2018
04.05

あの頃の想いをふたたび 1 

「おっさん。あの人のこと好きなのか?」

司は突然そんなことを言われ声がした方を見た。
話かけてきたのは9歳か10歳かといったところの男の子。
そんな子供が睨みつけるように彼を見ていた。

「おっさん。そうだろ?あの人のことが好きだからだろ?だからこんな所からあの人のこと見てんだろ?だっておっさん先週の金曜もいたよな。それもあんな高級な車で乗りつけてさ。おっさんすげぇ金持ちなんだな?あ。もしかしておっさん世間でいうところのストーカーって奴だろ?そうだろ?俺ストーカーってもっとキモイ恰好してると思ったけど、おっさんなかなかイケメンだしいい服着てるし、背も高いし、モテんじゃねぇのかよ?それに幾つだか知らねぇけど、いい大人だろ?あの人のことが好きならストーカーなんかしねぇで告白すりゃいいじゃん」

突然話しかけて来た子供はペラペラとよく喋る。
それも司の行動を知っているかのように喋るが、確かに先週の金曜日この場所にいた。
それは買い物帰りの主婦や帰宅途中の学生、自転車で通り過ぎる女性をよそに、ということだ。そしてそこは街の小さなパン屋の店先が見える場所。そこに彼は佇んでいた。

それにしてもやけに馴れ馴れしいというのか、見知らぬ他人に対しての口の利き方が悪いというのか、礼儀を知らないというのか、とにかく司に向かっておっさんを連発するこの子供はいったい何なのか。

司には同じ年頃の甥がいるがこんな口の利き方はしない。
ましてや夕方のこの時間、甥は習い事の時間のはずだ。ピアノだったかヴァイオリンだったか忘れたが確かそんな習い事の時間があったはずだ。だがこの子はそういったこともなければ、友達と遊ぶといったこともせず、大人の行動を気にしているがこれは単なる好奇心なのか。それともこの子にとって何か意味のある行動なのか。
そんな司の思いをよそに男の子は司が黙っていることに業を煮やしたように言った。

「おっさん。黙ってねぇで何とか言えよ?おっさんストーカーだろ?」

ストーカーに向かってストーカーと訊いてそうだと答える人間はいないはずだが、そこはまだ子供だからなのか。思ったことを口に出すのが子供らしいと言えばそうなのだが、司が黙っていてもお構いなく話しかけてくるのも空気の読めない子供の特徴だ。

「おっさん聞いてんのかよ?」

そして恐らくこのまま黙っていても話を止めることはないだろう。
それにしても全く知らない大人の男に臆することなく話かけてくるのだからが、怖いもの知らずというのか、向こう見ずというのか。目の前にいる男の子は司が自分の質問に答えるまで梃子でも動かないといった風に司の前に立っていた。それなら自分が立ち去ればいいのだが、まだこの場所を離れたたくはなかった。そんな思いから司は仕方なく口を開くと低い声で言った。

「坊主….言っとくが俺はストーカーじゃねぇ」

「ふーん。それなら何だよ?知り合いなら電柱の影に隠れるなんてことしねぇよな?おっさんいったい何者だ?」

と、先ほどから司のことをおっさんと呼びストーカー呼ばわりして見上げる男の子こそ何者なのか。生意気を通り越し、高圧的ともいえる態度を取ることになんてガギだといった思いを抱いていた。

「あ。俺のこと気になってんだ?けど名前なんて名乗らねぇからな。何しろ名前は個人情報だし、おっさんの名前も知らねぇのに俺が名乗る必要なんてねぇからな。おっさん俺が誰か知りたかったら自分の名前を名乗れよ?」

自分から司に話しかけておいて名を名乗れというのは、小学生だとしてもいい根性している。親の教育といったものはどうなっているのか。親の顔が見てみたいと思った。
だが今の司はそんなことを思う自分を胸の裡で笑った。彼が9歳か10歳の頃と言えばやはり生意気だったからだ。そしてその頃だったはずだ。同級生を殴って鼻の骨を折るという大怪我をさせていた。だが目の前の子供は暴力を振るうような子供には見えず、どちらかと言えば屁理屈を捏ねる子供に思えた。

