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2018
07.09

出逢いは嵐のように 63

美奈は男から写真を受け取った後、30分とたたずに車に乗り込み牧野つくしのマンションへ向かった。夫はそれらしい服装で迎えの車にゴルフバッグを積み込み出掛けたが、果たして本当にゴルフなのか。疑えばきりかないのだが快く送り出した。


美奈の立てた計画は、牧野つくしに真実を告げること。
思いはただその一点に集中していた。
それは、道明寺司は美奈の叔父であり、牧野つくしと付き合い始めたのは、美奈の願いを聞き入れ、女を騙し弄んで捨てるためで、愛しているからではないということだが、それを訊いたとき、あの女はどんな反応をするか。

叔父の司は女心をとろけさせる容貌を持つ自慢の叔父だ。
そしてその気になれば甘いセリフを言うことも出来るが、いったい叔父はどんな言葉を囁いたのか。美奈は口許を緩めながら、頭の中で1億の小切手の受け取りを拒否した牧野つくしの顔を思い浮かべていた。

まともな女なら1億を無駄にすることなどしないはずだ。
だが牧野つくしは美奈の夫など知らないと言い逃げるように立ち去った女だ。生意気な女だ。
それでも牧野つくしは真面目で誠実だという言葉が形容詞として使われ、職場で評価されていた。
だが女の美奈からすれば、真面目で誠実という女ならなぜ他人の夫と付き合うのか。
だから本当に形容詞通りの女なら、付き合い始めた男に弄ばれて捨てられると知った時どんな表情を見せるのか。ショックを受けるのか。それとも何にも感じないのか。
いや。そんなことはないはずだ。美奈はショックを受けるという結果を楽しみしていた。
愛されていると思った男に手ひどく捨てられ泣く女の姿を想像して笑った。

そして叔父のことだ。
ニューヨークで男女の関係を結んだはずだ。
牧野つくしが騙され叔父のものになったということは、夫との仲は終わったはずだ。
叔父には牧野つくしを弄んでもらえればいい。そうすれば夫は戻ってくるはずだ。
叔父の誘惑計画といったものがどんなものだったか知りたい気もするが、望みが叶ったとき教えてもらえばいい。
そして今は牧野つくしがどんな顔をしているのか見たかった。
近い将来何が待ち受けているか知らず、叔父と付き合い始めた女の顔を。
そしてその顔が落胆の表情に変わるのを見たかった。
幸せな顔が悲しそうに歪むところを見たかった。
そんな思いから牧野つくしのマンションの傍まで来た。そして女が出て来るかどうか分からなかったが、マンションの近くに車を止めさせた。







***







小さな文字の羅列を追うのは疲れるものだ。
だが目を通して欲しいと言われた書類もこれで終わる。
司はサインをすると、最後の書類から目を離し椅子の背もたれに身体をあずけペンを置いた。
執務室に篭っていることにもいい加減飽きるのだが、自宅にまで仕事を持ち帰る羽目になった。だがそれは仕方がない。秘書が急遽どうしてもと言って持ってきた書類だからだ。
と、それと同時に渡されたのは、白石隆信の浮気相手についての調査書類。
秘書にしてみれば、ビジネスの書類の方が大切だろう。だがそれと同じくらい大切に思えるのが調査書類だ。

隆信が牧野つくしのマンションに出入りする姿が認められたことから、浮気相手としてそれらしい3人の女の調査をさせた。
だが高校教師も音大でピアノを教える女も、看護師も隆信の相手ではなかった。

それなら何故隆信はあのマンションを訪ねたのか。
司は3人の女たちの調査書類とは別に渡された隆信の携帯電話の発信履歴の中に頻繁に登場するある番号に目を止めた。
ご丁寧に引かれた下線は西田が引いたのか。

今では地球上のあらゆる場所に網の目のように張り巡らされた電波。
その電波で人間の行動が捕捉できる恐ろしさを世の中の人間は理解しているのか。
便利さと引き換えにプライバシーを手放したことを知っているのか。
そしてそれが簡単に他人に知られるようでは困るのだが、それを調べることが出来る権力を持つのが司だ。それでもそういった力を私生活で使ったことはなく、使わなければならないのはビジネスでの駆け引きが必要な場合だが、司は下線が引かれた電話番号の名前に目をやった。








『伊豆太平洋国際ゴルフクラブ』


雄大な自然に囲まれたリゾートホテルである伊豆太平洋ホテル経営のゴルフクラブ。
白石隆信はそのゴルフクラブの会員であり、ここ1年は週末になればゴルフに出かけることが多かった。現に美奈も夫がゴルフに行くと言って留守にすることが多かったと言った。
と、言うことは女とはそのホテルで会っていた。もしくはゴルフクラブで会っていたということになるのか。

