沢田のようにしたたかに酔っていたのではない。
それでもつくしは酔いがすっかり醒めてしまっていた。
『お前は俺を好きになるはずだ』
そしてそんな言葉をぬけぬけと言い放つことが出来る男をまじまじと見つめた。
「そんなに睨むな。俺はお前に自分の気持を伝えただけだ」
「べ、別に睨んでいません!」
つくしは思いっきり強く否定したが、別室のメンバーが去った座敷に上司と部下が二人きり。
それも相手は誰もが羨む美貌と財産を持つ道明寺司。
そんな男から堂々とした態度を取られ対処を迫られる女は、透明な蜘蛛の糸が張り巡らされたように感じられるのは気のせいか。
小さな昆虫は空中に張り巡らされた見えない糸に絡め取られ動けなくなり、やがて頭から食べられてしまうが、そんな光景が頭を過ったのは思い過ごしだろうか。
すると、なぜ自分が出向社員として選ばれたのか。目の前の男に下心があったのかと思うが道明寺副社長が権力を笠に着て女を無理矢理どうにかするとは思えなかった。
それは男の自信の表れから感じられるプライドというものがあるからだ。
それなら今ここで何かされるということは絶対にないはずだ。それに直ぐに付き合うことは求めないと言われた。だが現実問題としてこの状況を抜け出すことを考えなければならなかった。
一旦視線を逸らし目の前に並ぶ空の皿に目を落とし咳払いをひとつしてみる。
少し前まで座が賑わっていたというほどでもなくても、話は弾んでいた。ただし副社長を除いてだが、今は座敷の広さの分だけ感じられる静けさに何をどう返事をすればと考えるが、いい年をした大人の女が言い寄られたくらいで慌てるのはみっともないと口を開くも、まさか上司以外考えられなかった男性から異性として意識をしろと求められるとは思いもしなかった。
「あの。お気持ちは大変嬉しいのですが申し訳ありません。先ほども申し上げましたように今の私は誰かと付き合おうといった思いはありません」
と、ついさっき口にした同じ言葉を繰り返したが相手はニヤリと笑った。
司は思いもしなかった女のあしらいぶりが気に入った。
二人きりになれば、男からの告白に媚びを作り熱い眼差しを向ける女を見れるはずだと思ったが、そうでないことに堕とし甲斐があると感じた。
そして、私はただの社員で立場が違うと言ったが、他人の夫を盗んでおきながら自分の立場を主張した女のずうずうしさに、自らの立場をわきまえているなら妻がいる男と付き合うことは出来ないはずだ。泥棒猫め。立場をわきまえろ。と女に投げつけたい言葉を呑み込み口を開いた。
「誰かと付き合う気になれないか?それなら今まで通りでいい。だが俺がお前に惚れていることは知っておいてくれ。俺は思いを心の中に秘めて過ごすことは苦手だ。はっきり言えばそういった性分じゃない」
司は自分の思いを強く印象付けることをすると同時に、今まで通りでいいと言ったが、好戦的な細胞は憎悪を抱く女に無視されることを許さなかった。そしてなんとしても女を堕とし、自分のものにしてやるといった気持ちは益々強くなっていた。
そして司の言葉に女が逡巡する様子が見て取れたが、少し時間を置いて口にした言葉は意外な言葉だった。
「上司と社員の距離を破ることは、職場環境としていいとは言えないはずです」
その言葉はセクハラ、パワハラといった言葉を婉曲に表現していて、口調はきっぱりとしていた。
それを別室の仲間たちの前で言わなかったのは、司に対しての配慮があったとしても、副社長である自分に靡かない女のその態度は、今付き合っている男に対しての思いの強さがそうさせるなら、余程白石隆信のことが好きだということになるが、少なくとも男を両天秤にかけるような女ではないことだけは分かった。
それならと、副社長である自分を追い払おうとする女の態度に即座に決断した。
「いいか?」
司は断り座卓の上の置かれていたシガレットケースから煙草を1本取り出した。
そして悪い。ちょっと吸わせてくれと言って銀色のライターで火を点けた。
俯きながら火を点けるその仕草は、決して計算されたものではなくとも映画のワンシーンのように人を惹き付ける力があった。そして長く美しい指は棘ひとつ刺さったことがないと言われ、そんな男の仕草に見惚れる女が多いのも事実だ。
無意識の仕草が女を惹き付けるのは神が与えた才能と言われてもおかしくはない。
だがそんな男にじれったい時間を持たせる女も寝てしまえばこっちのもの。
美奈の夫の白石隆信のことを忘れさせ、自分に夢中にさせ、そして司自身が選んだ終わり方をすればいい。