「俺は別にお前の名前なんて知りたきゃねぇよ。いいからお前どっか行け。それに俺はストーカーじゃねぇ。あいつの知り合いだ」

「ふーん。知り合いならなんでコソコソしてんだよ?俺知ってるぞ?おっさん30分はここにいてあの店のこと見てるだろ?俺よっぽど警察に言おうかと思ったくらいだ。けど、おっさんの髪の毛くるくるしてるから許してやろうと思った。それ天パだろ?そんなにくるくるしてたら子供の頃イジメられただろ?だから許してやる」

そう言った男の子の髪も緩やかだが癖があり巻いていた。

「しっかしおっさん、ホントに何者だ?」

そう言って司の傍で彼をおっさん呼ばわりしてうさん臭そうな目で見上げる男の子は、司が名乗るまで引き下がらないつもりなのか、かなりしつこい。

「おっさん、もしかしてあの人の元カレか?そうだろ。付き合っててフラれたんだろ?でもあの人のこと忘れられなくて電柱の影から見てるってヤツだ。となるとやっぱりおっさんストーカーじゃん」

司は自分のことをストーカーと決めつけ、彼の傍を離れない子供の存在が目障りで邪魔だった。
それにおっさんと言うのは、中年男の呼称であり司はまだ中年と言われるには早いはずだ。
だが子供相手に感情を剥き出しにして怒鳴るといった大人げないことはしないつもりだ。
だからその代わり淡々と答えた。

「坊主。俺はおっさんでもなければストーカーでもねぇ。本当に彼女の知り合いだ。それにお前が誰だか知らねぇけど関係ねぇだろ?だからあっちに行け」

「なんだよ?その言い方。俺は犬や猫じゃねぇぞ?それに俺のことそんな風に追い払えると思ったら大きな間違いだ。小学生だからってバカにすんなよ?」

とムキになったように言われたが、何故この子がこんなにも自分に構うのか。
男の子は司の前を動こうとはしなかった。





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こちらのお話は短編です。
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コメント
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dot 2018.04.05 06:16 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
司に付き纏い、おっさんだのストーカーだの言う少年。
言いたい放題怖いもの知らずですね?(笑)

そうでしたね。発売されていることを失念していました。
そして何十年振りに漫画雑誌を買うという経験をしました。
10分でNYへ帰った司の熱いキス。良かったですね?
それにしてもあの二人。いつになったら先へ進むことが出来るのかと思ってしまいますが、恐らく永遠に無理なような気がします(笑)

そして今年度も継続されるとのこと。
お忙しい日もあると思いますが、頑張って下さいね。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.04.05 22:25 | 編集
H*様
言いたい放題の男の子!(笑)
司のことをおっさんと呼び、ストーカーと決めつけた男の子。
司、やり込められていますねぇ(笑)
あの司にそんな口を利くことが出来るなんて凄いです。
何者なんでしょうねぇ(笑)司は生意気なガキと思っているようですが果たして...(笑)
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.04.05 22:31 | 編集
ふ*******マ様
おはようございます^^
本当にねぇ。この生意気な口を利く男の子はゲンコツに値しますよね?(笑)
しかし、司に向かってこれだけのことが言えるのですから、将来大物になる予感が!(笑)
どんな大人になるんでしょうねぇ(笑)
少しずつ進むお話ですが楽しんでいただければと思います。
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.04.05 22:39 | 編集
s**p様
生意気な男の子に言いたい放題言われていますが、30分も電柱の影に隠れるように立つ男は、はっきり言ってストーカーですよね?アカシアも男の子の意見に賛成です!
え~こちら短編ですので短いお話になりますが、楽しんでいただけると幸いです。
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.04.05 22:46 | 編集
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