折しも今日は日曜だ。隆信は自宅にいるのか。それともゴルフに行ったのか。確かめようと美奈の自宅に電話をした。だがコールするだけで誰も出なかった。
それならと美奈の携帯に電話をかけた。だが電源が入っていないと言われた。

司は見慣れた自室を見回し時計を見ると11時だった。
仕事もひと息ついたことで午後には時間が取れそうだ。それなら牧野つくしと会おうと思った。2週間日本を離れていたことですることもあるだろう。それに身体を休ませてやるために会いたい気持ちを押さえていたが、食事をするくらいならいいだろうと思い電話をした。
それに渡したい物もあった。それはニューヨークで渡したかった雪の結晶の形をしたブローチ。だがベルギーのアントワープから一日遅れて司の元に届いた。


「俺だ」

と言って電話をした相手は、午後から髪を切りに行くと言った。
それなら終わる頃迎えに行くから夕食を食べないか。美容院の場所はどこだと訊けば、青山でも六本木でも麻布でもなく近所の美容院だと言った。

「そうか。___ああ分かった。それならマンションへ迎えに行く。それならいいだろ?」

と言った司に対し恋人になった女は、躊躇いながら外で食べるのもいいけど、庶民的な料理でよければご馳走するけど?と言った。

司は母親の手料理も食べたことがなければ、過去の女たちから手料理を振る舞われたこともなかった。まずそういった家庭的な女がいなかったこともあったが、出されたとしても所詮身体だけの関係の女が作ったものを口にはしなかったはずだ。

大概の人間は、出された料理に疑問を持つことはない。
だが料理は意図すれば薬を盛ることも出来る。捨て身の人間なら自分が犯人であることを知られたとしても構わないと毒を盛るはずだ。だから司は信頼が於ける店でしか食事をしない。
美味しいからといって勧められたとしても安易に口に運ぶことはしない。
だが牧野つくしの料理なら口にすることが出来る。

「ああ。喜んでご馳走になる。___そうだな。楽しみにしてる」

司は電話を切った。
そして立ち上るとズボンのポケットにしまい、部屋を出た。






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コメント
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dot 2018.07.09 06:49 | 編集
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dot 2018.07.09 07:46 | 編集
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dot 2018.07.09 09:01 | 編集
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dot 2018.07.09 09:11 | 編集
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dot 2018.07.09 11:54 | 編集
ふ*******マ様
おはようございます^^
え?修羅場の予感ですか?
ドン底のつくしの許へお気楽に登場する司?
どうなるんでしょうねぇ(笑)
そうですよね。美奈は先ず自分自身を省みるべきであり、悪いのは夫なんですが、夫をたぶらかした女が悪いと思っています。
つくしの名前を口にしたのは隆信ですから、夫の言葉を疑うことなくというのも分かるんですけどねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.09 22:27 | 編集
と*****ン様
司がオロオロする姿を期待(≧▽≦)
いえいえい。悪い女だなんてとんでもないです。
悪いのは司ですからね!
謝るのはあの男です!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.09 22:31 | 編集
H*様
司と姪が嫌い....。
この二人。金持ち特有の嫌な二人でしたからねぇ。天罰が下ってもいいと思います!
ボロボロにしてもいい!(≧▽≦)
分かりました。
金持ちの嫌な男の代わりに「金持ちの御曹司」で笑ってやって下さい(低頭)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.09 22:36 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
ついに行動を開始した美奈。
えーっと。つくしの名前は隆信が自ら口にしました。
だから美奈はつくしが夫の浮気相手だと信じて疑わない女になってしまいました。
まだ若いので夫を好きなあまり疑うことを知らないのでしょうか。
しかし一途も過ぎると怖いものがあります。
さて、何やらつくしにピンチが訪れるような、そうでないような気配が!|д゚)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.09 22:46 | 編集
さ***ん様
ええ場面が近づいてきた!(≧▽≦)
期待を裏切らない女、美奈?
ワハハ!そしてそれもいいかもしれませんね!
ショックのあまり石像化する男も見てみたいですねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.09 22:51 | 編集
ア*******ク様
こんにちは^^
美奈はまだ二十歳と若いですから、夫の口から牧野つくしが浮気相手だと言われれば信じてしまうんですね。
でも違うんですが、美奈は一直線に突き進む女性のようです。
誤解もいいところで迷惑千万な話ですが、今のつくしは、濡れ衣を掛けられたこともすっかり忘れてます。
そして好きな人の心を取り戻そうとする美奈は、周りが見えてないのでしょうね。
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.09 23:01 | 編集
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