恋人の家をはじめて訪ねる男は何を持っていけばいいのか。
今までそういったことを考えたことはなかったが、やはり一番オーソドックスなのは花だということに気付いた。
花束を貰って喜ばない人間はいないといわれるが、司は自ら花を買い求めたこともなければ贈ったこともない。そして花として見分けがつくのは、薔薇とユリとチューリップと菊といった程度だが、彼女はどんな花が好きなのか。花の好みは知らないが、司の好みで言えば薔薇だ。
薔薇は赤や黄色といったはっきりとしたものから、淡いピンクといった薄い色までバリエーションに富んでいて、見た目も華やかなら香りも華やかだ。そして薔薇は持つ人間を引き立てる。そんな薔薇を彼女のために選ぼうとしていた。
「いらっしゃいませ」
司は足を踏み入れたフラワーショップの店員にプレゼントですか?と訊かれそうだと答えた。花束ですか。それとも篭盛りですかと訊かれ薔薇を花束でと答えた。
そして薔薇を贈ると決めてはいたが、色までは決めてはいなかった。つまり悩んでいた。
「プレゼントされる方はどのような方ですか?」
司の態度に声をかけてきた店員は、花は贈る人を思い浮べて選ぶのが一番いいと言い、牧野つくしについて訊いた。
「色白で黒い大きな瞳。真面目な性格の方….かわいい方という感じですね?」
店員は花が保管されているガラス張りの冷蔵庫を開けて司の方を振り返った。
「ではこちらなどいかがですか?ピンクの薔薇の花言葉は可愛い人ですから」
と言って店員が示した薔薇は中央が淡いオレンジのような色で外に向かって濃いピンク色へとグラデーションがついていた。
司はそれでいいと答え、本数はと問われ35本と言ったがそれは彼女の年の数の本数であり、ブローチと一緒に渡すつもりでいた。喜んでくれるはずだが、どんな反応を示すのか。それを想像しながら支払いを済ませ、花を抱え車に乗ったところでポケットの中の携帯が鳴った。
「どうした?」
電話の相手は牧野つくしにつけたボディーガード。
美容院から出た牧野つくしに男が声を掛け、そこへ美奈が現れ男は去り、美奈と彼女が喫茶店に入ったという連絡だったが司は慌てた。
「場所はどこだ?____分かったすぐ行く」
司は運転手に場所を伝えると急がせた。
美奈が彼女の前に現れることを予想しなかった訳ではない。だが帰国早々現れるとは思わなかった。もっと時間があると思っていただけに、今のこの状況は計算違いに等しい。
だが二十歳の姪は、何かを考えるよりも二人が付き合い始めたことに歓びが隠せなかったのだろう。
そしてその歓びは、叔父である司が美奈の願いを叶えた事への歓びだ。その先に見るのは、牧野つくしが司に弄んで捨てられるということだ。だが今の司にそんなつもりはない。
美奈と彼女は初対面ではない。美奈が滝川産業へ足を運び牧野つくしに夫の浮気相手は彼女だといいがかりをつけた。だが司も彼女が美奈の夫の浮気相手。愛人だと思っていた。
しかし今では違うとはっきり言える。そして司は白石隆信の浮気相手が誰であるかを調査していた。誰が隆信の相手なのか。まだ報告はなかった。だから美奈に牧野つくしは白石隆信の愛人ではないと告げてはいない。
二人がどういう話をしているのか想像するのは簡単だ。
おそらく美奈は、司と牧野つくしの間に身体の関係が出来たことは知っているのだろう。
いや。知っているのではない。美奈は叔父のライフスタイルから判断したはずであり臆測だ。
そして自分の願いを司が叶えたことを牧野つくしに言うつもりでいる。
それは、牧野つくしがあっけなく司の手に落ちたということ。
好きでもない女をゲームを攻略するようにモノにしたと言うはずだ。そして結論を言えば、美奈は自分の夫を奪ったと思い込んでいる牧野つくしが傷つく姿を見たいと望んでいるということだ。
彼女にとって姪との対面は楽しいものではない。
そしてそれは司にとっても同じだ。
彼女は自分に何が起きたのかと思うはずだ。そして傷付いてしまうはずだ。
傷付けたのは誰だと問われれば、それは何の疑いもなく美奈の頼みに手を貸した司だ。
どんなにこの車のスピードが早くても恐らく間に合わないだろう。
司が牧野つくしの前に現れた時、彼女はどんな気持ちでいるのか。考える必要はない。
もう答えは出ているはずだ。
だがどんな答えが出ていたとしても、司は本気で牧野つくしに惚れた。
だからどんなことをしても彼女の気持を取り戻すつもりだ。
いや。つもりではない。必ずそうしてみせる。

