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2018
04.25

出逢いは嵐のように 8

司はネクタイの結び目を緩め、背広を脱ぎ、煙草を咥えていた。
執務室に届けられた全ての書類のサインが終わったとき、時計の針は夜の11時を指していた。それはスケジュールの変更に伴うしわ寄せ。
滝川産業へ行く予定は初めからあったが、牧野つくしに会う予定は無理やり入れた。
だがどうしてもあの女に会う必要があった。

それは腹立たしさが起こした行動。
写真だけではなく、実物の牧野つくしに早々に会う必要があった。
姪の美奈の夫の浮気相手という女がどんな女なのか知る必要があった。

そして司が牧野つくしと実際に会って感じたのは、どこにでもいる女という印象。
入社して13年の女は残業も厭わず、話をした限りでは結婚には興味がないといった口ぶりだったが、結婚したいと思う人間は、それなりの行動を起こすが、牧野つくしは妻がいる男と結婚を考えているのか。

あれから牧野つくしについてもっと詳しい情報を得るため、調査を依頼したが、社内データに無かったことで記載がされていたのは、両親が亡くなったこと。弟がひとりいること。
マンションで一人暮らしをしていること。
そして最近は見かけないが、女が何度かマンション近くの夜の公園で男と話しをしていたという情報があった。だがそれが美奈の夫なのかどうかまでは分からなかった。
だが美奈の夫が女の住むマンションに出入りしているところまでは分かった。


あの女は白石隆信より3歳年上だがそうは見えなかった。
最小限の化粧をしただけの女は、35歳という年齢を訊かなければ、20代後半といった容貌だったが、そんなところに美奈の夫は惹かれたのか。だが見た目が若くても、話をすればそうではないことは直ぐに分かる。
落ち着いた態度と口ぶりというものが実際の年齢を感じさせた。

言葉ははっきりとしていて、道明寺グループの副社長を前にしても言い淀むことも躊躇うこともなく話をする女。いかにも仕事一筋に見え、誰もあの女が妻のいる男と付き合っているなど思いもしないはずだ。

だが女という生き物は本能で男を騙す術を知っている。
それは着飾ることで自分を美しく見せ騙すという手段もあるが、頭の良さで男を手玉に取るということもある。
実際牧野つくしは頭がいい。
高校、大学と優秀な成績を収め滝川産業へ就職した。だがそこで人の上に立ちたいと望むこともなく淡々と仕事をする女は、何の不満もないように思えた。
だがあの女ならもっと上を目指せるはずだ。しかしそれをしないのは、今の仕事は居心地がいいということなのか。

一生あの会社で働きたいと言った女。
もし女が今のままの居心地の良さを求めるなら、妻がいる男と付き合いを止めることを勧める。いや。勧めるのではない。止めてもらわなければならない。そして二度と会うことがないようにさせる。そうさせるため司は牧野つくしに会った。実際に会ってどんな女かを確かめ、そして1億という金でも男と別れない女というのはどんな女かじっくり見たかった。
そして方法を考えたかった。
具体的にどうやって女と美奈の夫を引き離すのかを。

そして女に面談の礼の意味を込め握手を求めたが、それまで口ごもることなく話をしていた女が躊躇いながら手を差し出すと頬を染めた。
あれが演技だとすれば、見事な演技力であり女優としてやっていけるはずだ。
だが化けの皮というものは、どこかで剥がれることに決まっている。

そして牧野つくしは自分が敵意を抱かれているとは思わなかったはずだ。
あれは仕事で副社長と面談をしたに過ぎず、その裏に隠された思惑があることは知らないし考えもしないだろう。
だが彼女が部屋を去るそのとき、挨拶のため頭を下げたが、その間一瞬だったが冷やかな感情が表に出てしまった。しかしそれが見られたとしても気に留めることではない。
だがこれからは気を付けなければならない。
彼女に敵意があるなど感じさせてはならない。
むしろその逆だと思わせなければならないからだ。
そしてあの面談は、司が牧野つくしに近づくきっかけになった。
あの面談も最初から仕組んだものだったが、あのおかげで近づき易くなったのは事実だ。
人は一度でも言葉を交わし、挨拶をすれば知り合いという範疇に入るからだ。


司は心から女を好きになったことがない。
だから恋愛につきものの独占欲や嫉妬というものを経験したことがない。
だから正直なところ、姪がどうしてここまでの想いを抱くのか分からない。
それにもし司が結婚するとなれば、戦略的な結婚になるはずだ。だから相手に対して独占欲といったものも湧かないはずだ。

今までの女との付き合いは互いの合意の上の性行為。そしてパーティーへの同伴といったもの。だが幼馴染みの悪友たちの中には、嫉妬や独占欲といったものに煩わされる男もいるが、司が牧野つくしを虜にして捨てるという過程の中にそれらが含まれることはない。

女がいないと寂しいだろうと言っていたあきらは、若い頃10歳以上年上の人妻と付き合うのを好んでいた。
そんなあきらの不倫といえども純愛だという言葉を借りれば、牧野つくしと白石隆信は純愛なのだろうか。だが、あきらの場合はあの二人とは立ち位置が違う。
それに、あきらが年上の人妻好きだったのは、家庭環境が影響していると言われていたからだ。
そんなあきらなら不倫をする男と女の気持が分かるのか。
いつだったかあきらが言ったことがある。
不倫は純愛だが、いつ終わっても文句が言えない関係だから燃え上がると。
そして相手が誠実さを求めない関係だからいいと言う。だがそれは当事者だけであり、夫に浮気をされている姪は、いつかは終わるという二人の関係を、ただ指を咥えて待つつもりはない。
それに終わるとも限らない。

夫を愛しているから別れたくないという姪。
今の世の中離婚は不名誉なことではない。
それに司にしてみれば、愛しているという言葉は、意地であるような気もするが姪が決めたことだ。だから叔父として姪の幸せのため、力を貸してくれと言われればそうせざるを得ない。







「失礼いたします。滝川産業との出向による人事交流の件ですが、あの会社は同じグループ会社になったとはいえ、まだ1年しか経っておりません。企業風土も文化も違います。まったく別の会社と言ってもいいのが実情ですが彼女を出向させるということでよろしいのですね?」

司は煙草を灰皿で揉み消し、執務室に入って来た西田から書類を受け取り、すらりと長い指でペンを掴むとサインをした。そして椅子の背にもたれかかり考えるように数秒間目を閉じ、そして開いた。

「ああ。そうしてくれ。あの女を近くに置く。そうすればあの女の行動が見える。それに俺の傍にいるんだ。他の男と会う時間があると思うか?それにあの女の仕事に対する姿勢はある意味で立派だ。与えられた仕事は一生懸命やる。だからその姿勢を買ってやるつもりだ」




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コメント
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dot 2018.04.25 08:05 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
どうやらつくしは出向になるようです。
どんな仕事になるのでしょうか。
そして司。ミイラ取りがミイラにならないように...いや、なってくれないと恋が始まらない(笑)
はい。その通りです^^

>何となく類くんの寝姿に似ていたのですが・・
期待を持ってしまいますがどうなんでしょうねぇ。
タマさんも西田さんも出て来ましたからねぇ。
懐かしい方々に会えるのは大変嬉しいことです。
西田さんの脳内補充完了ですか?
それにしても西田さん、お変わりなくご活躍のようですね?
やはり坊ちゃんには西田さんが必要です(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.04.25 22:08 | 編集
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