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2018
05.09

出逢いは嵐のように 18

「ええっ!?先輩道明寺副社長とお肉食べたんですか?」

「桜子声が大きいって!」

「大きいって大きくもなりますよ!あの道明寺さんと高級鉄板焼きの店でステーキ食べたんですよ?いったいどんな理由があってそんなことになったんですか!?説明して下さい!」

「説明するも何も…..ご馳走してくれるって言うから…」

「だからどうして道明寺副社長が牧野先輩とお肉なんですか?それも高級鉄板焼きの店で!」

日曜日に久し振りに会った桜子は唾が飛ぶほどの激しい口調でつくしに訊いたがカフェに居合わせた人、全員がこちらを振り向いたような気がした。

「いくら牧野先輩が貧血で倒れたからって病院まで連れてってくれて、それから食事をご馳走してくれるなんてどう考えてもおかしいじゃないですか!」

「おかしいも何も断ったんだけど無理矢理病院に連れていかれて、貧血だって言われたら心配されて_」

と言ったところであの日副社長の前で目眩を起し、支えられたと思ったら次には抱きかかえられたなど言おうものなら目の前の後輩はいったいどんな顔をしてつくしを見るのか。
それに気を失っていたとはいえ、副社長に抱きかかえられ車まで運ばれたことは絶対に言えなかった。

そしてトレーを掴んだまま倒れた原因は、なんとなくだがアレではないかという気がする。
それは寝不足が原因。そしてその寝不足の原因は撮りためていたドラマを一気に見たからだ。慣れない職場で気を遣うことをしながらも、夜遅くまでドラマを見ていたことも一因だ。

「牧野先輩。急に黙り込んでどうしたんですか?やだ…..もしかしてお肉を食べた以上に凄いことになってるなんて言わないで下さいね?だいたい先輩が言葉に詰まるってことは他人に言えない事がほとんどなんですから。それなら初めから話さなきゃいいのにどうして途中で止めちゃうんですか?いいですか?話を途中で止めるということは、気になるじゃないですか!」

恐らく桜子の脳内では、つくしが思いもしないことが巡っているはずだ。
それがどんなことか知りたいとは思わないが桜子のことだ。大人的要素がふんだんに盛り込まれたロマンスとなって頭の中を巡っているはずだ。

「先輩。いいですか?道明寺司と言えばどんな女も望めば簡単に手に入れることが出来ると言われる男なんですよ?そんな男に食事に連れて行かれたら、本人の意思には関係なく食べられちゃうに決まってるんですよ?それに男が女を食事に連れて行くってことは、その女性の性的欲求を見てるんですよ?どんな食べ方をしてるとか食欲があるかとか観察してそれが夜の営みに繋がるんです。食欲と性欲ってのは関係あるんですよ?もしかして先輩…」

両手を口に当て、目を見開く桜子は自分で言っておきながら信じられない!嘘!といった感情がまるわかりだ。だが桜子の信じられれないと思う通りでそんなことあるはずない。
あの日は無理やりとまでは言わないが貧血なら肉を喰えと言われ、100グラム幾らするのか想像も出来ないステーキをご馳走になったが、本当にそれだけだ。
そして食事の後はマンションまで送られたが秘書が同じ車に乗っているのに何が出来るというのか。それにたとえ秘書が傍にいなかったとしても何かするはずない。何をどう考えればそんな考えが出来るのか。

「あのね桜子。そんな顏しないで。だいたい男と食事に行っただけでどうして私まで食べられなきゃならないのよ?相手は副社長よ?そんな立場の人間が女子社員に手を出したらセクハラでしょ?」

そうだ。
滝川産業で副社長と話をしたとき女性社員の職場環境についての話が出た。
それにどう考えても経営に関わる人間がそんなバカなことをするはずがないのだから桜子はどうかしている。

「確かに先輩に手を出したとしてもその身体ですものね?それにパワハラだとしても超高級な鉄板焼きの店で食事をご馳走することがパワハラになるとは言えませんし。それにどうせ先輩はおいしくいただいたんですよね?そうなるとハラスメントじゃありませんからね。嫌がらせどころかどうせ先輩のことですから最終的にはおいしかったです。ごちそうさまでしたで終わったんでしょうね?」

