2018
04.30

出逢いは嵐のように 12

「諸君。紹介する。今日からうちのメンバーに加わった牧野だ。滝川産業からの出向で期限付きだが副社長付として働いてもらうことになった」

つくしが連れて来られたのは『エネルギー事業部 石油・ガス開発部 別室』と書かれたプレートが扉の横の壁に取り付けられた広々とした部屋。
視線をめぐらせたが、広さのわりに置かれているのは、ファイルキャビネットやコピー機、個人用のデスクとミーティング用の大きなテーブルだけという贅沢な使い方がされていて、他のスペースには何もなく寒々とした印象を受けた。
だがそれは逆に滝川産業は物が多すぎたのかもしれない。

そして着任の挨拶をしなければならないが、副社長付という言葉に、ここにいる人間がどんな反応を示すのか。
意気揚々とまでは言わないが、この会社へ足を運んだときは考えてもみなかったことだが、こうして同僚になる人間の前に立ったとき頭を過ったのは、目の前の女は副社長の後ろ盾があるように思われているのでは?ということだ。

何しろ突然の出向者に首を傾げない方がおかしい。
滝川産業は、道明寺グループの中でも1年前にグループに加わったばかりの会社であり、繋がりが深い会社ではない。そんな会社から出向してきた女が副社長付になることを訝しく思う人間がいることは当たり前であり、特に道明寺司という人物が女性にモテる男だということを知っている以上、なんらかの勘ぐりがあったとしてもおかしくはない。
つまり恋人だ。愛人だ。そういった関係に思われたとしてもおかしくはないと言うことに、今更ながら気付いた。
だがそれを言えば自惚れるなと言われるはずで、何も気にすることはないはずだと気を取り直した。

「おはようございます。滝川産業から参りました牧野つくしと申します。本日から1年間こちらで勉強させていただくことになりました。滝川産業では営業のサポートをしており、こちらの仕事とは全く分野が異なりますが、色々勉強させていただきたいと思っております。皆様には色々とご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」

と、つくしは深々と頭を下げた。

「よろしく牧野さん。田中です」
「どうも小島です」
「はじめまして。沢田です」
「おはようございます。佐々木です」

立ち上り名前を名乗ったのは男性3人と女性がひとり。
3人の男性は表情を崩すことはなかったが、紅一点佐々木と名乗った女性だけがつくしに微笑んだが、年の頃はつくしと同じ位。もしくは一つ二つ年上といった程度だと見た。
男性のうち二人は40歳前後。あとのひとりは20代の半ばといったところだ。

そして大企業で働くことを誇り思う人間は多いが、ここにいる4人もそういった雰囲気があった。それは外から来た人間だから分かるといったものなのかもしれないが、道明寺という知名度があり、待遇のいい会社に入社した、選ばれたという誇りといったものが感じられた。
そして、4月の異動時期とは外れた出向者を迎え入れることに、疑問を持たれることは分かっていたが、つくしに向けられた視線は案外あっさりとしたものだった。

「牧野は石油事業とはまったく関係がない仕事をしていた。その点については何故彼女がここにいるのかと思うだろう。だがこれは人事交流の一環であり忙しい職場を経験してもらうことで彼女は成長出来る。同じ仕事を毎日繰り返すことが悪いとは言わないが、別の会社を経験することで視野が狭くなることも防げるはずだ。また君たちも彼女を通して今までとは違った経験が出来るはずだ。そんな思いから彼女にはここで働いてもらうことにしたが、外で学ぶチャンスが与えられた人間は幸運なはずだ」

副社長にそこまで言われれば頷き返す以外なく、同じ仕事を繰り返すことで視野が狭くなるということはもっともな話だが、妙な期待をかけられたようで面映ゆい思いもしていた。
そして彼女を通して今までとは違った経験が出来るはずだの言葉は、迷惑をかけられることもある、といった意味に捉えたのは自分だけではないはずだ。

「早いところ会社の雰囲気に慣れてもらうためにも、牧野に頼みたいことがあれば何でも頼め。それがコピーだろうがファイリングだろうが結構だ。仕事はそういったことも重要だ。山積みにされた資料の整理も誰かがやる仕事であり誰かがやらなければ永遠に終わることがない仕事になる。そうだな?沢田?」

