司が唇を押し当てた手は強い力で引き抜かれた。
びっくりした顔は口が開き、引き抜いた手を自分の胸にあてその上に左手を重ねていた。
そして頬は赤く染まっているが、それは酒を飲んだ以上の赤さでうろたえていた。
司はそんな女の顔をじっと見つめた。
物事が思惑通りに運ぶことが当たり前の男にとって女の態度は今まで周りにいた人間たちとは違ったものに見えた。
司が生きてきた人生の半分は海外。それはニューヨークを拠点にロンドンやパリ、モスクワといった大都会からアジア、アフリカそして中東と世界中がビジネスのフィールドで、女との付き合い方は欧米のやり方が染み付いていた。手を取りキスをするなど軽い挨拶程度であり照れるようなことではない。
そして付き合っている女をエスコートすることもだが、セックスにもパターンがあった。延々と睦あうことはなく終わればベッドを出た。
セックスは自慰と同じ。射精というのは生理的欲求の解放。
身体が満足すればそれでいいといったものだった。だから愛してる、と言われあなたは?と問われたとき、ああ。としか答えなかった。
外人の女は大袈裟なよがり声が耳に障るが、最後に付き合ったニューヨークの女もそうだった。だがその女は司と別れるとき、司と話しをするより秘書と話した時間の方が多かった。秘書を通さなければ司と話しをすることが困難だったと言った。
つまり秘書がスケジュールを調整しなければ会えない男というのは、まさにビジネスのような付き合いであり、恋人とは言えなかった。
だが司はそんなことは気にしなかった。
人生の中で恋愛を真面目なことと考えるか。それともそれ以外のことの方を真面目に捉えるか。人それぞれだが司は後者の方だ。だから女との付き合いは、セックスだけの関係であり、情感が通い気持ちが高揚するということはなかった。
だが牧野つくしの手を取り、掌にキスをした時ギョッとした顔をした女をもっと困らせてやろうと思った。気持ちが高揚した。女を弄んで捨てて欲しいと言った姪の願いを叶えてやる過程は楽しそうだと思った。
だが女はなかなか手強い。
「突然で驚かせて悪いがそんなにびっくりした顔をするな。滝川産業でお前が応接室に入ってきた瞬間から俺の神経は全てお前に向いていた。それからここにいる人間を気にする必要はない」
司は女がびっくりして言葉が出ない様子をそのままに落ち着き払って平然と言い、目配せしたのは牧野つくし歓迎会に集まった別室のメンバーたち。
副社長の突然の行動に皆一様に驚いた顔をしているが、その中で一番年上の財務の小島が司の思考を読んだ。
「副社長。それではわたくし達はお先に失礼いたします」
「ああ。今日は急なことだったがよく集まってくれた。車を手配させているから使ってくれ」
小島に声をかけられて、田中、沢田、佐々木の三人は鞄を手に立ち上ったが、酔っぱらっていた沢田は足がもつれ、小島に咎めるような目を向けられたが田中に手を貸されながら座敷を後にした。
司は二人きりになるとどんな女の前でも見せたことがない笑みを浮かべた。
その笑みは女なら見たいと言われる司の笑み。
それを牧野つくしの前で作って見せた。
女の化けの皮を剥がしたい思いが笑顔を作らせた。
そして司の言葉に女の瞳が揺れたのを見た。
つくしは別室のメンバーが席を立ち、座敷を後にする姿を見送るしかなかった。
それが社員教育の賜物だとは思わないが、道明寺という会社に勤めている以上、社員たちは副社長の意向を汲むことが当たり前なのだろう。
そしてその副社長が惚れただの交際を申し込むだのといった言葉を発するところを見た彼らは、それを口外すれば自分の身が処されることも理解している。
それならつくしはどうすればいいのか。
だがこれが副社長の立場を利用したセクハラと捉えるなら、訴えればいいはずだ。
だがただの告白ならそこまで考えることもないと思うが、料亭の座敷に二人きりで残された女はどうすればいいのか。
返事を求められているとしても答えはただひとつ。
失礼にならないように断ることだが、返答に窮していたが何とか口を開いた。
「あの、副社長。交際をとおっしゃられましたが困ります」
「どうして困るんだ?」
「どうしてって……私はただの社員です。立場というものがあります」
「立場って?」
「た、立場って…道明寺副社長は副社長です。でも私はただの社員で立場が違い過ぎます。それに今の私は誰かと付き合おうといった思いはありません」
