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2018
06.07

出逢いは嵐のように 39

つくしは、ひと休みしてからミュージカルに出掛けることにした。
昨日グンターから貰ったチケットは、午後8時からの開演であり、その前に食事を取ることが出来た。
そしてホテルからブロードウェイの劇場近くまでタクシーで出掛けたが、どこの劇場も終演が10時半から11時になるよ。だから帰りはタクシーの争奪戦で拾うのは大変だよと運転手に言われた。ホテルまで歩いて帰ることも出来るけど連れはいるのか?と訊かれ、いないと答えると、じゃあひとりでウロウロしない方がいいよと言われた。

そして近くのバーかホテルで少し時間を潰すか何かしてタクシーを拾った方がいいと言われたが、ニューヨークで女ひとりバーに入るなど考えられず、近くのホテルで時間を潰してから帰るという選択をした。
そんなつくしに運転手が教えてくれたホテルは、1階にラウンジとバーがあり、ラウンジのラストオーダーは10時半だけど、バーなら午前1時がラストオーダーだからそこに行けばいいと言われた。

「ここら界隈は夜でも観光客が多いからね。ホテルの方も慣れたもんだ。女がひとりでも安心していいと思うよ」

タクシーの運転手は出身が外国なのか。なまりのある英語で聴き取りにくかったが、つくしにしても同じようになまっていたはずだが会話は成立していた。
それに日曜日に劇場街が目と鼻の先にあるタイムズスクエアに来ていたことから、ホテルの場所はなんとなくだが把握することが出来た。だからOKありがとう!と言い支払いを済ませ、チップを渡したときニューヨークの夜を楽しんで!と陽気に言われた。


ミュージカルは大人のミュージカルと言われる演目。
建物は古く、こじんまりとした劇場だが、グンターが手配してくれた席は驚くほど舞台に近く大変良い席だった。
物語は1920年代のシカゴが舞台で、愛人を殺した女優が悪徳弁護士とマスコミを味方につけ、無罪を勝ち取るという話。
セクシーな身なりで男をたぶらかす悪女たちが登場する話で、女優は確固たる証拠があったにも関わらず、陪審員が全員男性だったことから無罪になった。

つくしはこの舞台の映画を見ていたこともあり、あらすじは知っていた。
だから全ての言葉が分からなくても充分楽しむことが出来た。本場のミュージカルは一度見てみたいといった思いがあったが、副社長に付き従いニューヨークで過ごすうちに、そんな時間がないことを知ったが、グンターに出会いミュージカルの話をしたところで、幸運にも舞台を見ることが出来た。

劇場を出たとき時計の針は10時半過ぎを指していたが、時間を潰そうと決めたホテルまでは歩いてすぐのこともあるが、これだけ大勢の人がいれば怖いとは思わなかった。
だがいつもはこんなに遅く出歩くことはなく、それに明日の朝起きることが出来るのかといった心配もあるが、今は舞台を見終わった高揚感といったものが身体の中を駆け巡っていた。
そしてそんな身体に少しヒンヤリとした夜風が気持ち良かった。

それにしても平日の夜だというのに、これだけの人がこの場所にいることが不思議だが、世界中から押し寄せる大勢の観光客には曜日は関係ない。そして夜はまだこれからといった様子だ。きっとこれから夜景を見るツアーといったものに参加したり、遅いディナーを取るのだろう。
そんな中、ひとりでいることが淋しいという訳ではないが、誰か隣にいて舞台を見た感想を言い合えればと思わないこともない。
けれど、35歳独身女は、お一人様と言われることにも慣れた。だが気ままなひとり暮らしを続ける女だって考えることはある。
誰か傍にいてくれたらと。

「…..でもグンターは違うし…..」

と言いかけたところでもうひとりの男性のことが頭を過った。
好きだ、惚れたという言葉を使ったと思えば、まるで無視とは言わないが、そういったことに全く触れなくなった。それを喜んでいいはずだが、どういった訳か気になっていた。
そしてその態度の急変に何故か傷つけられたような気持になっていた。
それにしてもどうしてこんなことを考えるのか。そもそもつくしは副社長に興味はなかったはずだ。それなのに副社長のことを考えているのが信じられない。

