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2018
06.08

出逢いは嵐のように 40

車から人の流れを見ていたとき、牧野つくしを見かけた。
女がブロードウェイの舞台を見に出かけていることは知っていたが、まさか、夜の路上をひとりで歩く姿を見かけるとは思いもしなかったが、偶然というのが世の中にあるとすれば、まさにこのことか。

それにしても、あの女は夜のニューヨークがどんな街か分かっていない。
このまま放っておけば本人が思いもしない事態に巻き込まれることになるはずだ。
それは、性的な被害に遭うこともだが、金品を奪うことを目的に撃ち殺されることも想像に難くない。銃でなければナイフで刺されることになるが怖がりの犬のように走って逃げることが出来ればいいが、そう簡単にはいかないはずだ。

あの女が泣くことを望んでいるが、それはこういったことではない。
それに女は司の会社の社員だ。放っておく訳にはいかなかった。
司は車を止めさせすぐに降りたが、ついさっきまでいたはずの女の姿は消えていた。
恐らくどこかの路地に迷い込んだはずだ。だがビルの谷間の路地は光りが届かない。暗がりには酔っ払いが寝転がっていることもあるが、酔っ払いならまだ可愛いもので、タチの悪い人間が暗闇に隠れるように潜んでいる。

「….ったく、あの女はバカか?」

司は呟くとすぐにボディーガードに命令した。

「あの女を探せ!その辺りの路地に迷い込んでるはずだ!」

初夏のニューヨークの夜の空気はヒンヤリとしていて、その中に司の声が響いた。
司は最後に女がいた場所に一番近い路地に入った。左右はレンガ作りの高いビル。明かりはなく暗かったが、目を凝らせばなんとか見える状況だ。その路地の奥の暗闇から聞こえたのは、女の叫び声。その声に司の耳は尖り、目標を既に捉えているように走った。そしてその後ろを数名の黒ずくめの男たちが追った。









つくしは大通りを歩いていたつもりだった。
だがビルとビルの間の路地の前を通り掛かったとき、暗闇から伸びて来た手が彼女の腕を掴んだ。するとあっという間に路地に引き込まれ、口を塞がれ、ショルダーバックごと後ろから抱え込まれるようにして路地の奥へと引きずられていった。
いったい自分の身に何が起きたのか。人間の思考は予期せぬ出来事にパニックになるというが、それは暗闇に住まうハイエナが獲物の喉を狙うごとくあっという間の出来事で声が出せなかった。

そして口を塞いだ手は嗅いだことがないような嫌な臭いがして吐きそうになった。恐怖以外なにも感じられず、なんとか逃げようとしたが、大きな身体はつくしの身体を難なく引きずっていた。
だがなんとかして声を出さなければという思いから、身体をねじり暴れた。
すると口を覆っていた男の手が離れた。その瞬間大声で叫んだ。

「Help ! 助けて!」

咄嗟のことで頭は回らず英語が出たのはヘルプのひと言。
思考はそれだけを言うと日本語で騒ぐ以外何も考えられなかった。

「やめてっ!離してっ!いやっ!誰か助けてっ!」

男の口から出る罵りの言葉が英語なのかそれとも他の国の言語なのか。
全く分からず頭も回らない。再び口を塞がれそうになり、頭を振り身体をねじり男の腕を振り解こうとしたが出来なかった。そして、だんだんとあらがう力が奪われていくのが分かった。
か細い声しか出せなくなっていくのが分かる。
その時だった。
呻き声と共に身体を掴んでいた腕が離れた。






司は女の叫び声がする方へと走った。
するとそこにいたのは、牧野つくしを後ろから抱えた男。
片手は女の口を塞ごうとし、もう片手は女の身体を抱えていた。
つまり手に武器は持ってないということだ。

声は掛けなかった。
司は男が彼の存在に気付いた時には、男の右手を掴み背後へ回ると強い力でねじり上げた。

『いてぇ!』

痛みを訴える声と共に男が苦痛に表情を歪めた。
そして女を掴んでいたもう片方の腕が離れると、その手首を掴み、右手と同じように背後へねじり上げたが、その強烈な握力に男は再び声を上げた。