桜子は目の前のパイ生地にクリームが挟まれたミルフィーユをナイフとフォークで綺麗に食べることが出来るが、ひと口食べるとコーヒーを飲み、それからナイフとフォークを置き、今度は前のめりでつくしの方へ顔を近づけた。

「で?」

「で?」

「そうです。それでの『で』、です」

「そ、それでって何がそれでなのよ?」

「だから促しているんです。先輩の言葉を」

「?」

「だから!本当はどうだったんですか?教えて下さいよ?道明寺副社長と何かあったんですよね?いくら部下が貧血だからってそこまでする上司がいますか?そんなの下心がなかったら絶対にありませんから。まあ、道明寺副社長も男ですし物珍しさっていうのがあったのかもしれませんけど、まさか牧野先輩の方から迫ったなんてことありませんよね?」

つくしは咀嚼し飲み込もうとしていたモンブランの栗が喉をうまく通り抜けず引っ掛かったような気がして慌ててコーヒーカップを手に飲んだ。
そして今度は水の入ったグラスを掴みひと口飲んだ。


目の前の鉄板に沿ったカウンターに横並び座った男女が互いの姿を正視することはない。
だから意識を隣へと向けない限り顔を見ることはなく、黙々と箸を動かしていればいい。
だが逆にテーブルを挟んでいない分、考え方によっては隣の席というのは非常に親密さを感じられる席並びと言える。

そしてその非常に親密さを感じられる席に座った男から仕事は慣れたかと問われれば、
「はい。少しずつですが勉強させていただいています」と答えたが、出向してきた社員と受け入れ先の上司との会話としてはごく普通であり妥当だと思うが、会話を交わすということは相手の目を見て話すことがマナーであり、それをしようと思えば顔を横に振り向けなければならず、するとそこには桜子の言葉を借りれば、神々しいまでの美貌を備え富と名声を欲しいままにすると言われる男がいたが、顔の美しさよりもワイングラスを持つ手が美しいと思った女はおかしいだろうか。すらりと長い指がグラスの柄を持つ姿が絵になる男はそうはいないはずだ。

そんな女の視線に「どうした?お前も水は止めて飲むか?」と言われ、いえ結構ですと答えたが、男の声の低さが世の女性がマーベラスと称賛するバリトンと言われていることに気付かない訳がない。

そして店の外に出て少し寒い夜風を浴びた途端、背広の上着を脱いだ男が何も言わず肩に掛けてきたことに驚いて振り返ったが、寒そうに見えたから着てろ、と言われその時上着から香ったスパイシーでウッディな香りというものは、人を素直に従わせるだけの力が感じられた。
そして感じられたスモーキーな香りは煙草の香りで抱き上げられた時も感じた香りだった。

「ちょっと牧野先輩!コーヒー零れますよ?」

「えっ?あ?うわっ!」

「先輩!大丈夫ですか?早くこれで拭いて下さい」

と桜子に紙ナプキンを渡され斜めに傾いたコーヒーカップを急いでソーサーに置き、テーブルに零れ広がった茶色い液体を拭いた。

「大丈夫ですか?先輩は何か考えだすと手元が疎かになるんですから気を付けて下さいね?それで話の続きですけど、道明寺副社長と何かあったんですか?なかったんですか?」

ミルフィーユを綺麗に食べることが出来る女は昔からしつこい。
だから簡単には諦めない。

「な、何も無いわよ。ある訳ないじゃない。それに相手は…天下の道明寺財閥の後継者でしょ?そんな人が私たちみたいにどこにでもいる普通の女を相手にしないでしょ?」

「先輩。私は自分のことを普通の女だと思っていません。何しろこの顔にはお金がかかっていますから、少なくとも普通じゃありません。但し今の世の中何が普通で何が普通じゃないかなんて分かりませんけどね?それよりどうなんですか?何もなかったんですよね?」

