偶然は避けられない。
司がつくしの姿を認めたのは大河原滋に埋め合わせを求められたことに始まった。
彼女は背中を向けていた。
彼女は通りかかったウエィターからシャンペンのグラスをもらっていた。
そして彼女が動くたびに艶のある黒髪が揺れ動いていた。
大河原財閥主催のパーティー会場で滋は手をあげて司に合図した。
「あ、来た来た!つかさっ!こっちこっち!」
彼女が振り返った。
俺と目が合うと「あっ」と言うような表情をしていた。
司はパーティー客のあいだを縫うようにして滋たちの元へと歩いて行った。
「つくし、これが今話していた男だよー。あたしの見合い相手だった男、道明寺司って言うの」
「どうも・・」
司が言った。がそれ以上言葉が出なかった。
彼女は滋と三条桜子と一緒にいた。
三条とも知り合いだったか・・
つくしは彼を見上げると挨拶をした。
「道明寺さんこんばんは」
つくしはほほ笑むと薄く頬を染めた。
牧野つくしとここで会えるとは!
「ちょっと!つかさ聞いてる?」
「悪りぃ。ちょっと他のことを考えてた」
司は牧野つくしと会えた嬉しさを隠しきれずにいた。
そして慎重に言葉を選んで話そうとしていた。
「えっ?なになに?つくし、司とは知り合いだったの?」
滋は腑に落ちないような表情でつくしと司を見た。
「この男ひどいのよ!この前大使館でのパーティーでね、つくしのこと話したらあたしのこと放っぽり出して行ったのよ、自分から誘っておいたくせにだよ?」
滋はそう声を張り上げると司に抱きつくようにしてきた。
「やめろよ滋!このサル!黙れ!ああ、ビザの件で世話になってるんだよ!」
司はつくしと知り合ったいきさつを話した。
「そうなんだ!知り合いなら話しは早い!」
「し、滋さん?その話しは道明寺さんに関係はない・・」
つくしは滋の大きな声に負けまいと言った。
「先輩知らないんですか?」
桜子は言った
「なによ、桜子?」
つくしは聞いた。
「だから道明寺さんですよ!道明寺って言ったら・・」
桜子は知っているでしょ?とばかりに言ってきた。
「「よっ!」」
二人の男が声をかけ桜子の話しをさえぎった。
「あきら君!それに西門さんも!来てくれてありがとう!」
滋は笑いながら答えた。
「あれ?類クンは?」
「ああ、あいつは来ないよ。もともとパーティーなんて嫌いだからな」
総二郎が言った。
「そっか・・。そうだよねー。あ、何か飲む?」
ウエィターが立ち止まっていた。
「そうそう、二人ともつくしと会うのは初めてだったよね?」
滋は二人の男に水を向けた。
「こちら、牧野つくし。あたしの大学時代の友達で今は大使館で働いているの」
滋はつくしのほうを向いた。
「「 大使館で牧野って…もしかして大使館の女か?! 」」
二人は声を揃えて言った。
「なによ二人とも失礼な言い方しないでよね!」
滋は快活に言った。
「はじめまして。牧野つくしです」
彼女は言った。
「おっ?君、司に坊主頭にしないんですかって聞いたんだよね?」
総二郎は笑いながら言った。
「え?だって道明寺さんってお寺さんですよね?」
つくしは確信を込めて言った。
「おっ、お寺さんって?つくしったらなにそれ?」
「え?なにか変?」
つしは意外に思って聞き返した。
「変だよぉ!つかさがお、お寺さんだって?」
滋はやや大きな声で笑いだしていた。
「やだ、もうつくしったら。やめてよぉ・・。つ、つかさが坊主頭って・・」
滋は頭に浮かんだ映像がそこに投影されたかのように目を見開いて司を見ていた。
「お、お寺さんって、つかさお坊さんになるの?」
そして笑いが止められないようだった。
司は滋を睨みつけたが、なにも言わなかった。
「つ、つかさ・・い、いつからお寺の跡取り息子になったのよぉ・・」
「だろ?笑えるだろ滋」
総二郎とあきらも一緒になって笑いだした。
「つくしちゃん、司のところは髪の毛があってもいい宗派なんだよ。だから坊主頭にする必要がない・・・」
「てめぇら、黙って聞いてりゃ・・いい加減にしろ!」
司は近くにあったテーブルを拳で突いていた。
「牧野先輩、本当に知らないんですか?道明寺って言ったら日本を代表する企業じゃないですか!」
桜子が慌てて言った。
「え?だって花沢さんが道明寺さんって由緒正しい大きなお寺の人だって・・」
つくしは狐につままれたような顔をして言った。
「花沢さんですか・・。あのね、先輩。花沢さんって人は浮世離れした人なんですがあれでも花沢物産の跡取りなんですよ。で、道明寺さんの幼なじみなんです」
