2018
05.12

出逢いは嵐のように 21

和服の女性に先導される高級料亭の一室で開かれる食事会。
それは副社長である司のひと声で決定した牧野つくし歓迎会。
次の間の奥、青々とした畳の本座敷に設えられた座卓の中央に対面して座るのは、今日の主役である牧野つくしとホストである副社長の道明寺司。
参加者はエネルギー事業部石油・ガス開発部別室のメンバーである技術の田中。財務の小島。法務の沢田。そして経理の佐々木。

金曜日の夜、集まった4名は副社長の突然の招集にノーが言えるはずがない。
だがそれは強制ではない。
それでも誰も断わらない。
むしろ大歓迎だ。何しろ副社長と酒を飲むチャンスはこれから先の人生で二度とないからだ。
それに主役を入れて6人という人数に対し料亭の豪華な料理というのは、ごく普通の会社員レベルからすれば、歓迎会レベルを遥かに上回る料理内容だ。

そして大企業の経営幹部や政治家が利用する高級料亭は一見さんお断りだ。
何かの特別な日であったとしても、予約を受けてもらえる場所ではない。
だがこれが副社長と直結している部署だからこその待遇だとしても、牧野つくしの存在がなければ、こんな食事会はなかったと別室の面々は思っていた。









「それにしても凄い所ですね。僕はこんなところに来たことありません」

それは当然だ。
法務の沢田はまだ20代半ばで別室の中では一番若い。
そしてここにいる面々は、皆いい高校を出ていい大学へ入学し道明寺に就職した人間ばかりだが、それぞれに長所短所というものがあるが、沢田は身の回りの整理が苦手な人間だ。
そして彼は他の3人に比べ酒には弱く、それほど飲んだわけでもないのに、今日の主役であるつくしに答えにくい質問を次々に投げかけて来る。

すると佐々木純子に「沢田くん。あなた法務でしょ?そんなこと言ったらセクハラになることくらい分かるでしょ?」と言われても「彼氏はいるんですか?」と平気で聞いていた。

「ごめんなさいね、牧野さん。沢田くん頭はいいんだけど、片付けとお酒には弱くてね。以前4人で懇親会をしたことがあるんだけど、その時もそんなに飲んだわけじゃないのに潰れちゃってね。二人が送って行ったのよ?」

二人とは技術の田中と財務の小島。
40代の二人は副社長より年上ということもあり、節度というものをわきまえているが、沢田はいたってマイペースだ。だがそれも今では慣れた。
何しろ初出勤の日。つくしは沢田のデスクの周りに積み上げられていた資料を地下倉庫まで運んだが、それからも何度か彼の資料の整理を手伝っていた。それに沢田という青年はどこか憎めないキャラクターの持ち主だと思っている。

「牧野さん?飲んでますか?ここの料理もですがお酒も最高ですよね?この料亭に来られたのは副社長のお陰ですけど本当に凄い場所ですよね?」

ここで出される日本酒は生涯に一度は飲んでみたいと言われる最高級クラスの日本酒。
つくしの猪口に酒を勧めてきたのは副社長。返そうとしたが手酌でいいと言われ、全員で猪口を差し出し乾杯をしてから随分と時間が経っていた。

そして沢田から飲んでますか?と言われたがつくしは酒に弱い。
そのことは先日副社長にも言ったが、飲みすぎると自分の置かれている状況の判断がつきにくくなる。だがこの料亭で飲む酒は、喉を滑らかに流れ落ちる水のように感じられ、猪口を運ぶピッチが上がったが毎回注いでくれるのは副社長だった。

鉄板焼きの店で副社長と二人だけでは飲む事が躊躇われたが、こうして仲間がいれば安心感があるというのだろうか。
つまりあの時は、二人だけでお酒を飲んで何かあってはといいう気持が働いていたということだが、今は仲間がいるせいか気が大きくなっていた。
銘柄は分からないが、とにかく美味しい酒だと感じた。

そしてつくしの真正面に座る男は、切れ長の瞳を伏せ猪口を口に運んでいたが、思わず見惚れるほど端正な顔だなと思う。だがその瞳がつくしに向けられたとき目が合ったが、隣の沢田の言葉に横を向いた。

