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2018
04.21

出逢いは嵐のように 4

司が世田谷の邸に着いたのは13時半。
広いエントランスを抜け、向かう先の部屋で待っているのは姪の美奈。
20歳の美奈は、椿の容貌を受け継ぐ母親に勝る美人だ。
そして長い黒髪を持ち、背が高くスタイルがいい。見方によっては姉が二十歳の頃かと思うほど似ているところもあり、司は時に懐かしさを感じることもあった。

彼女は気質も姉によく似ていて、はっきりと物を言い行動的。
つまり有言実行であり、彼女の意思というものを簡単には曲げることが出来ない。
そして親である姉夫婦からして娘の意思を尊重しているのだから、叔父である司も美奈に甘くなるのは当然で彼女の願いを断ることは出来ないはずだ。
だが一体どんな頼みがあるというのか。
どちらにしても、姪の頼みを聞いてやるのだから考えるだけ無駄というものだ。




司が部屋に入ってくると美奈はソファから立ち上がり嬉しそうに声を上げた。

「叔父様!今日は本当にありがとうございます。せっかくのお休みのところお時間を作っていただけて本当に嬉しいです。それにこうして久し振りに叔父様に会えて本当に嬉しいです」

「美奈。久し振りだが元気そうだな」

司は美奈が明るい表情であることから、どんな頼みだろうと大したことはないと思っていた。そして二十歳という年齢から来る輝きというものも感じられ、姪は幸せそうだと感じていた。だが美奈はゆっくりとソファに腰を下ろし、正面に腰を下ろした叔父である司に向かって今にも泣きそうな顔をして見せた。

「叔父様。お願いがあるんです。でもロスにいるお母様には絶対に言わないで下さい。お母様には心配をかけたくないんです。もしこのことがお母様の耳に入ったら私….ほらご覧なさいって絶対に言われるわ。親の言うことに耳を貸さないからよって….。
でもお母様は自分が若い頃、おばあ様に反対されて本当に愛していた人と結婚出来なかったって聞きたわ。だから私のすることを許してくれたんだと思うの。でも、それが間違っていたということになる。だから….」

「美奈….」

司は話すのを止めた俯いた姪に声を掛けた。

「どうした?何があった?」

姪の口から出た『お母様は自分が若い頃、おばあ様に反対されて本当に愛した人と結婚出来なかった』というのは、椿が道明寺という家のため美奈の父親と結婚をしたことを言っているのだが、今の姉は母親が決めた結婚を恨んではいない。
少なくとも結婚してからの姉は、姉なりに夫となった美奈の父親を愛した。たとえ政略結婚だったとしても、今の二人にそんな過去はまったく感じられない。むしろ心から愛し合って結婚を決めた二人のようにしか思えなかった。

そんな二人の間には美奈の他にも男の子が二人いて、彼らの教育のためアメリカで暮らしている。
そして美奈が言った『私のすることを許してくれた』と言うのは、美奈が18歳で結婚することを許したということだ。
それは、美奈がアメリカで高校を卒業し、日本の大学へ進学したとき知り合った男性と結婚したいと言ってきたことだ。

椿は高校生の頃、他校のごく普通の家庭の男子生徒と恋をした。そしてその生徒と過ごす未来を考えた。だがそれが許されなかったのが彼女の人生。だから我が子が若くして結婚したいと言ってきたとき、それを許したのは、自分の恋を実らすことが出来なかった母が娘へ託した若かりし頃の想いというものがあったのかもしれない。

それに若いからといって反対したところで、美奈は訊く娘ではない。
彼女は強い意思の持ち主で、こうと決めたら貫くだけの根性がある。
それは叔父である司に似ているのかもしれない。何しろ司は、少年時代親の言うことにことごとく反抗した。親の言うことなど屁とも思わなかった。

だが美奈は女の子だ。もし反対して駆け落ちをするということになれば、それはそれで大変なことになる。だから、大学は必ず卒業することを条件に結婚を認めた経緯があった。

そして美奈の夫となった男は彼女より一回り年上の32歳。
知り合ったとき、18歳の姪と30歳の男ということを考えたとき、ティーンエイジャーが12歳も年上の男とどんな会話が成り立つのかと思ったが、美奈は頭がいい。
大学で自分の周りにいる男子学生では物足りなさを感じていたとき、その男と出会い惹かれたということなのだろう。

夫の仕事は道明寺グループの関連会社で役員をしているが、知り合ったのは、男が美奈の通う大学の卒業生であり、姉の椿と美奈が懇意にしている教授のところへ顔を出したことがきっかけだというのだから、男と女の出会いというのは分からないものだ。

司は俯いたまま泣き出した姪に声をかけた。

「美奈。いったい何があった?どうした?隆信(たかのぶ)と何かあったのか?」

美奈の夫の名前は白石隆信。
その名を出した途端、顔を上げた美奈の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
そして酷く苦しそうな声で驚くような言葉を口にした。

「叔父様。あの人、う、浮気しているの。愛人がいるの」

「愛人?」

司は唖然とした。
白石隆信には結婚式のとき会っただけだが、浮気をする、愛人を持つような男には見えなかったからだ。
そして当然だが道明寺グループの社員であるからには、姪の結婚相手としての身元調査も徹底した。だが何も問題はなかったが、それは今から2年前の話だ。

