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2015
10.23

まだ見ぬ恋人8

彼が刺すような視線を向けた先にいた二人は司が機嫌のいいときよりも苛立っているときのほうが楽しげのようだった。

「なに司、つくしちゃんにSPつけて大使館からつけさせたら変質者だと思われたわけ?」
総二郎は司の執務室のソファのアームに片肘をついた姿勢で半分からかうように言った。
「 ああ 」
司はため息まじりに言った。
「で、彼女、その後どうしたんだ?」
「ああ、もう遅いからうちの車で送ろうかって言ったんだけどよぉ・・断られた」
「ふーん」
あきらはそんなもんだろうと言う感じで返事を返した。

「だけど彼女、司が地下鉄の連絡通路にいて車で送ろうとか言って変だとは思わなかったのか?」
総二郎は疑うような目で司を見た。

「さあな・・・けどよ、よく知らない人の車に乗るわけにはいかないって言われたぞ!」
司はなんとか彼女の気をなごませようと冗談を言ってみたが失敗に終わった。
彼女は笑顔を見せてはくれなかったが、それでも目がきれいだった。
そしてこの前会ったときと同じように控えめだった。
そのとき、司はあきらと総二郎に言われたことを思い出していた。

『おまえのその性的魅力を忘れんなよ。今までが宝の持ち腐れっていうもんだ』

そこで司は女ごころをくすぐると言われるような低いバリトンの声で言ってみたのだった。
だが彼女はお気持ちは有難いですが・・と。

「まあ落ち着けよ、司。確かにおまえは彼女からしたらよく知らない人だぞ?」
総二郎は言った。
「彼女、仕事柄慎重なだけだよ、な?総二郎?」
あきらはちょっと緊張したような顔で言った。

「でもよかったじゃん。その勘違いのおかげて司のこと輝けるナイトに見えたんだろ?」
総二郎は聞いた。
「スゲーな司、よかったな」 
あきらは半ば冗談めかして笑った。

「いや。全然よくねえな」
司は憮然とした表情で言うと立ち上がった。
「なにがだよ?」
あきらは納得がいかない様子で言った。
「類のやつ、どんでもねえことを彼女に吹き込んでやがった」
司はぶっきらぼうに言った。
「類が?おい司、類って帰って来たのか?」
総二郎が聞いた。
そして司の言葉の口調は怒りに満ちたような非難が込められていた。
「ああ、あいつ俺達に連絡しなくても彼女、牧野つくしには連絡していやがった!」
司はそう言うと執務室のなかをイライラと歩きまわった。


司はしばらく黙っていたが、そのうち総二郎が聞いた。
「おい、落ち着けよ司。どう言うことだよ?」
「そうだよ、類と牧野つくしって?」
総二郎とあきらは驚いたに違いない。

司は頭の中に類の存在が強く浮かび上がったように言った。
「類のやつ牧野つくしのこと・・・」
あとは言葉にならなかった。
「え?まさかおまえら同じ女にってこと?」
あきらはそう言うとちらっと総二郎を見た。
ややおいて総二郎が言った。
「驚いたな。司だけじゃなくてあの類までが女に興味を持つなんてな。それも司と同じ女だなんてな?」

「おいおい、ますますその牧野つくしに会ってみたくなったな」
あきらは突然普段の口調に戻って言った。


そのとき、受付から類が来社したという知らせを受けた。
類はふらっと司の執務室に足を踏み入れてきた。

彼は司の前に腰をおろすとアームに肘をついていた。
「なに、司?なにから話す?」
類がいきなり切り出した。
司は答えないでいた。
「なにか話しがあるから俺のこと呼び出したんでしょ?」
類がまた質問を繰り返した。

一瞬沈黙が支配した。
「類!おまえ彼女に、牧野つくしに俺のことなんて話したんだよ!」
司は激しい口調で言った。
「なんで、ぼ、坊主頭にしないでいいんですかなんて聞かれたぞ!」
総二郎とあきらは驚愕の表情で司を見た。

「ぼ・・ぼう?ぼうずぅ?つかさが坊主頭かよ?最近の中坊でもしないぞ!」
総二郎が言った。
彼は耳を疑うような顔をしたし、あきらは口がきけない様子でびっくりしていた。

司は類の目にからかいの色が浮かんだのを認めた。
「ねえ司、司のタイプって牧野さんじゃないだろ?」
「・・るせ!類、俺の好みのなにを知ってんだよ?」
司は類を睨みつけた。
「そっか。でもそれが危険なんだよね?司って人のものすぐ取っちゃうから」
「お?そーいやぁ昔、類のクマのぬいぐるみ、取ったよなぁ司くん?」
あきらがからかうような口調で言って来た。
「そ、そんな古りぃ話、しらねぇな」
司は表面上は取り澄ますと眉をひそめてみせた。
「じゃあ、司は彼女のどこが気に入ったっていうの?」
類は落ち着いた声で聞いた。

「あのな類、司は牧野つくしに一目惚れしたんだとよ」
「それも地下鉄の駅で5分足らずの出会いだぜ?」
「へぇ・・・」
類は思慮深い目をして司を見ていた。
彼は総二郎とあきらをちらっと見たがそれ以上なにも言わなかった。
「彼女、司にほほ笑んだらしいぞ?」
あきらは説明していた。

「ねえ司、もう一度聞くけど牧野さんのどこが気に入ったの?」
類は前よりも力を込めて聞いてきた。


「ど、どこって言われても、そんなこと言えねえよ」
司は自分の頭に指を突っ込むと髪の毛をかきまわしていた。
「ふーん。そっか、司は言えないんだ。俺は彼女の好きなところが言えるよ司」
類は友人の顔をじっと見た。
「彼女っておもしろいんだ。何にでも一生懸命だしね。それにクルクル回ってハムスターみたいでかわいいんだ」
類は司に向かって言った。

「る、類と牧野つくしは付き合ってんのか?」
司は半ばどもるように慌てて聞いた。
「ん?違うよ?」
類はきっぱりと言い切った。
「そ、そうか・・」
類はそう言った司の表情にちらっと安堵が漂ったのを見逃さなかった。
彼はソファから腰を上げた。
「うん、違うよ」
心底真剣で真面目な眼差しの表情で類が言った。
「まだ今はね」


その瞬間、司の口からは何も言葉が出なかった。
この二人は幼い頃からの友人だった。
そしてこの二人は容貌も性格も全く違うのに惹かれる女は同じだった。









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