目的を持って近づいた男に信頼を寄せるようになる。
それがたとえ心理学上の出来事が大きく影響しているとしても、牧野つくしが口にした言葉は、司のことが好きだという意思を示していた。
司は牧野つくしに恋を仕掛けたが、結婚はもちろん婚約の経験もない男は本気で恋をするつもりはなく、あくまでも姪の美奈の願いを叶えるためだった。
そんな男に向かって放たれた男性と付き合った経験が少ないという言葉。それが本当なら美奈の夫との付き合いは、その数少ない内に入るのだろうか。これまでの人生で何人の男と付き合ったのか知らないが、司の視線に頬が赤く染まり、彼に反応しているのが分かる。
人間の本質というのは変わるものではない。
それは生まれ持ったものや育った環境という資質が影響を与える。だから牧野つくしがバカ正直にグンター・カールソンとのデートの結末を話したのは、生まれ持ったものがそうさせたのか。それとも親の教育の結果なのか。
どちらにして牧野つくしが複雑な女ではないことは証明された。
それならと司は思った。
もし今ここで、お前は白石隆信の愛人かと問えばなんと答えるのかと。
だが牧野つくしが司のことが好きだというなら、美奈の夫に近づかないように出来る。
そうだ。牧野つくしを誘惑して付き合うことは、はじめから予定していたことであり、今の司の見地から考えれば何も可笑しいことではないはずだ。
そしてにわかには信じがたいことだが、司は自分の中で湧き上がっている思いを確かめたかった。美奈のこととは別に心の中に居座りそうな何かの正体を知りたかった。
靴を買い与えたこともだが、牧野つくしの存在が心の中で大きくなってきたことに、信じられない思いがしていたからだ。
司はふと、なんの脈略もなく言葉を口にしていた。
「お前は男と付き合った経験が少ないと言ったが、過去にどんな恋愛をした?」
いきなり過去の恋愛経験を問われた女は、えっといった表情をした。
だが司は構わず訊いた。
「俺が訊きたいのは、過去の恋が楽しいものだったか。それとも辛いものだったか。その恋は自分だけのものだったか?そういったことだ」
再び同じ言葉を繰り返した司に、女は束の間逡巡する表情を見せたあと話し始めた。
「私の恋愛は大学生の頃、二人の男性から告白されたことをきっかけにお付き合いしたことです。でもどちらの男性とも長続きはしませんでした。一人は法学部で弁護士志望の人でもうひとりは経済学部の人でした。楽しい恋だったかと問われたら….弁護士志望の人は父親がやはり弁護士で優秀なお家の息子さんでした。それに完璧主義者だったので私とは合いませんでした」
と言った女は笑ったが、その微笑みは若い頃の懐かしい想い出を語るに過ぎず、青春の1ページとも言える経験を語ったに過ぎなかった。だが次に話し始めた男のことについては、表情が引き締まった。
「経済学部の人はあとから分かったんですが他の大学に彼女がいたんです。今思えば強引な人でした。そんな人に会ったことはなかったので正直どうしたらいいのか分かりませんでした。俺の彼女になってくれってバイト先にまで来るようになってしつこく何度も言われて曖昧に頷いてしまったんです。それから暫くお付き合いしたんですが、ある日デートの待ち合わせ場所に行っても来なかったので心配して電話をしたんです。そのとき電話に出たのは女性でした。….彼の携帯にです。あの時は慌てて切りました。
それになんとなく嫌な予感はしてたんです。少し前にデートの約束をキャンセルされたことがあったんですが、その時は男友達が病気になったから彼の代わりにバイトに入るって言われて….だから私はそのバイト先に行きました。でもそこにいたのは友達の方で、病気になんてなってませんでした。当然彼はバイトに出ていませんでした。嘘をつかれたんです。
その日は他の大学の彼女と会っていたんです。つまり二股を掛けられていたんです。…それから彼の携帯に出た女性ですが、その女性が別の大学の彼女だったんです。次の日の朝、思い切って彼に電話をしたんですが出たのはやはりあの時電話をとった女性でした。それでその時言われたんです。健一ならシャワー浴びてるから出れないって…….」
短い間を置いた女は、司が何も言わなかったことで、話を継いだ。
「これが私の過去の恋です。でもそれが恋だったのかと自分自身に問えば、今となっては分かりません。ただ思ったのは二股を掛けられるって自分に魅力がないからだと思いました。でもそんな私でも少しのプライドってものがあります。だから別れたあと、自分に出来ることを頑張ろうと思ったんです。つまり勉強することしか残されてないと思ったんです。それに私は誰かの大切な人を奪うようなことはしません。したくありません。誰かを傷つけてまで恋をしようとは思わないんです」
そこまで言うと牧野つくしは黙った。
司はそこまで話しを訊き、まるで詰まっていたものを一気に流したような顔をした女に詰問するではないが、女の言葉尻を掴まえ言った。
