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2018
05.11

出逢いは嵐のように 20

秘書の西田からつくし宛に副社長室まで来るように電話があったのは、化粧室へ行っている時だった。電話を受けた佐々木から早く行った方がいいと言われ、直ぐに最上階にある副社長の執務室へ向かった。

最上階のフロアは数階上であり、エレベーターを待つ時間があるなら階段を使った方が早いと思うが、最上階へ階段で行くことは禁止されていた。
それは誰であろうとそのフロアに足を踏み入れるなら身なりに気を配ることもだが、軽々しく非常扉の向うから現れることなど許されることではないからだ。
だがつくしは滝川産業で副社長との面談に呼ばれたとき、相手を待たせないため階段を駆け上った。
だがこの会社ではそれは禁止されている。
だから箱が来るまで考えていた。

病院に連れて行かれ、食事をご馳走された日から副社長と顔を合わせていない。
御礼はあの日、深く頭を下げて見送った以外何もしておらず、次に会ったらもう一度きちんと礼を言わなければならないと思っていた。
だが考えてみれば副社長の行為は自分のような立場の人間、つまり出向社員への対応として行き過ぎのような気がしていた。
いや。明らかに行き過ぎだ。

そして桜子からも言われたが、貧血で倒れたくらいの人間を病院へ連れて行き検査をさせることは大袈裟であり、貧血なら肉を喰えと言われ連れて行かれるままに大層な肉をご馳走になり、別れ際には高級な肉を渡されたことも不相応だ。

そもそもああいった店は社会のトップレベルにいる人間が行く店であり、自分のようなどこにでもいる普通の女性が、それも本当ならまともに話も出来ない相手とああいった店にいること自体が驚かれることなのだ。

そうだ桜子が言った『どうして道明寺副社長が牧野先輩とお肉なんですか?それも高級鉄板焼きの店で!』の言葉の通りなのだ。
だが会社員の自分がいくら断ったところで受け入れて貰えないのだから、そうするしかなかった。

そして最上階の執務室に呼ばれる理由は?
頭を過ったのは以前佐々木の言った「副社長は嫌われたら怖い人なの」。
だが何かしただろうか?副社長と個人的な接触があったのは、あの日だけでそれ以外はない。だから呼ばれる理由が分からなかった。

やがてエレベーターが到着し扉が開いたが誰も乗っておらず、最上階のボタンを押すと静かに上昇し、すぐに最上階へ到着した。
カツカツとヒールの音が響くここに来るのは出勤初日以来2度目だ。
一番奥の部屋へ足を急がせ扉の前でひと呼吸置きノックした。
するとすぐに扉が開かれたが、扉を開いたのは先日肉の入った箱を手渡して来た秘書。
「どうぞお入り下さい」と言われ、まず頭を下げ「お呼びでしょうか」と言ったが、いずれかのタイミングであの日の礼を言うつもりで言葉を考えていた。






***







執務デスクから見る女は、勤務初日の時と同じチャコールグレーのスーツを着ていたが、調査会社から届いた写真の女は間違いなく牧野つくしだ。
撮影された日付は昨日。時間は午後9時5分。
今は重要機密書類と同様にデスクに仕舞われているが、その写真の女は自宅に戻ったこともありラフな服装に着替え犬を連れていた。だが牧野つくしが犬を飼っているという情報はなく、あのマンションがペット可であることから、他の住人の犬であることが想像出来た。

デスクの中にあるその写真の女は、どう見ても35歳には見えない。
こうして目の前に立つ女の顔立ちも美人とは言えないごく平凡な顔。
そして司の周りにいる誰か他の女と比べたところで別格とはいえないその容姿。
そんな女は何故自分がここに呼ばれたのかと考え、理由を意識的に作ろうとしているようだがその理由が見つからず困惑している。
だが見つからなくて当然だ。
仕事で呼んだのではないのだから。
そして女は殊勝な顔で司が口を開くのを待っている。

「牧野。身体の具合はどうだ?」

やっと開かれた司の口振りは平静で今までと変わりはない。
そして何を言われるのかと心配していた女は、司の言葉に安心したように答えた。

「はい。おかげ様でありがとうございます。あの時は病院まで連れて行っていただきお手数をお掛けいたしました。それから食事もですがお土産まで頂いて色々とお気遣いをいただきありがとうございました」

あの日、頭を下げた女の姿を見ることはなかったが、今と同じように頭を下げていたと西田は言った。
だがその下げる頭は司にではなく、姪に向けられるべきだ。
そうだ。いつか必ずこの女に謝罪させてやる。
姪に白石隆信など知らないと言った女はあの男と会っているではないか。
司のデスクの中にある写真の女は闇に紛れ妻のいる男と会っていた。

司はあきらと違い人妻とかかわりを持ったことは一度もない。
他の男と女を共有したこともなければするつもりもない。
そしてその基準を変えるつもりもない。

だが姪を苦しめる相手への怒りがある以上、その基準を変えなければならないようだ。
なんとかしてこの女を美奈の夫から引き離さなければならないのだから、欲望の対象になろうがなるまいが、自分の好みのタイプとは似ても似つかない女だろうが関係ない。

だが司に好みの女のタイプがあるのかと問われれば、どうだったかと思うが、今はそんなことはどうでもいい。姪の望みを叶えてやることが司の勤めだ。そんな思いが顔に出ることはないが、それでも憎悪の感情を抑え言った。

「牧野。遅くなったが別室のメンバーでお前の歓迎会を開くことにした」




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コメント
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dot 2018.05.11 07:53 | 編集
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dot 2018.05.11 12:47 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
撮られた写真によりつくしの状況が不利になる。
司は美奈に甘すぎで先入観持ち過ぎ。
白石と思われる人物と会っているつくし。
う~ん。つくし不倫疑惑はいつ晴れるのでしょうか。

今朝はありがとうございます(低頭)
「美奈」です!間違えていました!夜な夜な書いていますから、指が滑ったのか、頭の中で文字が逆転したのか。
また間違いがあれば教えて下さると助かります。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.11 22:29 | 編集
さ***ん様
黒いタマさんが現れたら、桜子の疑問に対する答えは恐らくその通りでしょう。
姪の願いを叶えるため、罠を仕掛けようとするオオカミ(笑)
甘い罠となるのか。それとも...。

え?この副社長、御曹司の匂いがする?(≧▽≦)
油断するとどうしてもあちらへ行ってしまいそうになります。
御曹司の妄想劇場の中の司はクサイ台詞を吐く!(笑)
そしてそれは夢芝居(笑)←上手い!
そんな司を好きだと言って下さりありがとうございます。

さて、つくしが白石に会っていると確信を持った副社長。
そして、わんこの散歩友達ではなさそうです。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.11 22:43 | 編集
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