「美奈。それは本当か?お前の思い違いじゃないのか?」

「そうだといいと思った….でも違うの。もうすぐ1年になるの….白状したのよ叔父様。
初めは信じたくなかった。でも帰りが遅い日が増えて、どうしたのって聞いてもはっきり答えないの。仕事が忙しいっていうならまだ分かるけど何も言わないの。今日は朝から接待ゴルフだって言うけど、それも本当かどうか。もしかしたら女と会っているのかもしれない。叔父様。私はもう二十歳よ。成人よ?それに未成年だったとしても、結婚すれば法律上は成人とみなされるわ。私は妻として夫の行動を知る権利があるわ。だから言ったわ。調べればすぐに分かるのよって。そうしたら白状したの」

「美奈…..」

司は姪が涙を流しながら話す様子をどうしたらいいのかと考えあぐねていた。
もし目の前で泣いているのが自分に纏わりつく女どもの偽りの涙ならすぐに分かるし、例え本気で泣かれたとしても相手にすることなどない。だが大切な姪が泣いているとなると話は全く別だ。

「美奈。そんな男とはすぐに別れろ。そんな男はすぐに首にしてやる。お前の前に二度と現れないようにしてやる。だからすぐに別れろ。お前の母親には俺が話しをしてやる」

司はすぐにポケットから携帯電話を取り出し秘書に電話を掛けようとした。

「叔父様待って!首にはしないで。私….別れたくないの。あの人のことが好きなの。たとえ浮気されたとしてもやり直せると思うの。な、何を根拠にって言われたら困るけど、別れたくないの」

司は姉の娘であり姪である美奈から泣きながら頼まれれば、電話を掛けることは出来なかった。そして泣いている姪の口から思わぬことを頼まれた。

「叔父様。お願い。あの人が悪いんじゃないの。相手の女が悪いのよ。だから、叔父様があの女を彼から遠ざけて欲しいの。叔父様なら出来るでしょ?あの女を叔父様に夢中にさせて捨てて!」

「美奈お前…」

「私叔父様の噂は知ってるわ。女性はみんな叔父様のことを好きになるって。叔父様みたいな素敵な人ならどんな女も簡単に自分のものに出来ることも。私だってそのくらい知ってるわ」

姪は叔父が女にモテること。そしてどんな女も簡単に手に入れることが出来ることも知っている。女に関する叔父の評判というのを姪はよく知っているということだ。
それを知っていて、叔父に夫の浮気相手である女を自分に夢中にさせ捨てろと平気で口にすることが出来るのは、姪は姉の娘だが、祖母である道明寺楓の血も確実に受け継いでいるということだ。だから今のような策略的な言葉も平気で口にすることが出来るのだろう。
つまりそれは、敵対する人間に対して容赦がないと言われた鉄の女のDNAは間違いなく孫にも受け継がれているということだ。

「叔父様お願い。私、彼と別れたくない。彼の心は揺れているだけ。だからあの女を遠ざけて欲しいの。叔父様の魅力であの女を虜にして!」

美奈の泣き顔を見るのは、子供のころ転んで泣いた時以来だが、今の顔はあの頃とは違う。
涙を流す顔は愛する人を失いたくない女の顔だ。
司が心許せるのは姉と悪友たちで、姪の悲しみは姉の悲しみだ。
だから姉の悲しむ顔は見たくない。
そして叔父として姪の幸せを祈っている。

「それで?その女はどこの誰か分かっているのか?」

「分かってるわ。私、その女に会いに行ったの。1億で別れてって言ったの。でも彼のことなんて知らないってとぼけたの。私の話なんか聞かなかった。さっさと席を立ったわ。その女は滝川産業って会社に勤める女。名前は牧野つくしよ」





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コメント
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dot 2018.04.21 10:10 | 編集
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dot 2018.04.21 11:56 | 編集
か**り様
つくし、大迷惑(笑)本当ですよね。
いきなり夫と別れてくれと言われて言いがかりも甚だしいです。
美奈。そんな不誠実な男とは別れなさい。
叔父の司も同じ意見ですが、こればかりは本人の意思というものがありますからねぇ。
男と女のことは、本人たちで解決するしかありません。
白石夫妻と司とつくしで話し合い...そのような機会が訪れることを祈りたいと思います。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.04.21 22:17 | 編集
ふ*******マ様
おはようございます^^
男って!(笑)本当に今世間では色々とありますねぇ。
つくしに難癖付けて来たのは、司の姪でした。
楓の孫娘。なかなか気が強いお嬢さんです。
そんな姪は司にとっては大切な家族。
彼女のお願いを訊くのでしょうか。
え?白石の言い分ですか?本当にねぇ。何と言うつもりでしょうね?(笑)司叔父さん怖いですよ?(笑)
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.04.21 22:28 | 編集
司*****E様
こんにちは^^
姪の美奈は叔父である司に夫の浮気相手をたぶらかしてくれと、虜にして捨ててくれと言いました。
恋の罠を仕掛けてくれということですが、どうなるのでしょうか。
司がその気になれば、堕とせない女はいないはずですが、二人の出逢いはどんな出逢いになるのか。
今の司は姪の言葉を疑いません。ですからつくしに対していい感情など当然ありません。
その感情に変化が生じるのはいつなのでしょうね?
二人が会わなければ話は前に進みませんので、とりあえず話を進めたいと思います(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.04.21 22:57 | 編集
ま**ん様
白石の正体が分かりました。
そしてそこには司の姪の存在が。
さて、つくし。あらぬ誤解が生じているようです。
姪の結婚生活を壊す女として司に認知されてしまった女はこれからどうなるのでしょうねぇ(笑)
拍手コメント有難うございました^^

アカシアdot 2018.04.21 23:05 | 編集
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