『俺が欲しいなら自分で来てくれ』
そんな言葉がさらりと言えるのは、外国映画の中の俳優くらいだと思っていた。
だが道明寺司は、イケメン俳優だといってもいいほどの顔なのだから、その言葉が似合わないとは言えなかった。
つくしは勇気を出してという言葉を自分に対して使ったことはない。
自分自身を頑張れといって励まさなければならないほどの恋をしたことがない。
それは受動型の恋しかしてこなかったからだが、今初めて自分から動くことを決めた。
惚れたと言ってきた男性を好きになった。だから抱きしめられたとき嫌ではなかった。
そしてつくしの心を動かしたのは、自分でも説明のつかない理由といったものなのかもしれないが、今なら夜が味方をしてくれるように思えた。だからといって朝になって後悔するとは考えられなかった。
それにいい年をした大人の女が後悔するとすれば、今この一歩を踏み出さなかったことだ。
恋を楽しみたいと言った女は、この瞬間を踏み出すことをしなければ一生後悔するような気がしていた。
けれどこの恋は永遠に続く恋だとは考えていない。
そのことは相手にも言われ自分でも言った。なにしろ相手は世界に名だたる財閥の後継者であり、今が身分の違いを言う世の中ではないにしろ、それは表面上のことだけであり、実際はそうではないことを知っている。そして自分が彼のような男性に相応しいと言われる人間ではないことも分かっている。夢を見たところで世の中のそういったことが簡単に変わるとは思っていない。それに飽きたら捨てられることになるだろう。
それでも____
つくしは道明寺司が去った後を見ながら思う。
それでもニューヨークの空の下で誰かが魔法をかけたとすれば、それでもいいではないか。
たとえ短い恋であったとしても、以前のように恋をしない女でいるよりも遥かにいい。
だってそれは自分の人生の中ではじめて訪れた恋をする気持ちなのだから。
それに思いはひとつの方向へ引き寄せられているのだから、否定をすれば嘘になる。
それなら、躊躇うことなどないはずだ。
そう胸に問いかければ答えは決まった。
つくしは、まっすぐ司の部屋へ向かった。
そこは早川から教えらえていた主寝室と言われるこのペントハウスの中で一番奥にある部屋。その部屋の前で立ち止まると躊躇うことなくすぐに扉をノックした。
そうしなければ、拳を作った手はいつまでもそのままで、扉を叩くことは出来ないはずだ。
そして扉が内側から開かれたとき、怖気づいてしまう自分がいたが口を開いた。
「答えが出たの」
『答えが出たの』
そこから先の言葉はなくても暗黙の思いは司に伝わった。
司は、おもしろい。と考える。これで美奈の願いが叶うからだ。
つまり司と男女の関係を結ぶということは、白石隆信とは別れることを決めたのだろう。
だがこれからセックスをするという女の顔は真面目で真剣だ。新しい男との関係に躊躇いがあるとしても、そんない真剣な顔をする必要はないはずだ。
司が初めて女を抱いてから随分と経つが、女はひとり知ればどの女も同じだ。
性格はそれぞれだが身体的特徴、つまり生態学的にはどの女も同じで、胸があり男を受け入れる場所があるというだけで、どんなに美しいと言われる女に身体を重ねても何も変わりはしなかった。
若い頃から女遊びが激しかった悪友たちからは、女との関係は遊びだと割り切れ。
息抜きだと考えろと言われたことがあった。
どうせ俺たちは名家の娘と結婚して子孫を残すことが求められるんだ。だから本気になる恋は出来ねぇんだよ。俺たちの男女関係はある種のゲームみたいなもんだ。つまり初めから終わりが決まってるってこと。
だがそう言っている彼らもまだ誰も結婚はしていなかった。
もちろん司も結婚する気はない。それは牧野つくしにも言った。
二人はただ付き合うだけで、男と女の関係を結ぶだけだということを。
司は扉の前から離れ、後ろへ下がり、少し離れた場所に立ち女が部屋の中に入り近づいて来るのを待った。
「俺が欲しい。それでいいんだな?」
女は頷いたが部屋の中へ足を踏み入れようとはしなかった。
「どうした?入れ。それともここじゃなくて別の場所がいいのか?」
笑いを含んだ声はこれから先のゲームがどんなものになるのかを想像していた。
女が一歩足を踏み入れれば、そこは司のテリトリーだ。牧野つくしという獲物は彼の手に落ちた。そして自分は動かずに獲物が近づいて来るのを待っていた。欲しければ自分の意志でここまで来いというように。
そして女は部屋の中に足を踏み入れ一歩、また一歩と彼に近づき、距離を縮め正面で立ち止まった。
だが何も言わず、ただ司を見つめていた。
「言葉にしてくれ。態度で見せてくれ」
そう言われた女は少し動揺したようだが、決心したように背伸びをして司の首に両腕を巻き付け彼の身体を引き寄せようと試みた。
