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2018
05.15

出逢いは嵐のように 22

恋を仕掛けることを決めた男が本気になれば堕ちない女はいない。
司は酒には弱いと言った牧野つくしが、自分の歓迎会だからなのか、勧められる酒を飲みながら話す様子を観察していたが、彼氏がいるのかと訊いた沢田の問いにどう答えるのか興味があった。
美奈の夫と付き合っている女はなんと答えるのか?
そして女の口から出た答えは、付き合っている男はいないだった。

嘘つきは泥棒の始まりと言うが、まさにその言葉通りの女が、まともに答えなど返すはずがないと思っていたが、やはりそうだ。
同僚たちに本当のことを話すはずがない。いや話せるはずがない。
それに話せばどんな相手かと訊かれる。そうすれば次から次へと嘘をつかなければならなくなるからだ。

今では同僚たちからの信頼を得た女は優秀だ。
仕事はきちんとこなすと言われ、協調性にも優れ態度や言動にも問題はないと言う。それなら司が同僚たちの前で発した言葉になんと答えるつもりか?
まずはお手並み拝見といこう。







「それなら俺はどうだ?」

それは沢田が牧野つくしの恋人に立候補すると言ったが、恋人の対象じゃないと断られた話の続き。副社長は牧野つくしに恋人がいないなら、自分がその恋人になると言っている。

司の言葉に田中と小島は顔を見合わせ、佐々木純子はつくしの顔を見た。
そしてこの場に流れる沈黙が意味するのは、次に口を開くのは誰かといった空気の流れ。
それなら司の言葉は牧野つくし向けられたものなのだから、彼女が副社長の言葉に応えなければならないはずだ。
だが、司の言葉も沢田と同じ冗談ではないか。
そういった思いがここにいる全員の頭の中にあるのも確か。
けれど副社長の放った言葉に軽さは感じられず、もしかすると冗談ではなく本気で言ったのではないか。そんな空気が漂い始めていた。

副社長は酔ってはいないはずだ。
それならやはり本気なのか?
その思考は司にも伝わった。

「彼氏がいない女の恋人に立候補する。俺ならどうだ?俺に関心を持たれるのは迷惑か?」

再び言ったその言葉に沈黙を破ったのは沢田だ。
酔いが回っていた沢田だったが、突然覚醒したように居住まいを正し、座布団の上にきちんと正座し、隣に座る牧野つくしに身体ごと向いた。

「牧野さん。僕は牧野さんの彼氏になりたいって立候補しました。でもそれは本気じゃないです。そうです。僕が言ったのは冗談ですから。どうぞ副社長とお付き合いして下さい」

と、さっきまで呂律が怪しかった沢田が今度ははっきりと言葉を放つ。

「牧野さん。副社長は御覧の通りのいい男です。男の僕でも憧れる存在です。そんな副社長が牧野さんのことを好きなら僕はお二人がお付き合いされるのは賛成です」

沢田はそこまで言うと、今度は身体を司の方へ向け頭を下げた。

「副社長。すみませんでした。僕は牧野さんに対して冗談を言いました」

そこまで言った沢田は再びつくしの方へ身体を向け、他の3人もつくしを見た。
つまりここにいる5人の視線は今夜の主役であるつくしに戻っていた。
そして彼女の答えを待っていたが、つくしは曖昧にほほ笑みながら困惑していた。
それはどう答えればいいのかもそうだが、副社長の告白とも言える言葉が冗談ならいいという思い。だから副社長の口が再び開かれ、沢田のように冗談だったと言ってくれればみんなで笑えるのだが、つくしの目の前の男は黙ったままだ。

「あの…..」

つくしは努めて冷静な表情を浮かべ口を開いたが、何を言えばいいのか分からず言葉を探した。それは失礼な言い方にならないように断る言葉。
けれど、切れ長の黒い瞳にじっと見つめられれば、頭の中で準備している言葉が口をつくことはなく黙り込んでしまった。
それでもなんとか口を開き言ったのは、

「あの副社長。どうして私は副社長に怒られてるんでしょか?」

怒られている?
意外な言葉が耳に届き司の片眉が僅かに上がった。
そしてここにいる誰もが不思議そうな顔をした。何故ならテーブルを挟み向かい合わせに座っている男は怒ってはいないからだ。