「お前の気持は分かった。それならそれで上司と部下でいい。だけどな。お前は俺を好きなるはずだ。いや。好きにさせてみせる」
司は自分の言葉つきに苦笑した。
女に対し自分を好きになるはずだなど言ったことは無かった。
そんな男が女に向かって放った言葉は甘ったるさを感じさせた。
小さな国の国家予算を凌ぐ売上高がある企業のトップに座り、若い頃から女に人気があった男は、自分から女に近づいたことはない。せいぜい大勢の女の中から選択すればいいだけで好きになることはなかった。セックスぼけすることもなかった。
そして自分の容姿や金。道明寺財閥の跡取りという好条件が女たちを引き寄せることは分かっていた。
だが目の前の女が求めるのはそんなものではないと言うことか。
「それから俺は来週ニューヨークへ行くがお前には同行してもらう」
つくしは、予想もしなかった話に座布団から立ち上がりそうになった。
「ち、ちょっと待って下さい!ニューヨーク出張って、私は出向して来た社員ですよ?別室の中でも末席に座る人間ですよ?仕事だって上っ面をなぞるような状況です!そんな私がニューヨーク出張って一体何をする…..」
つくしの声は叫びに近くなっていたが、司は被せるように言った。
「ああ。そうだな。お前は出向して来た社員だ。だからと言って海外出張に行けない理由はない。お前は出向社員で短い期間しかいない社員だとしても、うちの会社にいる以上は俺の部下だ。俺は入社年次に関係なく能力のある人間を重視する。道明寺での経験はお前にとってプラスになるはずだ。いい経験になるはずだ。それとも俺と海外出張に行くのは嫌か?」
つくしは急いで過去の思いをたぐり寄せる。
出向が決まったとき戸惑ったが、せっかく選ばれたのだから期待に応えよう。頑張ろうと決めた。だが自分のことを好きだと言った男と出張することは予想外だ。
「でもあの_」
「お前のさっきの言葉を借りれば上司と社員の距離を保てばいいんだろ?」
男の口振りは女の辞退などとっくに予想していたのだろう。
つくしの動揺した声など意に介さず話を続ける。
「それに言ったはずだ。直ぐに付き合えとは言わない。但しニューヨークにいる間に俺を知ることになるはずだ」

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それでもつくしは酔いがすっかり醒めてしまっていた。
『お前は俺を好きになるはずだ』
そしてそんな言葉をぬけぬけと言い放つことが出来る男をまじまじと見つめた。
「そんなに睨むな。俺はお前に自分の気持を伝えただけだ」
「べ、別に睨んでいません!」
つくしは思いっきり強く否定したが、別室のメンバーが去った座敷に上司と部下が二人きり。
それも相手は誰もが羨む美貌と財産を持つ道明寺司。
そんな男から堂々とした態度を取られ対処を迫られる女は、透明な蜘蛛の糸が張り巡らされたように感じられるのは気のせいか。
小さな昆虫は空中に張り巡らされた見えない糸に絡め取られ動けなくなり、やがて頭から食べられてしまうが、そんな光景が頭を過ったのは思い過ごしだろうか。
すると、なぜ自分が出向社員として選ばれたのか。目の前の男に下心があったのかと思うが道明寺副社長が権力を笠に着て女を無理矢理どうにかするとは思えなかった。
それは男の自信の表れから感じられるプライドというものがあるからだ。
それなら今ここで何かされるということは絶対にないはずだ。それに直ぐに付き合うことは求めないと言われた。だが現実問題としてこの状況を抜け出すことを考えなければならなかった。
一旦視線を逸らし目の前に並ぶ空の皿に目を落とし咳払いをひとつしてみる。
少し前まで座が賑わっていたというほどでもなくても、話は弾んでいた。ただし副社長を除いてだが、今は座敷の広さの分だけ感じられる静けさに何をどう返事をすればと考えるが、いい年をした大人の女が言い寄られたくらいで慌てるのはみっともないと口を開くも、まさか上司以外考えられなかった男性から異性として意識をしろと求められるとは思いもしなかった。
「あの。お気持ちは大変嬉しいのですが申し訳ありません。先ほども申し上げましたように今の私は誰かと付き合おうといった思いはありません」
と、ついさっき口にした同じ言葉を繰り返したが相手はニヤリと笑った。
司は思いもしなかった女のあしらいぶりが気に入った。
二人きりになれば、男からの告白に媚びを作り熱い眼差しを向ける女を見れるはずだと思ったが、そうでないことに堕とし甲斐があると感じた。
