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2018
05.25

出逢いは嵐のように 29

道明寺司がつくしを欲しがる執拗さは尋常ではない。
ニューヨーク本社での勤務は副社長付ということなのか?いや。まさにその通りで文字通り副社長に付いて回ることが求められたが、周囲がつくしを見る目はこの女はいったい何者か?
そんな思いが浮かんでいるのが見えた。

私はただの出向社員です。そんな言葉を言いたいが、訊かれもしないことペラペラと喋る必要はない。そして副社長の傍にいるニューヨーク本社勤務の社員は、エリートと呼ばれるだけのことはあり、中には日本語が堪能な社員もいたが、ここで働くということは、仕事のセンス、力量、手腕といったものが優れているはずで、その条件に全く合いそうにない女に意味ありげな視線が向けられた。

そして時に絡み付くような視線を向けられることがあった。
今までそんな視線が向けられたことは無く、それが嫉妬だとすれば大声で伝えたかった。
私は副社長の恋人でもなければ愛人でもありません。
それに女性社員の敵ではありません、と。

だが俺の望みはお前だ。の言葉は関係を持ちたいという意味だが、今までこんなことを言う男性に会ったことはない。だがこの国の男性は自分の思いを伝える言葉に迷いはない。
イエスかノーかの国であり、曖昧な言葉というのは理解されない。それを考えれば、アメリカ暮らしが長かった男の行動としては、ごく当たり前の言葉なのだろう。
それならば、つくしがそんな男の対処方法として分かるのはただひとつ。
申し訳ございません。私は副社長とはお付き合い出来ません。
その言葉しか見つからなかった。

そしてもしここが日本なら四六時中ひっきりなしに顔を合わせることもないのだが、今のこの状況で道明寺司のことを考えずにいることは至難の業だった。
何しろこの街でのつくしの立場は第二秘書として勉強中の女という肩書が付いていた。
つまり、秘書として副社長に同行する。それが自分に与えられた仕事ならこなさなければならないのが会社員だ。

そして大会議室の中で交わされる話が専門用語の並ぶM&Aや、現在のアメリカは大統領の呟きひとつで政策が変わるという状況から、ある日突然ホワイトハウスの主が変わった時の対応についてといった話や、ロビー活動についての報告に続き、この国の経済政策や通商が変更されるたびに発生するリスクといった話をパソコンの画面を眺め、ひとつひとつの事項に丹念に目を通しながら説明を求める男の姿は、噂に訊いていたビジネスマンとしての道明寺副社長の姿だ。

そしてつくしにとってこの状況は、一気にグローバルビジネスの最前線に立たされたようなものだ。
だがつくしは本来なら末席に座ることも許されないような立場の人間だ。
言語が英語から時にスペイン語に変わり耳に入るも、何を喋っているのか理解出来ないのは当たり前だが、自分は何をすればいいのか。まるで傍聴者のようにただ腰かけているとしか言えなかった。

だがこうして円卓から離れた場所で副社長の姿を見れば、誰もがその姿に惹き付けられるのも分かるような気がする。
何しろ道明寺司はビジネスの於いて他の追随を許さない男だ。そして世間が言う通りカリスマ性がある。
そんな人が自分のことを好きだと言った。だがその態度はこの人の本当の姿ではないような気がした。
それに弱い立場の人間を翻弄するようにも思えた。それと同時に副社長に惚れたと言われたことが圧力のように感じられた。そして今の状況は普通ならありえない環境に迷い込んでしまったとしか思えなかった。

だが仮定の話だが、もし初めから副社長のことを受け入れていればこうはならなかったのか?つまりこうしてニューヨークへ連れて来られることはなかったのではないか?
つくしはニューヨーク4日目にしてようやくひとりの時間が持てた中で考えていた。
今この時間の副社長は、在ニューヨーク日本国総領事と会談のため領事館まで出掛けていた。だからつくしは役員フロアに用意された自分専用の小さなオフィスでやっと一息つくことが出来た。

