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2015
10.27

まだ見ぬ恋人12

つくしはその日の昼食を食べそこなった。

金曜の午後、つくしの机のうえの電話が鳴った。
仕事に集中していた彼女はパソコンの画面を見ながらうわの空で受話器を取った。
「つくし?滋だけど今いい?」
「滋さん?もちろん大丈夫よ」
「ねえ、司そこにいる?」
「支社長?今日はお見えになってないわよ?」
「そっか・・司ったら逃げた?」
電話の相手は小さく呟いていた。
「え?なに?」
「あ、ううん、何でもないこっちの話し!」
「あのさ、つくし今晩空いてる?」
「今晩?うん大丈夫」
「やったね!じゃあ悪いんだけど道明寺での仕事が終わったらこっちに寄ってくれる?」

夕方、道明寺HDのビルから出て来たつくしはお腹がすき過ぎて胃液で胃が痛くなりそうだった。

「つくしお腹すいてるよね?」
「うん、ついうっかり日本時間に合わせて仕事してたら気がついたらもう12時になっててね、あっちは1時間早いでしょ?そうしたら電話がかかってきちゃってお昼を食べそこなったのよ。その後も電話がひっきりなしだったから机の中にあったチョコレートをつまんだだけで・・」
「よーし!じゃあどんどん注文しちゃおうかな!」
滋はウェイターに手を上げて合図をしていた。
「えっと、このメニューのここからここまで全部持ってきて。それからワインとビールとオレンジジュースもお願い」
ウェイターがうなずくのを見て滋はまだ注文しようとしていた。
「ち、ちょっと滋さん?」
「つくし、他になにかいる?」
「こんなに注文して誰が食べるんですか?」
「え?もちろんあたし達だよ?」
「このアイスクリームって美味しそうだけど、カロリー高そうよね?」
彼女はさらに続ける。
「滋さん、もう十分だから!」
つくしは叫んでいた。


ウェイターが立ち去ると滋は話し始めた。
「ねえ、つくし・・司のことどう思う?」
「 ? 」
つくしは一瞬黙り込み、ぽかんとした顔で滋を見た。
「だからっ、道明寺司のことよ!」
「えっ?支社長?滋さんなんでそんなこと聞くの?」
「うーん。それが週初めにね、つくしの今後について聞かれたんだけど・・
うちから道明寺HDへ転籍してくれないかって話しが出てね」

「ええっ?なにそれ、そんな話し聞いてない・・」
つくしは当惑した。
「そりゃそうだよ、今初めて話ししたんだもん」
滋は咳払いをして話しを続けた。
「でね、うちとしてはつくしみたいな優秀な人材を失いたくないって言ったんだけどさ、あの男もたいがいしつこい男でね。もとが粘着質なのよね・・。でさ、つくしの気持ちを聞かなきゃそんな転籍は認められないって言っといたからね。で、つくしはどうする?」

「どうするもこうするも・・なんでそんな話しが二人の間で出たの?」
つくしは口を挟んだ。
「いや・・それがさぁ、例のスイスの企業がいよいよ危ないんじゃないかって話しが出てるのよね。もう株価なんて乱高下しててさぁ。ホントにヤバイんじゃないかって言われてるところ。もうリーマンショックどころじゃないかもよ? でね、そこがA国にもうひとつ鉱山を持っていてね、そこは鉄鉱石の鉱山でさ、鉄鉱石は司のところが扱いが大きいから買わないかって話しが出てるみたいなの。
それにA国も中国資本が入るより日本の企業に操業を続けてもらったほうがいいみたいでね・・。やっぱりA国でも株主の反発とか色々あるみたいなのよね。だからたぶん道明寺で買収することになると思うの。それにこれを足掛かりに未開発鉱区の開発に力を入れたいんじゃないかな?」

滋はビールをひとくち飲んで考えるように言った。
「それにつくしがこのまえ官僚達と話しをしてくれて色々と上手くいったじゃない?
これからはうちと道明寺との合弁会社の方より、司のところ単体の方がA国との取引の比重が大きくなるみたいだし、どうしてもつくしの事が欲しいって言ってきたの!」
「あれはたまたま知り合いだったからで・・」
つくしが話し終わる前に滋が割りこんだ。

「なに言ってんのよっ!どこの国だって人脈を生かすのはビジネスのひとつだよ。
ほら、知り合いの知り合い繋がりってのもあるでしょ?初対面の知らない人間とビジネスをするよりも紹介を受けた人間の方が信頼も得やすいものよ。紹介をされた人間もした人間も仲介相手のメンツとか色々考えて行動するのはどこの国でも同じなんだから」
滋は話しながらも口を動かし次々とテーブルに運ばれてくる料理に手をつけていく。

