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2018
05.27

出逢いは嵐のように 31

「良かったら僕と出かけない?ニューヨーク初めてなら色々と案内するよ?楽しいところも知ってるしね」

13年振りに会ったカールソンはそう言って悪戯っぽく笑ってウィンクしたが、その仕草にはあの頃の青年の爽やかさが感じられた。
だが相手は40歳。結婚していてもおかしくない年齢の男性がそんなことを言ってもいいのか。それにその誘いが純粋に街を案内したいという思いだとしても、既婚男性と二人切りで出掛けようとは思わなかった。
そんな思いからつくしは訊いた。

「グンターさん、そんなこと言っていいの?」

「何が?」

「何がってグンターさん奥様がいらっしゃるんでしょ?」

「まさか!僕は結婚してないよ。正真正銘の独身。それに今はガールフレンドもいない寂しい40歳だよ。だから誰に遠慮することもない。どう?休みくらいあるんだよね?予定がないなら僕に街を案内させてくれない?」

カールソンはそう言って左手を掲げ指輪が嵌っていないことを見せながら自分よりも25センチ低い女を見つめた。

「それからこんなことを今ここで言うのは場違いだって分かってるけど、幸いここには日本語が分かりそうな人間はいないようだから言うよ。僕は今でも牧野さんのことが好きだ」

「あの__」

つくしは思わず口を開いたが、途中で何を言えばいいのか考えると言葉が出なかった。

「分かってるよ。牧野さんは僕のことを恋愛対象と考えてない。いや。でも少なくとも知り合いって立場は与えてくれてるようだ。だってそうじゃなかったらこうしてここで会ったとしても無視したよね?でも違った。僕のことを懐かしそうに見てくれている」

と言ってカールソンは笑った。





『牧野さんは僕のことを恋愛対象と考えてない』

つくしは、あの日そんな言葉をカールソンに言った。
だが正確にはどんな言葉を言ったかはっきりと覚えていない。何しろ13年の歳月が流れているのだからその時どんな言葉を返したか覚えているはずがない。
だがそれは言った人間はそれきりだとしても、言われた人間は心の中にいつまでも残っていたのかもしれない。

カールソンが日本での滞在を終え、帰国することになったとき、つくしは空港まで見送りに行った。何故そうしたのか。それはただそうしたかったからに過ぎなかった。だがその時カールソンから言われたのは、僕は牧野さんのことが好きになりました。の言葉。流暢な日本語を話す外国人男性からの告白は予想外のことだった。

「あの日牧野さんは一瞬言葉に詰まりましたが、きっぱりと首を横に振って微かな笑みを浮かべて言いました。僕はあの日のことは忘れてませんよ。だからって執念深い男だと思わないで下さい。ただ切ない想い出ですから」

カールソンは思い出して目を細めている。
そして初めは軽やかだった口調が、しだいに真面目なものに変わり、表情が引き締まると青い瞳の底に力強さが感じられた。
それはあの頃より年を取ったこともだが、恋愛の匂いがする話しになったからか。向けられる眼差しは真剣だった。

つくしは22歳で恋らしい恋もしてこなかった自分の姿を思い出していた。
営業担当に誘われ外国から来たエンジニアの男性との食事に行き、カラオケにも気軽に付き合った。カラオケボックスの中でタンバリンを叩くカールソンのリズム感の良さを褒めた。
あの時の雰囲気は日本語がペラペラな陽気な外国人男性と仕事仲間との交流だった。だから出国間際の告白は思ってもみなかったことだった。だがつくしにその気は全くなく、そして相手が海外に住む人間であることからはっきりとした返事をすることを決めた。だから気持は嬉しいけれど、と断った。


「牧野さんが真面目な人だってことは分かっていました。だから僕に変な期待を持たせるような曖昧な返事はしなかった。僕は日本に暮らした経験があるので分かります。日本人はなかなか本音を話すことはありません。ましてや外国人の僕に対してなら尚更だと思いましたが、あの時のあなたは違った。はっきりと言った。だからあの時はきっぱりとフラれました。でも心のどこかにあの時の思いはずっとありました。ここまで言うとやはり執念深い人間のように思われるかもしれませんね?でも違います」


つくしの前で自分の思いを語る男性は、あの時つくしの頬にキスをしたが、それがさよならの挨拶であることは理解出来た。
そして帰国後修理に関する報告書がメールで送られて来たとき、御礼のメールを返したが私信は書かなかった。あくまでもビジネスライクな言葉を並べた。そしてそれっきりカールソンのことを思い出すことはなかった。

そして13年振りにこうして会えば懐かしさが先行したが、
「僕は今でも牧野さんのことが好きだ」の言葉に答えを返さなければならないのだが、答えは決まっていた。だがそのとき頭を過ったのは道明寺副社長のことだ。
好きだ。惚れた。と言われている女は断り続けているが諦めてくれない。
それならカールソンに恋人役を頼もうか。いや。そんなことをするとカールソンに失礼だ。でも事情を話せば引き受けてくれるかもしれない。いや。やはり駄目だ。


