『最善の友、最悪の敵となること多し』
イギリスのことわざだったな。
類は今の俺にとっての敵ってところか。
二人がはじめて会ったのはいつだったか?
英徳の幼稚舎だな。
俺と類、総二郎、あきらの4人はF4と呼ばれ花の4人組と言われた。
あの年頃の結びつきは生涯続くほど緊密だ。
そして俺達4人はそれ以来の竹馬の友ってやつだ。
学生時代はそりゃあ楽しかったぞ。
総二郎は中坊んときから女に不自由したことがない男で
あきらはあいつは年上の女以外に興味を示さなかった。
類は総二郎やあきらと違い女には興味が無かったし、いつも何を考えているか掴みどころが無かったな。
俺か?
俺のことは西田が全部知ってっからあいつに聞いてくれ。
まあ色々とあったけどよ、俺達も社会に出てそれぞれの家業ってやつを避けるわけにはいかなくなった。
総二郎は茶の道ってやつで、あきらは美作商事で専務、類は花沢物産の専務だ。
俺も家業の道明寺HDを背負って立つ身っていうのに収まってるわけだ。
4人のうちの誰かが助けを必要とすればそれが惜しみなく与えられ、それぞれの好みも性格も違うおかげで利害が衝突することは皆無に等しかった。
そんな俺達は独身生活を謳歌してる真っ最中なわけなんだが・・・
「司?」
「お、おう。類どうした?なんか用か?」
司は吸いかけの煙草を灰皿で揉み消すと言った。
「用がなきゃ来ちゃいけなかった?」
それは司がこれまでに何度も聞かされた類の得意な表現方法で仲間うちでは約束があろうがなかろうが訪ねていくのは常だった。
「そ、そんなことねぇぞ」
「司、悪いんだけど西田さんには外で待つように言ってくれない?」
西田はご用がありましたらお呼び下さいと言って部屋を後にした。
「ねえ司、紳士協定って知ってる?」
類は司のデスクの前まで来ると言った。
「 紳士協定? 」
「 そ 」
「なんだよそりゃ?」
司は椅子の背にもたれたままで言った。
「暗黙の了解ってやつ。俺と司でその紳士協定を結ばない?」
「どういう意味だよ?おまえの言ってる意味がよくわかんねぇな」
司が聞いた。
「つまり、俺と司とお互いに牧野つくしに手を出すなってこと」
「はあ?」
「ようするに、相手の知らないところで牧野つくしにちょっかいを出すなって約束のこと」
類は友人の顔を見つめながら言った。
「正々堂々とやろうってこと」
「類、そりゃどういう意味だよ!」
司は挑戦を受けてたつように立ち上がった。
司と類は対照的だった。
彼は挑戦的な瞳で類を見た。
それに対し類はビー玉のような瞳で司を見ていた。
彼らを親友として結び付けてきたもののひとつは互いのテリトリーには決して踏み込まないと言う不文律があったからだ。
「相手の弱点をつくな、ぬけがけするな、意地悪するなってこと。今の司は牧野つくしと一緒に仕事してるでしょ?それって不公平だよね?ぬけがけだよね?」
その時ノックの音が聞こえドアが開いて女がコーヒーを乗せたトレーを運んで来た。
女は落ちついた様子で机にコーヒーカップを置こうとしていた。
「おい!勝手に入ってくんな!そんなもんいらねぇ!出てけ!」
司の一喝に女は慌ててコーヒーを下げると出ていった。
女がドアを閉めて出て行くと話しが中断したことも無かったように類が口を開いた。
「うちがA国で事業拡大しようと考えていたところに大河原が出て来て銅山の採掘権を持っていっちゃったし、牧野つくしまで取られちゃった。もしかして司、今回の合弁事業で牧野を大河原から引き抜こうとしてるんじゃない?」
類は図星でしょ?と言うようににっこりした。
「類!おまえだってこの前牧野つくしとコンサートに行ってたじゃねえか!」
司はいらいらしながら言った。
「ああ、あれ?あれは司が大河原を誘ってパーティーなんかに行くから牧野つくしがひとりぼっちになっちゃったんでしょ?もとを正せば司が悪いんじゃない?」
類は躊躇なく言い切った。
「なに言って・・」
類は片手を上げると司の言葉を制した。
「とにかく司も約束守ってよね?」
「そ、そんなもんなんで俺が約束しなきゃなんねぇんだよ!」
「ふーん。そうなんだ。約束守る気なんてないんだね?」
「ああ、そんな約束する意味が分かんねぇな!」
司は類に食ってかかるように言った。
「わかった。じゃあ俺、帰るよ」
類はそう言うとドアの方へと踵を返していた。
「司、忙しいところ悪かったね」
類はドアの傍まで歩いていくとそれまでよりも穏やかな口調で付け加えると司の返事も待たずに出て行った。
気に入らねぇな。司の黒い瞳が類が出て行ったドアを睨みつけていた。
「花沢様はお帰りになりましたか。牧野様のことで花沢様となにかありましたか?」
西田がドアを開けると同時に言ってきた。
「なんにもねぇよ!西田、俺に会いたいって類だったのかよ?」
「いいですか?老婆心ながら申し上げます」
「あ?西田はババァかよ?」
司はどさりと椅子に腰をおろし煙草を手にとると火をつけ深々と吸い込んだ。
「文字通り取らないでいただきたい。そういう意味ではありません。いいですか?
『彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず』と言う孫子の兵法の言葉があります。
敵を知ると同時に自分自身を知れと言う意味です。状況を分析してから戦いを始めないと勝てません」
西田はひと息つくと話しを続ける。
「昔から恋と戦争は手段を選ばずといいます。たとえ相手が幼き頃からのご友人であっても油断は禁物です。孫子は『友を近くに置け、敵はもっと近くに置け』と言う言葉も残しました。文字通りの言葉ですから花沢様の牧野様に対しての動向を見誤ることのないようにしていただきたい」
司はいつもは冷静な西田の姿をまるで催眠術でもかかったような状態で見ていた。
「おい西田、なんかお前いつもと違うな・・」
「申し訳ございません」と西田は少し息が上がったように言った。

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俺と類、総二郎、あきらの4人はF4と呼ばれ花の4人組と言われた。
あの年頃の結びつきは生涯続くほど緊密だ。
そして俺達4人はそれ以来の竹馬の友ってやつだ。
学生時代はそりゃあ楽しかったぞ。
総二郎は中坊んときから女に不自由したことがない男で
あきらはあいつは年上の女以外に興味を示さなかった。
類は総二郎やあきらと違い女には興味が無かったし、いつも何を考えているか掴みどころが無かったな。
俺か?
俺のことは西田が全部知ってっからあいつに聞いてくれ。
まあ色々とあったけどよ、俺達も社会に出てそれぞれの家業ってやつを避けるわけにはいかなくなった。
総二郎は茶の道ってやつで、あきらは美作商事で専務、類は花沢物産の専務だ。
俺も家業の道明寺HDを背負って立つ身っていうのに収まってるわけだ。
4人のうちの誰かが助けを必要とすればそれが惜しみなく与えられ、それぞれの好みも性格も違うおかげで利害が衝突することは皆無に等しかった。
そんな俺達は独身生活を謳歌してる真っ最中なわけなんだが・・・
「司?」
「お、おう。類どうした?なんか用か?」
司は吸いかけの煙草を灰皿で揉み消すと言った。
「用がなきゃ来ちゃいけなかった?」
それは司がこれまでに何度も聞かされた類の得意な表現方法で仲間うちでは約束があろうがなかろうが訪ねていくのは常だった。
「そ、そんなことねぇぞ」
「司、悪いんだけど西田さんには外で待つように言ってくれない?」
西田はご用がありましたらお呼び下さいと言って部屋を後にした。
「ねえ司、紳士協定って知ってる?」
類は司のデスクの前まで来ると言った。
「 紳士協定? 」
「 そ 」
「なんだよそりゃ?」
司は椅子の背にもたれたままで言った。
「暗黙の了解ってやつ。俺と司でその紳士協定を結ばない?」
「どういう意味だよ?おまえの言ってる意味がよくわかんねぇな」
司が聞いた。
「つまり、俺と司とお互いに牧野つくしに手を出すなってこと」
「はあ?」
「ようするに、相手の知らないところで牧野つくしにちょっかいを出すなって約束のこと」
類は友人の顔を見つめながら言った。
「正々堂々とやろうってこと」
「類、そりゃどういう意味だよ!」
司は挑戦を受けてたつように立ち上がった。
司と類は対照的だった。
彼は挑戦的な瞳で類を見た。
それに対し類はビー玉のような瞳で司を見ていた。
彼らを親友として結び付けてきたもののひとつは互いのテリトリーには決して踏み込まないと言う不文律があったからだ。
「相手の弱点をつくな、ぬけがけするな、意地悪するなってこと。今の司は牧野つくしと一緒に仕事してるでしょ?それって不公平だよね?ぬけがけだよね?」
その時ノックの音が聞こえドアが開いて女がコーヒーを乗せたトレーを運んで来た。
女は落ちついた様子で机にコーヒーカップを置こうとしていた。
「おい!勝手に入ってくんな!そんなもんいらねぇ!出てけ!」
司の一喝に女は慌ててコーヒーを下げると出ていった。
女がドアを閉めて出て行くと話しが中断したことも無かったように類が口を開いた。
「うちがA国で事業拡大しようと考えていたところに大河原が出て来て銅山の採掘権を持っていっちゃったし、牧野つくしまで取られちゃった。もしかして司、今回の合弁事業で牧野を大河原から引き抜こうとしてるんじゃない?」
類は図星でしょ?と言うようににっこりした。
「類!おまえだってこの前牧野つくしとコンサートに行ってたじゃねえか!」
