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2018
04.22

出逢いは嵐のように 5

姪の美奈は1億で女に自分の夫と別れるように言った。
まさかあの子が夫の浮気相手にそこまでの行動をするとは思わなかったが、姉や自分の性格を考えれば不思議なことではない。自分の思いをはっきりと形で表すことをする姪は、行動に移すのも早い。そして、祖母の楓から二十歳になれば受け取れる莫大な信託財産の使い道に躊躇はないようで、早速自分のために使うことにしたようだ。

自分の幸せを守るためならどんな手段でも用いる。
それをビジネスに置き換えたとすれば、祖母の楓のようになる可能性もあるということだ。
だがそれが悪いというのではない。それに彼女のその行動力はまさに道明寺家の特徴と言ってもいい。
目的のためには手段は選ばない。
それが楓のやり方であり、そのやり方が道明寺という財閥を大きくしていったのだから。

だがその楓も孫には甘い。
しかし、孫の夫が浮気をしていると知れば容赦はしないはずだ。美奈の言葉など無視して別れさせるかもしれない。
そして母親である椿に若さを理由に反対された結婚だっただけに、やはりと思われたくないという気持と心配を掛けたくないという気持があることも理解出来る。
だから叔父である司にどうにかして夫の浮気相手を遠ざけて欲しいと言って来た。

だが司は、姪が選んだ相手が気に入らないという訳ではないが、結婚してまだ間もないというのに早々に浮気をする男など別れてしまえばいいという思いもあった。
だからその思いをつい口にしてしまったが、人を好きになるという感情は他人には分からないものであり、何故こんな男と?と思ったとしても、逆もまた然りで感情というのは理性でコントロールできるものではないと言われている。

だが司が本気で女を好きになったことがあるかと問われれば、ノーと答える。
過去に付き合っていた女がいたとしても、どこか醒めた目で女を見ていた。女という生き物は、すぐに感情に訴える生き物であり、感情を制御して理性を働かせるといったことが苦手だ。つまりすぐに泣く生き物であり、泣けばなんとかなると思う女は司にしてみればただの煩い女に過ぎなかった。
だが姪は別だ。姪が流す涙は他の女とは別のものだ。
姪は司にとって数少ない家族であり、幼い頃から可愛がってきた姉の子供だ。あきらのような兄と妹との関係とは別の意味での絆や情といったものがあった。

美奈は結婚しているとはいえ、まだ20歳の大学生。
頭がいいとはいえ、司から見れば子供だ。
そしてお嬢さん育ちであることには間違いない。
それに二人が夫婦としてどんな生活を送っているのか知らないが、二十歳という年齢では知らないことも多いはずだ。

そんな姪が自分を頼っているというのだから、何とかしてやらなければと思うのが司だ。
それに例え夫と別れることになっても椿の娘であり、司の姪であり、楓の孫となれば未来はどうにでもなる。若い頃の結婚の失敗に心が傷つくことがあったとしても、時が経てば癒されるはずだ。

それにしても、1億で首を縦に振らなかった相手の女は、美奈がさらにもう1億出すと言っても同じ態度を取ったという。
それは白石隆信という男が、道明寺という日本で一、二を争う財閥の血筋の娘と結婚していることを知っていて、別れるならもっと多くの金を男の妻から引き出せると思っているからなのか。
だがそう考えているならそれは甘い考えであり無理だと分からせてやる必要がある。
そしてその女が金目当てなら司にはうなるほどの金がある。
それに、白石隆信と自分の容貌を比べれば、司の方が比べものにならないほど優れている。
それを充分理解している姪は、司のその魅力を使って女を虜にし、夢中にさせ捨てろと言う。
自分の心が傷ついたのと同じように、相手の女の心を傷つけてくれと言う。
それはある意味残酷な手段。
身も心も弄んで捨てろという言葉が美奈から出るとは思わなかったが、1億、いや2億でも首を縦に振らなかったというなら、相当したたかな女であり、傷付く心というものを持っていないということになる。

「どんな女か知らねぇが、さぞかし自分に自信がある女ってことか?」

司は言うと美奈から訊かされた、滝川産業という社名に皮肉な笑みが浮かんだ。
偶然とは言えその会社は道明寺HDが1年前に買収した会社。そして明日その会社を訪れることになっているからだ。

その会社にいる牧野つくしという女と美奈の夫の付き合いが1年になるというなら、同じグループの会社になったことがきっかけだったのだろうか。接点があるようには思えないが、それでもどこかで繋がりがあるから二人は付き合いを始めたということか。