副社長の顔はクールだが、それはいつもの表情で別室メンバーが今まで目にしてきた表情だ。
それに誰もが思ったのは、道明寺副社長に恋人になりたいと言われ喜ばない女性はいないはずだ。だが牧野つくしは喜ぶどころか怒られていると感じる感覚が不思議だった。

だがつくしには男の秀麗な顔の中にとても恋人に立候補したい思いがあるとは感じられなかった。だがそれが普段から表情を変えることのない男の愛情の表現の仕方だとしても、付き合いたいといった言葉に相手に対する熱い思いといったものは感じられなかった。
だから目の前の男の言葉は本心ではないと思った。
それに、からかわれているのではないかと思った。
先程の沢田と同じで冗談ではないかと思った。

それに恋というのは、ビジネスのようにクールな対応をするものではないはずだ。恋をしているなら、相手が好きならもっと違う思いが感じられるはずだ。
だが目の前の男は、初めて会った時から目を逸らす事の出来ない何かがあると感じ、漆黒の瞳は獲物を狙うようだったが、今はその瞳の中には冷たい輝きがあった。だから何かが違うと感じていた。
好きな女性に冷たい瞳を向ける男性はいないはずだ。



司は牧野つくしから返された思わぬ言葉に目を見開き、女の顔に移ろう感情を読み取ろうとした。そして、たいしたものだと思った。
怒られていると言い話を全く違う方へ動かそうとしている。
だがそうはさせまいとした。

「ここにいる皆も聞いて欲しい。突然こんなことを言って驚いただろう。だが俺も驚いている。俺は牧野つくしに惚れた。だから交際を申し込むつもりだ。本当ならこんなに早く伝えるつもりはなかったが沢田があんなことを言ったからついあせっちまった」

司はそう言いながら腹立たしさを隠していた。
そして自分に興味を持たない女のその態度に一瞬だけ睨みつけたが、その表情は直ぐに消え、周りから好奇の目で見られたとしても、全く気にならないと身を乗り出し座卓の上にあったつくしの右手を握った。
突然握られた自分の右手を驚いた様子で見つめる女は顔を司に向けた。そして手を引き抜こうとしたものの、しっかりと握られ放してはもらえなかった。

「あの、副社長…」

男が手に力を込めたので、つくしは痛さを感じていた。
司は女が痛みを感じているのを分かっていたが、わざと力を込め放さなかった。
それは女が自分を気にしないことへの苛立ち。そして自分から逃げようとしていると感じられ逃がすものかという思い。
もしも金目当ての女なら司と付き合うことが出来れば、金も名誉も手にはいる。それが目当てなら女は司の申し出に飛びつくはずだ。
だが女の態度はそうではない。
司はそこで女の前で見せたことのない笑みを浮かべた。

「手を握りたかったから握らせてもらった」

と言った男はつくしの伏せられた手を取り掌を上に向け、そこに唇を押し当てた。




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コメント
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dot 2018.05.15 06:13 | 編集
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dot 2018.05.15 09:29 | 編集
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dot 2018.05.15 15:00 | 編集
司*****E様
司はこれからどんな手段に出るのか。
そしてつくしは?
司にしてみれば、この女狐め!と思っているかもしれませんね?
そして自分に靡かない女に執着を見せ始めた?
恋におちるには、何か決定的なことが起きなければ無理なのか?
この二人に何か起きるのでしょうかねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.15 23:35 | 編集
一**子様
おはようございます^^
セクハラ上司(笑)
本当にねぇ。その通りです。でも司のように色気のある上司に迫られたら、それ、セクハラです。とは言えないです。
司は世の中に稀にいるそんな男たちのひとりですから。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.15 23:40 | 編集
さ***ん様
役者司は、牧野つくしを口説こうと決めたようです。
そして沢田は一気に酔いが覚めたようです。
>夢芝居の司を越える演技力 (≧▽≦)
御曹司は妄想の男ですが、こちらは演技力が問われます。
そしてどこまで演技が続くのか。
あの外見で迫られ逃げれるのかつくし!
いかん。頭の中にまだ御曹司が居座り続けています(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.15 23:51 | 編集
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dot 2018.05.16 00:12 | 編集
司*****E様
こんばんは^^
早速ありがとうございます(低頭)
おおっ!そんな話がありましたね?(笑)
なんだか懐かしいです(≧▽≦)
メモっときます!( ..)φ
ありがとうございます!


アカシアdot 2018.05.16 00:23 | 編集
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