『いてぇよ!いてぇ!』

スペイン語を話す男は司より10センチ以上背が低く年も若いようだ。

『お前、何やってる!』

男は痛みを訴える以外言葉を口にしなかった。
だから司は両方の手首を後方でさらにねじり上げた。

『や、止めてくれ!う、腕が…折れる……』

司はその言葉に遠い昔を思い出していた。
喧嘩に明け暮れていた少年時代を。
今は抑えられているが暴力が日常だった頃を。
それにしても、まさかこの年になって自らの手で誰かの腕をねじり上げることがあるとは思わなかったが、懐かしさと共に頭に血がのぼるのを感じた。
今は一流のビジネスマンとして過ごしていても、血の匂いが自分の周りの空気を染めていたあの当時の凶暴さは変わらず身体のどこかに眠っていて、久し振りにそれが目覚めたといった感じだ。

『お前、この女を襲って何をするつもりだ?なあ。言ってみろよ?』

司はわざとゆっくりと喋りさらに腕をねじり上げた。

『言えよ。この女を襲って何をしようとした?』

痛みに呻く男は自分より背の高い男に背後から両腕をねじられ、何をされるか分からない恐怖におののいていた。それに相手の姿が見えないということは、それだけで恐ろしさを増幅させる。

『か、金だ。金が欲しかった。お前らアジア人だろ?金持ってんだろ?いい服着てんじゃねぇか。だから金だよ、金!金が欲しかったんだ!なあ、腕…放してくれ….折れちまう…』

まだ若い男は、喧嘩慣れしてないのか。それとも相手が自分よりも強いことを知り、歯向かうことを諦めたのか。男の声は弱々しく今にも泣き出しそうだ。
そんな男に司は口元を切り上げ言った。

『これは腕じゃねぇ。関節が外れるだけだ。それとも二度とこの腕で悪さ出来ねぇようにしてやろうか』

司はククッと笑い男の腕をねじり上げ、後ろへ強く逸らし両方の肩関節を外し、右足で男の脚を払い、足元へ崩れ落ち痛みに呻く男の脇腹を蹴り上げた。

『ふざけたマネしてんじゃねぇよ!このクソガキが!』

路上に寝転がった男は痛みを堪えながら、怯えた目で司を見上げ、彼の後ろに控える黒服の男達のうちの一人の腰に銃が収められたホルスターを認めると震え始めた。そしてネクタイを締めた男がただのアジア人のビジネスマンではないことに気付いたようだ。

『副社長。その辺りでお止め下さい。後はこちらで処理します』

司に声を掛けたのは、ボディーガードの中で一番年長で黒髪の男だ。
前職はアメリカ合衆国シークレットサービスの警護官だった男。その仕事柄医療や法律の知識にも長けており、事後処理は慣れたものだ。だが司も手加減はしていた。男の顔も殴らなければ、骨を折らなかったのだから、高校生の頃と比べれば随分と大人しいものだ。

「大丈夫か?」

司は黒服の男に支えられるように立つ女を見た。
黙って司のすることを見ていた女は、暗がりでも顔が青ざめ手が震えているのが確認できた。
やがて女の身体はブルブルと震え始めたが、それは緊張の糸が切れた証拠だ。
現実の危機が去ったあとのショック症状だ。

司は牧野つくしを抱き上げた。

そして「捕まってろ」と言うと踵を返し、暗い路地を車へ向かった。





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コメント
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dot 2018.06.08 06:03 | 編集
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dot 2018.06.08 06:11 | 編集
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dot 2018.06.08 10:45 | 編集
童*様
ヒヤヒヤされましたか?
そして司や美奈の勘違いや思い違いをどう正すのか。
司がつくしに直接聞けばいい。そうですよね、そうなんです。
でも司はまだ聞く必要性を感じていないんです。いやでもそろそろ.....。
早く本人に直接聞きたいと思って欲しいものです。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.08 22:04 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
怖い思いをしたつくしを助けた司。
そうです。夜間の不必要な出歩き、ましてや初めての街で一人出歩くことは危険極まりない行為ですね?
しかし今回は見たかったミュージカルがあったので外出しました。そして考え事をしながらで道を間違えてしまいました。
司はどんな思いで助けたのか。車を降りた時は社員だから、という理由でしたが本当にそうだったのでしょうか。
そして二人の状況に変化が見られるのでしょうか。
気持の変化が見られるのはどちらが先でしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.08 22:10 | 編集
さ***ん様
つくしを危ないところで助けた司。
この怒りはどこから来るのか。
そうです、そうです、司。どこからその怒りは来たんですか?
自覚がないだけで惚れてる?
そしてつくし!震える身体を抱き上げて運んでくれた男に何も感じないようなら…
枯れてる‼(≧▽≦)
これからこの二人はどうなるのでしょう。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.08 22:13 | 編集
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