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2018
06.14

出逢いは嵐のように 44

司がペントハウスの玄関を開けたとき、長い廊下の先にあるリビングの半開きになった扉の向うから聞こえてきたのは、女性二人の笑い声。
いつもなら誰もいないその場所は薄暗く迎えてくれるだけだが、扉の向うから漏れる灯りは廊下の途中まで届いていた。
そしてこの時間にそこにいるということは、食事は済ませたということだ。

司は、ニューヨークの道明寺邸から牧野つくしの世話をする人間を来させた。
何しろ冷蔵庫の中にあるのは、飲み物だけで食べる物は何も置かれていないからだ。
呼んだのは、早川という女とコック。早川は以前メープルでコンシェルジュの仕事をしていたが、その評価は高く細やかな気配りが出来る女性と言われていた。そして今は邸で開かれるパーティーでその手腕を発揮していた。

邸には数百人が入れる舞踏室というものがあり、年に何度か大きなパーティーが開かれることがあるが、幸い今あの邸に母親はおらずヨーロッパへ出張中だ。だからパーティーの予定はない。
そして司はそのパーティーに義理で顔を出したことはあったが、ここ何年も顔を出したことはない。何しろああいった行事に顔を出すということは、結婚相手を探しているということに取られかねないからだ。

司は誰かと結婚したいといった気持ちにはならなかった。
それに財閥に対して果たさなければならない義務というのは、石油事業を軌道に乗せたことで果たされたはずだ。
だからクリスタルで出来たシャンデリアが輝く舞踏室で繰り広げられる女どもの駆け引きといったものに興味はなかった。






昨夜の司の睡眠時間は5時間。
その時間が長いか短いかは別として、今夜は国際銀行業に携わる男との会食だった。
世界情勢は日々刻々と変わり、それに伴い経済状況も変化する。
その流れに一番敏感なのが銀行家や投資家だ。そして政治と経済は切り離すことが出来ないことからも言えるが、政治の流れを読むことが経営に携わる者の仕事だ。

だが今夜の銀行家の話は大した話しではなく気乗りがしなかった。
だからからなのか。会食の終わりが近づいたとき頭を過ったのは、牧野つくしのことだった。
恐らく昼近くまで寝ていたはずだが、疲れは取れたのかということもだが、ちゃんと食事は取ったのかということも気になっていた。
そしてこうして帰宅してリビングから聞こえる口調や言葉は明るく、昨夜の出来事は心に傷を残しているといった風ではないようだ。

だが何故こうも頭の中に牧野つくしが過るのか。
それはあの女の話から感じられた、お人好しの無用心さにも通ずる態度だ。
真夜中に男の前にバスローブ姿で現れた女は、いくら何もしないからと言われているとは言え、男に対するその警戒心の薄さは人を疑うことを知らないと言うのか。
それとも単なるバカ正直さの現れなのか。
姪の夫と不倫をしている女にしては、真夜中に男と二人。たとえ今はその男の女に対する興味が変わって来ているとしても、そのチャンスを利用するといったこともなく、狡猾さといったものが感じられなかった。

そして不倫をする女にしては、態度も発言もちぐはぐな感じがして、年端のいかない少女のようにも見えるのだが、もしかすると牧野つくしという女は華やいだ美女ではないが、涼しい顔をして男をたぶらかす魔性の女なのか?
だがそういった女は我を通すことが得意だ。
けれど黒い瞳は男を見つめることに慣れている瞳には見えなかった。
それでもまた別の意味で自分の意思を貫くことをする瞳だと感じた。

すると本当にこの女が美奈の夫、白石隆信の不倫相手なのかという疑問が浮かんでいた。
だが美奈は牧野つくしが夫の不倫相手だと主張している。だが、疑わしきは罰せずではないが、証拠と言えるものは無いに等しく、美奈がそうだと決めつけているのは、隆信の口から告げられた牧野つくしという名前だけだ。
そして司の手元にある牧野つくしが、どこかの男と話している写真は、男の顔は見えず隆信であるという確証にはならなかった。美奈の思いを汲んでやらない訳ではないが、今は姪の言葉だけを信じることは間違っているような気もするが、グンター・カールソンと二股をかける女という思いもある。
そして自分はどうして牧野つくしに靴を買ってやったのか。自分で自分のことが不可解でもあった。







「まあ、司様。お帰りなさいませ。申し訳ございません。お帰りになられたことに気づきませんでした」

半開きだった扉の前で暫く女同士の会話といったものを訊いていたが、扉が開かれた音に振り返り慌ててソファから立ち上がったのは早川だ。
と、同時に牧野つくしも立ち上がりお帰りなさいませと言って頭を下げた。

「今ちょうど食事が終わりコーヒーをお出ししていたところです。すぐに淹れてまいりますので、司様もいかがですか?」

時計の針は9時を指していた。
どうやら遅い夕食だったようだが、テーブルの上に置かれたカップの中身は殆ど無くなっていた。
これからコーヒーを淹れるとすれば、豆を挽くところから始め、湯が沸くまでの間の時間といったものがある。
早川がコーヒーを運んで来たら帰っていいと言おう。
司は女と話しがしたいと思った。
美奈が差し出した1億の小切手を突き返した女の本質を知るために。





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コメント
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dot 2018.06.14 06:14 | 編集
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dot 2018.06.14 06:40 | 編集
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dot 2018.06.14 07:12 | 編集
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dot 2018.06.14 15:38 | 編集
童*様
司は彼女の本質を知りたいと思っています。
そして何故自分が彼女に靴を買ったのか考えています。
本人に直接聞くかどうかは.....どうでしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2018.06.14 21:39 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
さて、司はつくしとちゃんと話しをしようという気になりました。
牧野つくしはどんな人間なのか。
そして司自身も自分が何故彼女に靴を買ったのか。そんなことを考えています。
先入観を捨てて牧野つくしの言葉を訊く。
心情の変化。それは誰にどう影響を与えるのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.14 21:49 | 編集
ふ*******マ様
おはようございます^^
司。つくしが気になり、気になり、気になり.....
恋の予感がしますか?
恋する二人が見られる?
今夜これからどんな会話がされるのか。
さて。どうなる?←意味深(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.14 22:09 | 編集
さ***ん様
女の本質を知りたいと話す時間を持つことを望んだ男。
副社長。どう切り出すのか。
どんな会話が交わされるのか。
さて、二人の心情はどう移り変わるのでしょうねぇ。
コメント有難うございました^^

アカシアdot 2018.06.14 22:17 | 編集
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