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2018
05.10

出逢いは嵐のように 19

司は書類にサインする手を休め、指の関節をポキポキと鳴らした。
思わぬことから牧野つくしと食事をしたが、3度目に会った女はよく食べる女だという印象を持った。何しろ司の周りにいた女たちは、小食でフォークの先でサラダを突く程度だったが牧野つくしは違った。
初めはおずおずと箸を伸ばしていたが、やがて皿の上に並んでいた肉の旨さに頬を緩め、小さく美味しいと呟いた声は心から出た声だった。

横並びの席ということもあり、視線が合うことは少なかったが、女を観察するには絶好のチャンスだった。真正面に座れば相手は警戒する。だが横ならば互いに正面を向いていることから、考えごとをしたとしても、その表情を相手が見ることはない。相手に顔を見られることがないという安心感から気持ちが緩む瞬間が必ずある。表情を作ることのない本音を覗かせる顔になる。
その時、その顔の裏にある本心を探ることが出来る。だから横並びに座ることが出来る店を選んだ。
少し引いた角度で女の顔に移ろう感情の翳りを観察するために。

そんな中、ワイングラスを持った手をじっと見つめている様子が感じられ「お前も飲むか?」と訊いたが飲まないと言われ意外だと感じた。そして訊けば酒には弱く、飲みすぎると自分の置かれている状況の判断がつきにくくなり、若い頃は気付けば家にいたといったことがあったと言った。

仕事には慣れたかと訊いたが「はい。少しずつですが勉強させていただいています」と答えたが実際のところ勉強しているのは間違いなかった。
司の直轄下にあるエネルギー事業部石油・ガス開発部別室にいる技術担当の田中は、石油事業など全くの素人である女に対し、容赦がないというのか専門性至上主義である技術屋、エンジニア気質そのまま自分の仕事いついて説明するのだから分かるはずがないのだが、それでもあの女は真剣な顔をして話を訊くと言う。そして質問もすると言う。
その態度が社員として問題などあるはずもなく、財務の小島も法務の沢田も同じ意見だった。
そして田中は「牧野さんは真面目な方ですね。彼女のような方ならどこの会社に行かれても頑張れるでしょう」と締めくくった。


あの日。店を出て車までの短い距離に何も言わず脱いだ上着を女の肩に掛けたが、驚いた様子で振り返った姿はこういった事に慣れてない小娘のように見えた。
だがどんな女も男を騙す潜在能力を生まれながら持っていて、それが立ち居振る舞いに現れるが、あの女はそんな態度を見せることなく車に乗り込むと礼を言い上着を返して来た。そして自宅の住所をと言った司に小声で住所を言い、座席の隅にうずくまった姿は、車が目的地で停車すればすぐに飛び出そうとしているように思えた。

そしてその態度が、秘書が傍に居ようが居まいが関係なく女をどうにかしようとする男だという考えから来ているとすれば、それは大きな間違いだ。
だが彼と親しくなりたいと考える女なら秘書が居ようが運転手が訊いていようが関係ない。
決して狭いとは言えない車内で座る場所なら幾らでもあろうに、しなだれかかるように身体を寄せてくる女は大勢いた。そして自分が置かれた状況を最大限利用して司に取り入ろうとする。
だがあの女は隣に座る男に興味がない訳ではないが、恋人がいることに遠慮しているとすれば不倫とはいえ付き合っている男に操を立てているということなのか。


やがて車があの女の自宅マンションに近づけば、ホッとしたような態度を取ったが、女は何故自分にここまでしてくれるのかと疑問に思っていたことは間違いない。
そんな女に箱を渡したが怪訝な顔で見返され、食事をした店の肉だと言えば心なしか頬が緩んだように見え、肉を貰って喜ぶ女というのを初めて見た。

