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2018
06.29

出逢いは嵐のように 55

独身男性の部屋で思い浮かぶのは弟の部屋だ。
東京の大学を卒業し、長野の農協への就職が決まり引っ越しをするとき、手伝いとして行ったことがあったが、パイプベッドに二人掛けのソファと木製のテーブル。テレビと小さな冷蔵庫とカラーボックスで出来た本棚といった部屋だった。

そして男の独り暮らしと言えば、無味乾燥という言葉か、掃除がろくにされてない乱雑な部屋といった言葉で表されるのが殆どだ。
実際、暫くして弟と電話で話したとき、『部屋の掃除もろくにしてなくて、散らかったままだ』と言われたことがあった。そしてその時の会話の締めくくりは、『綺麗にしとかなきゃ彼女呼べないわよ?』だった。

だがつくしが目覚めた部屋は、男性らしい内装が施された美しい部屋だった。
モノトーンの配色は華美ではないが、それでも豪華に感じられるのは、置かれている家具や調度品が価値のあるものだからだろう。
そしてつくしに用意されたゲストルームもそうだったが、どの部屋にもバスルームがあることから、同じベッドに寝ていた男が隣にいないのは、シャワーを浴びているのだろう。


自分の部屋へ戻った方がいいのだろうか。
そう思ったつくしは身体を起し床に落ちているはずの服を探したが見当たらなかった。
どこかへ消えてしまった服の行先が早川の手元なら、つくしがこの部屋にいる意味は理解している。だが早川は気にしないだろう。けれど、つくしにしてみれば大いに気になる。
それはまるで悪さをした子供が後ろめたい気持ちを抱えているようなもので、気恥ずかしさで一杯だ。

だがそれよりも、身体のあちこちが痛みを訴えていたが、服を脱がされ、身体に這わされる大きな手に翻弄されながら、どこに触れようと、どんなことをされようと構わなかった。早く結ばれたいと思った。指が動くたびに、漏れ出してしまう声を押さえようとした。そしてあの一瞬は身体が二つに裂けてしまうのではないかと感じた。

あの時の男の目は何日も食べ物にありつけなかった獣が、ようやく見つけた獲物を喰らおうとする目だった。獣の力は強く捕まれば逃げることは出来ない。勿論逃げるつもりはなかったが、突然襲った鋭い痛みに声を上げそうになり、身体は侵入して来たものに抗い苦痛を訴えた。

そして男は女に経験がないことを知ると、荒い呼吸を繰り返しながらも、優しさが感じられ、まるでつくしの身体を壊れ物のように扱いながらも、激しい動きを繰り返し、苦しそうに呻くとつくしの上で脱力した。その広い背中を抱きしめると、呼吸と共に筋肉が動くのが感じられた。裸の胸の感触は熱く汗で濡れていたが、気持ち悪いとは思わなかった。
そして汗の匂いと共に感じられた男性らしさの匂いは、あの人だけが纏う香りと混ざり合っていた。
その匂いと共に身体の奥に残る疼痛が愛された名残りなのだろう。
そしてつくしにとってのはじめての愛の交歓は鋭い痛みを伴うもので、女性としては遅い経験だとしても、その意味の大きさを理解した。
好きな人となら、痛みも甘い痺れに変わるということを。







***







司はシャワーを浴びながら茫洋とした思考の中で考えた。
濡れそぼった癖のある黒髪は、ストレートになり頭に張り付いていた。
ベッドの上には牧野つくしが眠っているが、女がはじめてだと気付いたのは、柔らかな腹部をひと思いに貫いた瞬間だった。

痛いとは口にしなかった。だが痛かったはずだ。その顔は苦しそうに歪んでいた。
男を知らなかった牧野つくしは、白石隆信の愛人ではなかった。
妻のいる男と不倫をするふしだらな女ではなかった。
それならいったい牧野つくしは何者だ?
だがその答えは既に出ていた。
軽蔑される対象でも、憎まれる対象でもない。ただ奥手の女ということだ。

