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2018
06.20

出逢いは嵐のように 49

ニューヨーク滞在もあと二日となった。
今日は秘書見習いとして副社長に付き従い出社する予定だ。
昨夜はあれから二人の間に時間と空間が出来たことが、気持ちを落ち着かせるためにも良かったはずだ。
それは付き合うことを決めたキスだけの夜の時間。
その言葉通りでキス以外何もなかったが、つくしの頭の中では、自分が口にした言葉から、そうでないものまで色々なことが渦巻いていた。

恋愛に関する過去の経験は片手でも足りる数しかないというのに、相手は経験豊富な男性だ。そんな男性を相手にいったい自分はどうしてしまったのか。
いつもなら用心を促す声といったものが頭の中に聞こえ、友人には石橋を叩いて渡る前に叩き壊してしまうのではと言われるほど恋や男性については慎重だったはずだ。
それにここ何年も男性を前にしてもドキドキすることなどなかった。
実際副社長から惚れたと言われた時も、戸惑いと困惑の方が先に立つばかりで、まさか自分がこんな風になるとは思いもしなかった。
こんな事を考えるとは思いもしなかった。

もし今ここに三条桜子がいたら、何と言うだろう。
つくしの行動に驚いた後、こんなことを言うはずだ。

『秋の花火ですね。季節を間違えて打ち上がったとしか言えませんね。それも去年の夏に使い切れずに残っていたロケット花火。つまり忘れられていた花火に火を点けてみたら燃え上がったって感じでしょうか』

昨日の夜は、あれから部屋に戻りベッドに入ったが、眠りに落ちることが出来ず、寝返りばかりをうっていた。そしてついに夜明け前には起き出して早々に支度をしたが、どんな顔で会えばいいのか。
どんな顔をして朝食を食べればいいのか。
だがいつまでも部屋の中で考えていたところで何がどうなるものではない。
それに自分の態度と言葉に責任を持つのが大人の女だ。

それにしても、つくしの立場で道明寺副社長と付き合うということは、無謀のような気もするが、だんだんと惹かれていく自分がいた。
そしてそれは、グンターと会いながら頭の中で副社長のことを考えていた自分がいたからで、もしグンターと会わなければ気付かなかったことなのかもしれない。
そしてその後に起きた男に襲われそうになったことが、こうして一歩踏み出すきっかけとなったことは間違いないと言える。
胸が早鐘を打ったのはそれからなのだから。

そして傷付いた靴の代わりに新しい靴を用意してくれたのは、気まぐれだとしても嬉しかった。
ニューヨーク滞在があと二日となった今、もうあの靴を履くことはない。
だから靴が入れられていた箱の中にあった靴用の袋に納めたが、柔らかな本革の靴は、正確な値段は分からないが、ブランドの名前からして最低でも1000ドルはするはずだ。きっと桜子ならこの靴について詳しいはずだ。そしてつくしがそんな高い靴を買うことがないと知っている女は、絶対に訊くはずだ。
その靴。いただいたんですね?と。


つくしは、バスルームまで行くと、鏡を見て髪にブラシをかけた。
真っ黒な髪は、落ち着いて見えるが華やかさには欠ける。いつか桜子が少し茶色にしてみますか、と言ったことがあったが似合わないからと断った。
けれど、副社長と付き合うならもう少しおしゃれにした方がいいのだろうか。それとも、長い金髪の女性と交際したことがあると言われる男性は、髪の色には拘らないのか。
髪をとかし終えると、口紅を取り出した。
淡いピンクは春の色だが、つくしは年中この色だ。季節によって色を変えるといったことはしない。けれど、初夏のニューヨークの街角でビビッドなピンクを塗った女性を大勢見た。すると淡い色というのはこの街に似合わないような気がしてきた。

