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2018
05.22

出逢いは嵐のように 27

ニューヨーク近郊のプライベートジェット専用空港でタラップを降りれば、そこには運転手がリムジンのドアを開け待っていた。
大企業の経営者やハリウッドの大物俳優はプライベートジェトを利用するのが当たり前となっているが、その理由は極秘情報のやり取りや書類の作成といったものが出来ることもだが、プライバシーが守られる。他人の目を気にすることがないのが一番の利点だと言われている。

司のように名の知れた男となれば、パパラッチのカメラが常にその姿を狙っていた。
だがそれは今に始まったことではなく、彼が道明寺財閥の御曹司として生まれた時からあった。だから今更だという思いもあり、余程のことがないかぎり記事の訂正を求めることもカメラマンを告訴することもなかった。
だが極端にプラバシーが犯されるとなればそれはまた別のこと。
そうなれば相手を徹底的に潰していた。

男の切れ長の黒い瞳の深さや、すっきりと高い鼻。
はっきりとした顔立ちは東洋人、ひいては日本人のステレオタイプとはかけ離れており、被写体としての男の姿はモデルと見紛うばかりだ。そしてその外見と共に併せ持った財力に惹かれる女たちが大勢いた。
その中にはモデルや女優。そしてアメリカでも名だたる企業の令嬢もいるが、司はここ2年誰とも付き合っていなかった。それこそあきらではないが仕事の忙しさもあり女どころではなかった。そして女などその気になればいつでも手に入るという思いもあった。
そんな男は姪から夫の不倫相手を誘惑し弄んで捨てて欲しいの言葉に同意した。

その女はジェットがニューヨーク上空に差し掛かり、遠くにマンハッタンが見え始めたとき、額を窓に擦りつけるように近づけ外を見ていた。
それはこの街を初めて訪れる人間なら誰もが見せる態度。
東京も大都会でエキサティングな街だと言われているが、ニューヨークはそれ以上で訪れる者を夢中にさせる街だ。世界中から訪れる観光客は年がら年中引きも切らず、街を歩けばあらゆる場所にスマートフォンのカメラを向け撮影する。
今では街のどこにでも素人カメラマンが大勢いて、スクープ写真を撮ることを目的にしている観光客もいた。
それは司にとって見慣れた風景だが、女にとっては初めて見る風景だ。
だから司はリムジンの隣の席で黙って大人しく窓の外を眺めている女を観察することが出来た。

チャコールグレーのスーツに身を包んだ女は機内でも緊張した面持ちで隣に座っていたが、ここでこうして隣に座る女も緊張しているのが感じられた。
そしてその様子は自分のことを好きだと言った男が隣に座っているのに関心がない。男に魅力的に思われたいといった考えは全く感じられない。むしろ放っておいて欲しいように見える。
そして司がお前に惚れたと言った言葉など無かったかのような態度だ。
それはまるで司に対する心構えというものを自分自身に叩きこんで来た。あくまでも上司と部下であって恋人として関係を持ちたいといった態度はない。

だがたとえ女が職業意識の塊だとしても海外という環境に気持ちがおおらかになり、この出張を楽しんでやろうという気が起きてもおかしくないはずだ。
司も女がそうなると思っていた。つまり白石隆信のいないこの街で自分を好きだという男と楽しんでもいい。そんな思いがあってもいいはずだ。だが牧野つくしの態度にはそんな思いはひとかけらも感じられなかった。








「牧野」

その呼びかけにつくしの心臓は跳ね上がった。
はい、と答え顔を隣に向けた。そして何を言われるのかと構えた。

「長旅で疲れたか?」

だが問われた言葉は相手を気遣う言葉であり素直に答えることが出来た。

「いえ。大丈夫です。プライベートジェットに乗ったのは初めてですが、とても快適な旅でした」

「そうか。そうは言っても疲れたはずだ。今日の予定は特にない。ホテルに着いたらゆっくり休め」

「はい。ありがとうございます」

つい今しがた快適な旅と答えたが、二人の間に交わされた会話は快適には程遠く気楽とは言えなかった。
特につくしにとっては落ち着かないものだった。
次に何を言われるのか。いきなり直球が飛んで来るのではと考えれば言葉を選びながらの発言だ。だが努めて慌てず騒がす落ち着いた態度でいようと思い、それ以上何も問われなかったからホッと胸を撫で下ろし前を向いた。