はじめこそ慣れない身体だったが、やがて指や唇の愛撫に応えるようになった。
柔らかな唇を塞ぐ時間が長くなったが、求めるものが女の上げる声だと気付けば、唇を離し声を上げさせた。そして舌を誰のものでもなかった白い身体の隅々まで貪欲に這わせ、飢えたキスで責めながら子宮の奥深くを激しく突きテクニックの限りを尽くし執拗に女を抱いた。

女を貫く前までは、抱くことに残忍な満足感があった。
だが快感に溺れたのは女の方だったのか。それとも司なのか。
司を迎え入れた身体の奥深くは、彼を包み込んだままぴくぴくと震えて衝撃に耐えているように感じられたが、前後に動き続けることを止めることは出来なかった。疼きが止められなかった。その時、司が掴んだ柔らかな腰には指の跡がはっきりと残っているはずだ。

そして、たった一度しかないはじめての経験は、女にとってどんなものだったのか。
司ははじめての女というのを抱いたことがない。だからはじめての女というのは、相手のことをどう感じどう思うのか分からなかった。

司は頭上を仰ぎ、シャワーをふんだんに浴びながら固く目を閉じた。
脳裡に浮かんだ全ての光景が彼の心に深く刻まれていたが、生々しい記憶はつい数時間前の出来事だ。痛みに耐えながらこのまま続けてと言った女は、司が触れるたび声を上げ彼を求めていた。そして司も女を求め続けた。純粋に女が欲しかった。全てが欲しかった。
そう思った刹那。牧野つくしに対する愛おしさが湧き上がった。
牧野つくしに対する考えは、何もかもが変わってしまった。
気付けば悪意のこもった感情は、なくなっていた。そしてこれまでどんな女にも感じたことがない思いを感じた。自分には無縁だと思っていた感情がそこにあった。
それは気付かぬうちに、いや。いつの頃からか心の中にあった女に対しての思い。
つまりそれは、牧野つくしという女を好きになっていたという感情だ。


だが司は姪から牧野つくしを誘惑して捨ててくれと頼まれ近づいた。
けれどその問題は解決したはずだ。そうだ。問題はどこにもない。白石隆信の愛人と言われる女は別にいる。牧野つくしではないことは確かだ。真実は別にある。だからその真実を探せばいい。そうすれば牧野つくしが姪の結婚生活を脅かしている女ではないことが証明される。

それに牧野つくしは司がお前に惚れたと嘘をついて近づいたことを知らない。だが今となっては関係ないはずだ。二人はこうして恋人同士になり嘘は真実になったのだから。
それにしても、まさか自分がこんな風に感じるようになるとは思わなかった。だが認めざるを得ない。嵐が吹き荒れるようにこの感情を止めることは出来ないのだから。


司はシャワーを止めた。
そしてバスローブを着ると扉を開け、バスルームを出た。





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コメント
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dot 2018.06.29 06:02 | 編集
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dot 2018.06.29 16:01 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
やっと自覚した司。そして自分の気持を自覚した後は...
嘘が本当になったから問題ないと言う男!!う~ん.....これは後々問題が起こりそうですね?(笑)
そして白石隆信の愛人は誰か。
それは日本に戻ってからでしょうねぇ。そして美奈の存在も!
え?早く調査を急げ?そうですよね(汗)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.29 23:06 | 編集
か***り様
誰が一番悪いのか。
司の姪の美奈か。
美奈の言葉を信じて行動を起こした司か。
美奈の夫は何故つくしを浮気相手と話したのか。

そして司の偽りの愛に心を奪われた女つくし。
司はそんなつくしに対して抱いていた訳の分からない感情が何であるか分かったようです。
つくしが真実を知った時、どうなるのか.....。
え?司につくしと椿お姉さんのグーパンチですね?(笑)
伝えておきます!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.29 23:14 | 編集
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