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2018
06.19

出逢いは嵐のように 48

美奈のこととは別に心の中に居座りそうな何かの正体を知りたかった。
湧き上がっている思いを確かめたかった。
控えめに味見をするようなキスをして、唇を離し女の顔を見れば、瞼を閉じたままの状態でいた。そしてその様子はまるで次のキスを待っているように思えたが、やがて瞳が開かれると黒い瞳は司の顔をボーっと見つめていた。
そして突然何かに気付いたように口を開いた。

「あ、あの_」

だが司は言いかけた女の言葉を遮った。

「何も言わなくていい。感じればそれで」

柔らかな唇は、司が遮ったことで半開きの状態だ。その唇に顔を近づけ再び唇を重ねようとしたとき、二人の息が交じり合うのが感じられた。
すると二人とも一瞬息を止めたが、司は片手で女の顎を掴み、もう片方で身体を引き寄せ唇を重ねたが今度のキスは味見ではない。しっかりと唇を合わせ、舌を差し入れた。
そして司は舌を女の舌に絡めようとした。だがその途端、女の身体に力が入り小さな手が司の胸を押しているのが感じられた。

司はその手を無視してキスを続けようとした。
だが執拗に胸を押し返す小さな手は司のネクタイを掴むと強く引っ張った。だから仕方なく顔を上げたが見下ろす女の顔は真っ赤だった。

「ち…..ちょっと待って!い、いきなり_」

「フレンチキス。恋人になるならこのくらいはするはずだが?それに俺は男と女の間にプラトニックな関係があるとは思わない男だ。付き合うってことは、身体の関係を含めた上のことを言うがお前は違うのか?」

そう言って再び唇を寄せようとしたが、小さな手は再び司の胸を押し返そうとしていた。
だが、いくら押し返したところで厚い胸板に敵うはずはないのだが、女は分からないのか。
なんとか唇を阻止しようとしている様子が可笑しかった。
そしてその手の感触は嫌なものではなく、シャツを通して感じられる手の温もりはフェザータッチといったところだ。

司にとってセックスは相手が好きという感情がなくても出来るものだが、性的に飢えている若者とは違い行き着く先が分からないという状況に陥ったことはない。
そして司は女に溺れ自分を見失うことはないという自信がある。
実際今までもそうであり、牧野つくしに対し抱いている感情が何にしろ、それだけは確かなはずだ。
それに単純な動物的欲望を抑えることがいいことだとは考えてはいない。
だがだからといって手あたり次第という男ではない。
だが御座なりな態度を取ることがほとんどだったはずだ。

そしてこれから牧野つくしと付き合うことは、自分自身が興味を抱き、今までに感じたことがない理解出来ない感情が何であるかを確かめたいという思いと、遠い昔の恋愛話をしたが、それ以外の話はしなかった女に嘘があるかどうかを確かめるためだ。
だから女を抱くことで理解出来ない感情が何であるのか分かるなら、すぐにでも抱きたいと思った。だがその前に女に伝えておくことがあった。
道明寺司と付き合うということは、どういうことかを。


「それから二人が付き合うにあたって言っておきたいことがある」

司はそう言って女の顔をじっと見た。

「俺は付き合ってくれと言ったが結婚相手を探している訳じゃない。将来を約束する関係じゃないがそれでもいいんだな?」

司の問いかけに女は押し黙った。
それは司と付き合うことで、手に入れる物の大きさを測っていて、期待外れだというなら彼との付き合いを考えるはずだ。
だが美奈の夫を捨てさせるためにこうしているのだから、付き合いを止めると言われては困るのだ。
ところがそうではなかった。
牧野つくしの口からは止めるという言葉は出なかった。

