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2018
06.13

出逢いは嵐のように 43

つくしが目覚めたとき、時計の針は午前11時を指していた。
それまで目が覚めなかったのは、分厚い遮光カーテンのせいなのか。それとも昨夜の出来事が影響しているのか。どちらにしてもよく寝たといった実感があった。

だが実際には手早くシャワーを浴び早く寝ようと横になったが、なかなか寝つかれず、やっと眠りについたと思えば直ぐに目が覚めた。
サイドテーブルの灯りをともし、腕時計を手に取り、時間を確認すると1時を過ぎていた。
目覚めた途端、喉の渇きを感じ部屋を出た。キッチンの場所は分かっていたつもりで、水を貰おうと開けた扉の向うに副社長がいた。つまりそこはキッチンではなくリビングで、開ける扉を間違えたということになるのだが、水が欲しいと言うと、キッチンまで行き、ミネラルウォーターのボトルを手に戻って来た。

眠れないのかと問われ、思わず首を横に振ったが、副社長こそ眠れないんですか、という言葉は呑み込んだ。
そして目の前に立つ男性のネクタイを外し、シャツのボタンをいくつか外した姿は初めて目にする姿で、自分がバスローブ姿でいることが急に恥ずかしいと思え数秒間狼狽した。

その時、目の前の男性が週刊誌や雑誌に書かれる女性との噂というものは、あながち嘘ではないと感じた。
それは、類い稀なという言葉に続く言葉として美貌や才能といったものが言われるが、この人の場合はそれに財産が加わるのだから、女性なら誰もが欲しいと思うのも当然だ。それに、そんな男性と噂になりたくて自ら噂を立てる人間がいてもおかしくはない。だからメディアが書き立てることが全て本当かと言えば、そうではないのかもしれないが、男としての魅力というものに溢れていることは否定できないと思った。

それにこの人は大勢の人の中にいてもその姿がぼやけることは決してなく、くっきりと、と言えばいいのか、際立つほど目立つ人だということを感じた。
そして路地の奥に現れた男の姿は、闇に同化した黒豹でありながら、その存在感はライオンだと感じた。

ライオンはハイエナの天敵と言われ、相手の首に噛みつき命を奪うが、面白半分に殺すこともあるという。あの時つくしを襲った男に見せた姿は、もしかしてそれに近いものだったのかもしれない。言葉はスペイン語で何を喋っているのか分からなかったが、冷気のような口調だった。そしてその姿はビジネスでは見たことがなかった姿で、昼間と夜では空に輝く星が違うように、豹変していた。

腕っぷしが強く、クールな外見を持つ裕福な男性は誰もが憧れる存在だ。
だがそんな人だからこそ、何故つくしのようにごく普通の目立たない女に興味を抱いたのか。
その理由を聞いたとき返されたのは、人を好きになるのに意味が必要かといった言葉だった。
だが今はつくしに好きだと言った男の、今では興味はないといったその態度の急変に意味を求めそうになっていた。
だが人を好きになるのに意味が必要かと言った人なら、人を嫌いになる意味もないと思えた。
何しろ人間という生き物は、物事への興味を簡単に失うことがある。だから興味がなくなった理由を聞かれても意味が必要かと言われるはずだ。
だが興味を失った女でも、こうして助けてくれたのは、自分の会社の社員となれば放っておくことが出来なかったということだろう。

つくしは、本当なら朝起きた時に話しをしようと思っていたことを話した。
男に暗い路地に連れ込まれる前、自分が何をしようとしていたかを。
その時の自分の顔はきまり悪さに満ちていたはずだ。だから一気に喋ったが、相手は沈黙していた。何も言わない相手に気まずさが湧き上がった。だからすぐさま踵を返し、部屋へ戻った。

つまり昨夜の出来事は、つくし一人が喋った夜であり、相手が何を思ってその話を訊いていたかは分からなかった。それでも助けてもらったのだから、礼を言うのは当たり前のことで、それと同時にここに連れて来てもらえたことへの気遣いといったことを感謝していた。

実際誰も知り合いのいない街の広いホテルの部屋で寝ることを考えたとき、聞こえない物音に耳をそばだててしまったはずだ。だが広いスペースとはいえ、誰かが同じ屋根の下にいるといった安心感というものが、心を落ち着けてくれた。だから話終えた後は、水を飲むと悪い夢を見ることもなく深い眠りにつくことが出来た。

