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2018
06.02

出逢いは嵐のように 36

大都会なら東京と同じだと思ったが別室の佐々木純子が言った
『ニューヨークは世界中にある特別な街と言われる街の中でも一番特別な街よ』
の意味が分かったような気がした。

初夏だと言われる6月のニューヨーク。
時間が経つにつれ空の青さが増し、陽の光りが降り注ぎ、気温が上がっていくのが感じられた。つくしの服装は濃紺のテーパードパンツと短めのジャケットに白のシャツの組み合わせ。足元は履き慣れたローファーを履いていたが、日曜くらいは休みが貰えるはずだとラフな服装も持って来たが正解だった。

無難な色の組み合わせだと桜子はいつも言う。
先輩らしいと言えばらしい色の組み合わせですよね。何にでも組み合わせ可能ですし、ホント無難です。まるで先輩の人生みたいですよね?でも先輩は色も白いんだしもっと鮮やかな色を着ても全然問題ありませんよ。例えば鮮やかなブルーとか絶対に似合いますよ。
一度着て見たらどうですか?

そして偶然なのか。一昨日着た副社長から贈られたドレスは鮮やかなブルーだったが、何故サイズが分かったのか。それを訊いたところで何になるという思いから訊かなかったが、昔滝川産業で制服があった頃のサイズから見当をつけたとすれば、あの頃から痩せもしなければ太りもしなかった自分の体型を褒めてやりたいくらいだ。だがもしサイズが合わなかったらどうするつもりだったのか。だがそれは深く考えることではないと思った。




車道を走る自転車に当たり前のように鳴らされるクラクションや人々の話し声。
英語よりも他の国の言語が多いのは、ここが観光地だからだが、この言語の多様さがこの街がニューヨークであることを実感させてくれる。
そして佐々木純子が言ったように東洋人だからといって目立つこともなければ、誰がニューヨーカーで誰がそうでないかなど関係ないといった人々が見つめる先にあるのは、自由の女神やエンパイアステートビルからの眺め。タイムズスクエアやメトロポリタン美術館やセントラルパークだが一日ですべてを回り切ることは無理だ。

つくしは、グンターに一番行きたい所は何処と訊かれ、自由の女神と答え、おのぼりさんよろしく連れて行ってもらったが、予約が要るという女神内部に入ることは出来ず、海上から眺めるだけにしたが、日曜日ということもありフェリーのデッキは親子連れやカップルがひしめいていた。

そして船を下りれば丁度昼どきということもあり、イタリアンと中華のどっちがいい?と問われ中華と答えたのは、チャイナタウンにも行ってみたかったから。
だがすぐ隣はリトルイタリーだと訊かされ迷ったが、結局中華にしたのは、お米が食べたかったからだ。

恥ずかしい話だが、モーニングビュッフェのテーブルに並んだ茶色のクロワッサンが、遠目に見ると、いなり寿司に見えたのは脳が米を欲していたからだ。
グンターにその話をしたとき、一瞬の間のあとで、『いなり寿司か。なんだか僕も食べたくなった』と言って笑った。
そして注文したのはチャーハン。そして春巻きと大海老の甘辛炒めと小籠包を二人で分けたが、どれも美味しかった。

それにしても、どうしてヨーロッパに住むグンターがニューヨークに詳しいのか訊いたが、コロンビア大学のビジネススクールでMBA(経営学のマスター)を取得するため住んでいたことがあるという。そして今はビジネスの拠点としてこの街によく来るのは勿論だが、住まいもあるという。
そう言えば、道明寺副社長も同じ大学でMBAを取得したはずだ。

それから世界の交差点と呼ばれ、年末に行われるカウントダウンで有名なタイムズスクエアに行き、テレビでは見たことがあるデジタルの大画面広告や、ブロードウェイミュージカルの看板の賑やかさを写真に収めていたが、近くで何かのイベントをやっているのか、大勢の人がそこにいた。





「ねえ牧野さん」

「なに?」

「牧野さんって写真撮るの好きなんだね?船の上でもパシャパシャ撮ってたけどそんなに撮ってどうするんだい?」

グンターは笑いながら隣でスマートフォンを構え真剣な表情をしたつくしに訊いたが、つくしは何がそんなに可笑しいのか分からなかった。観光に来たら写真を撮るのが当たり前で帰国したら思い出としてそれを眺める楽しみがあると思うが、グンターは違うのだろうか。
お定まりの旅行者でいるのが可笑しいのだろうか。