「副社長。私は誰かの付属品でいることはしたくありません。今までも誰かの付属品でいたことはありません。自分の足で立って生きてきました。こんなことを言ったら失礼かもしれませんが、私は副社長のお金には興味はありません。恋愛は受動型ですが人生は受動型ではありません。人に何かをやってもらいたいといった人間ではないと思ってます。
それに副社長の立場から言えば、私との結婚を考えてないとおっしゃられても当然だと思います。立場が違いすぎますから。
それから私は男女交際が結婚を前提でなければ駄目だと考える人間ではありません。
今の私は恋に飛び込んでみたいんです。今までこんな気持ちになった人はいません。…だから副社長との恋を楽しみたいんです」

恋を楽しみたい。
そんな思いもしなかった言葉を訊かされ、司を見つめる黒い瞳に垣間見えたのは、恥ずかしそうにしながらも、恋を夢見る少女ではないがキラキラとした輝きだった。
そして牧野つくしが言った言葉は、何故かすんなりと受け止めることが出来た。

「分かった。それなら早速_」

「ちょっと待って!でも違うの!」

急に慌ててくだけた口調になったのは、司が再び彼女にキスをしようとしたからだ。

「あの、私たち付き合うことに決めたとしても、いきなり….その…..」

恥ずかしそうに言葉を探す様子と、なぜだか知らないが、いちいち赤くなる顔やコロコロと変わる表情に吸い寄せられる。そして司は牧野つくしが何を言いたいのか理解した。
だから言葉を継いだのは司だ。

「いきなりセックスは嫌か?」

その言葉に小さく頷く女の意志は司に伝わった。
だがそれが強い意志なのかと言えば、そうなのだろう。
だがいい年をした大人の男が手を繋ぐだけの付き合いで満足するとは考えてはいないようだ。
ただ、いきなりが嫌だというだけで、きっかけなりそれなりの時間が経てば男の腕の中に飛び込んでくるはずだ。そして司にはそうさせる自信がある。

「分かった。そんなに警戒するな。今夜は俺たちが付き合うことに決めたキスだけの夜ってことだな」

と口にしながら、いずれ身体の関係を結ぶことは間違いないが、壁は簡単に乗り越えられると分かった男は、牧野つくしの赤く染まった顔に笑顔を向けていた。





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コメント
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dot 2018.06.19 06:11 | 編集
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dot 2018.06.19 06:17 | 編集
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dot 2018.06.19 08:18 | 編集
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dot 2018.06.19 13:33 | 編集
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dot 2018.06.19 15:37 | 編集
童*様
思い込みや間違いが解消されるのはいつなのか。
いつになるのでしょうねぇ....。
そして間違いが分かったとき、彼はどうするのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.19 23:47 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
本当は恋愛初心者のつくし。司からの深いキスも戸惑いが感じられます。
でも司はつくしが白石隆信の不倫相手だと思っているので、彼女の言葉や態度が本当なのか疑いを持っているようです。
恋はある日突然つくしの上に降ってきましたが、司の上にはまだの様です(笑)
恋をしたことがない男の恋はどんな恋なんでしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.19 23:56 | 編集
と*****ン様
この男はあなたのことをまだ疑っている!
はい。そうです。その通りです。
簡単に身体を許すな!了解です。伝えておきます!(^^ゞ

この男をつくしの魅力でメロメロに(笑)
いずれそうなることは間違いないはずです(≧▽≦)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.19 23:59 | 編集
イ**マ様
恋を楽しみたい。
それも司と!羨ましいですねぇ(笑)
つくしは恋愛は受動型したが、人生は受動型ではない。
そんな女にいつか白旗を揚げる日が来るんですよねぇ(≧▽≦)
それはいつなんでしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.20 00:03 | 編集
さ***ん様
クサイ台詞をさらりと言う男。
御曹司に転ばないようにしなければ...(笑)

受け身な恋しかしたことがない女は、自分に向き合いました。
でも初めに惚れたと言ったのは、司ですからね。
つくしはそれに応えたということなんですが、司は恋を仕掛けたと思っている状況。
恋をしたことがない男は恋の感情にいつ気付くのでしょう。
勝負の結果はいかに?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.20 00:09 | 編集
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