2018
04.06

あの頃の想いをふたたび 2

ただでさえ目立つと言われる男が、電柱の傍で小学生の男の子と言い合っているではないが話しをしている姿は人目を引く。先週もこの場所に立つ司を挙動不審な男と視線を向けて来る人間もいた。だが大半の人間は目を合すことなく通り過ぎていった。それは司の出で立ちに関わらない方がいいと決めたということだ。

目の前の男の子が言ったように、ひと目見て分かる高級そうなスーツに身を包んだ眼光鋭い男からは、只者ではないといった空気が感じられ下手に関わるとろくでもないことになるのではないかといった気がするからだ。

それは彼が道明寺HDという真っ当な会社の副社長の地位についている男だとしても、近くを通る人間たちには、司の広い背中には牙を剥いた龍がうねっているのではないか。そんな雰囲気を感じさせるものがあったのかもしれない。
だが男の子はそんなことなど気にしない。むしろ司にいたく興味があるといった感じだ。
そしてその男の子は司に向かって再び言った。

「おっさん。あの人のことが好きなんだろ?だからここにいるんだろ?」

二人の傍を通り過ぎて行く人間が彼らの会話を訊かなければ、親子だと思うだろう。それは父と子と想定するに丁度いい年齢の開きが感じられるからだ。司は28歳。もし子供が9歳なら18歳の時の子供ということになる。

だが司に子供はいない。
だがもし目の前にいる男の子が彼の子供だとすれば、それは彼が記憶を失っていた間に起こった出来事だということになる。




司が港で暴漢に刺され記憶を失ったのは高校3年生の時。
そしてその前日、初恋の人である牧野つくしと何の隔たりもなく結ばれた夜があった。もし子供がいるとすればその一夜の結果だが、彼女が出産をした記録はなかった。
だから突然自分の前に現れた男の子が彼の子供であるということはない。

司が欠落した記憶は彼女のことだけ。
そして彼女と過ごした一夜を隅々まで思い出したのは10年後。
それは前触れもなく唐突に頭の中に現れた一人の女性の姿。まるでテレビのスイッチが突然入れられ画像が目の前に広がるように女性の姿が見えた。そして画面は女性の姿を映し出したまま動きを止めた。そしてその女性の名前が牧野つくしであり当時17歳。画像の場所は英徳学園の屋上で彼女が作ってくれた弁当を食べているところだった。
そして司は自分では不完全だと思わなかった記憶を取り戻し彼女に会いに来た。

だが今日までの人生を振り返ったとき、自分が薄汚く思えた。
好きな女以外抱かないと言った男はこの10年で女を知り、さほど欲しくもない女を抱き愛情がなくても肌を合わせた。身体本意の関係にもならない一夜だけの女。そんな女がいたのが司のNYでの10年だった。

かつて性欲に関係なく彼女を抱きしめているだけでよかった男は、この10年で相手の心よりも単なる肉の重みを感じるだけの関係を結ぶ男になり下がった。
それを男だから仕方がないといった理由で括るのは、言い訳であり軽い言葉としか感じなかった。

それでも、動物の世界では強い者が、多くのメスと交わり子孫を残すことが当たり前だ。
だが人間は動物ではない。いや、人間も動物だと考えないこともない。だが人間は本能に任せ行動する動物にはない理性がある。だから人間が人間でいられるのであってそこが動物とは違うところだ。
だから今の司は感情だけで行動することが出来ず、彼女に会いたいという思いを理性が抑えていた。

そして本来なら男と女が肌を合わせるのは、相手の心と身体の温かさを感じたいからであり、性的なことが前面に来るべきではないのだ。若い頃の司はそう言った考えの男だった。
そして彼女は慈悲に溢れた心を持つ少女だった。自分のことよりも他人を思いやるという心は彼女に出会うまで知らなかった稀有な心。

そんな心を持つ彼女は自分を忘れた男の記憶を取り戻そうと、自分のことを思い出してもらおうとした。
彼が彼女のことを忘れたことをいいことに、取り入ろうとした女がいたとしても、彼女はその女を責めなかった。
そして彼にとって何が大切で、何がそうでないかを伝えようとした仲間もいたが、司は自分の心の中に、彼女の居場所を作ることはなかった。
そして司は彼女の心を踏みにじり捨てた。



