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2018
06.05

出逢いは嵐のように 37

すぐ近くのイベント会場からマイクを通し聞こえて来るのは女性の声。
よく訊けば、新発売の化粧品のプロモーションだと分かった。
だからここには大勢の女性がいるのだ。

アイスクリームを買ってくると言って店に向かったグンターは、数人の列に並んでいた。
すぐ傍にいて気付かなかったが、グンターへ視線を向ける女性は多い。ああして列に並んでいても、チラチラと視線が向けられているのが分かる。

異国の人で溢れるこの場所でも、金髪でヨーロッパのセンスを持つ男性はひと目を引いていて、とても40歳には思えず実年齢を感じさせない若さがあった。
そんなグンターから思いを告げられたが、彼のことを男として意識することは出来なかった。だからといって心臓がドキドキしないという訳ではない。
真剣に見つめられれば、日本人の男性にはない豊かな愛情表現といったものが感じられた。
それは決して芝居がかったようなものではなく、どこまでも真摯な姿勢だ。

だが、『今日こうして僕とデートしてくれているのは、僕のことを考えていると思っていいのかな?それとも道明寺副社長の口の利き方にカチンと来たから?』

と問われ言葉に詰まり、口をつぐんでしまったが、どう答えればいいのか。
グンターがアイスクリームを手に戻ってくるまでには考えておかなければならないはずだ。
だが何も言えないような気もする。
だがどうして答えられないのか。
それは人と向き合うということを考えたとき、35歳にもなった女が子供じみた言葉を並べる訳にはいかないからだ。

「….なんて言えばいい?グンターに期待を持たせるようなことをして…」

グンターが口にしたように、今日のデートは道明寺副社長の口の利き方にカチンと来たことは否めなかった。それに副社長はつくしのことを好きだと口にするが、グンターが見せる誠実な姿勢とは異なり、いきなり手を握ってキスをするのは、人の心を弄ぶ行為のように思える。
それにグンターの言葉には人格があるように、声は生気溢れる澄んだ声をしている。
だが副社長の声は人をからかっているようにも聞こえる。そして放つ言葉は乾いた音としか感じられなかった。
それにしてもグンターといるのに、どうして副社長のことを考えてしまうのか。




「お待たせ」

つくしは、ぼんやりとアイスクリーム店の方を眺めていたが、いつの間にかグンターの順番が来たようだ。気づけばアイスをふたつ持った男が目の前に立っていた。

「ストロベリーにしたけど、よかったかな?それとも僕のバニラと変える?それからコーンとカップのどっちがいいか訊かれたけど、コーンにしたよ」

「…..え?うん。ありがとう」

と言い、受け取ったアイスクリームは、苺の果肉とピューレがたっぷりと使われていて、苺の甘い香りがした。

「どうかした?ストロベリーは嫌いだった?」

「うんうん。そうじゃなくて….これ大きくない?」

アイスクリームは日本で見かけるよりもかなり大きな球体がコーンの上に盛られていて、何でも大きなものが好きというアメリカだからなのか。アイスもビッグサイズなのかと思い訊いた。

「あの店はレギュラーとキングサイズがあってね。キングサイズにした。大きい方が沢山食べれるからいいと思ってね」

とグンターは笑い、良かったら僕のも食べてみる?と言ってつくしの前に自分のアイスを差し出したが、バニラのアイスからはバニラの豊かな香りがした。

「いいよ。どうぞ。遠慮せず食べていいよ」

そう言われたが断った。
アイスクリームは中華料理のように取り分けて食べるのではなく、直接口を付けるものであり、自分が食べたあとはグンターが食べるのだから、口を付けることは出来なかった。

もしグンターがつくしに対し恋心を持っていなければ食べていたかもしれない。だが今は誤解を与えないためにも、軽はずみな行動は控えなければならなかった。
そして、グンターの遠慮しなくていいよ、と言う言葉と笑顔に、この人の気持に応えられないことが分かっていて、今日の誘いを受けたことに対して罪悪感を感じはじめていた。