つくしは曖昧な言い方をすれば、仕事に支障をきたすと思いはっきりと言った。
それにまさかといった思いの方が大きい。それに何故自分がといった意識が頭の中を占めていた。
目の前の男性が有能な副社長であることは勿論知っている。それに女性にモテることも。
そしてそんな男性が女性を選ぶ基準といったものがハイレベルであることも知っている。
ごく普通の女子社員に思いを寄せるような人間ではないはずだ。
だから意図があると考えるのだが、それはおかしいだろうか。
それに何を求めてそんなことを言うのか。
つくしは気持ちを落ち着け喉を潤そうと湯飲みを手に取った。そして全て飲み干してから大きく息を吸ったが、何も言わずにいると、副社長はまたびっくりするようなセリフを口にした。
「身体が目的じゃない」
「は?」
「だからお前の身体が目的じゃない」
「な、なんですかいきなり…そんな…」
「だから身体が目的じゃない。聞こえなかったのか?」
「き、聞こえてます!」
「それならいい」
いいと言われても一体何がいいのか。
それにしても、目の前の男性は自分の立場をわきまえているのだろうか。身体が目的じゃないはセクハラ発言そのもの。
それにもし仮に身体が目的だとしても….身体に自信はない。
そして権力を笠着て交際を迫るならパワハラだ。
つくしは心持ち顔を上げ発言を正そうと真っ直ぐに彼の顔を見つめた。
「あの、道明寺副社長今の発言は_」
「人を好きになるのに理由がいるか?それにお前は自分がただの社員だって言ったが、それが悪いことか?人を好きになるのに算盤をはじく人間がいるか?とにかく俺の気持は伝えた。別に直ぐに付き合えとは言わない。だけどな_」
司はそこまで言ってニヤリと笑った。
そしてのんびりと言った。
「お前は俺を好きになるはずだ」

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びっくりした顔は口が開き、引き抜いた手を自分の胸にあてその上に左手を重ねていた。
そして頬は赤く染まっているが、それは酒を飲んだ以上の赤さでうろたえていた。
司はそんな女の顔をじっと見つめた。
物事が思惑通りに運ぶことが当たり前の男にとって女の態度は今まで周りにいた人間たちとは違ったものに見えた。
司が生きてきた人生の半分は海外。それはニューヨークを拠点にロンドンやパリ、モスクワといった大都会からアジア、アフリカそして中東と世界中がビジネスのフィールドで、女との付き合い方は欧米のやり方が染み付いていた。手を取りキスをするなど軽い挨拶程度であり照れるようなことではない。
そして付き合っている女をエスコートすることもだが、セックスにもパターンがあった。延々と睦あうことはなく終わればベッドを出た。
セックスは自慰と同じ。射精というのは生理的欲求の解放。
身体が満足すればそれでいいといったものだった。だから愛してる、と言われあなたは?と問われたとき、ああ。としか答えなかった。
外人の女は大袈裟なよがり声が耳に障るが、最後に付き合ったニューヨークの女もそうだった。だがその女は司と別れるとき、司と話しをするより秘書と話した時間の方が多かった。秘書を通さなければ司と話しをすることが困難だったと言った。
つまり秘書がスケジュールを調整しなければ会えない男というのは、まさにビジネスのような付き合いであり、恋人とは言えなかった。
だが司はそんなことは気にしなかった。
人生の中で恋愛を真面目なことと考えるか。それともそれ以外のことの方を真面目に捉えるか。人それぞれだが司は後者の方だ。だから女との付き合いは、セックスだけの関係であり、情感が通い気持ちが高揚するということはなかった。
だが牧野つくしの手を取り、掌にキスをした時ギョッとした顔をした女をもっと困らせてやろうと思った。気持ちが高揚した。女を弄んで捨てて欲しいと言った姪の願いを叶えてやる過程は楽しそうだと思った。
だが女はなかなか手強い。
「突然で驚かせて悪いがそんなにびっくりした顔をするな。滝川産業でお前が応接室に入ってきた瞬間から俺の神経は全てお前に向いていた。それからここにいる人間を気にする必要はない」
司は女がびっくりして言葉が出ない様子をそのままに落ち着き払って平然と言い、目配せしたのは牧野つくし歓迎会に集まった別室のメンバーたち。
副社長の突然の行動に皆一様に驚いた顔をしているが、その中で一番年上の財務の小島が司の思考を読んだ。
