれればそれでいいと思ってます。そう願うことが友情ですから。副社長が本当に牧野つくしのことが好きなら誠意を見せて下さい。先輩は少なくとも人の厚意を無下に断る人間じゃありませんから』




車は女を降ろすとスピードを上げ自宅へ向かっていたが、牧野つくしは人の厚意を無下に断る人間ではない、の言葉は彼女の性格を表していると思った。
そして、その言葉は多少なりとも司の思いを汲み取った三条という女が彼に伝えたかったことなのか。
それなら彼女の心を取り戻すために出来ることを、誠意と厚意を示すまでだ。





にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト

コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2018.07.23 06:01 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2018.07.23 11:54 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2018.07.23 14:01 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2018.07.23 22:41 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2018.07.24 12:46 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
司は桜子を待ち伏せしましたが、仲を取り持つことはしませんとはっきり言われました。
そして誠意を見せて下さいという桜子。
司のことを見損なったという女ですが、いずれそんな女を味方に付けることが出来るのでしょうかねぇ。
つくしの傷ついた心を癒して取り戻すことが出来るのでしょうか?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.24 20:34 | 編集
H*様
桜子ブラボー(≧▽≦)ありがとうございます。
桜子は恋愛経験が豊富な女です。そんな女が恋愛初心者のつくしの味方で良かったです!
司は手強い敵の出現にどうするのでしょうね?
頑張れ司!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.24 20:38 | 編集
さ***ん様
「じゃあ俺の友人になればいい」と俺様発言の男(≧▽≦)
でもそんな男に負けないのが桜子です。
そして高価な贈り物で気を引こうとする男。
確かに許せません!つくしへの侘びの入れ方がなっとらん‼
こんな男が誠意を見せることが出来るのか?
え?ここで更なる事件を起こす?(≧▽≦)
とにかく反省を求めるということですね?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.24 20:49 | 編集
L**A(坊ちゃん溺愛)様
原作の坊ちゃんはよく待ち伏せをしていた!(≧▽≦)
確かにそうですよね。でもさすがに今は仕事が忙しいのでそれは無理ですね(笑)
でも桜子が出て来るのは待ってました!そして桜子、手強いです。
まずは誠意を見せるところからのようですが、出来るのでしょうかねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.24 20:53 | 編集
イ**マ様
桜子、道明寺司が相手でも遠慮がありませんでした(笑)
頼もしい友人ですね?
そんな桜子から誠意を見せろと言われた男。
どんな誠意を見せてくれるのでしょうかねぇ(笑)
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2018.07.24 20:58 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top