「そうか。じゃあ早く食べようか。こう気温が高くなってくるとアイスクリームはおしゃべりには向かない食べ物だ」

グンターの言う通りで気温が高くなれば溶けるのは早い。
特にコーンの上に盛られたアイスは溶けると手を汚すことになる。それだけに早く食べた方がいいはずだ。

つくしは、グンターに同意するように早く食べなきゃねと言ってはみたが、それ以上適当な言葉が見つからず黙ってストロベリーアイスに口を付けたが、苺は甘過ぎず、どちらかと言えば、甘酸っぱさと爽やかな味が口の中に広がっていた。
そしてグンターの言った通り、アイスはおしゃべりには向かない食べ物だ。溶けてしまわないうちに食べるには、ずっと口を動かさなければならないからだ。
だが言葉を探さなければならないつくしにとっては、しゃべらなくていい状態は都合がよかった。
それでも、頭ではグンターに対しての言葉を探していた。









***








司は目の前の書類に目を通すのを止めた。
届いたメールをクリックすると、添付されたファイルを開いた。
それは牧野つくしに付けた人間から送られて来た女の写真。
白いシャツに紺色の上着とパンツ。鞄を膝の上に置きソファに座っている姿。
そしてメールには今日一日の行動がつぶさに書かれていた。

女は7時半に朝食を食べ終え部屋へ戻り、9時半にロビーに降りてくると、そこで男を待っていた。
10時前に男がロビーに現れる。
そこから運転手付きの車でバッテリーパークまで行き、自由の女神を見学するためのフェリーに乗る。デッキは大勢の観光客で溢れていて、二人は身体を寄せ合い女神像を見学し、戻ってくると昼食を取るためチャイナタウンへ行く。
ご丁寧に何を食べたのかまで書かれていて、箸を持つ男が春巻きを女の皿に移している姿があった。

そして次に向かったのは、タイムズスクエア。
写真にはアイスクリームを食べる二人の姿。男はアイスクリームをシャツに零したのか、女がハンカチを差し出しながら笑っている顔があった。
タイムズスクエアを後にした二人は、エンパイアステートビルに昇り、86階の展望台からニューヨークの日暮れを眺め、レストランで食事を済ませホテルまで戻ったと書かれていたが、部屋に入ったのは一人ではなく二人。そして男が出て来たのは1時間後。
その時間が短いとしても、それは男の身体的能力の問題ということになる。

司は牧野つくしに対する思いの中で、グンター・カールソンが現れたことであの女がどんな行動を取るか興味があった。
それは美奈の夫と付き合いながら、別の男のアプローチを受け入れるかということだ。
司に靡かなかったのは、不倫とは言え相手の男に身も心を捧げていると思った。
それに司が同じ職場の上司であることから面倒になることを避けたいからだと思っていた。
だがあの女はカールソンからの誘いを受けた。その時点で女が浮気者であることは確定したが、今夜のことでそれが決定的になったということだ。
そして13年前に出会った男が、金のある独身と知って宗旨替えしたということだろう。

「結局あの女も他の女と同じ尻軽で安っぽい女だったってことか」

司は、パソコンの中の女を見つめながら、牧野つくしをどう扱うかを決めた。





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コメント
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dot 2018.06.05 06:07 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2018.06.05 16:57 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
グンターとのデートは楽しいはずなんです。
アイスクリームも美味しはずなんですが、グンターに気を持たせるような態度は取れません。
しかしとつくしがグンターとデートしたことで、尻軽女のレッテルが貼られてしまいました。
これから司はどうするのか?
え?この二人なかなか恋におちる気配が見えない?(笑)
そうですねぇ。困りましたねぇ。
どうなるのでしょうねぇ。そして誤解を解くのは誰なのか?
こんな二人ですが、恋におちることは間違いないと思います。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.05 23:25 | 編集
童*様
美奈と司のつくしに対しての思い違いと勘違を分からせることが出来るのは?
何か起こるのか。それとも誰かなのか。
モヤモヤする(笑)このあとどうなるのか。
いつか二人が恋におちることは確実なのですが、いつなんでしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^


アカシアdot 2018.06.05 23:32 | 編集
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