そして司の車が静かに走り出し、マンションの前から大通りに出たところで「牧野さんは車が見えなくなるまで頭を下げてお見送りされていました」と西田から訊かされたが、あの日は風の冷たい夜だ。だから店から出たとき寒そうにしていた女の肩に上着を掛けたが、あの寒さの中、車が見えなくなるまで見送るという姿勢は常識のある人間のそれだ。

人の心を読むことはビジネスではまず何よりも必要で、手慣れているとはいえ、牧野つくしの態度は分からないところがあった。だが女が姪の夫の不倫相手だと訊いている以上司の前で見せる顔とはまた別の顔があの女にはあるはずだ。
それに司自身も前もって知らなければ、その顔の存在に気付くことはなかったはずだ。

そうだ。あの女は真面目な顔をしていても妻がいる男と平気で不倫をする女だ。
姪の夫を盗んだ女だ。
若干の予想と現実の違いというものがあったとしても、あの女は二面性を持つ女だ。
社員たちは女を評価したが騙すことが出来るのは何も知らないからだ。
大きな黒い瞳に真摯な色を浮かべた30過ぎても童顔な女に騙されているだけだ。
だが馬鹿げたことだが、あの女が姪の結婚をぶち壊そうとしている女とは思えなかった瞬間があった。

その時ドアがノックされ司は我に返った。
そして中に入って来た西田を見た。

「副社長。こちらが届きました」

西田はデスクの前へやってきて茶封筒を置いた。
差出人は牧野つくしに付けている調査会社。
司は封を切って中身を取り出したが、それはあの女が写った写真。
暗闇だが街灯の下にいる犬を連れた女を望遠で真正面から撮影していた。
そして取り出したもう一枚の写真は男に対峙する女の姿。
それは街灯から離れた場所に立ち、ひどく不鮮明であり男は後姿で顔は写ってはいなかった。
だが男が誰であるか考える必要はない。恐らく白石隆信。美奈の夫だ。





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コメント
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dot 2018.05.10 07:23 | 編集
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dot 2018.05.10 11:14 | 編集
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dot 2018.05.10 15:08 | 編集
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dot 2018.05.10 17:32 | 編集
司*****E様
はい。司はつくしには表と裏の顔があると思っているようです。
それでもつくしが姪の結婚をぶち壊そうとしているとは思えない瞬間もあったようです。
先入観は怖い。そうですね。特に考え方が極端に傾き始めるとそう信じてしまうことがあるのではないでしょうか?
美奈の言葉は全て鵜呑みですしね?
つくしと恵子の背格好が似ているのか?年齢は5歳違いですが、つくしは童顔で若く見える人ですからねぇ。
どうなんでしょうか?(笑)
そしてつくしの疑惑はいつ晴れるのでしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.10 23:58 | 編集
H*様
こんにちは^^
この司。チョット嫌な奴。(笑)
確かにそうですね?司といい姪といい金持ちの嫌な奴の部分が出ています。
え?嘘つき女は誰?男はどーした?(笑)
正体が分かるのはまだ先になりそうです。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.11 00:14 | 編集
く***ん様
こんにちは^^
こちらこそ、いつもお読みいただきありがとうございます。
そして以前にもコメントを頂いておりますのではじめまして、ではありませんでした!^^
こちらのお話は司が姪の言う一方的な話を信用してつくしを疑うばかり。
そうですよね~。企業の経営に関わる男が!とお思いになるでしょう。
身内思いにも程があると思いますよね?(笑)
一体いつになったら誤解が解けるのかとイライラ(笑)
色々と疑問を残しながら進むお話ですが、疑問と誤解が解けるのは、恐らく同じ頃になると思います。
それにしてもこの司。誤解が解けたとき、どうするのでしょうねぇ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.11 00:26 | 編集
さ***ん様
司から見たつくし観察記録(笑)
そうです、そんな感じです。
そして写真の男は誰だ!残念ながら不鮮明なんですねぇ~。
つくしが対峙している男はいったい誰なんでしょうか?
疑問を残したまま進むお話です。
そして司は...。
餌付けの続きをするのでしょうか?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.11 00:32 | 編集
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