「牧野さん、あれから13年経ちました。もう一度僕と付き合うことを考えてくれませんか?実は副社長になってから何度も日本を訪問しています。あなたに会いに滝川産業まで行こうと思ったこともありました。今の僕はエンジニアではありません。こんな言い方をしては自慢をしているように思われるかもしれませんが、不自由はさせない付き合いが出来る。ベルギーと日本という距離があったとしてもその距離を感じさせない付き合いが出来ると思います。ですから考えてくれませんか?」











司は執務室へ戻り、牧野つくしが鉱山事業を管轄する鉄鉱石製鉄資源部に行ったと訊き、エレベーターに乗った。
社内見学する女は仕事熱心なようだ。それともじっと座っていることに疲れたか。
ニューヨーク本社で3日が過ぎたが女は真面目だ。ここでの仕事は、女にとって自分の仕事に全くと言っていいほど関係のない内容で、言葉も専門用語が多く難解で理解出来ないものが多い。だが辞書とタブレット端末を手に理解しようと努力をしていた。

そんな女は食事の席ではよく食べる。それは見ていて気持ちがいいほど見事な食べっぷりだ。黒い大きな目が生き生きと輝く瞬間や口許が緩む姿が何度かあったが、それは今まで司の周りにいなかった女の姿であり見ていて面白いと思えた。だから領事館を後にした時、今夜は何を食べさせてやろうかと考えた自分がおかしく、まるで餌付けをしているように思えた。だが実際あの女は食べ物に対しては柔軟だが、司に対しての態度は頑なであり、いつも引き締まった表情を浮かべるが、もしかして頑固ということか。

だが女のその態度が知らず知らずのうちに戦いを挑んでいるとは思わないようだ。
そしてその頑固さというのが、白石隆信に忠実さを示している元になっているとすれば、その頑なさを溶かさなければならないということになるが、それが固い岩盤なら鉱山を削るように岩盤を掘り起こせばいい。
だが今のペースでは埒が明かない。
それなら強力な削岩機で心を掘り出すか?


司がエレベーターを降りたとき、数メートル先に背中をこちらに向けた牧野つくしが男と話しをしているのを見つけたが、相手は金髪で女を見下ろすように立っていた。
見た事のない男だった。二人の間には初対面には思えない親しげな雰囲気が感じられる。だがニューヨーク本社へ来て4日目の女に知り合いはいないはずだ。


「牧野」

司の声が廊下に響いた。
女はその声に振り返ったが、顔が赤く染まっていた。




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コメント
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dot 2018.05.27 10:21 | 編集
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dot 2018.05.27 23:39 | 編集
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dot 2018.05.28 09:10 | 編集
ふ*******マ様
おはようございます^^
男と一緒にいるつくしの赤い顔を見て嫉妬メラメラ(≧▽≦)
司の心はどう動くのでしょうか。
そしてカールソンはどう動くのでしょうねぇ(笑)
そうなんです、つくしに対する先入観さえ捨てれば丸く収まりそうなんですがねぇ。
日本で白石が密会していた報告が入れば一番いい。そうなんです。それが一番いいんですが、そんな日が来るのでしょうか?
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.28 22:51 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
顔を赤く染めたつくしを見た司!
自分には靡かない女が他の男の前で顔を赤らめている!(≧▽≦)
さてどうする司?

御曹司は現実→妄想→現実といったり来たりしているんですね?
溢れる思いを語る男はどっちの世界が好きなんでしょうね?(笑)
「Meke Me~」はそんなお話でしたか(笑)
いや、本当に細かい所というか、どんな話しだったかということすら忘れています。
不適切な関係に嵌っている時もあるんですね?(笑)
自分で書いておいて本当にそんな話を書いたのかと笑ってしまいました(笑)
それにしてもこの男は、本当は頭がいいのか?それとも悪いのか?
一度思いっきり真面目に仕事させてみたいですね?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.28 22:55 | 編集
さ***ん様
グンター独身でした(≧▽≦)
40歳独身の御曹司。アクティブな類(笑)確かにそういった雰囲気があると思います。
頭の中にいるグンターは背が高くキレイな金髪の青い瞳の男性。
そして遠い昔つくしに告白をしていた彼は再びつくしにアプローチ。
そこへちょっと待ったが入るようです(笑)
削岩機大作戦!(笑)

そして振り向いたつくしの顔は赤かった。
自分に靡かない女が他の男の前で顔を赤らめていた。
これは司にしてみれば衝撃的だったことでしょう。
え?グンターに秘密がある?(笑)凄い趣味がある?(笑)
もしそうだとすれば、アカシアも気になります!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.28 22:59 | 編集
司*****E様
「Crazy In Love」
そうでした!これはBLに走りかけたお話でしたね?(笑)
類と司では司が責められる。
あきら?彼の場合はどちらでしょうか?ちなみに司*****E様はあきらにはどちらの立場がいいと思われますか?
しかし、司の脳内はどうなっているのでしょうか?
本当にこの御曹司、どうしちゃんたんでしょうね?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.28 23:06 | 編集
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