この3日間。会議、視察、会議と繰り返されていたが、会議は朝から夜まで続き、視察も朝から夜まで。つまり途切れることなくあくまでも効率的に組まれたスケジュールなのだが、会議に至っては目まぐるしく議題が変わった。
つくしはその全てを理解出来た訳ではない。手元の資料でなんとなくといった程度のものが多かった。

そして毎晩食事は一緒。初日はペントハウスだったが二日目からはレストラン。
恐らくとても有名な店なのだろうが、店の中は煌びやかすぎて自分には全く合わない店だと思った。そして初日の食事が終りホテルまで送られ、つくしがいくら遠慮しても部屋の前まで送ると言われ譲らなかった。

「あの…夕食ごちそうさまでした」

と礼を言ったが、つくしの緊張は隠せるはずもなく、それは相手にも伝わったはずだ。
そう思った刹那、

「そんなに緊張するな。いきなり部屋に押し入るつもりはない」

と言われ、歓迎会の時と同じように手にキスをされ、やはりあの時と同じで無理矢理引き抜いたが、男の顔には笑みが浮かんでいた。その笑みが意味するのは食事の時に言われた『男と女の関係は単純なことだ。好きならその女を自分のものにする。嫌いなら別れればいい。今の俺の望みはお前だ』の言葉だ。

あの時つくしはその言葉を受け流した。
そして嫌いになれば別れればいい、の言葉を解釈した。それは自分だけの気持を優先し、相手を切り捨てるように感じられ、この男性は今まで自分から人を好きになったことがないからそんなことが言えるのだと思った。そしてつくしのことを好きになったと言ったが、発せられたその言葉はつくしの気持ちにそぐう言葉ではなかった。

そんな気持ちを抱いた女は廊下を去っていく男を見送ったが、ドレッシングルームに足を踏み入れてみれば、つくしの物ではない有名ブランドのタグが付いたドレスが掛かっていた。そしてそれに似合うようにコーディネートされたバッグと踵の高い靴が棚の中にあった。

翌日、

「あんなドレスいただけません」

と言えば、

「必要経費だ。ここにいる間に必要になることもある」

と返されたが、2週間の間に必要になるとは思えなかった。
とにかく、何もかもが初めての3日間だった。



つくしは空いたこの時間。社内で自由に過ごしていいと言われていた。
だが自由に過ごせと言われても、宛がわれたこの部屋で辞書を片手に資料を読み込むことが仕事だ。

それでも化粧室に行くことは仕事以外の日常だ。
だから部屋を出たが、少し社内を見学するのは許されるはずだ。
つくしはそんな思いから、エレベーターに乗り込むと金属資源を扱う部門を探しに出かけることにした。何しろ滝川産業は産業機械専門の商社だ。そして扱っていた商品の中には土木鉱山機械と言ったものがあり、岩盤を砕く機械を手配したこともあった。
そんなことから道明寺の鉱山事業を行う部門を覗いてみたかった。
そして目指す部門があるフロアの廊下を歩いていたが、突然後ろから名前を呼ばれ振り向いた。






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コメント
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dot 2018.05.25 07:29 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2018.05.25 20:43 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
望まずして来てしまったNY。
会議と視察と会議。そして夕食は一緒。
つくしの傍に張り付くことを決めた副社長ですの行動です(笑)
しかし、総領事に会いに行っている間、束の間の息抜き時間が与えられたつくし。
そして現れたのは誰?
この人物が司の考えを覆してくれるのか?それとも?
自分がいい男の自負がある男がつくしを落とすのは大変ですね?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.25 22:37 | 編集
司*****E様
こんばんは^^
御曹司は妄想と現実を行ったり来たり(笑)
忙しい男ですねぇ(笑)
そしていつも読ませていただいて、ああ、そんなこと書いていた!(≧▽≦)
と記憶が甦ります。それにしても本当にこの男は!ですね?
彼の頭の中にある宇宙は、つくしが中心にいてその周りを司が回っている。
大人になったのに彼女の行動に一喜一憂する男ですね?(笑)

いつもお忙しい中、ありがとうございますm(__)m
そんなこと書いていたと再認識?再確認させていただいています^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.25 22:51 | 編集
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