司はいらいらしながら言った。
「ああ、あれ?あれは司が大河原を誘ってパーティーなんかに行くから牧野つくしがひとりぼっちになっちゃったんでしょ?もとを正せば司が悪いんじゃない?」
類は躊躇なく言い切った。
「なに言って・・」
類は片手を上げると司の言葉を制した。
「とにかく司も約束守ってよね?」
「そ、そんなもんなんで俺が約束しなきゃなんねぇんだよ!」
「ふーん。そうなんだ。約束守る気なんてないんだね?」
「ああ、そんな約束する意味が分かんねぇな!」
司は類に食ってかかるように言った。
「わかった。じゃあ俺、帰るよ」
類はそう言うとドアの方へと踵を返していた。
「司、忙しいところ悪かったね」
類はドアの傍まで歩いていくとそれまでよりも穏やかな口調で付け加えると司の返事も待たずに出て行った。
気に入らねぇな。司の黒い瞳が類が出て行ったドアを睨みつけていた。
「花沢様はお帰りになりましたか。牧野様のことで花沢様となにかありましたか?」
西田がドアを開けると同時に言ってきた。
「なんにもねぇよ!西田、俺に会いたいって類だったのかよ?」
「いいですか?老婆心ながら申し上げます」
「あ?西田はババァかよ?」
司はどさりと椅子に腰をおろし煙草を手にとると火をつけ深々と吸い込んだ。
「文字通り取らないでいただきたい。そういう意味ではありません。いいですか?
『彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず』と言う孫子の兵法の言葉があります。
敵を知ると同時に自分自身を知れと言う意味です。状況を分析してから戦いを始めないと勝てません」
西田はひと息つくと話しを続ける。
「昔から恋と戦争は手段を選ばずといいます。たとえ相手が幼き頃からのご友人であっても油断は禁物です。孫子は『友を近くに置け、敵はもっと近くに置け』と言う言葉も残しました。文字通りの言葉ですから花沢様の牧野様に対しての動向を見誤ることのないようにしていただきたい」
司はいつもは冷静な西田の姿をまるで催眠術でもかかったような状態で見ていた。
「おい西田、なんかお前いつもと違うな・・」
「申し訳ございません」と西田は少し息が上がったように言った。

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コメント
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た*き様
今回の類クンは諦めが悪そうですよね?(笑)
もう少し頑張ってもらおうと思っています。
夜明け前のランデブーはいかがでしたでしょうか?
ドーンパープルと呼ばれる明け方の空の色はいかがでしたでしょうか?
なんだかとてもロマンティックですね(^^)
今回の類クンは諦めが悪そうですよね?(笑)
もう少し頑張ってもらおうと思っています。
夜明け前のランデブーはいかがでしたでしょうか?
ドーンパープルと呼ばれる明け方の空の色はいかがでしたでしょうか?
なんだかとてもロマンティックですね(^^)
アカシア
2015.10.26 23:00 | 編集

H*様
拍手コメント有難うございます。
そして一番乗り有難うございます!
早い時間から読んで頂いて有難うございます。
そちらはとても寒そうですね。早朝からお疲れ様でした。
H*様はつくしちゃんと同じくらいの早朝出勤ですね?
実は今月中旬にそちらを訪問しました。
某社のマイルが溜まっていましてそれを利用しました(笑)
訪れるなら是非そちらへと思い降り立ちましたが
生憎とお天気が悪く雷雨に迎えられとても風が強い日でした。
それでも美味しいものを沢山いただき、満足して帰路につきました(^^)
拍手コメント有難うございます。
そして一番乗り有難うございます!
早い時間から読んで頂いて有難うございます。
そちらはとても寒そうですね。早朝からお疲れ様でした。
H*様はつくしちゃんと同じくらいの早朝出勤ですね?
実は今月中旬にそちらを訪問しました。
某社のマイルが溜まっていましてそれを利用しました(笑)
訪れるなら是非そちらへと思い降り立ちましたが
生憎とお天気が悪く雷雨に迎えられとても風が強い日でした。
それでも美味しいものを沢山いただき、満足して帰路につきました(^^)
アカシア
2015.10.26 23:10 | 編集