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今までそういったことを考えたことはなかったが、やはり一番オーソドックスなのは花だということに気付いた。
花束を貰って喜ばない人間はいないといわれるが、司は自ら花を買い求めたこともなければ贈ったこともない。そして花として見分けがつくのは、薔薇とユリとチューリップと菊といった程度だが、彼女はどんな花が好きなのか。花の好みは知らないが、司の好みで言えば薔薇だ。
薔薇は赤や黄色といったはっきりとしたものから、淡いピンクといった薄い色までバリエーションに富んでいて、見た目も華やかなら香りも華やかだ。そして薔薇は持つ人間を引き立てる。そんな薔薇を彼女のために選ぼうとしていた。
「いらっしゃいませ」
司は足を踏み入れたフラワーショップの店員にプレゼントですか?と訊かれそうだと答えた。花束ですか。それとも篭盛りですかと訊かれ薔薇を花束でと答えた。
そして薔薇を贈ると決めてはいたが、色までは決めてはいなかった。つまり悩んでいた。
「プレゼントされる方はどのような方ですか?」
司の態度に声をかけてきた店員は、花は贈る人を思い浮べて選ぶのが一番いいと言い、牧野つくしについて訊いた。
「色白で黒い大きな瞳。真面目な性格の方….かわいい方という感じですね?」
店員は花が保管されているガラス張りの冷蔵庫を開けて司の方を振り返った。
「ではこちらなどいかがですか?ピンクの薔薇の花言葉は可愛い人ですから」
と言って店員が示した薔薇は中央が淡いオレンジのような色で外に向かって濃いピンク色へとグラデーションがついていた。
司はそれでいいと答え、本数はと問われ35本と言ったがそれは彼女の年の数の本数であり、ブローチと一緒に渡すつもりでいた。喜んでくれるはずだが、どんな反応を示すのか。それを想像しながら支払いを済ませ、花を抱え車に乗ったところでポケットの中の携帯が鳴った。
「どうした?」
電話の相手は牧野つくしにつけたボディーガード。
美容院から出た牧野つくしに男が声を掛け、そこへ美奈が現れ男は去り、美奈と彼女が喫茶店に入ったという連絡だったが司は慌てた。
「場所はどこだ?____分かったすぐ行く」
司は運転手に場所を伝えると急がせた。
美奈が彼女の前に現れることを予想しなかった訳ではない。だが帰国早々現れるとは思わなかった。もっと時間があると思っていただけに、今のこの状況は計算違いに等しい。
だが二十歳の姪は、何かを考えるよりも二人が付き合い始めたことに歓びが隠せなかったのだろう。
そしてその歓びは、叔父である司が美奈の願いを叶えた事への歓びだ。その先に見るのは、牧野つくしが司に弄んで捨てられるということだ。だが今の司にそんなつもりはない。
美奈と彼女は初対面ではない。美奈が滝川産業へ足を運び牧野つくしに夫の浮気相手は彼女だといいがかりをつけた。だが司も彼女が美奈の夫の浮気相手。愛人だと思っていた。
しかし今では違うとはっきり言える。そして司は白石隆信の浮気相手が誰であるかを調査していた。誰が隆信の相手なのか。まだ報告はなかった。だから美奈に牧野つくしは白石隆信の愛人ではないと告げてはいない。
二人がどういう話をしているのか想像するのは簡単だ。
おそらく美奈は、司と牧野つくしの間に身体の関係が出来たことは知っているのだろう。
いや。知っているのではない。美奈は叔父のライフスタイルから判断したはずであり臆測だ。
そして自分の願いを司が叶えたことを牧野つくしに言うつもりでいる。
それは、牧野つくしがあっけなく司の手に落ちたということ。
好きでもない女をゲームを攻略するようにモノにしたと言うはずだ。そして結論を言えば、美奈は自分の夫を奪ったと思い込んでいる牧野つくしが傷つく姿を見たいと望んでいるということだ。
彼女にとって姪との対面は楽しいものではない。
そしてそれは司にとっても同じだ。
彼女は自分に何が起きたのかと思うはずだ。そして傷付いてしまうはずだ。
傷付けたのは誰だと問われれば、それは何の疑いもなく美奈の頼みに手を貸した司だ。
どんなにこの車のスピードが早くても恐らく間に合わないだろう。
司が牧野つくしの前に現れた時、彼女はどんな気持ちでいるのか。考える必要はない。
もう答えは出ているはずだ。
だがどんな答えが出ていたとしても、司は本気で牧野つくしに惚れた。
だからどんなことをしても彼女の気持を取り戻すつもりだ。
いや。つもりではない。必ずそうしてみせる。

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司*****E様
おはようございます^^
花を買ったはいいのですが、果たしてその花を渡すことが出来るのでしょうか。
そうなんです。遂に美奈がつくしの元へ行ってしまいました。
もう少し時間が与えられるはずが行動が早かったですね?
美奈はつくしの前で勝ち誇ったように語るのか?
え?覚悟を決めて下さった!
分かりました。では続きを....
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
花を買ったはいいのですが、果たしてその花を渡すことが出来るのでしょうか。
そうなんです。遂に美奈がつくしの元へ行ってしまいました。
もう少し時間が与えられるはずが行動が早かったですね?
美奈はつくしの前で勝ち誇ったように語るのか?
え?覚悟を決めて下さった!
分かりました。では続きを....
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.07.13 21:37 | 編集

さ***ん様
司の決意は分かったから早く現場へ‼
つくしのために選んだ薔薇。そしてブローチ。
渡すことが出来るのか?それともこの状況では無理?
真実はすぐそこに.....ある。
色々話したいことがあるのは美奈も司も同じ。
さて、まずはあの人からです。
コメント有難うございました^^
司の決意は分かったから早く現場へ‼
つくしのために選んだ薔薇。そしてブローチ。
渡すことが出来るのか?それともこの状況では無理?
真実はすぐそこに.....ある。
色々話したいことがあるのは美奈も司も同じ。
さて、まずはあの人からです。
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.07.13 21:41 | 編集