「副社長。それではわたくし達はお先に失礼いたします」
「ああ。今日は急なことだったがよく集まってくれた。車を手配させているから使ってくれ」
小島に声をかけられて、田中、沢田、佐々木の三人は鞄を手に立ち上ったが、酔っぱらっていた沢田は足がもつれ、小島に咎めるような目を向けられたが田中に手を貸されながら座敷を後にした。
司は二人きりになるとどんな女の前でも見せたことがない笑みを浮かべた。
その笑みは女なら見たいと言われる司の笑み。
それを牧野つくしの前で作って見せた。
女の化けの皮を剥がしたい思いが笑顔を作らせた。
そして司の言葉に女の瞳が揺れたのを見た。
つくしは別室のメンバーが席を立ち、座敷を後にする姿を見送るしかなかった。
それが社員教育の賜物だとは思わないが、道明寺という会社に勤めている以上、社員たちは副社長の意向を汲むことが当たり前なのだろう。
そしてその副社長が惚れただの交際を申し込むだのといった言葉を発するところを見た彼らは、それを口外すれば自分の身が処されることも理解している。
それならつくしはどうすればいいのか。
だがこれが副社長の立場を利用したセクハラと捉えるなら、訴えればいいはずだ。
だがただの告白ならそこまで考えることもないと思うが、料亭の座敷に二人きりで残された女はどうすればいいのか。
返事を求められているとしても答えはただひとつ。
失礼にならないように断ることだが、返答に窮していたが何とか口を開いた。
「あの、副社長。交際をとおっしゃられましたが困ります」
「どうして困るんだ?」
「どうしてって……私はただの社員です。立場というものがあります」
「立場って?」
「た、立場って…道明寺副社長は副社長です。でも私はただの社員で立場が違い過ぎます。それに今の私は誰かと付き合おうといった思いはありません」
つくしは曖昧な言い方をすれば、仕事に支障をきたすと思いはっきりと言った。
それにまさかといった思いの方が大きい。それに何故自分がといった意識が頭の中を占めていた。
目の前の男性が有能な副社長であることは勿論知っている。それに女性にモテることも。
そしてそんな男性が女性を選ぶ基準といったものがハイレベルであることも知っている。
ごく普通の女子社員に思いを寄せるような人間ではないはずだ。
だから意図があると考えるのだが、それはおかしいだろうか。
それに何を求めてそんなことを言うのか。
つくしは気持ちを落ち着け喉を潤そうと湯飲みを手に取った。そして全て飲み干してから大きく息を吸ったが、何も言わずにいると、副社長はまたびっくりするようなセリフを口にした。
「身体が目的じゃない」
「は?」
「だからお前の身体が目的じゃない」
「な、なんですかいきなり…そんな…」
「だから身体が目的じゃない。聞こえなかったのか?」
「き、聞こえてます!」
「それならいい」
いいと言われても一体何がいいのか。
それにしても、目の前の男性は自分の立場をわきまえているのだろうか。身体が目的じゃないはセクハラ発言そのもの。
それにもし仮に身体が目的だとしても….身体に自信はない。
そして権力を笠着て交際を迫るならパワハラだ。
つくしは心持ち顔を上げ発言を正そうと真っ直ぐに彼の顔を見つめた。
「あの、道明寺副社長今の発言は_」
「人を好きになるのに理由がいるか?それにお前は自分がただの社員だって言ったが、それが悪いことか?人を好きになるのに算盤をはじく人間がいるか?とにかく俺の気持は伝えた。別に直ぐに付き合えとは言わない。だけどな_」
司はそこまで言ってニヤリと笑った。
そしてのんびりと言った。
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ふ*******マ様
嫌な感じの司がパワーアップ!(笑)
心の声。はい届いております。
姪っ子可愛さのあまり見えてない男。身内には甘いですね?
自分で調査しろ!と思うもそこは直接的に自分自身のことではないだけに、調査に至ってないように思われます。
毎日ばんばん訪問!どうぞごゆっくりとなさって下さい。と言ってもこんなお話ではねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
嫌な感じの司がパワーアップ!(笑)
心の声。はい届いております。
姪っ子可愛さのあまり見えてない男。身内には甘いですね?