司は美奈が帰ったあと、すぐに秘書に電話をした。
必ずスリーコール以内に出る男の声はいつもと同じで変わることはなく感情をあらわにすることはない。
そんな男にすぐに滝川産業の牧野つくしについて調べるように告げると、秘書はかしこまりましたと答え電話を切った。
そして世田谷の邸を後にしてペントハウスに戻ったところで電話が鳴った。

「ああ。__そうか分かったか。_____いや。パソコンの方へ送ってくれ。__そうだ。明日滝川産業に行くがその時、牧野つくしという女に会いたい。会えるようにしてくれ」


司はパソコンを立ち上げた。
そして秘書からのメールを開き、牧野つくしについて書かれている内容に目を通したが、それは道明寺グループの全社員についてのデータの中から抜き出されたもので、当然だが簡単にアクセス出来るものではない。

そしてそこに書かれているのは、牧野つくしが35歳で白石隆信より2歳上の女であり、都内の大学を卒業後、産業機械専門の商社である滝川産業に入社し、営業統括本部で営業のサポートをしていると書かれていた。
そして示されている写真はIDカード用に撮影されたもので、肩口で切り揃えられた黒髪に薄化粧なのか唇の色は殆どないといってもいいほど色がない。

だが顔の中で印象的なのは目だ。黒い大きな瞳がカメラ目線なのは当然だが、真っ直ぐこちらを見つめるその瞳の縁に派手な人工的な彩はなく、自然な瞳が強い光を湛えカメラのレンズの向うにいる人間を見ているが、その顔は真面目そのもので、妻のいる男をたぶらかす女には見えなかった。

「この女が牧野つくしか?」

思わず漏れた言葉は、司が想像していた女とは違ったからだ。
着ているものも、雰囲気も彼が考えていた女とはまるで違う。
美奈が提示した1億に頷かず、2億と言っても首を縦に振らなかった女には見えなかった。
いや。外見だけに惑わされるほど愚かしいことはない。
この女は強欲だが謙虚に見せるのが手口なのかもしれない。
何しろ女は化ける。キツネやタヌキと同じで自分の望む姿に化けることが出来る。
IDの写真が薄化粧なだけで、男をたぶらかすと決めれば、目の周りに派手な色を塗り、唇には扇情的な色が塗られるはずだ。
NYにもその手の女は幾らでもいた。つまり金持ちで見た目のいい男を捕まえるためならどんなことでもする女はどこにでもいるということだ。
だから写真とデータだけでは判断することは出来なかった。

司は姪から牧野つくしを虜にして捨ててくれと言われた時、躊躇した。
そんな手間がかかることをするよりも、手っ取り早く決着を付ければいいと感じたからだ。
それは、牧野つくしに自分の立場を認識させるということ。自分が相手にしている男は自分が働く会社の親会社にあたる道明寺財閥に繋がる男であり、男の妻はグループの社長である道明寺楓の孫であるということ。そして二人の関係で不利益を被るのは自分の方だということを。

たが、今は姪の願いを叶えることが面白そうだと感じ始めていた。
弄んで捨てて欲しい。
相手の女の心を傷つけて欲しい。
自分が傷ついたのと同じだけ傷つけて欲しい。
恋を仕掛けて捨てる。それが姪の願い。
それは司にとっては簡単なゲームになるはずだ。
何しろ、彼に堕ちない女はいないと言われているのだから。

司は、大した情報はなかったが必要なことを頭に入れるとメールを閉じた。

「牧野つくしか。会うのが楽しみだ」





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コメント
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dot 2018.04.22 07:33 | 編集
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dot 2018.04.22 09:33 | 編集
m****a様
はじめまして。こんにちは^^
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
>司がどうして姪の夫に先に問いたださないのか?
そうですねぇ。
司が夫に問いただすことをすれば、どうして二人の問題を叔父に話すのか。と夫は妻を責めるはずです。
そして司が出て来たことにより、夫婦内のパワーバランスは大きく妻に傾きます。
なにしろ美奈は道明寺楓の孫で司の姪ですからねぇ。
そんなことからも、別れたくない美奈にしてみれば、司が夫を問いただすことが夫を追いつめたようになり、離婚しようと言われてしまうと考えているはずです。だから司も美奈のために夫を問いただすことはしません。
そして美奈は夫を追いつめるのではなく、つくしを追いつめて欲しいといった思いのようです。
夫の浮気相手は誰なのか。それは先のお話になる予定です。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.04.22 23:42 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
見た目平凡で男を惑わすようには見えない女。
1億、2億のお金を積まれても首を縦に振らない女。
司にしてみればどんだけ強欲な女だと思っているはずです。
そして姪の願いを叶えてあげようと思う男。
自分に堕ちない女はいないと思う男。
でもつくしは金も権力も美貌も興味はありません。
翻弄されるのは司?(笑)どうなるのでしょうね?(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.04.22 23:49 | 編集
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