だが今思えば、相手にとっては奇妙な可笑しさだったかもしれない。
すでに興味を失った女に言い訳のような話を訊かされたのだから、いい迷惑だったはずだ。




そしてつくしは、部屋でぼんやりと過ごしている訳にはいかなかった。
それは、ホテルから運ばれて来ているはずの自分の荷物を探さなければならないからだ。
何しろシャワーを浴びたあと、着ていた下着を石鹸で手洗いして干していたが、まだ乾いていなかった。だから水を貰いに来たとき、バスローブの下は下着の上に付けていたスリップ一枚という心もとない状態だった。決して裸だとは思わなかったが、男性の前にそんな姿でいたことはなく、内心ではどぎまぎとしたが、分厚いローブが透けて見えるはずはないのだからと普通でいられた。

だがまず荷物を探さなければと思い部屋を出た。
そして深夜に副社長と話したリビングへと足を向けたところで、背後から声を掛けられた。

「牧野様。ホテルからの荷物でしたらこちらの部屋に運ばせていただきました」

足音は全く聞えなかったから驚いた。
振り返った先にいたのは、紺のスーツを着たつくしよりも年を重ねた女性。
年は恐らく40代半ば。髪は黒くおかっぱ頭と言われる髪型で、その立ち姿というのか、姿勢はホテルのコンシェルジュのようだと感じ、親切で優しい印象を受けた。

「わたくし早川と申します。普段はニューヨークの道明寺邸におりますが、司様より牧野様のお世話をするように申し付けられております。お着替えが済まれましたらダイニングルームへお越しください。ちょうどお昼ですのでお食事をご用意しております」

そう言われたつくしは、早川と名乗った女性が示した部屋の扉を開けた。
するとそこには確かにつくしのスーツケースがあった。
そしてすぐ傍には靴の箱と思しきものがあった。訝しく思いながら蓋を取って中を見たところでやはり靴だった。

「そちらの靴は牧野様へとのことです。昨夜は大変な目に遭われたとお伺いしております」

早川は、昨夜つくしが襲われたことを訊いているようだ。
つくしの身体を気遣った後、お怪我はなかったようで何よりですと言うと言葉を継いだ。

「牧野様。ヨーロッパでは靴が幸せになれる場所へ連れて行ってくれる。だから女性は素敵な靴を履くと幸せが訪れると言います。
今牧野様が履かれている靴は履き慣れたものなのかもしれませんが、そろそろバトンタッチされた方がよろしいのかもしれませんね?」

つくしは自分の足もとを見た。
早川の言いたい意味は分かる。
ミュージカルに行くからと着替え、履き慣れたローファーに履き替えたが、男に襲われ引きずられた時に付いたのだろう。靴は傷だらけだった。そしてアクセントになっていたタッセルは片方が無くなっていた。
だが箱の中に納められている靴は、つくしの靴とよく似ていた。
しかし箱はニューヨークでも有名なブランドの名前が記されているのだから、随分と高い靴だということは分かる。そんな靴を貰ってもいいのだろうか。

「牧野様。悩むことなどございませんよ。新しい靴は運気を上げるといいます。昨日のことは忘れて運を上げるためにこちらの靴をお履きになればよろしいのですよ。司様のお気持ちですから」





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コメント
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dot 2018.06.13 08:32 | 編集
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dot 2018.06.13 11:16 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
ぐっすりと眠ったつくし。朝起きて思うことは副社長のこと。
自分がひとりで喋ったこともですが、会ったらどんな顔をすればいいかと考えていることでしょう。
そして傷ついた靴の代わりの新しい靴を用意してくれていた。運気を上げるは分かるのですが、それでもその行為をどう思えばいいのでしょうねぇ。
そして司の気持は...。

DVD!楽しみですね。もう御覧になられたのでしょうか?
でもやはり本物を見たいですよね?
でも本物を見ることが出来ても、小さいですよね?
そうなるとDVDで見る方が確実に良く見えるということでしょうか(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.13 22:40 | 編集
さ***ん様
意外と細やかなことに気付く男。
そうですねぇ。傷付いた靴を見ると思い出しちゃいますよね?
それに傷のついた痛んだ靴は運気を下げますから、その気遣いは嬉しいですね。
それが心に伝わる....。つくしの心がゆっくりと開かれていく。
そして司は何を思うのでしょうねぇ^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.13 22:47 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2018.06.13 23:02 | 編集
司*****E様
DVD。今日は後半を御覧になられたのでしょうか?
そうですよね。コンサートは生歌、生本人ですが場所によっては豆粒ほどの大きさですよね?
う~ん。本物とDVDどちらがいいのでしょうねぇ。

カメラ目線が多い‼(≧▽≦)
凄いですねぇ。坊ちゃん流石です!
なるほど。昔は近くで見ることが出来たんですね?でも周年記念となると参加したいと思いますよね。
色々大変だと思いますが頑張って下さいね!
アカシアdot 2018.06.14 21:28 | 編集
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