自分で調査しろ!と思うもそこは直接的に自分自身のことではないだけに、調査に至ってないように思われます。
毎日ばんばん訪問!どうぞごゆっくりとなさって下さい。と言ってもこんなお話ではねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.05.17 20:50 | 編集

司*****E様
獲物を狙うハンター。
でも遊び半分ですからね?ただプライドの高い男は自分に靡かない女に会ったことがないと思いますので、半分ムキになっているような気が…。
そしてお忙しい中、ありがとうございます。<(_ _)>
とても助かります。そうだった!そんなこと書いてた!(≧▽≦)
と振り返ってみるも、かなり恥ずかしい内容ですね?
そんな司を容認して頂けることに感謝しかありません(^^;
コメント有難うございました^^
獲物を狙うハンター。
でも遊び半分ですからね?ただプライドの高い男は自分に靡かない女に会ったことがないと思いますので、半分ムキになっているような気が…。
そしてお忙しい中、ありがとうございます。<(_ _)>
とても助かります。そうだった!そんなこと書いてた!(≧▽≦)
と振り返ってみるも、かなり恥ずかしい内容ですね?
そんな司を容認して頂けることに感謝しかありません(^^;
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.05.17 20:56 | 編集

イ**マ様
どちらが先に恋におちるのか。
この段階では司の方がおちているように思われますが、それに気づいていない男なのかもしれませんね?(笑)
そして自分がつくしに対し抱いている感情は変化していく日が来るはずですが、その日は何時なのでしょうねぇ。
その時、司はどうするのでしょうねぇ?(笑)
コメント有難うございました^^
どちらが先に恋におちるのか。
この段階では司の方がおちているように思われますが、それに気づいていない男なのかもしれませんね?(笑)
そして自分がつくしに対し抱いている感情は変化していく日が来るはずですが、その日は何時なのでしょうねぇ。
その時、司はどうするのでしょうねぇ?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.05.17 20:59 | 編集

司*****E様
一大イベントお疲れ様でした。
そして再びですがお忙しい中、沢山書いていただき、ありがとうございます。
それにしても、本当になんてことを書いているのでしょうね?(≧▽≦)
自分で読み返すことはないですが、こうして改めて目にしてみると、どうなんでしょうねぇ(笑)この男、やはりアブノーマルです!妄想し過ぎですね?(≧▽≦)
結婚するまでこの調子だとすれば、かなり危ない男になっているような気がします。
コメント有難うございました^^
一大イベントお疲れ様でした。
そして再びですがお忙しい中、沢山書いていただき、ありがとうございます。
それにしても、本当になんてことを書いているのでしょうね?(≧▽≦)
自分で読み返すことはないですが、こうして改めて目にしてみると、どうなんでしょうねぇ(笑)この男、やはりアブノーマルです!妄想し過ぎですね?(≧▽≦)
結婚するまでこの調子だとすれば、かなり危ない男になっているような気がします。
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.05.17 21:02 | 編集

さ***ん様
くさい台詞もさらっと言う男(≧▽≦)
何しろ御曹司で鍛えていますから。あれ違う?(笑)
「身体が目的じゃない」三連発(笑)
「それならいい」(笑)
本当に何がいいんでしょね?
自慢の鼻を折ってやりたい。(笑)
今は自信満々な男ですが、いつか自分の思いは間違っていたと気付いた男はどうするのでしょうね?(笑)
自己嫌悪に陥るのか、それとも?
御曹司のパターンで行くと我が身を反省する時間は1分あればいいという男ですからねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
くさい台詞もさらっと言う男(≧▽≦)
何しろ御曹司で鍛えていますから。あれ違う?(笑)
「身体が目的じゃない」三連発(笑)
「それならいい」(笑)
本当に何がいいんでしょね?
自慢の鼻を折ってやりたい。(笑)
今は自信満々な男ですが、いつか自分の思いは間違っていたと気付いた男はどうするのでしょうね?(笑)
自己嫌悪に陥るのか、それとも?
御曹司のパターンで行くと我が身を反省する時間は1分あればいいという男ですからねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2018.05.17 21:07 | 編集