桜子は何も聞かなかったように話しを続けた。
「からかわれたんですよ、先輩は!それに普通道明寺って聞いたらお寺じゃなくて企業の方を思い浮かべるものですよ!」
「だって、ビザの申請に来たときも自営業で、手広くしてる・・・」
「なんですか?先輩名前を聞いて自営業で手広くしてるって聞いたらお寺を想像したってわけですか?」
「・・うん。だってお寺も霊園とか幼稚園とか駐車場とか手広くしてるし・・」
つくしは落ちつきを無くしたように言った。
「・・・ったく。先輩って変なところで鈍感なんですよねっ!」
桜子は諦めたような表情で胸を張って言った。
滋は話しを本題に戻そうと話しはじめた。
「あのね、こんど大河原はA国で銅の採掘をすることになったのよ」
「おまえんとこ、石油事業だけじゃなくて銅の採掘もするのか?精錬もか?」
あきらが聞いた。
「うーん。今までねスイスの会社が取り仕切ってたんだけど、撤退して生産中止になっちゃってね。うちがその後に入ることになったんだ。うん、精錬もするよ!でもそれは日本でするけどね」
「おい、その会社って香港市場も撤退するって噂のあの会社か?」
「うん、そうそう。さずがあきら君!美作商事専務!」
「そこの株って中東の政府系ファンドが大半を持ってたよな?」
あきらが質問した。
「そうなのよ、うちは中東にはパイプもあるしってことでね。でもこの話しはオフレコでお願いね!」
「で、それがなんで司と・・・牧野・・さんと関係があるんだよ?」
総二郎が聞いた。
「うん、道明寺HDと大河原って資源の分野じゃかぶってないじゃない?石油事業も道明寺にないしね!司のところは鉄鉱石は扱ってるけど、銅はないよね?
日本はチリからの輸入が多いんだけどね、チリは他の商社が強いからさ。
今じゃ輸入は中国に抜かれたけど、A国の鉄鉱石も銅も日本を含むアジア向けがほとんどなのよ。で、資源メジャー2社独占を崩してうちと道明寺で比肩するくらい行こうって話。司このまえ話したよね?」
司は無言で滋の話しを聞いていた。
「でね、つくしは大使館を辞めてうちで働くことになったの!」
「 は?」
司は思わず開いた口が塞がらなかった。
「うん、だからね、つくしはA国には何かと詳しいし、これから政府機関と色々とあるわけでしょ?大使館に勤務してたつくしなら色々と顔が効くしうちで働いてもらうことになったの!」
司は思わずその場に棒立ちになってしまった。
「うちへ来てもらうの、大変だったんだからねっ」
滋はひとりごとのように言った。
「つくしにはこれからうちでA国とのパイプ役をしてもらおうと思ってるの。
だから司、合弁事業の件よろしくね!」

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応援有難うございます。
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大河原財閥主催のパーティー会場で滋は手をあげて司に合図した。
「あ、来た来た!つかさっ!こっちこっち!」
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司が言った。がそれ以上言葉が出なかった。
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三条とも知り合いだったか・・
つくしは彼を見上げると挨拶をした。
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つくしはほほ笑むと薄く頬を染めた。
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「ちょっと!つかさ聞いてる?」
「悪りぃ。ちょっと他のことを考えてた」
司は牧野つくしと会えた嬉しさを隠しきれずにいた。
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「えっ?なになに?つくし、司とは知り合いだったの?」
滋は腑に落ちないような表情でつくしと司を見た。
「この男ひどいのよ!この前大使館でのパーティーでね、つくしのこと話したらあたしのこと放っぽり出して行ったのよ、自分から誘っておいたくせにだよ?」
