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2018
07.03

出逢いは嵐のように 59

昨日は雨だった東京も今日はまるで真夏を思わせるような強い陽射しが降り注ぎ、まさに夏が間近といった青い空が広がっていた。
その日。牧野つくしは仕事が休みだが、司は7時には執務室にいて、それから夜の10時になるまでずっとそこにいた。

2週間会社を留守にするということは、それだけ日本での仕事が溜まっているということだ。
そして、仕事を積み残すことが嫌いな男は、秘書が淹れたコーヒーを飲みながら、留守の間に分厚く溜まった決済書類に丹念に目を通しながらサインをしていた。

出張に出るたび繰り返される日常。
それが嫌という訳ではない。
それでも本音を言えば時に全てを投げ出したくなることもある。
身体の重さを感じながら仕事をしていたこともあった。
だが今夜は落ち着いた気持ちでいた。そして身体の軽さを感じていた。踵が浮くような身体の軽さといったものをはじめて感じたが、それはニューヨークで過ごした牧野つくしとのことが大きく関係していた。
2年振りに抱いた女の身体で、その不思議さというものを知った。


はじめて抱いた日を1とすれば、次には2となるのが普通だ。
それは今までの女との関係からすればそんなものだった。1で女の身体を味わい、2でこのまま続けることが出来るか。飽きの来ない身体かということを確かめる。それが男だけが感じられるものとしても、二度と欲しくないと思う身体もあるはずだ。
だが牧野つくしの場合、1を知れば次には10になっていた。
それは、心がないセックスではない。人格のないセックスではない。
単なる欲を吐き出すだけの身体の結びつきなら繋がる意味を求めることはない。
だが接しているうちに、心の中に彼女の、牧野つくしの存在が大きくなっていた。繋がる意味は彼女を好きになったからだ。1を知ったことで彼女が白石隆信の愛人ではないことを知ったと同時に自分の気持にも気付いた。


昼間、彼女の携帯に電話をした。それは彼女の身体を気遣ってのこと。
前の晩、ニューヨークから東京へ戻り、二人で食事をしてマンションまで送ったが、疲れていないか?身体は大丈夫かと訊いたが、電話の向うの声は、「大丈夫。ぜんぜん大丈夫」と繰り返し答えていた。そして新しいフライパンが届いたと嬉しそうに言った。

その声を訊いていると、彼女が隆信のような金がある男を狙っている。愛人として楽な生活をしようとしている女だとは全く感じられなくなっていた。
むしろ自分の生活は、自分の出来る範囲で暮らせればそれでいいといった考えの持ち主だ。
そして金に対しては希薄と言ってもいいほどあっさりとしていた。

帰りの機内で語られた本人についての話は、今まで司の周りにいた女の口から語られていた類のものとは全く異なっていた。
『野菜は長野の農協に勤めている弟が時々送ってくれるの。でも多すぎて隣の人にも配るの』といった話を聞かされたが、その隣人が彼女の住むマンションにいる3人の独身女性の内のひとりであり、隆信の愛人ではないかと思われる女だが、どうやら牧野つくしはその女とは親しいようだ。

そうなると、隆信が牧野つくしを知っている可能性もある。
それは直接会ったかどうかにもよるが、隣人から牧野つくしの名前を訊き、美奈から問い詰められたとき、相手の女を守るため牧野つくしの名を言ったということが考えられた。

そして今気になることは美奈のことだ。
夫のことを思うあまり自分を見失ってはいないか。夫の愛人を排除することが美奈の心の中でなんらかの変化を遂げてはいないか。
憎しみが澱のように心に溜まり、ドロドロとした感情となり、やがて心の中からその思いが溢れ、間違った行動を取るのではないか。
だがそうさせないために、あのマンションに住む3人の女の調査を急がせていた。そして牧野つくしの身辺を守る人間を配置した。それは、まさかとは思うが美奈が間違いを起さないためでもあった。

そして司は、少し前に届けられた小箱に目をやった。
ニューヨークで靴を買った。それは彼女の靴が傷だらけだったことに心が動いたから。
だがあの時心にあった思いは愛情ではなかった。と思うも認めなかっただけで、心の奥底ではそういった思いがあった。

本当なら帰りの機内で渡すつもりでいた。
だが間に合わなかった。ニューヨークの宝石商に司の眼鏡にかなう物がなかった。
ありきたりの物で済ませるつもりはさらさら無く、オリジナリティがあるものが欲しかった。

その結果、世界的に有名なダイヤモンドの集積地のひとつであるベルギーのアントワープから一日遅れで届けられたその箱は、ニューヨークの宝石商が司のために手配した。
それは、12月生まれの彼女の誕生石である鮮やかな青色のトルコ石が使われた雪の結晶の形をしたブローチ。だがトルコ石はつるつるとした安物の陶器のように見え、単体では華やかとは言えなかった。だからメインは中央に据えられた大きなダイヤモンドだ。プラチナで出来た台にダイヤモンドとトルコ石とアメジストを配置したブローチは上品で紺色の上着によく似合うはずだ。
司が目にした彼女の服装はブルー系統が多く、訊けば青が好きと言った。
そんな会話も含め機内での話は尽きなかった。

サインをする手を止め、そんなことを思い出していたとき机の上の電話が鳴ったが、受話器を持ち上げることなくスピーカーフォンのボタンを押した。

「西田です。ロスの椿様からお電話ですがお繋ぎしてもよろしいでしょうか?」

姉からの電話に美奈のことが頭を過った。
そして姉にノーと言えるはずもなく、繋いでくれと言って受話器を取った。





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コメント
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dot 2018.07.03 06:10 | 編集
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dot 2018.07.03 09:28 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
司もつくしと電話で話すことも楽しいと感じている。
そうですね。自分の気持に気付いた男はつくしと同じで恋を楽しもうとしているようです。
そして椿さんからの電話。どんな話しをするのか。
つくしにとっていい方向へ向かう話なのか。そうではないのか。

それにしても、毎日暑いですね。太陽の光りを浴びると干からびそうです。
今年は早くから気温が上がっていましたが、今年の夏は長いような気がします。
え?季節外れのインフルエンザですか?夏の風邪は暑い上に自分の発熱でとんでもなく暑いと思います。
そしてウィルスも多剤耐性なものが増えているのかもしれませんね?
アカシアも気を付けたいと思います!司*****E様もお身体ご自愛下さいませ^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.03 23:05 | 編集
さ***ん様
踵が浮くような身体の軽さが感じられる男。
つまりそれは、地に足が着いていない!ということですね?(笑)
それに放出してスッキリしているのでしょう(笑)
気持ちの指数は1から10!(≧▽≦)満足されたんですね!
そして特注のブローチを渡すことが出来るのでしょうか。
お口チャック(≧◇≦)ありがとうございます。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.03 23:13 | 編集
ア*******ク様
こんにちは^^
椿さんから電話がかかって来ました。
司は何を話すのか。そして椿は何のために電話をかけてきたのか。
つくしは自分の周りで起きていることを知りませんが知った時はどうなるのか。え?美奈を名誉棄損で訴える?
司は謝るしかありませんよねぇ。
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.07.03 23:26 | 編集
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