「なんで私こんなこと考えてるんだろ….」

と呟いてみたが、ふと気づくと劇場を出て10分以上歩いていたが、いつまでたっても目的のホテルに辿り着かないことに気付いた。

「もしかして….道、間違えた?」







***







司は牧野つくしに付けた男から、女が出かけたと連絡を受けた。
タクシーに乗り向かった先はブロードウェイ。
ミュージカルを見るために出掛けたようだが、グンター・カールソンは一緒ではなく、ひとりだった。

急に興味を失ったような態度に出た司に女が戸惑っているのは分かっていた。
この男はいったい何を考えているのか。
この男は何をどうしたいのか。といった感情が伝わって来た。
それまでの女の感情は、司の放つ言葉に迷惑しているといったものだったが、今感じられるのは困惑だ。会議室で司の視線を臆することなく受け止めたが、その後わずかに目と眉を八の字にした顔になったのを見逃さなかった。

司は表情を変えず、瞬きもせず人を見つめることが出来る。
その視線をまともに受ければ動揺する人間が殆どだが、女は私は何も悪いことはしていないという堂々とした態度だった。

「よく言うぜ。何が何も悪いことはしてないだ」

司は独りごちると腕時計を見た。
時刻は10時45分。今夜は急遽取引先のひとつであるインベストメント・バンク(投資銀行)の役員との会食がアレンジされ、その帰りで秘書とは別れ自宅であるペントハウスへ向かっていたが、暫くすると車は信号待ちで止まった。

そこは、ブロードウェイにほど近い場所であることから、丁度芝居も跳ねた時間であり大勢の人間の流れがあった。
それにタイムズスクエア界隈は不夜城と呼ばれていて、派手なネオンサインのデジタル広告が瞬いていて一晩中、いや年中お祭り騒ぎのような賑わいだ。そこから流れてきた人の流れは車の横を通り、交差点を渡るとそれぞれ目的の場所へ向かっていたが、それは視線を右に向けた時だった。見覚えのある女が歩いているのが見えた。

「あの女。どこへ行くつもりだ?」

女が見た芝居も終わった時間だ。
ホテルへ帰るならタクシーを捕まえるか地下鉄で帰るかになるが、どうやら違うらしい。
だがどこまで歩く気だ?歩いて帰れないことはないが、まさかホテルまで歩いて帰るつもりか?それに歩くなら早足でさっさと歩けばいいものの、女がひとり、いかにも考え事をしているといった態度は警戒心がなく歩くのは危険だ。それに見ればこの街に住んでいる人間か、そうではないかはすぐに分かる。いくら治安の改善がみられ大勢の人間が歩いているとはいえ、夜のニューヨークが危険なことに変わりはない。ひったくりやスリも勿論だが、公園や人気のない路地に入り込めば、頭に銃を突き付けられたとしてもおかしくはない。
それなのにあの女は無防備な顔だ。

「あの女。何を考えてフラフラ歩いてる?」

女には司が付けた男がいる。
だが男はボディーガードではない。
男の役目は女を見張ること。そして女の行動を報告すること。
ただそれだけだ。


「.....車を止めてくれ」

女が司の会社の社員である以上、放っておくわけにはいかない。
司は運転手に言うと車を止めさせた。と同時に彼の後ろに付いていたボディーガードの車も同じように止った。
だが司が車を降りたとき、女の姿は消えていた。





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コメント
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dot 2018.06.07 06:07 | 編集
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dot 2018.06.07 09:43 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
>好きだと言ったり、毎日食事に誘ってきたと思えば急に突き放すような態度を取る。
そんな態度を取ることによって、司はつくしの思考に入り込むことに成功したようです。
それにしても、外国でぼんやりとした顔で歩いていてはダメですよね?
それなのに、つくしは考え事をしながら夜道を歩くという状況!非情に危ないです。
そしてそんな所へ出くわした司。トラブル発生でしょうか?
誰か、司の誤解を早く解いて!(笑)

J社利用にお母様大喜び!
アカシアはA社に乗ることが多いのですが、J社のサービスにも惹かれます。
機内誌を綺麗なままで(笑)さすがお嬢様!よくお分かりですね?(笑)
綺麗なものを選んで持って帰るという手もあります。
そして時に新品が置かれていることもあります^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.07 22:33 | 編集
さ***ん様
副社長のことをなんとなく考えてしまう女。
押されていたのに引かれると気になるの。
そうなんです。気になるんですよね、その態度!
そして人混みの中で女を見つける男!(≧▽≦)すごい偶然です!(笑)
社員という理由で止めた....え?本当にそうなんですか?
そうですねぇ...なるようにしかなりません!(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.07 22:48 | 編集
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