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2018
05.31

出逢いは嵐のように 34

いつだったか桜子に言われたことがある。
『先輩は時代を逆行してます。いい年してまともな恋愛をしてこなかったんじゃないですか』
それによく言われるのが、
『先輩恋人が欲しくないんですか?結婚したくないんですか?この先もずっと一人でいるつもりですか?』

恋人が欲しいとも欲しくないともはっきりとした返事をしたことはない。
結婚したいともしたくないとも言ったことはない。
この先ずっと一人でいるつもりかと問われたら…分からないと答えていた。
ただ、どの言葉にも心から自分を必要としてくれる人がいたら違うという言葉を添えていた。

それに当然のことだが、桜子が言うまともな恋愛とつくしのまともな恋愛の基準というのは大きく違う。
つくしにとってまともな恋愛は、それは使い捨ての恋ではなく、長く続く関係が構築できること。
ただ今までそういった相手に巡り合えなかっただけで、きちんと長く付き合える相手ならそれでいいと考えていたが、桜子はそれを頑固だと言う。
彼女の視点からすれば、それが時代に逆行しているらしい。

『その人が長く付き合える相手かどうかなんて付き合ってみなきゃ分からないじゃないですか。セックスの相性だって寝てみないと分からないじゃないですか。
いいですか、先輩。会った途端ぴんと来る人なんて簡単には見つかりません。
だから付き合って欲しいと言われたら深く考えちゃダメです。ある程度の基準を満たしていれば付き合ってみればいいんです』

別に選り好みをしているつもりはなかった。
社内恋愛は無かったが、桜子に誘われて合コンにも参加した。
そこで気に入られたこともあった。
短いけど大学時代に付き合ったこともあった。
ただ、グンター・カールソンのことは桜子に話していない。
何しろつくしが入社一年目の出来事であり桜子が入社する前の話だ。それにあの頃は遥か彼方の遠い国に住む人や、ましてや外国人と付き合うといったことを考えたことがなかった。
だがこれも桜子に話していれば、彼女は笑うはずだ。
『先輩は本当に時代遅れなんですから』と。
そんな女に13年前仕事で知り合った男性からの再びの告白は、それこそ青天の霹靂と言われるはずだ。
何しろ相手はヨーロッパの老舗企業の後継者であり副社長。まさか当時エンジニアだった男性がそんな立場に立つとは思いもしなかっただけに驚いた。

そしてその男性からのデートの誘いを受けることにした女は、もうひとり想いを伝えて来た男の冷やかな態度を感じていた。
惚れたと告白はされたが、つくしは道明寺司と付き合いたいと思わない。それに断った。
だが男はニューヨークでつくしの気持を掴みたいと言った。

そして迎えたニューヨークに着いて4日目の夜。
今夜は贈ったドレスを着てくれと言われ、しぶしぶ着たが、着なければならなかった理由が分かったような気がした。
車がレストランに到着し、支配人に案内されて店内を進むあいだ、客たちの視線が感じられた。見るからに高級そうな店の客は、日本人離れした容姿の男が誰なのか知っているのだろう。つくしに対しあからさまな視線を向けることはなかったが、それでも興味を持って見られているのは感じられた。
そして女性客に紺やグレーのスーツ姿は見当たらず、誰もがこの店の華やかさに合うドレスを着ていた。
つまりドレスを着ろと言ったのは、TPOをわきまえた服装ということになるのだが、いつものように真正面に座る道明寺司は端正な顔立ちでつくしに言った。

「そんなに俺と食事をするのは嫌か?」

「え?」

「嫌そうな顔をしてる」

「べ、別に嫌な顔はしていません」

そうだ。嫌な顔はしてないはずだ。それにこれは仕事の一部だと考えれば嫌な顔が出来る立場ではないからだ。
だが逆に訊きたかった。
目の前の男から好きだと言われた。だが毎晩こうして食事に連れて行かれても、好きな人を前に食事を楽しむといった態度ではないと感じていた。

それに今も冷やかな眼差しを向けられれば、とても好きな女を前に食事をしているといった様子は感じられず矛盾を感じるのだ。
それに好きな女の前にいるなら、多少なりとも自分心の裡を晒すはずだが、そういったこともなかった。だから何が楽しくて私とこうして食事をしているんですかと訊きたかった。

だがグンター・カールソンに対する態度は違った。
あれは自分のものを取られまいとするオスの態度だ。だがそれは単なるプライドの話なのかもしれないが、ヴァイキングの衣装も随分変わったの発言は、一歩間違えば無作法この上ない言葉だ。だがグンターは大人だった。それに長身で堂々とした体躯も端正な顔立ちもあの頃と変わらなかったが、目の前にいる男も大柄なグンターに全く引けを取らなかった。
それにしても、副社長のことなど気にすることなど何もないはずだが、好きだ。惚れてると聞かされれば気にしない方が無理なのかもしれない。