だが二人の身長差はかなりあり、思い通りにはいかなかった。それを恥ずかしいと思ったのか。手を引っ込めようとした。
だが司はその手を掴み少し身体を屈めると、自分の首の後ろへ回させた。
「こうしたかったんだろ?それで?これから先はどうするんだ?」
態度で見せてくれの言葉は行動を求めている。
だからつくしはキスをしようと試みた。だが自分からは動こうとしない相手の唇を下から狙うという行為は、テレビや映画のようにきれいに出来ると思ったら大きな間違いだった。
意外に難しく狙ったはずの唇ではなく、顎にキスをしてしまい、スマートな大人の女性を演じようとしたが無理だった。
つくしは恥ずかしかった。
恋を楽しみたいといった女が、キスも満足に出来ないとすれば、目の前の男は幻滅するはずだ。これでは不器用な恋人の見本のようなものだ。
つくしは司の首に回していた手を離した。そしてごめんなさいと謝り下を向いた。
だがその時だった。
「愛し合うならベッドがいいだろ?」と言われ、身体がふわりと浮き上がり、床からすくい上げられると抱えられた。
そして言葉通りの場所へ運ばれて行った。

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そんな言葉がさらりと言えるのは、外国映画の中の俳優くらいだと思っていた。
だが道明寺司は、イケメン俳優だといってもいいほどの顔なのだから、その言葉が似合わないとは言えなかった。
つくしは勇気を出してという言葉を自分に対して使ったことはない。
自分自身を頑張れといって励まさなければならないほどの恋をしたことがない。
それは受動型の恋しかしてこなかったからだが、今初めて自分から動くことを決めた。
惚れたと言ってきた男性を好きになった。だから抱きしめられたとき嫌ではなかった。
そしてつくしの心を動かしたのは、自分でも説明のつかない理由といったものなのかもしれないが、今なら夜が味方をしてくれるように思えた。だからといって朝になって後悔するとは考えられなかった。
それにいい年をした大人の女が後悔するとすれば、今この一歩を踏み出さなかったことだ。
恋を楽しみたいと言った女は、この瞬間を踏み出すことをしなければ一生後悔するような気がしていた。
けれどこの恋は永遠に続く恋だとは考えていない。
そのことは相手にも言われ自分でも言った。なにしろ相手は世界に名だたる財閥の後継者であり、今が身分の違いを言う世の中ではないにしろ、それは表面上のことだけであり、実際はそうではないことを知っている。そして自分が彼のような男性に相応しいと言われる人間ではないことも分かっている。夢を見たところで世の中のそういったことが簡単に変わるとは思っていない。それに飽きたら捨てられることになるだろう。
それでも____
つくしは道明寺司が去った後を見ながら思う。
それでもニューヨークの空の下で誰かが魔法をかけたとすれば、それでもいいではないか。
たとえ短い恋であったとしても、以前のように恋をしない女でいるよりも遥かにいい。
だってそれは自分の人生の中ではじめて訪れた恋をする気持ちなのだから。
それに思いはひとつの方向へ引き寄せられているのだから、否定をすれば嘘になる。
それなら、躊躇うことなどないはずだ。
そう胸に問いかければ答えは決まった。
つくしは、まっすぐ司の部屋へ向かった。
そこは早川から教えらえていた主寝室と言われるこのペントハウスの中で一番奥にある部屋。その部屋の前で立ち止まると躊躇うことなくすぐに扉をノックした。
そうしなければ、拳を作った手はいつまでもそのままで、扉を叩くことは出来ないはずだ。
そして扉が内側から開かれたとき、怖気づいてしまう自分がいたが口を開いた。
「答えが出たの」
『答えが出たの』
そこから先の言葉はなくても暗黙の思いは司に伝わった。
司は、おもしろい。と考える。これで美奈の願いが叶うからだ。
つまり司と男女の関係を結ぶということは、白石隆信とは別れることを決めたのだろう。
だがこれからセックスをするという女の顔は真面目で真剣だ。新しい男との関係に躊躇いがあるとしても、そんない真剣な顔をする必要はないはずだ。
司が初めて女を抱いてから随分と経つが、女はひとり知ればどの女も同じだ。
性格はそれぞれだが身体的特徴、つまり生態学的にはどの女も同じで、胸があり男を受け入れる場所があるというだけで、どんなに美しいと言われる女に身体を重ねても何も変わりはしなかった。
若い頃から女遊びが激しかった悪友たちからは、女との関係は遊びだと割り切れ。
息抜きだと考えろと言われたことがあった。
どうせ俺たちは名家の娘と結婚して子孫を残すことが求められるんだ。だから本気になる恋は出来ねぇんだよ。俺たちの男女関係はある種のゲームみたいなもんだ。つまり初めから終わりが決まってるってこと。