そして、私はただの社員で立場が違うと言ったが、他人の夫を盗んでおきながら自分の立場を主張した女のずうずうしさに、自らの立場をわきまえているなら妻がいる男と付き合うことは出来ないはずだ。泥棒猫め。立場をわきまえろ。と女に投げつけたい言葉を呑み込み口を開いた。
「誰かと付き合う気になれないか?それなら今まで通りでいい。だが俺がお前に惚れていることは知っておいてくれ。俺は思いを心の中に秘めて過ごすことは苦手だ。はっきり言えばそういった性分じゃない」
司は自分の思いを強く印象付けることをすると同時に、今まで通りでいいと言ったが、好戦的な細胞は憎悪を抱く女に無視されることを許さなかった。そしてなんとしても女を堕とし、自分のものにしてやるといった気持ちは益々強くなっていた。
そして司の言葉に女が逡巡する様子が見て取れたが、少し時間を置いて口にした言葉は意外な言葉だった。
「上司と社員の距離を破ることは、職場環境としていいとは言えないはずです」
その言葉はセクハラ、パワハラといった言葉を婉曲に表現していて、口調はきっぱりとしていた。
それを別室の仲間たちの前で言わなかったのは、司に対しての配慮があったとしても、副社長である自分に靡かない女のその態度は、今付き合っている男に対しての思いの強さがそうさせるなら、余程白石隆信のことが好きだということになるが、少なくとも男を両天秤にかけるような女ではないことだけは分かった。
それならと、副社長である自分を追い払おうとする女の態度に即座に決断した。
「いいか?」
司は断り座卓の上の置かれていたシガレットケースから煙草を1本取り出した。
そして悪い。ちょっと吸わせてくれと言って銀色のライターで火を点けた。
俯きながら火を点けるその仕草は、決して計算されたものではなくとも映画のワンシーンのように人を惹き付ける力があった。そして長く美しい指は棘ひとつ刺さったことがないと言われ、そんな男の仕草に見惚れる女が多いのも事実だ。
無意識の仕草が女を惹き付けるのは神が与えた才能と言われてもおかしくはない。
だがそんな男にじれったい時間を持たせる女も寝てしまえばこっちのもの。
美奈の夫の白石隆信のことを忘れさせ、自分に夢中にさせ、そして司自身が選んだ終わり方をすればいい。
「お前の気持は分かった。それならそれで上司と部下でいい。だけどな。お前は俺を好きなるはずだ。いや。好きにさせてみせる」
司は自分の言葉つきに苦笑した。
女に対し自分を好きになるはずだなど言ったことは無かった。
そんな男が女に向かって放った言葉は甘ったるさを感じさせた。
小さな国の国家予算を凌ぐ売上高がある企業のトップに座り、若い頃から女に人気があった男は、自分から女に近づいたことはない。せいぜい大勢の女の中から選択すればいいだけで好きになることはなかった。セックスぼけすることもなかった。
そして自分の容姿や金。道明寺財閥の跡取りという好条件が女たちを引き寄せることは分かっていた。
だが目の前の女が求めるのはそんなものではないと言うことか。
「それから俺は来週ニューヨークへ行くがお前には同行してもらう」
つくしは、予想もしなかった話に座布団から立ち上がりそうになった。
「ち、ちょっと待って下さい!ニューヨーク出張って、私は出向して来た社員ですよ?別室の中でも末席に座る人間ですよ?仕事だって上っ面をなぞるような状況です!そんな私がニューヨーク出張って一体何をする…..」
つくしの声は叫びに近くなっていたが、司は被せるように言った。
「ああ。そうだな。お前は出向して来た社員だ。だからと言って海外出張に行けない理由はない。お前は出向社員で短い期間しかいない社員だとしても、うちの会社にいる以上は俺の部下だ。俺は入社年次に関係なく能力のある人間を重視する。道明寺での経験はお前にとってプラスになるはずだ。いい経験になるはずだ。それとも俺と海外出張に行くのは嫌か?」
つくしは急いで過去の思いをたぐり寄せる。
出向が決まったとき戸惑ったが、せっかく選ばれたのだから期待に応えよう。頑張ろうと決めた。だが自分のことを好きだと言った男と出張することは予想外だ。
「でもあの_」
「お前のさっきの言葉を借りれば上司と社員の距離を保てばいいんだろ?」
男の口振りは女の辞退などとっくに予想していたのだろう。
つくしの動揺した声など意に介さず話を続ける。
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司*****E様
おはようございます^^
>付き合いたくない女と、何としてでも目的を達成するためには付き合いたい男の攻防戦!(≧▽≦)
はい。そうです。その通りです!