滋はそう声を張り上げると司に抱きつくようにしてきた。
「やめろよ滋!このサル!黙れ!ああ、ビザの件で世話になってるんだよ!」
司はつくしと知り合ったいきさつを話した。
「そうなんだ!知り合いなら話しは早い!」
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つくしは滋の大きな声に負けまいと言った。
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桜子は言った
「なによ、桜子?」
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「「 大使館で牧野って…もしかして大使館の女か?! 」」
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滋は快活に言った。
「はじめまして。牧野つくしです」
彼女は言った。
「おっ?君、司に坊主頭にしないんですかって聞いたんだよね?」
総二郎は笑いながら言った。
「え?だって道明寺さんってお寺さんですよね?」
つくしは確信を込めて言った。
「おっ、お寺さんって?つくしったらなにそれ?」
「え?なにか変?」
つしは意外に思って聞き返した。
「変だよぉ!つかさがお、お寺さんだって?」
滋はやや大きな声で笑いだしていた。
「やだ、もうつくしったら。やめてよぉ・・。つ、つかさが坊主頭って・・」
滋は頭に浮かんだ映像がそこに投影されたかのように目を見開いて司を見ていた。
「お、お寺さんって、つかさお坊さんになるの?」
そして笑いが止められないようだった。
司は滋を睨みつけたが、なにも言わなかった。
「つ、つかさ・・い、いつからお寺の跡取り息子になったのよぉ・・」
「だろ?笑えるだろ滋」
総二郎とあきらも一緒になって笑いだした。
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桜子が慌てて言った。
「え?だって花沢さんが道明寺さんって由緒正しい大きなお寺の人だって・・」
つくしは狐につままれたような顔をして言った。
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桜子は何も聞かなかったように話しを続けた。
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あきらが質問した。
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「で、それがなんで司と・・・牧野・・さんと関係があるんだよ?」
総二郎が聞いた。
「うん、道明寺HDと大河原って資源の分野じゃかぶってないじゃない?石油事業も道明寺にないしね!司のところは鉄鉱石は扱ってるけど、銅はないよね?
日本はチリからの輸入が多いんだけどね、チリは他の商社が強いからさ。
今じゃ輸入は中国に抜かれたけど、A国の鉄鉱石も銅も日本を含むアジア向けがほとんどなのよ。で、資源メジャー2社独占を崩してうちと道明寺で比肩するくらい行こうって話。司このまえ話したよね?」
司は無言で滋の話しを聞いていた。
「でね、つくしは大使館を辞めてうちで働くことになったの!」
「 は?」
司は思わず開いた口が塞がらなかった。
「うん、だからね、つくしはA国には何かと詳しいし、これから政府機関と色々とあるわけでしょ?大使館に勤務してたつくしなら色々と顔が効くしうちで働いてもらうことになったの!」
司は思わずその場に棒立ちになってしまった。
「うちへ来てもらうの、大変だったんだからねっ」
滋はひとりごとのように言った。
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コメント
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さと**ん様
チャンスが来ました!
はい。是非ともこのチャンスを有効活用して欲しいです。
張り切ってレッツゴーと行きたい・・・
司坊ちゃん孤軍奮闘でしょうか(笑)
チャンスが来ました!
はい。是非ともこのチャンスを有効活用して欲しいです。
張り切ってレッツゴーと行きたい・・・
司坊ちゃん孤軍奮闘でしょうか(笑)
アカシア
2015.10.24 22:05 | 編集