「お前は誰かを傷つけてまで恋をしようとは思わないそうだが、不倫についてはどう思う?」
女は思案の顔になった。
それは司が不倫という言葉を出したことに、自分がその立場にいることを考えたのかと思った。だがそれは単に口の動きを止めただけであり、そこから先の言葉は、先ほどと同じで思うことをはっきりとした言葉で言った。
「私は奥さんがいる男性と付き合いたいとは思いません。でも感情というものは、決められた化学実験のようにこの液体とこの液体を混ぜればこの反応が現れる。答えはこれだという答えはないと思うんです。人間の感情はビーカーの中で混ぜて作られるものじゃないですから…絶対にとは言えないかもしれません。それでもダメなものはダメです。過去に自分が傷付いたから言えることかもしれませんが、他に付き合っている人がいる男性や結婚している男性と付き合いたいとは思いません.....傷つくのも辛い思いをするのも自分ですから」
司はその答えに牧野つくしの本質に触れた気がした。
まっすぐな瞳が語る混じり気のない言葉は本心を語っている。
司はこれまで女と真摯な姿勢で会話をしたことがない。だがこうして牧野つくしと時間をかけ話してみれば、その言葉は自分の意思を確実に伝えて来た。
そしてそんなことを考えていたとき、逆に訊かれた。
「….あの副社長にお尋ねします。今でも私と付き合いたいと思っていらっしゃいますか?それとも.....もういいとお考えですか?」

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それがたとえ心理学上の出来事が大きく影響しているとしても、牧野つくしが口にした言葉は、司のことが好きだという意思を示していた。
司は牧野つくしに恋を仕掛けたが、結婚はもちろん婚約の経験もない男は本気で恋をするつもりはなく、あくまでも姪の美奈の願いを叶えるためだった。
そんな男に向かって放たれた男性と付き合った経験が少ないという言葉。それが本当なら美奈の夫との付き合いは、その数少ない内に入るのだろうか。これまでの人生で何人の男と付き合ったのか知らないが、司の視線に頬が赤く染まり、彼に反応しているのが分かる。
人間の本質というのは変わるものではない。
それは生まれ持ったものや育った環境という資質が影響を与える。だから牧野つくしがバカ正直にグンター・カールソンとのデートの結末を話したのは、生まれ持ったものがそうさせたのか。それとも親の教育の結果なのか。
どちらにして牧野つくしが複雑な女ではないことは証明された。
それならと司は思った。
もし今ここで、お前は白石隆信の愛人かと問えばなんと答えるのかと。
だが牧野つくしが司のことが好きだというなら、美奈の夫に近づかないように出来る。
そうだ。牧野つくしを誘惑して付き合うことは、はじめから予定していたことであり、今の司の見地から考えれば何も可笑しいことではないはずだ。
そしてにわかには信じがたいことだが、司は自分の中で湧き上がっている思いを確かめたかった。美奈のこととは別に心の中に居座りそうな何かの正体を知りたかった。
靴を買い与えたこともだが、牧野つくしの存在が心の中で大きくなってきたことに、信じられない思いがしていたからだ。
司はふと、なんの脈略もなく言葉を口にしていた。
「お前は男と付き合った経験が少ないと言ったが、過去にどんな恋愛をした?」
いきなり過去の恋愛経験を問われた女は、えっといった表情をした。
だが司は構わず訊いた。
「俺が訊きたいのは、過去の恋が楽しいものだったか。それとも辛いものだったか。その恋は自分だけのものだったか?そういったことだ」
再び同じ言葉を繰り返した司に、女は束の間逡巡する表情を見せたあと話し始めた。
「私の恋愛は大学生の頃、二人の男性から告白されたことをきっかけにお付き合いしたことです。でもどちらの男性とも長続きはしませんでした。一人は法学部で弁護士志望の人でもうひとりは経済学部の人でした。楽しい恋だったかと問われたら….弁護士志望の人は父親がやはり弁護士で優秀なお家の息子さんでした。それに完璧主義者だったので私とは合いませんでした」
と言った女は笑ったが、その微笑みは若い頃の懐かしい想い出を語るに過ぎず、青春の1ページとも言える経験を語ったに過ぎなかった。だが次に話し始めた男のことについては、表情が引き締まった。
「経済学部の人はあとから分かったんですが他の大学に彼女がいたんです。今思えば強引な人でした。そんな人に会ったことはなかったので正直どうしたらいいのか分かりませんでした。俺の彼女になってくれってバイト先にまで来るようになってしつこく何度も言われて曖昧に頷いてしまったんです。それから暫くお付き合いしたんですが、ある日デートの待ち合わせ場所に行っても来なかったので心配して電話をしたんです。そのとき電話に出たのは女性でした。….彼の携帯にです。あの時は慌てて切りました。