「だってもう二度と来ることがないかもしれないから、思い出のために沢山撮っておきたいの」

つくしのその言葉にグンターは笑った。

「なに?何か変?」

「うん。可愛いなって思って。あの頃と変わってないと思って」

その言葉に頬が赤くなるのが感じられた。
だが35歳の女に可愛いという言葉は嬉しくはないとは言わないが微妙な言葉だ。
それに可愛いという文化は日本独特であり、海外では可愛いは子供に使う言葉であり、この年になればセクシーと言われる方が嬉しい。だがつくし自身それは無理だと分かっている。
それに少年時代日本にいたグンターからすれば、その言葉は周囲でごく普通に使われていた言葉であり、考えてみればグンターの可愛いは、日本人が使うのと同じ口癖のようなものだと思った。だから敢えてその言葉を聞き流した。

「あの頃まだ入社したばかりで、一生懸命だったよね?それに何だろう…..動物みたいなところがあった。簡単に他人の手から餌を食べない動物みたいにはじめは僕のことを警戒してた。それに日本語を話す僕のことを変な外人って目で見てたけど、カラオケに行ってからだよね?親しくなったのは」

グンターの言う通りだ。
日本語がペラペラのエンジニアがカラオケで日本の歌謡曲を熱唱したことで二人は打ち解けた。それにしても今のグンターは、あの頃以上に日本語が達者なような気がしていた。
外国人の喋る言葉なら、たどたどしく書かれたカタカナのように感じられるはずだが、グンターは日本人と変わらない綺麗な発音で話しをする。

「牧野さん。僕がまだ日本語が話せるのは、子供の頃日本で過ごした経験と仕事で日本に行くことがあるからって言うのもあるけど、それだけが理由じゃない。言ったよね?13年前はフラれたけど、それからも心の中に牧野さんがいたこと」

それは聞いた。
グンター・カールソンの気持は嬉しかった。
グンターはいい人だと思う。
快活な友人としてならあり得るが、彼は違う。
だが何故か彼の言葉は素直に訊いてしまう。
それは低い声だが柔らかな風のように感じられる言葉だからだ。
日本人ではないからこそ勉強したのだろうが、グンターの言葉には人格が感じられるのだ。
言葉に人と成りを感じることが出来るのだ。
けれど道明寺副社長がつくしを好きだという言葉には人格が感じられないのだ。
つまり人格のない言葉をいくら発しても、それはただの音であり心に響かないのだ。

「牧野さん。今日こうして僕とデートしてくれているのは、僕のことを考えていると思っていいのかな?それとも道明寺副社長の口の利き方にカチンと来たから?」

あのとき、道明寺副社長に言われた『牧野はあなたとデートする気はあるでしょうか?』の言葉にカチンと来たのは確かだ。
グンターはそんなつくしの心の中を読んだように言ったが、つくしは言葉に詰まった。
いいえ。違う。そんなことないと言いたかったが言葉が出なかった。

「いいよ、ごめん。今聞くタイミングじゃなかったね。それより次はどこに行く?ああ、そうだったね。エンパイアステートビルだったね。じゃあ写真撮影が終わったら行こうか?でもその前にアイスクリームでも食べようか。ほら、あそこでアイスクリームを売ってるから買ってくる。ちょっと待ってて」

つくしは頷き、アイスクリーム店へ向かうグンターの後ろ姿を見送った。
そしてスマートフォンを構え再び風景写真を撮り始めていた。





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コメント
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dot 2018.06.02 09:59 | 編集
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dot 2018.06.02 20:42 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
ベタな観光ですが、初めてのニューヨークですからねぇ(笑)
グンターの言葉には人格がある。でも司の言葉にはそれが感じられない。
つまり彼のつくしに対する愛の言葉は音でしかありません。
言葉は言霊。口をついて出たらそこで魂を持つと言われますが、司の言葉はそうではない。
そうなんです。言葉は難しいですね?相手のが目の前にいない場合は特にそうだと思います。
そしてつくしとのデートを楽しむグンター。
今頃司はどうしているのでしょうねぇ。
グンターのことを恋敵と捉えているのか。それとも邪魔者と捉えているのか。
そのあたりで今後のことも変わってくるような気がします。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.03 00:24 | 編集
さ***ん様
心がなければどんな言葉も音でしかありません。
気持を伝えるための言葉に人格が感じられなければ、思いは伝わらないでしょうねぇ。
普通なら司ほどの男に愛を囁かれれば、靡くのが普通ですよね。
でもつくしは違いました。
そしてグンターは素のつくしを分かっています。
彼女の行動に付き合うことも苦ではありません。
料理を取り分けて食べる男。いいですねぇ(≧▽≦)
いっそのことグンターにすれば?と思いますがそうなると「ぐんつく」(笑)
グンターの好感度が上がった!(笑)う~ん.....。
司はどう出るのでしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.06.03 00:31 | 編集
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