だがそう言っている彼らもまだ誰も結婚はしていなかった。
もちろん司も結婚する気はない。それは牧野つくしにも言った。
二人はただ付き合うだけで、男と女の関係を結ぶだけだということを。
司は扉の前から離れ、後ろへ下がり、少し離れた場所に立ち女が部屋の中に入り近づいて来るのを待った。
「俺が欲しい。それでいいんだな?」
女は頷いたが部屋の中へ足を踏み入れようとはしなかった。
「どうした?入れ。それともここじゃなくて別の場所がいいのか?」
笑いを含んだ声はこれから先のゲームがどんなものになるのかを想像していた。
女が一歩足を踏み入れれば、そこは司のテリトリーだ。牧野つくしという獲物は彼の手に落ちた。そして自分は動かずに獲物が近づいて来るのを待っていた。欲しければ自分の意志でここまで来いというように。
そして女は部屋の中に足を踏み入れ一歩、また一歩と彼に近づき、距離を縮め正面で立ち止まった。
だが何も言わず、ただ司を見つめていた。
「言葉にしてくれ。態度で見せてくれ」
そう言われた女は少し動揺したようだが、決心したように背伸びをして司の首に両腕を巻き付け彼の身体を引き寄せようと試みた。
だが二人の身長差はかなりあり、思い通りにはいかなかった。それを恥ずかしいと思ったのか。手を引っ込めようとした。
だが司はその手を掴み少し身体を屈めると、自分の首の後ろへ回させた。
「こうしたかったんだろ?それで?これから先はどうするんだ?」
態度で見せてくれの言葉は行動を求めている。
だからつくしはキスをしようと試みた。だが自分からは動こうとしない相手の唇を下から狙うという行為は、テレビや映画のようにきれいに出来ると思ったら大きな間違いだった。
意外に難しく狙ったはずの唇ではなく、顎にキスをしてしまい、スマートな大人の女性を演じようとしたが無理だった。
つくしは恥ずかしかった。
恋を楽しみたいといった女が、キスも満足に出来ないとすれば、目の前の男は幻滅するはずだ。これでは不器用な恋人の見本のようなものだ。
つくしは司の首に回していた手を離した。そしてごめんなさいと謝り下を向いた。
だがその時だった。
「愛し合うならベッドがいいだろ?」と言われ、身体がふわりと浮き上がり、床からすくい上げられると抱えられた。
そして言葉通りの場所へ運ばれて行った。

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司*****E様
おはようございます^^
ついに決心したつくし。
身体の準備はまだかもしれませんが迷いません。
自分の気持を大切にしようと決めた35歳の女の一大決心です。
そして二人の夜は訪れるのか。
今の二人はどんな思いでいるのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
ついに決心したつくし。
身体の準備はまだかもしれませんが迷いません。
自分の気持を大切にしようと決めた35歳の女の一大決心です。
そして二人の夜は訪れるのか。
今の二人はどんな思いでいるのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.06.26 23:42 | 編集

さ***ん様
焦らしている訳ではないのですが、ここまで来てしまいました!
え?ギブミーR?(笑)いやぁ、どうなんでしょうねぇ(笑)
この街にはロマンスの神様も久美子もいない!(≧▽≦)
そうですよね、でも誰かがつくしに魔法をかけたようです。
そんなつくしは、副社長の好きだの言葉を信じていますが、それが嘘だと分かったとき、どうするのでしょうね。
ライオンの檻に自ら入る小動物。その小動物に「あごチュー」(←いいですね、このネーミング!)される男。
さあ、ここから先ですか?なんとかなるのか、ならないのか?
え?続き?....頑張る....
コメント有難うございました^^
焦らしている訳ではないのですが、ここまで来てしまいました!
え?ギブミーR?(笑)いやぁ、どうなんでしょうねぇ(笑)
この街にはロマンスの神様も久美子もいない!(≧▽≦)
そうですよね、でも誰かがつくしに魔法をかけたようです。
そんなつくしは、副社長の好きだの言葉を信じていますが、それが嘘だと分かったとき、どうするのでしょうね。
ライオンの檻に自ら入る小動物。その小動物に「あごチュー」(←いいですね、このネーミング!)される男。
さあ、ここから先ですか?なんとかなるのか、ならないのか?
え?続き?....頑張る....
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.06.26 23:53 | 編集