それにしても、やはり自分が道明寺ニューヨーク本社を訪れなければならない意味が全く見いだせないでいた。だが別室の人間は皆快く送り出してくれた。

気を付けて行ってらっしゃい。ニューヨークは世界中にある特別な街と言われる街の中でも一番特別な街よ、と言ったのは佐々木純子だ。

『人種問わずの街だから東洋人だからって目立つこともないし、手ぶらで信号待ちをしていれば道を尋ねられるわよ?私はメイシーズ(アメリカのデパート)の中でトイレの場所を訊かれたことがあるの。旅行者なのによ?日本人なら東京で金髪の人間に道を尋ねることはないでしょ?でもね、向うでは髪の毛や肌の色がどんな色でも関係ないの。自分がその街以外の出身なら平気で訊いてくるから日本人からすれば、どうして私に訊くのって不思議な気分よ?でもそれがニューヨーク。だから私はそのときトイレはあっちよ、って言ったの。でも本当はトイレの場所なんか知らなかったけどニューヨーカー気取りが出来ると思って言ってみたわ。でも彼女。間に合ったのかしらね?』

佐々木はそう言って笑わせてくれたが、果たしてつくしがメイシーズへ買い物に行く機会があるのだろうか。
そして彼女は言葉を継いだ。

『それにしても牧野さん。あなた副社長に見初められるなんてシンデレラガールね?これからはあなたのこと、気軽に食堂に誘えないわ』

と言ったが、とんでもありません。私はその気はありませんと否定したが、本気とは受け取られなかった。


滝川産業にいた頃。
仕事帰りに桜子と食事に行ったり、時に買い物に行ったりしていた。
だが今のつくしは出向してからはそれが無くなった。だがその代わり副社長から告白され、ニューヨークの出張に同行を求められリムジンの中で隣に座っていた。
いや。厳密に言えば求めるではなく業務命令だ。そしてそれはつくしにとっては意外すぎる展開だ。

惚れたと言われるまで直ぐ近くにいたとしても客観的に見ることが出来た。
ハッとするほど整った顔だとしても気にならなかった。
だが今はすぐ隣に座る男性を意識するなという方が無理だ。
車に乗る時もお先にどうぞとばかりにエスコートされたが、それがアメリカでは当たり前の態度だとしても、ニューヨークに自分がいること自体が理解出来ないことであり、口説かれることが信じられなかった。

つくしは自分が平凡な人間で美人でもなければ、ひと目を引く人間でもない。
それに副社長とでは格の違いといったものは明らかだ。
そして桜子にも話したようにつくしには全くその気はないのだから、ニューヨークにいる間に俺のことを知ることになるはずだと言われたが、一体何を知って欲しいと言うのか。




「牧野?」

「は、はい!」

つくしは突然話かけられ、今度は一体何を言われるのかと身構えた。

「そう緊張するな。何もお前をいきなり取って喰おうっていうんじゃない」

男の目を見て頷くしかなかった。
そしてここは、その言葉を信じるしかないと自分自身に言い聞かせた。
そうだ。この街には仕事で来たはずだ。たとえ副社長の考えがどうであれ、この街に来たのは仕事のためだ。

やがて車が速度を落としはじめた。これから2週間滞在するホテルに着いたのだ。
そこはホテルメープルニューヨーク。ニューヨークにある高級ホテルの中でも上位にランクされているメープルは財閥の経営だ。そんなホテルのどんな部屋でもいい。
もうここまで来れば早く部屋の中に入って休みたいだけだった。





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コメント
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dot 2018.05.22 07:40 | 編集
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dot 2018.05.22 17:28 | 編集
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dot 2018.05.23 09:14 | 編集
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dot 2018.05.23 19:29 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
NY出張がはじまりました。
ここで堕とせなかったら計画失敗(笑)確かにそうですよね?
でも今のつくしは警戒心ばかりのようです。
白石隆信の不倫相手がつくしではないと知った時の司の態度がどう変わるか。
今はまだ全然です!(笑)

おおっ!起床時間が同じです。家を出るのは私の方が少しだけ遅いです。
寝坊したとき、起き上って時計を見た途端、どうしよう!と慌てながらも身体が高速スピードで動くのが不思議です(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.23 21:38 | 編集
司*****E様
再び。メモありがとうございます。
それにしても、書いていただいたものを読めば自分に呆れます。
本当に何を書いてるんでしょうね?(笑)素面では書けませんねぇ(笑)
読めば読むほど司はソレばかり(≧▽≦)
そんなお話を何度も読み返していただき、ありがとうございますm(__)m
アカシアdot 2018.05.23 21:47 | 編集
さ***ん様
え?同じ部屋?
でもここはニューヨーク。どうでしょうねぇ?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.23 21:52 | 編集
司*****E様
こんばんは^^
何度もコメントOKです!
そして...やはり読めば読むほど、アカシアの頭どうなんですか!状態です。(笑)
執務室でそんなことばかり考えている男は大丈夫なのでしょうか?

昨日は、テレビはついていましたが記憶がありません。
ただ酷く疲れていた実感がありまして寝落ちしていました。後ほど見たいと思います。
楓ママ。出てくれるといいですね^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.23 22:03 | 編集
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