副社長の視線が向いたのは、メンバーの中で一番若い男性。

「あ、はい。すぐに片付けようと思ったんですがつい…」

沢田と名乗った男性がバツの悪そうな顔をしたが、それもそのはずだ。
副社長の厳しい視線が向けられたのは、沢田のデスクとその足下に置かれたいくつもの太いファイル。背表紙に書かれた文字からも資料であることが分かる。
大きな会社になればなるほど、資料室の他にも知的財産について調べるための図書室といったものを持つが、道明寺ほどのクラスになれば大きな図書室があるはずだ。そしてそこから借りてきた図書とファイルに挟まれた資料というものが、かなりの数置かれていた。

「言い訳をするな。いいか。資料は決められたところにあってはじめて資料としての役割を果たす。お前だけがいつまでもそばに置いていいものじゃない。他の人間が見ようとしてもそこになければそれは仕事を滞らせることになる。仕事は一人でするものじゃない。チームワークといったものが重要だ。これからお前も大きな契約を纏めていくことになれば、その重要性が分かるはずだがまだ分からないか?」

副社長の口調から感じられるのは、沢田と言う男性は今までも言われたことがあるということだ。
そして不用意なことに言い訳のような言葉を発し、副社長の顔が鋭くなったのを見たはずだ。
つくしもそれに気づき思わず声を上げた。

「あの。沢田さん。私がします。保管場所さえおっしゃって下さればその資料、私が片づけます」

横合いから口を挟んだ女に、隣に立つ男の視線が向き、眉がゆっくりと上がったような気がした。
もしかすると初日早々出過ぎたマネをしたかと思うも、まだ若い沢田という社員の動揺がつくしに伝わってきたのだ。それに出向してきた人間だからといって使うのを躊躇うことは止めて欲しかった。

「副社長もおっしゃいましたよね。コピーだろうがファイリングだろうが構わないから頼めと。ですからその仕事を私にさせて下さい。その程度ならすぐに出来ます。どうすればいいか指示して下さい」

つくしはそう言ったが沢田は恐縮した。

「でも、ここにある資料は、ここだけで片付くものではないんです。それに資料室だけではなく地下の倉庫から持って来たものもあるんです。ですから初日早々牧野さんにお願いする訳には_」

今の沢田の発言は、目の前にいる副社長と今日から自分たちと働くことになった女との関係を推し量っているようにも思えた。
だがそんな沢田の態度を一蹴したのは副社長だ。

「沢田。牧野がそう言っているんだ。やってもらえ。それに牧野は客じゃない。牧野は今日からこの会社の人間と同じに扱え。特別扱いをする必要はない」

沢田の言葉に被せるように言われた言葉は、その通りだと思う。
つくしは早速仕事が出来ることが嬉しかった。何もしないでいるよりも忙しくしている方が性に合っている。

「じゃあ早速これお願いします。場所は地下2階の資料室ですが、場所と行き方をお教えします」

と言われ渡された厚さ10センチのA4ファイルを受け取ったが、ぎっしりと紙が綴じられたそれは、かなりの重さがあったが「あと5冊ありますから」と言われ思わず嘘でしょ?と呟いていた。








司は牧野つくしを出向させた以上仕事をさせるつもりで遊ばせるつもりはさらさらない。
むしろ、しっかり働かせてやるつもりでいた。
そして人事考課の話をしたが、それは嘘ではない。そして評価通りだとすれば、どんな仕事だろうと前向きであり、成果を上げようとするはずだ。
そして司に秋波を送るような女なら、やはりこの女も男の金が目当てということになるのだが、それならそれでいい。虜にする手間が省けるというものだ。
落とすまでもない、所詮今まで周りにいた大勢の女と同じということだ。





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コメント
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dot 2018.04.30 09:57 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
副社長付で現れたプロジェクトに全く関係のない女。
つくしにしてみれば、どうしてこんな所に?という思いが大きいですが仕事は仕事です。
そして司はそんなつくしを落とす楽しみと同時に仕事をさせ、どれ程のものか見ようとしています。
不倫相手は恵子さんが怪しいですか?どうなんでしょうねぇ(笑)

GWに入りましたね?アカシアはカレンダー通りです。
お休みはあっという間に終わってしまうんですよね?
それでもリフレッシュしたいと思います。
そして類くん登場を期待してもいいのでしょうか?え?そっくりさん?(笑)
楽しみにしたいと思います。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.04.30 23:09 | 編集
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