だから彼女の前に現れることを躊躇っていた。
今更どのツラ下げて現れたのかと言われることを恐れていた。
そして先週と今日のこの日。この場所で彼女が働くパン屋を遠くから見ていたということだ。

そんな司の前に現れた子供は、とにかくしつこい。
いったい司の何がその子供の興味を惹いたのか。
司が先週もここにいたことを知るその子は、この辺りに住んでいるということは分かる。
そうでなければここに30分も司がいたことなど知ることはないのだから。

だが、子供が一人の男を興味深く見るといったことをするのだろうか。子供が興味を抱く対象といったものは、移ろいやすいと言われ、好奇心が旺盛なら旺盛なほど新しいものに目を奪われるという。
だがこの男の子はじっと司を観察していたということになる。
それこそ、男の子をストーカーと言ってもいいほどだ。
そして子供ならではの率直さで言葉を述べる。

「おっさん。あの人の事が好きだからここにいるんだよな?」

司の周りにいた人間たちは本物の言葉というものを喋ることはない。
だが今の司はどれが本物の言葉であり偽物であるか見分ける方法を知っている。
そして司自身もビジネスに於いて上っ面をいかに綺麗に装うか。舌先三寸とも言える言葉を喋ることもできる。
だからそこ、自分の口から出る彼女に対しての言葉がどこまで信じて貰えるのか自信がなかった。今でも彼女のことを愛していると。その言葉を伝えるためにここにいるが、10年間を振り返れば、あんなに愛していた人を捨てた男は、その人の前に立つ資格がないように感じられていた。

だが目の前の男の子が喋る言葉は本物だろう。それに街角にじっと立ち尽くしある一点を見つめる男は少年から見れば、おかしな人間と思われたとしても仕方がないのかもしれない。
だから興味を示したとしても不思議ではない。
だがこのしつこさは一体なんなのか?
男の子は逃がすものかと司の前に立ちはだかっていると言ってもいい。
そんな男の子に初めて司は訊いた。

「お前。誰だ?あいつと関係のある人間か?」

「おっさん。やっと俺に興味持ったか?俺が誰か知りたくなったのか?それなら特別に教えてやってもいいけど、おっさん、本当にあの人の知り合いなら名前名乗れよ?それにストーカーじゃねぇって言ったけどそうじゃねぇ証拠を見せろ。そうしたらここから解放してやってもいいぜ」

と男の子は言ったが、解放するもなにも大人の男と小学生では体格も腕力も全てが違う。
子供ひとりかわして逃げることなど造作もない。
だが男の子はニヤリと笑って口を開いた。

「おっさん。逃げようなんて思うなよ?俺の前から無理矢理逃げようとしたら大声で叫んでやる。助けてくれ!誘拐される!殺される!ってな」




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コメント
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dot 2018.04.06 05:44 | 編集
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dot 2018.04.06 21:30 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
記憶喪失だった男。NYから彼女に会うため日本に戻ってきましたが、その心は懺悔で一杯ですね?
そして司に纏わりつく少年は誰なのか?(笑)

漫画では永遠の高校生のような二人。それでも熱い口づけを交せる関係ではあるようですね?
そして坊ちゃんの書いたつくしの似顔絵(笑)
坊ちゃんの画力はあの程度でしたか(笑)

遠く離れた場所にいたとしても、心は傍にいると感じることが出来る。
そんな恋をしているようですね?それにしても二人の離れ離れは4年間で終わるのか。
神尾先生にはぜひ大人になった二人を書いて頂きたいものです。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.04.06 23:15 | 編集
ゴ**ロ様
はじめまして^^
拙宅。酷い男からエロ坊ちゃんまで色々な司がおります。
そして年齢も高めですがお好みの司で楽しんでいただければと思っております。
え?『金持ちの御曹司シリーズ』がお気に入り!(≧▽≦)
ありがとうございます!あの坊ちゃんちょっとエロさが際立つこともありますが可愛がってやって下さい。
別名『金持ちのエロ曹司』と呼ばれる御曹司。近いうちにまたと思っています^^
妄想ばかりする支社長。日本支社は大丈夫なのでしょうか。それが心配です(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.04.06 23:31 | 編集
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