それになんとなく嫌な予感はしてたんです。少し前にデートの約束をキャンセルされたことがあったんですが、その時は男友達が病気になったから彼の代わりにバイトに入るって言われて….だから私はそのバイト先に行きました。でもそこにいたのは友達の方で、病気になんてなってませんでした。当然彼はバイトに出ていませんでした。嘘をつかれたんです。
その日は他の大学の彼女と会っていたんです。つまり二股を掛けられていたんです。…それから彼の携帯に出た女性ですが、その女性が別の大学の彼女だったんです。次の日の朝、思い切って彼に電話をしたんですが出たのはやはりあの時電話をとった女性でした。それでその時言われたんです。健一ならシャワー浴びてるから出れないって…….」
短い間を置いた女は、司が何も言わなかったことで、話を継いだ。
「これが私の過去の恋です。でもそれが恋だったのかと自分自身に問えば、今となっては分かりません。ただ思ったのは二股を掛けられるって自分に魅力がないからだと思いました。でもそんな私でも少しのプライドってものがあります。だから別れたあと、自分に出来ることを頑張ろうと思ったんです。つまり勉強することしか残されてないと思ったんです。それに私は誰かの大切な人を奪うようなことはしません。したくありません。誰かを傷つけてまで恋をしようとは思わないんです」
そこまで言うと牧野つくしは黙った。
司はそこまで話しを訊き、まるで詰まっていたものを一気に流したような顔をした女に詰問するではないが、女の言葉尻を掴まえ言った。
「お前は誰かを傷つけてまで恋をしようとは思わないそうだが、不倫についてはどう思う?」
女は思案の顔になった。
それは司が不倫という言葉を出したことに、自分がその立場にいることを考えたのかと思った。だがそれは単に口の動きを止めただけであり、そこから先の言葉は、先ほどと同じで思うことをはっきりとした言葉で言った。
「私は奥さんがいる男性と付き合いたいとは思いません。でも感情というものは、決められた化学実験のようにこの液体とこの液体を混ぜればこの反応が現れる。答えはこれだという答えはないと思うんです。人間の感情はビーカーの中で混ぜて作られるものじゃないですから…絶対にとは言えないかもしれません。それでもダメなものはダメです。過去に自分が傷付いたから言えることかもしれませんが、他に付き合っている人がいる男性や結婚している男性と付き合いたいとは思いません.....傷つくのも辛い思いをするのも自分ですから」
司はその答えに牧野つくしの本質に触れた気がした。
まっすぐな瞳が語る混じり気のない言葉は本心を語っている。
司はこれまで女と真摯な姿勢で会話をしたことがない。だがこうして牧野つくしと時間をかけ話してみれば、その言葉は自分の意思を確実に伝えて来た。
そしてそんなことを考えていたとき、逆に訊かれた。
「….あの副社長にお尋ねします。今でも私と付き合いたいと思っていらっしゃいますか?それとも.....もういいとお考えですか?」

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童*様
最低な男女がいる(笑)
つくしの大学時代の恋はいい恋ではありませんでしたね。
ああいった男性は、きっと他にも女がいたのではないでしょうか?
司の先入観と思い込みがどう変わるのか。これからですね(笑)
コメント有難うございました^^
最低な男女がいる(笑)
つくしの大学時代の恋はいい恋ではありませんでしたね。
ああいった男性は、きっと他にも女がいたのではないでしょうか?
司の先入観と思い込みがどう変わるのか。これからですね(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.06.17 21:05 | 編集

司*****E様
おはようございます^^
つくしは35歳です。若い頃の恋はいい恋ではありませんでしたね。
司はつくしに不倫についてどう思うか訊きました。その時返された言葉は、他の人を悲しませる恋はしたくない。
嘘はつけないバカ正直な女なのか。それとも?
そして司の湧き上がる感情は何か?
そんな司に対し恋を自覚したのは、つくしの方でした。
いつの間にか気になる人になったようです。
さて、司が恋を自覚するのはいつなのでしょうね(笑)
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
つくしは35歳です。若い頃の恋はいい恋ではありませんでしたね。
司はつくしに不倫についてどう思うか訊きました。その時返された言葉は、他の人を悲しませる恋はしたくない。
嘘はつけないバカ正直な女なのか。それとも?
そして司の湧き上がる感情は何か?
そんな司に対し恋を自覚したのは、つくしの方でした。
いつの間にか気になる人になったようです。
さて、司が恋を自覚するのはいつなのでしょうね(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.06.17 21:15 | 編集