男は自分の魅力をさり気なく振りまきながらもストレートな言葉と行動も忘れません。
そして女はそんな男に対して靡くどころか、警戒心を強めています。
ニューヨークへ女を連れて行くことにした司。
さあ、つくしは司の魅力に参るのか?それとも?
飲むと浮腫む(笑)
確かに(笑)
そしてその症状で若くないと実感するんですね?
身体は正直ですからねぇ。無理は禁物です。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
>付き合いたくない女と、何としてでも目的を達成するためには付き合いたい男の攻防戦!(≧▽≦)
はい。そうです。その通りです!
男は自分の魅力をさり気なく振りまきながらもストレートな言葉と行動も忘れません。
そして女はそんな男に対して靡くどころか、警戒心を強めています。
ニューヨークへ女を連れて行くことにした司。
さあ、つくしは司の魅力に参るのか?それとも?
飲むと浮腫む(笑)
確かに(笑)
そしてその症状で若くないと実感するんですね?
身体は正直ですからねぇ。無理は禁物です。
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.05.18 23:33 | 編集

司*****E様
再び。ありがとうございます!
いや。アカシア、そんなこと書いていたんですね‼ (苦笑)
頭の中どうかしてるんじゃないの?と思われてもおかしくないと思います。
妄想も激しいけれど、実際にいたしている!(≧▽≦)
この男。もう完全にキャラ崩壊ですね?
ごめんなさいとしか言えませんが、こんな司でもオッゲッ!(OK)ですか?
そしてINDEX作れそう!(笑)確かに。
作品を見直すきっかけになります!ありがとうございます!m(__)m
再び。ありがとうございます!
いや。アカシア、そんなこと書いていたんですね‼ (苦笑)
頭の中どうかしてるんじゃないの?と思われてもおかしくないと思います。
妄想も激しいけれど、実際にいたしている!(≧▽≦)
この男。もう完全にキャラ崩壊ですね?
ごめんなさいとしか言えませんが、こんな司でもオッゲッ!(OK)ですか?
そしてINDEX作れそう!(笑)確かに。
作品を見直すきっかけになります!ありがとうございます!m(__)m
アカシア
2018.05.18 23:44 | 編集

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ま**ん様
つくしを堕とすという自信満々な態度と言葉を話す男。
誤解を受けていることを知らない女は、自分の周りで繰り広げられる出来事のすべてが誤解から生じているとは知りません。
そして司はつくしをモノにして弄んで捨てる気でいますが、どうなるんでしょうねぇ(笑)
逆に司をメロメロにしてやれ!(≧▽≦)本当にその通りです。
そしてつくしではない姪の不倫相手は誰なのか。
そして司はいつそのことに気付くのか。
物語はニューヨークへ....。あ、そこは司のホームグランドですね(笑)
コメント有難うございました^^
つくしを堕とすという自信満々な態度と言葉を話す男。
誤解を受けていることを知らない女は、自分の周りで繰り広げられる出来事のすべてが誤解から生じているとは知りません。
そして司はつくしをモノにして弄んで捨てる気でいますが、どうなるんでしょうねぇ(笑)
逆に司をメロメロにしてやれ!(≧▽≦)本当にその通りです。
そしてつくしではない姪の不倫相手は誰なのか。
そして司はいつそのことに気付くのか。
物語はニューヨークへ....。あ、そこは司のホームグランドですね(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.05.18 23:53 | 編集

さ***ん様
副社長、燃えております!
演技してたら本当に好きになった。その可能性は大ですね!(笑)
セック〇ぼけ、で引っ掛かった!
すみません。アカシアの書く文章にはそんな言葉があちこちに見受けられると思いますが、それをかいくぐってのコメントありがとうございます!(≧▽≦)
そうです。『エロ曹司』初期の頃の御曹司のお話に命名して下さいました。
あの司はキャラ崩壊ですが、それはつくし限定のエロさであり、他であんな事やこんな事やそんんな事はいたしません。
しかし御曹司の妄想はいつまで続くのでしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
副社長、燃えております!
演技してたら本当に好きになった。その可能性は大ですね!(笑)
セック〇ぼけ、で引っ掛かった!
すみません。アカシアの書く文章にはそんな言葉があちこちに見受けられると思いますが、それをかいくぐってのコメントありがとうございます!(≧▽≦)
そうです。『エロ曹司』初期の頃の御曹司のお話に命名して下さいました。
あの司はキャラ崩壊ですが、それはつくし限定のエロさであり、他であんな事やこんな事やそんんな事はいたしません。
しかし御曹司の妄想はいつまで続くのでしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.05.19 00:08 | 編集