「それで、牧野さんは彼氏いるんですか?」

沢田の言葉にここにいる全員が注目しているのは、つくしが今日の主賓だからだが、彼氏がいるかと二度も訊かれるとは思いもしなかった。
だが沢田の言葉に裏表というのだろうか。いやらしさは感じられなかった。

人と人の関係は誰もが最初は赤の他人から始まるが、学校や職場といった場所で繋がりが出来れば、そこから段々と他人とは言えない関係が構築されていく。特に今の職場は人数も少ないことから関係は濃くなりがちだ。だがそれが居心地の悪いこととは感じられない。
それはこのメンバーの人柄といったものが優れているから、信頼関係といったものが構築されていると感じていた。
だから沢田の質問も、この年になってはぐらかすのも大人げないと正直に答えていた。

「それが居ないのよ。今はひとり…」

と言いかけたところで、沢田は最後まで訊かず被せるように言った。

「そうなんですか!じゃあ僕が立候補してもいいですか?僕年下ですけど、どうです?僕は年上の女性大歓迎です。それに牧野さんは年上って気がしないんですよ。なんて言うんでしょうね?可愛らしい大人の女性って感じがします!」

酔った沢田からの告白を本気に取るほどつくしもバカではない。
だがそれがもし本気だとしても、それこそ5人しかいない環境での恋愛など無理だ。
それに申し訳ないが20代の沢田と35歳のつくしでは、仕事は別だが話が合わない。

「沢田。お前には無理だ。いいか。牧野さんはお前より大人だ。お前がもっと大人にならない限り牧野さんは相手にしてくれないぞ?」

と言ったのは財務の小島。
そして言葉を継いだのは技術の田中。

「そうだ。大体お前は落ち着きがない。牧野さんは大人の男性と付き合う方が似合ってる。お前がもう少し大人になれば問題ないが今のお前じゃ無理だな」

40代の既婚男性は子供がいる。そして佐々木も結婚していることから、別室の中で独身なのは沢田とつくしだが、二人の男性は沢田がまだ子供でつくしとどうにかなるとは考えてもいない。

「そうですかぁ?僕じゃ無理ですかぁ?そう言いますけどねぇ。僕だってそれなりにモテる男なんですよ?そりゃ会社の名前で惹かれてる女性もいると思いますけど!こう見えても僕は慶応ですから!」

沢田はいよいよしたたかに酔って来たのか、ぶつくさと呟くではないが明らかに口調が酔っ払いだ。

「ほら沢田くん絡まないの!慶応ボーイならお行儀よくしなさいよ?本当にこの子は酒癖が悪いというか、酔っぱらうとこれだから。牧野さんごめんなさいね。でも翌朝になれば頭が痛いって言ってるような子だから気にしないでね?」

20代半ばの沢田は弟の進より年下であり、顔はつるりとしていて、つくしから見れば子供だ。そして佐々木から見てもそんな沢田は子供であり、仕方ないわね、といった感じで見ていた。

「大丈夫です。気にしてませんから。沢田さんはいい人ですけど弟より年下ですし、付き合うとか恋人って対象じゃありませんから」

つくしは笑いながら隣に座る沢田に言った。
すると、沢田はちぇっと不満そうに言って猪口を口へ運んだ。
そして「やっぱり僕じゃ無理ですよね」と残念そうに呟いたが、その場の空気は冗談にまみれていて真剣さは感じられなかった。
つまり酒の上の笑い話であり、沢田も本気ではないと言うことだ。

だが数秒後「それなら俺はどうだ?」
と言ったのは、つくしの正面で彼女をじっと見つめる男だった。






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コメント
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dot 2018.05.12 07:25 | 編集
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dot 2018.05.12 09:00 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
落ち着いた雰囲気の料亭での歓迎会。
つくしは酔っ払いの沢田に絡まれるも笑いを感じさせる雰囲気で楽しく?という感じですが、司はそんなつくしを観察しているようです。
誤解が解けるのはいつなのか。
ジレジレさせてしまって申し訳ないのですが、まだ先のような気がします。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.12 21:33 | 編集
と*****ン様
わはは(≧▽≦)
沢田くんの親戚に紺野くん‼懐かしいです紺野くん‼
きっと親戚ですね?(笑)
そして司は直球!
みんなの前であんな発言をする大胆さ。
大人の三人は驚きの目で司を見て、沢田くんは....どんな反応を?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.12 21:45 | 編集
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