赤い口紅が似合わないことは分かっている。だが、ビビッドなピンクも唇が浮いてしまうだろう。それなら明るいピンクならどうだろうか。鏡を見ながら考えたが、今更顔立ちが変わることはないのだから、やはり淡いピンクが自分の顔には合っているのだろう。
そう思いながら口紅を塗った。そして鏡から少し離れスーツの皺を伸ばした。
今まで自分がどう見えるなど気にしたことはなかった。
だが、今は気になっていた。












司はシャワーを浴び、バスローブを羽織るとベッドに腰を下ろした。
昨日の夜は、いきなりセックスをするのは嫌だと言って顔が赤くなった女がゲストルームに引き上げるのを見送った。

それにしても過去の楽しかったと言えない恋愛のことを、バカ正直に答えた女は、グンター・カールソンのように金がある男に言い寄られたことを自惚れることもなければ、おかしな見栄を張るといったこともなかった。
そして司と付き合うことを決めたと言ったが、自分の立場は分かっている。
そして二人の間に結婚というゴールが無いことを納得した上での付き合いだと言った。
つまりそれは、然るべき時が来たら別れることを承知で付き合うということだ。

そして司と恋を楽しみたいと言った女は、1年に渡る白石隆信との関係を清算するということだ。そうでなければ司と付き合うことは出来ないはずだ。
それに司も他の男と女を共有するつもりはない。昨日の夜はキスだけで終わったが、牧野つくしを抱くときは、他の男のことなど思い出させないほど燃えるような愛の行為になるはずだ。


それにしても、受動型の恋愛しか経験したことがないというのなら、白石隆信との関係は、隆信の方から声をかけたということか。
道明寺系列の不動産会社の役員である隆信と、産業機械専門商社の女の接点はどこにあったのか。牧野つくしが話した過去に嘘が挟み込まれていたとは思えないが、確証は得ていない。
司はスマホを手に取ると西田に電話をした。

「牧野つくしのことだが詳しく調べろ。......それと白石隆信の最近の様子を連絡させろ」





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コメント
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dot 2018.06.20 06:19 | 編集
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dot 2018.06.20 06:54 | 編集
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dot 2018.06.20 09:14 | 編集
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dot 2018.06.20 13:01 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
秋の花火のような恋。桜子ならそう言うかもしれません。
冬の花火を御覧になられたんですね?空気が澄んでいて綺麗に見えた。
そうでしょうねぇ。でも寒いのは頂けませんね?
さて不倫相手ではない確証は得られるのでしょうか?
それとも?
そして司はつくしのことが気になっているんですが、自分の感情には気づかない男でした(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.20 22:03 | 編集
童*様
つくしが美奈の夫である白石隆信と関係がないことが分かったら司はどうするのか。
どうするんでしょうね(笑)
そしてその事が分かった時、司は自分の気持にも気付くような気がします。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.20 22:10 | 編集
と*****ン様
ワハハ(≧▽≦)
確かに御曹司なら初っぱなから調べるでしょうね。
現実と妄想を取り混ぜ、どちらとも対峙しながらひたすらつくしを愛する男ですからねぇ(笑)
御曹司以上にメロメロに!(笑)
冷静な大人の男が恋に落ちるとどうなるんでしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^

美味しそうなお名前にアカシアも見かけると、あ!と思いますよ(笑)
アカシアdot 2018.06.20 22:15 | 編集
さ***ん様
秋の空に打ちあがる花火のような恋。
それも去年のロケット花火。
人生の中で自分だけの花火を打ち上げたことがない男と女。
恋を知らない男と、遅れてきた恋心を楽しむことにした女。
打ちあがったつくしの花火は、副社長の心に恋の花を咲かせることが出来るのか。
グンターは新堂巧のようにきっかけに過ぎなかったようですが、友人というカテゴリーはある意味で不動の位置ですからねぇ(笑)
恋人とは別れても、友人という立場の人間は別れるということはありませんからねぇ。
え?燃えるような愛の行為に期待?(≧▽≦)
そっちですか?でもこの男はどれくらいのテクニックをお持ちなのでしょうね(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.20 22:26 | 編集
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