「うちはつくしがいなくなるとちょっと困るかもしれないけど、始めたころより随分と軌道にのってきたし・・どうかな?
うちもね、色々とあいつの会社にはお世話になっててむげに断れない部分もあってさ・・」
滋はつくしがいなくなるのは残念だけど・・というふうに言った。

「ねえつくし、まさかとは思うけどあいつに何かされた?」
「え?」
滋の目がきらめいた。
「あいつ今はつくしの前で猫かぶってるけど、本当は野獣だからね」
「どういうこと?支社長ってまさかセクハラ男・・」
「やだ、つくし。違うってば!そういう意味じゃなくてね、司はつくしのことが好きなのよ!」

ふたりは一瞬黙り込んだ。
「え?なにつくし気がつかなかった?やだ、ゴメンね。話すんじゃなかったね。でもどうみても司のつくしに対する態度は普通じゃないもん。あの男、つくしの前では紳士ぶってるけど本当は・・・うひひひ・・」
滋は両手を揉み合わせるような仕草をしてみせていた。

*****

つくしのほうでは彼に対して好奇心はあったが好意を感じているかと聞かれればあくまでも上司と部下としか考えていなかった。
少なくとも自分ではそう考えていただけに滋の発言に驚かされた。
そして何日かたつうちに、最近ではつくしの頭のなかに滋の言った言葉が思い出されるまでになっていた。
『 司はつくしのことが好きなのよ 』
滋さんの勘違いなんじゃない?そう言ったとき、滋ははっきりと言い切った。
『 勘違いなんかじゃないよ。一度は好きになった男のことだからわかるの 』
つくしは滋のそんな言葉にも驚かされていた。


そしてつくしはこのタイプの男は危険だと判断していた。
彼女のまえに座っている男はよく見ればまれに見る美貌をまとった男だったから。
つくしは自分があからさまに見惚れているのではないかと気にした。
まるで美しい彫刻を眺めているようだった。
滋に言われるまで彼のことを意識したことがなかった。

向かいの席に座りノートパソコンのキーボードのうえで彼の両手が素早く動いているのを見ていた。
「どうした?」
そう言いながらも司はパソコンの画面を見つめながら手を休めることをしなかった。
「なにか問題でも?」
そう問われたつくしははっとして滋に言われた転籍のことを聞いてみることにした。
「あの、支社長、滋さんから私の転籍の話しを聞いたんですが、それはどういうことでしょうか?」
つくしはおずおずと聞いた。
「ああ?」
司はそのとき初めてパソコンに目を落とすのを止めて顔をあげた。
「滋さんから事情は聞きました。道明寺HDでA国の鉄鉱石の鉱山を買収して事業を継続されるとか」
「ああ、A国通商部からも打診があって今んとこ鋭意検討中だな。一応成り行きで買収案は提示してきたけどな」
「買収されるんですか?」
「おそらくな。あの国も中国資本が出張ってくるのは警戒してるみたいだしな」
司はにやっと笑った。
「今はやりの言い方をすれば日本との戦略的互恵関係を重視してるみたいだな」
「自山鉱比率(*)はどうなるんですか?道明寺が100パーセントになるんですか?」
「ああ。うちが全額出資だからすべてうちのもんだ」
つくしの目は驚きに大きく見開かれていた。
「そうなんですか!凄いじゃないですか。日本の企業で100パーセントの権益を有するなんて初めてですよ!」
つくしは立ち上がるとデスクに身を乗り出していた。
こんな凄い事業にかかわれるなら道明寺HDに転籍して是非一緒に仕事をしたいと思った。
「牧野どうだ?俺と・・いや、道明寺HDに入ってこの事業に加わる気持ちはないか?」
司は椅子にもたれかかると彼女を見つめていた。
それは仕事とはまったく無関係な思いを秘めていた。






*自山鉱比率=出資比率に応じて原料鉱を引き取る比率


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コメント
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dot 2015.10.27 10:58 | 編集
た*き様
スケール大きすぎました?(笑)
道明寺HDですからそのくらいの資本力はあると思いまして(笑)
日本の産業発展と資源の安定供給のためにも買収して頂きました。
本当はダイヤモンド鉱山でも買ってもらおうかとも考えましたが
そちらは魑魅魍魎の渦巻く世界ですので鉄鉱石にしました(^^)
アカシアdot 2015.10.27 21:25 | 編集
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