まるで取り調べのように桜子の目が真っ直ぐつくしに注がれる。

「さっきぼんやりとしているとき、先輩の顔まっ赤でしたよ?何か動揺するようなことがあったんじゃないですか?」

「だから無いわよ!あ、ある訳ないでしょ?」

男がつけていたコロンか何かの香りにくらりと来たと言えば桜子はどう答えるのか。
訊いてみたい気もするが、そんなことを口にすれば桜子のことだ。発狂したのかという程の声を上げるはずだ。だから言わなかった。

そして桜子の口から「そう言えばいつだったかうちの会社に牧野先輩が夫の愛人だって言いがかりをつけて来た人がいましたよね?あの人その後どうですか?」
と訊かれたがあれから何も起きず、それっきりになっていたが、やはりあの女性の勘違いで、マンションの駐車場に現れた不審者が気になったが自分には関係ないのだと思い始めていた。


それからは道明寺司の話に触れることもなく、ケーキとお茶に集中していた。
だがあの日、自宅まで車で送ってもらい、貧血ならしっかり肉を喰えと言われ、こちらをと秘書から渡された発泡スチロールの箱に怪訝な顔をすれば、肉だと言われたが、それを気遣いと言えばいいのだろうか。箱の中には鉄板焼きの店で食べたであろう最高級黒毛和牛の印であるA5のシールが貼られた肉がかなりの量収まっていた。





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コメント
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dot 2018.05.09 06:20 | 編集
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dot 2018.05.09 12:36 | 編集
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dot 2018.05.09 13:20 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
桜子とお茶をしたつくし。
そして桜子の女のアンテナは、男と女。特に副社長とつくしの間にただならぬものを感じているようです。
何もないと言えばないですよね(笑)意識がない時に運ばれたんですから本人にすれば無かったも同じです。
女子力が低いと言われるつくしですが、司の美貌を認めていない訳ではありません。
そんな女は司を冷静に見ているかもしれませんが、コロンの香りにクラっときたようです。
惚れてはないと思いますよ(笑)
そしてA5ランクの黒毛和牛!きっとお隣の恵子にもお裾分けしたはずです。
やはりパワーを出そうと思えばお肉です。
つくし。夜更かしを止めお肉を食べて貧血を治しましょう。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.09 22:44 | 編集
イ**マ様
こんにちは^^
お仕事復帰後お変わりございませんか?
え?びっくりするくらい時間がない!?
そうですよね。色々あると思いますがご無理なさいませんよう、お身体ご自愛下さいね。
そしてお話は、司の洞察力といいますか、勘違いですがどこまで続くこの状況。
道明寺健康保険組合に加入したい!(≧▽≦)分かります。
きっとここの健康保険組合は手厚い保険内容です。色々な病からがっちり守ってくれるはずです!(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.09 22:58 | 編集
と*****ン様
朝からヨダレが...(笑)
ステーキにミルフィーユ。食べたいですか?
そしてA5ランクの牛肉を大量に貰いたい(≧▽≦)
アカシアも同じ思いです!
司。我が家にもA5ランクのお肉をお願いします(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.09 23:04 | 編集
ま**ん様
いいですよね、特級牛肉のお土産(笑)
我が家にもぜひお願いします!
そしてこの後、副社長はどんなアプローチをするのでしょう。
高校生の頃のつくしは色気より食い気の女でしたが、今の彼女は食い気だけではないはずです!(多分)
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.09 23:14 | 編集
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dot 2018.05.10 10:36 | 編集
さ***ん様
ミルフィーユを綺麗に食べる女はしつこい女です。
桜子はポジティブ思考で常に前向き。整形したことも当然のように開き直りです。
え?香りを再現するために色々な食材で試された!(≧▽≦)
司が使っているコロンは大人の香り。アカシアの中では某フレグランスの香りが頭の中にあります(笑)
カタカナ言語は想像力を掻き立てる。確かにそうかもしれません。
そしてA5ランクの最高級黒毛和牛を貰う女。
レバーを買う必要がないほど貰っているはずです!(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.05.11 00:06 | 編集
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