「お前は俺とこうして食事をするのは仕事の一部だと言いたいはずだ。そうだろ?だが俺としてはもっと楽しい話もしたいと思っている」

「え?」

一瞬自分の気持が声に出たかと焦り、間の抜けた返事をしてしまった。

「心配するな。言葉は漏れてない」

だがまるで考えを読んだように言われ緊張した。
だがそこで頼んでいた白ワインが運ばれてきて、テイスティングが終るまで二人は無言だったが、知らず知らずのうちに、グラスの柄を握った長い指に視線が吸い寄せられる。
すると手を握られキスをされた時のことが思いだされた。
やがて料理が運ばれ、誰もテーブルの傍にいなくなると男がワイングラスを掲げた。

そして笑ったのだ。
それは今まで見たことがないようなほほ笑み。
今まで何人の女性がそのほほ笑みを目にすることが出来たのか。
滅多に笑わない男の無言のほほ笑みというのは、どんな言葉も添える必要がないほどのパワーがある。こういうのを魅せられるというのだろう。
気が動転するではないが、相手から目をそらすことが出来なかった。
そして顔は赤くなっていたはずだ。

だが何故そんなほほ笑みが浮かんだのか。
目の前の男の感情の起伏の中で歓びを表現する顔は殆ど見ることはないと言われているだけに、魅入られたようになってぼんやりと見つめていたが、グラスをと言われ、無意識に掲げると口へ運んだが、妙な緊張で喉がカラカラに渇いていて、中身をゴクゴクと飲み干してしまった。

「それで?俺と過ごす休日よりグンター・カールソンと過ごす方がいいって?」

棘のある言い方で訊かれて言葉に詰まった。
あの時は、さもつくしが自分のものだという尊大で自信過剰な態度にムカついて腹が立った。だから本当ならカールソンの誘いはやんわりと断るつもりでいたものが、つい行きますと日曜に一緒に過ごす約束をした。

「はい。ニューヨークははじめてですし、せっかく懐かし人に会ったんですからデートを楽しんで来たいと思います」

と、務めてつっけんどんに答えたが、グンターなら話せばわかってくれるはずだ。
ごめんなさいという意味を。だがそれを目の前の男に話す必要はない。

それにしても道明寺司という男の恋愛感覚が分からない。
もしかするとこの男は屈折した恋愛感覚の持ち主なのかもしれない。
だが付き合うつもりはないつくしには関係ない。
それでも、ワイングラスを掲げ浮かべた笑みの意味を考えてしまった。
そしてグンターを見た瞳の冷たさに意味があるなら、その意味は__恋敵を睨んだ目なのか?


「そうか。まあいい。あの男と俺とどっちがいいか比べてもらって構わない。カールソンに負けるつもりはない。だから日曜はゆっくり楽しんでくればいい」

その言い方は最後に欲しいものを手に入れるのは自分だと言っているようなものだ。
だからつくしは正面から副社長を睨みつけ反発を込めて言った。

「比べてとおっしゃいましたが、ご自分の思い通りにいかなかったらどうするんですか?」

冷淡に言ったが、正面の男はニヤリとする。

「思い通りにいかなかったら?そんな言葉は俺の辞書にはない。それに俺が一度こうだと決めたらそうなるはずだ」




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コメント
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dot 2018.05.31 06:24 | 編集
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dot 2018.05.31 11:40 | 編集
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dot 2018.05.31 13:05 | 編集
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dot 2018.05.31 19:28 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
つくしを好きだという司ですが、グンターに比べると自分のことを好きだとは思えない。
そうですよね。グンターは真面目に気持ちを伝える男ですが、司はそうではない。表面上の態度ですからねぇ。
司はまだどこか余裕があるようですが、グンターは司よりつくしを知っていると思います。
まずはグンターとデートとなるのでしょうか。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.31 22:59 | 編集
金**様
紅毛碧眼のハンサムさん。グンターは一度失恋して経験済み。
司よりつくしのことを知っている男です。そして司とは違って真面目に彼女のことを考えています。それに引き換え司は姪の言い分を信じてつくしを…..。
自尊心の高い男は自分に靡かない女をどうするつもりでしょうか。
恋なんて…そんな男はいつか痛い目に合うのでしょうか?それとも?
真実が分かった時、司はどうするのでしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.31 23:02 | 編集
さ***ん様
司の辞書に不可能の文字はない!(≧▽≦)
自信満々の嫌な男ですね(笑)
そして副社長。つくしの心を読んだ?
グンター大丈夫か?
彼も2度目ですから頑張るはずです!
そして司のスマイルは恐ろしいほど魅力的です。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.31 23:04 | 編集
司*****E様
こんばんは^^
さすがにこの辺りのお話になると覚えています。
しかし、細かいところは覚えていないんですねぇ(笑)
いつも細かく書いていただいているので、そうだった、そうだった。そんなことさせたと記憶の扉を開いています。
御曹司もあと少し。そうですねぇ....これから先も増える予定ですので、笑ってやって下さいませ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.31 23:15 | 編集
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