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2018
06.18

出逢いは嵐のように 47

『今でも私と付き合いたいと思いますか』

司は今までそんな言葉を言われたことはなかった。
それは彼が自分から誰かと付き合いたいといった言葉を口にしたことがないのだから、当たり前なのだが、改めてそう言われると可笑しな気分だった。

だが恋を仕掛けたのは司であり、その網にかかったのが目的としていた獲物なのだから、何も考えずにそうだと言えばいいはずだ。
だが司は牧野つくしの真剣な瞳に、当初の目的とは別の想いを抱き始めたことを否定できなかった。そして牧野つくしが口にした言葉を確かめたいといった思いがしていた。

女の話を訊く限り、男女関係には疎いと言ったが本当にそうなのか。
誰かを傷つけてまで恋をしたくないと言い不倫を否定する女は、果たして本当に言葉通りの女なのか。そう考えると牧野つくしがどんな女か。美奈の言葉ではなく、自分自身が牧野つくしを調査すればいい。今初めてそんな気持ちになった。


「俺は今でもお前と付き合いたいと思ってる。それでお前はどうなんだ?」

女の口から司が好きだという言葉はないが、今の状況は過去の恋愛話の中で曖昧に頷いたことで付き合いを始めた時とは明らかに違うはずだ。
二十歳そこそこの大学生とは異なり、社会に出て何年も経つ人間となれば、思考の深い部分で考えることが出来るはずだ。それに司は、はじめこそ強引な態度だったが、グンター・カールソンが現れてからは距離を置くことをした。

それは、カールソンにお前の女は別の男と不倫をしていると告げるためであり、そしていずれ白石隆信にも同じことを分からせるつもりでいたからだ。
だがカールソンとはただの友人関係だと言い、誰かの幸せを奪ってまで男と付き合うつもりはないと言う倫理観の持ち主は、司の問いかけに何と答えるのか。



「…..怒ってますよね?」

答えは意外な言葉で返された。

「副社長、怒ってるんですよね?怒るのも分かります。私の過去の恋愛は能動的ではありません。思い切ったことが出来ない….つまり恋愛は受動型です。相手が言って来たから付き合ったといったパターンです。恋愛については自分から何かを踏み越えることはしてこなかったんです。同じ年頃の女性よりも数歩遠のいていたんです。
…..いえ、数歩どころじゃないと思います。何十歩も遠のいていたと思います。でもいつまでもこんな状況でいる自分ではいけないと思ったんです。いつの間にかですけど、副社長のことが気になるようになれば素直に自分の気持に向き合ってみることにしたんです。
…..だからお付き合いしたいと思ってます」


質問の答えは最後に返されたが、今の牧野つくしの顔は頬を赤く染め、緊張しているのか、奥歯を噛みしめじっと司を見ていて、放たれた言葉は精一杯の言葉だ。
そしてこんな態度でごめんなさいと言っているように思えた。

そんな女が示すこんな態度とは、今まで誰とも付き合うつもりはないと言っておきながら、掌を返すとは言わなくても、これまでは恐る恐るといった態度で近づいていた獣に対し、急に自らの手で餌を与えたいといった近寄り方だ。
だが同時に言いたいことを言ったことで、安堵とも満足とも言えない表情も見て取れる。
それにしても、司に怒っていると訊いたのは何故なのか。
司の態度に怒りを感じたということか?
黒い大きな瞳は司の反応を窺うように訊いていた。だから司は訊いた。


「どうして俺が怒ってると思うんだ?」

「だってそう見えるんです。グンターも言いましたが、副社長はひと前ではあらわな愛情表現をしない人だって言われました。それに_」

「牧野。お前、俺と付き合うなら軽々しく他の男の名前を口にするな」

司は女が言いかけた言葉を遮った。
それは感情が湧き上がったからだ。
だがその感情にはまだ名前はなかった。けれど、ほんの一瞬今の感情に名前を付けるとすれば、何と付けるのか。だが今はその感情に名前を付ける必要はない。

そしてそれがどんな感情だとしても、司と付き合うことになれば、美奈の夫である白石隆信を含む他の男との関係は一切なくなる。それに本当に牧野つくしが司の予想していた愛人像とはかけ離れた場所にいる女かどうか確かめるためにも、他の男が傍にいることは望ましくない。だから他の男の名前は必要ない。

「お前はカールソンのことは友達だと言った。だがカールソンは違う。あの男はお前から恋人にはなれないと言われるまでお前の恋人になりたかった男だ。お前のことを好きだと言った男だ。女の口から言われるいい人だけど友達だという言葉は、都合のいい言葉だ。お前の中では友達という曖昧な言葉で片付いたとしても、あの男の心の奥底はそうじゃないはずだ」

司はそこまで言うと深く腰掛けていたソファから立ち上がった。
そして司がテーブルの向うからつくしの方へ近づいて行くと、その様子に女は奇妙なほどうろたえた。それはまるで、この場所にいるのが二人だけだということに急に気付いたといった様子だ。そしてつられて立ち上がるではないが、何故か女も立ち上った。
だが立ち上がってみれば前はテーブル。後ろはソファ。そして身体を横に向ければ司が目の前に立っていて、ふたりの距離はわずかだった。

そこで女は何を言えばいいのか考えていたが、思いつかないのか。暫く黙ったまま司をじっと見つめていたが、司は女が口を開く寸前に彼女の頬に手を触れた。そして斜め下から見上げる黒々とした瞳が動揺した様子に笑った。

「俺たち付き合うんだろ?」

だがその問いかけに何と答えればいいのか。
女は考えていたが、ごくりと唾をのみ込んで頷いた。

「そうか。それならまず初めに挨拶が必要だ」

司はそう言うと頬に手を当てたまま、顔を近づけると唇にキスをした。





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コメント
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dot 2018.06.18 06:08 | 編集
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dot 2018.06.18 08:33 | 編集
童*様
そうですねぇ。先入観は払拭されないままです。
身内の言葉は信じることが出来ても、他人の言葉も態度もそう簡単には信じることは出来ないようです。
何しろ今まで彼の周りにいた男も女も媚びへつらう輩ばかりでしたので、信じるに値する人間というのは少なかったはずですから時間がかかるのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.18 22:18 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
その感情は恋!そうなんです、そうです。
でも司は恋をしたことがないので分かりません。自覚がありません。
しかし、嫉妬に近い言葉を発しています。
そしてつくしがどんな女なのか。自分で確かめることを決めたようです。
まずはキスから....。
二人の関係はどのように変わっていくのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.18 22:28 | 編集
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dot 2018.06.19 00:31 | 編集
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